2024年5月21日火曜日

ICC、ネタニヤフ氏とハマス幹部の逮捕状請求 米など猛反発―【私の論評】テロ組織ハマスを、民主国家イスラエルと同列に置く、 国際刑事裁判所の偏り

ICC、ネタニヤフ氏とハマス幹部の逮捕状請求 米など猛反発

まとめ
  • ICCのカーン主任検察官がガザでの戦闘に関連して、イスラエルのネタニヤフ首相とガラント国防相、ハマスの幹部3人に対する逮捕状を請求。
  • ネタニヤフ首相はICCの決定に強く反発し、米国や英国からも批判が出ている。
  • ICCはイスラエルがパレスチナ民間人に対する広範な攻撃と必要物資の組織的な奪取を行った証拠を示し、戦争犯罪の責任を問う。
  • 米国と英国はICCの行動を批判し、逮捕状請求の正当性と影響に疑問を呈した。
  • 南アフリカはICCの逮捕状請求を支持し、国際法の遵守を強調。
国際刑事裁判所(ICC)のカーン主任検察

 国際刑事裁判所(ICC)のカーン主任検察官は、ガザでの戦闘に関連して、イスラエルのネタニヤフ首相とガラント国防相、ならびにハマスの幹部3人に対する戦争犯罪および人道に対する罪の疑いで逮捕状を請求した。これに対し、ネタニヤフ首相は強く反発し、米国や英国からも批判が相次いだ。逮捕状発行の決定は今後予審裁判部が判断する。

 カーン氏は、イスラエルが国際人道法を順守せず、パレスチナ民間人への攻撃を行い、必要な物資を奪ったことにより、ネタニヤフ首相らが戦争犯罪に関与したと指摘した。一方、ハマスの幹部は逮捕状請求を批判し、取り消しを求めた。

 ネタニヤフ首相はICCの決定を「新たな反ユダヤ主義」と非難し、イスラエルとハマスを同一視することは不合理だと述べた。イスラエルのヘルツォグ大統領も、テロリストとイスラエル政府を同等に扱うことに強く反対した。

 米国と英国もICCの行動を批判し、バイデン米大統領は逮捕状請求を「言語道断」と非難した。ブリンケン国務長官は、ICCの管轄権に疑問を呈し、交渉への悪影響を懸念した。英国のスナク首相の報道官も同様の見解を示した。

 一方、南アフリカは逮捕状請求を支持し、国際法の支配を守るために法の平等な適用を訴えた。南アフリカはイスラエルを国際司法裁判所(ICJ)に提訴している。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】テロ組織ハマスを、民主国家イスラエルと同列に置く 国際刑事裁判所の偏り

まとめ
  • ハマスはテロ組織であり、イスラエル国家の破壊とユダヤ人虐殺を目的としている
  •  ハマスは無辜の民間人を虐殺してきた経緯があり、民主主義国家のイスラエルと同列に置くべきではない 
  • ハマスは2016年のパレスチナでの選挙での勝利を、自らの過激路線の正当性が承認されたと主張し、これを武装闘争継続の口実としている 
  • 国際刑事裁判所(ICC)はイスラエルを不当に標的化する一方、他の深刻な人権侵害事例を見過ごしてきた 
  • ICCの活動は政治的思惑の影響を受けやすく、「国際」機関だからと公平中立を期待するのは危険
これは、ハマスとイスラエル国家の本質を誤って理解している典型例といえます。ハマスはテロ組織そのものであり、イスラエル国家の破壊とユダヤ人の虐殺を目的としていることを明確にすべきです。ハマスは、無辜の民間人の血に手を染めてきました。民主的で法の支配を重んじる国家であるイスラエルと同列に置くことは全く的外れとしかいいようがありません。

ハマスの戦闘員の子ども

ハマスは2006年のパレスチナ自治政府の議会選挙で過半数を獲得し、事実上パレスチナ自治政府を掌握したため、パレスチナ人民の自らに対する正当な支持と、イスラエルへの抵抗の正当性が認められた証左だと位置づけています。

具体的には、ハマスの指導者たちは次のように述べています:

「われわれは民主的な選挙を通じて正統な権力を手にした。パレスチナ人民は武装闘争路線を支持した」(イスマイル・ハニーヤ元首相)

「選挙勝利でわれわれの闘争が正当なものと承認された。これは武装闘争の継続を意味する」(ハマス政治局長ハーレド・マシャール)

つまり、ハマス自身は選挙勝利を、イスラエルへの武装抵抗とイスラエル占領の排除という自らの過激路線の正当性が民主的に承認されたと主張しています。

しかし、選挙はテロリスト集団を一夜にして正統な政権に置き換える魔法の杖ではありません。さらに、今年は2024年であり、2016年から8年経過しています。あれから世界情勢もかなり変化しています。

現在では、米国とサウジアラビアは、サウジに対する安全保障提供と引き換えに、サウジがイスラエルとの外交関係を樹立することを内容とする歴史的な協定で、合意に近づいているといいます。この合意が成立すれば、中東は一変する可能性があります。

サウジのサルマン国王とバイデン米大統領(2022年7月)

