2024年7月10日水曜日

加速する中国人富裕層の海外移住、膨大な資産も流出―【私の論評】中国富裕層の海外移住:スマートマネー流出と安全保障リスク - 日本の対応と課題

加速する中国人富裕層の海外移住、膨大な資産も流出

まとめ
  • 中国富裕層の海外移住急増:2024年に1万5200人が他国へ、前年比10%増
  • スマートマネーの流出:1人あたり3000万~10億ドルの資産移転と推定
  • 中国脱出の主な理由:経済不確実性、不動産危機、政府の規制強化
  • 人気の移住先:米国、シンガポール、カナダ、UAE、日本が上位に
  • 富裕層流出の影響:中国政府の経済活性化策に障害、習近平体制への不信感


 中国からの「スマートマネー」の流出が加速しており、2024年には約15,200人の富裕層が中国から海外へ移住すると予測されている。これは前年比約10%の増加を示している。投資移住コンサルのHenley & Partnersによると、移住者の多くは米国やシンガポールを目指し、1人あたり3000万~10億ドルの資産を持ち出すと推定されている。

 移住の主な理由としては、中国の経済的不確実性、不動産危機と資産価値の下落、政府による民間企業や資産家への取り締まり強化、そして中国の信用格付け見通しの引き下げが挙げられている。特に、習近平国家主席の経済政策や「共同富裕」の推進が富裕層の懸念を高めているとされている。

 シンガポールは従来、中国の富豪が好む移住先だったが、最近では中国からの資金流入に対する監視を強化している。一方、カナダや米国、アラブ首長国連邦も人気の移住先となっている。日本も安全性や生活の質の高さから注目されており、中国に近いことや魅力的なライフスタイルが評価されている。

 この現象は中国に限らず、韓国や台湾でも安全保障上の懸念から富裕層の流出が見られる。専門家は、この富裕層の流出を習近平政権の経済運営に対する否定的な評価と捉えており、中国政府の経済活性化の取り組みにも影響を与える可能性があると指摘している。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】中国富裕層の海外移住:スマートマネー流出と安全保障リスク - 日本の対応と課題

まとめ
  • 「スマートマネー」とは、大規模な資本を持つ投資家や機関を指し、中国では主に富裕層を意味する。
  • 中国の富裕層の海外移住は、中国経済にとって重要な資本や人材の流出を意味し、他国にとっては投資機会の増加を示唆する。
  • 中国のデータ3法や国家安全法、国防動員法などの法律は、海外に移住した中国国民にも適用される可能性があり、国家安全上のリスクを引き起こす。
  • これらの法律により、海外在住の中国国民が中国政府の指示に従って情報提供や協力を行う義務を負う可能性があり、移住先の国の法律と衝突する。
  • 日本政府は、中国からの移住者に対する対応が不十分であり、スパイ防止法の成立を含む包括的な対策が急務である。
「スマートマネー」とは、一般的に大規模な資本を持ち、高度な投資戦略や分析を用いて市場で優位に立つ投資家や機関を指す言葉です。中国の文脈では、この「スマートマネー」は主に富裕層を指しています。

上の記事にある富裕層の海外移住にともなう「スマートマネー」の流出は中国経済にとって重要な資本や人材の流出を意味し、同時に他国にとっては投資や経済活動の機会増加を示唆しています。したがって、「スマートマネー」の動向は、中国の経済状況や政策の評価指標として、また世界経済の資金流動の重要な指標として注目されているのです。

中国富裕層の住む街の一角

一方、中国の富裕層の海外移住に関する安全保障上の問題は、中国のデータ3法(サイバーセキュリティ法、データセキュリティ法、個人情報保護法)や国家安全法、国防動員法などの法律と密接に関連しています。これらの法律は、中国国民や中国で活動する企業に対して広範な義務を課しており、海外に移住した富裕層にも影響を及ぼす可能性があります。

特に注目すべきは、これらの法律の域外適用の可能性です。中国の法律は、中国国内だけでなく、海外に移住した中国国民や中国企業にも適用される可能性があります。

例えば、データセキュリティ法は、中国の国家安全や公共の利益に影響を与える可能性のあるデータ処理活動に対して、中国国外でも適用される可能性があります。これは、海