これが、成立すればハマスなどのテロ組織は存在意義を失う可能性もありますし、これには反対する国々も多いです。

真の民主主義とは選挙の実施以上のものであり、法の支配、人権尊重、近隣国との平和共存を旨とするべきなのです。ハマスはこれらの原則を無視し続けてきました。

国際刑事裁判所もイスラエルや民主主義の味方とは言い難いところがあります。世界中の独裁国家やテロリスト集団の遥かに残虐な蛮行は見過ごしながら、イスラエルのみを繰り返し標的にしてきたところがあります。ハマスの無言の挑発によるロケット攻撃やトンネル工作から自国を守ったイスラエル指導者を訴追しようというのは正義の判断とは言い難いです。

国際刑事裁判所(ICC)がイスラエルを不当に標的にしてきた一方で、他の深刻な人権侵害事例を見過ごしてきた具体例をいくつか挙げます。

シリア内戦における アサド政権による市民虐殺 

シリア政権軍はシリア内戦で何十万人ものシリア市民を殺害し、化学兵器さえ使用したが、ICCは訴追をしていない。
ミャンマ―のロヒンギャ迫害

ミャンマー軍はイスラム教少数民族ロヒンギャに対する虐殺、強姦、焼き討ちなどの蛮行を繰り返したが、ICCはミャンマーに対する捜査を実施していない。
イェメン内戦における民間人虐殺 

サウジアラビア主導の有志連合(アラブ首長国連邦(UAE)、クウェート、バーレーン、エジプト、モロッコ、ヨルダン、スーダン、セネガル)は、イェメン内戦で無差別爆撃を行い、1万人を超えるとされる多数の民間人を殺害しましたが、ICCはこれを追及していません。
中国の新疆ウイグル人強制収容

 中国政府は100万人以上のウイグル人をキャンプに強制収容しているが、ICCはこの深刻な人権侵害に全く着手していません。
一方で、ICCがイスラエルを不当に標的化しているとの批判の具体例として挙げられているのが、2015年から進めている「状況についての予備的検討」です。

この捜査の対象となっているのは、以下の2点です。
  • 2014年の第3次ガザ紛争(いわゆるガザ地区での戦闘)におけるイスラエル軍とハマスの双方による可能性のある戦争犯罪行為
  • イスラエルによる西岸地区での入植活動の適法性
特にイスラエルによる西岸地区入植活動については、ICCがパレスチナ側の要請を受けて捜査に乗り出したことで、イスラエルからは強く反発されています。

イスラエルはICCの管轄権を認めていないため、ICCの一方的な捜査自体に疑問を呈しています。また、パレスチナ自治政府をあくまで「観察体制実体」と見なすイスラエルは、ICCがパレスチナを国家として扱うことに反対の立場です。

「観察体制実体」というのは、国連総会が1998年に定めた用語です。

具体的には、「パレスチナ人民の権利の行使のための暫定的措置」と呼ばれるもので、パレスチナ解放機構(PLO)に対し、国連における一定の権利と特権を与えるものです。

つまり、パレスチナには国家として完全な資格はないものの、国連の場においては「準国家的」な立場が認められているということです。

国連での発言権、議案・決議への参加資格、国連機関への参加資格などが認められています。しかし、国連加盟国としての完全な地位は与えられていません。

イスラエルは、パレスチナにこうした「準国家的」地位さえ与えることに反対しており、あくまでも「観察体制実体」にすぎないと主張しています。

つまり、イスラエルはパレスチナを主権国家とは認めていないため、ICCがパレスチナを「国家」と見なして捜査を行うことに強く反発しているのです。この点が、ICCの捜査をめぐる大きな争点の1つとなっています。

国際刑事裁判所

このように、ICCがイスラエル批判に終始する一方で、シリアやイエメンなど他の深刻な人道問題を見過ごしていることから、多くの専門家はICCに偏りがあると指摘しているのが実情です。

パレスチナ自治区に関する捜査に乗り出すなど、ICCはイスラエルのみを不当に標的化する偏りがあると指摘されています。多くの専門家から、ICCの公平性と中立性が疑問視されている状況です。

多くの日本人は「国際司法裁判所」など「国際」と名前がついている組織は無条件に公正中立であり、「正義」であり「権威」と思ってしまう傾向があるようですが、必ずしもそうではありません。

確かに、国連をはじめとする国際機関は、特定の政治的イデオロギーや勢力から影響を受けやすい側面があります。

例えば、ICCの場合、制裁対象となる国への捜査開始を牽制しようと、中国やロシアなどの権威主義国家が外交的な圧力をかけることが多々あります。自国の利益を損なわぬよう、国際機関が行う捜査や調査の対象を、特定の国や勢力に有利または不利になるよう操ろうとするのです。

一方で、イスラエルに対する偏った批判姿勢は、中東諸国や反米、反イスラエル的な左翼勢力の影響が強いと指摘されています。国連や関連機関に対し、アラブ系や強硬なイスラム過激派系の圧力があるのが実情です。

つまり、国際機関は理想的な正義の実現を目指すというよりも、様々な勢力の政治的思惑や利害が絡む駆け引きの場ととらえた方が現実的であり、単に「国際」の名が付いているからといって、常に公正中立であると考えるのは危険なのです。

今回のICCの動きは、イスラエルの自衛権を切り崩し、その存在意義さえ否定しようとする試みの一環と言えるでしょう。テロリストハマスと国家としてのイスラエルの誤った対等関係に惑わされてはならないです。

私たちはこの動きに強く立ち向かい、イスラエルは中東の民主主義と自由の象徴であり、根拠のないこうした非難があっても味方でありつづけるべきことを明確にしなければならないです。

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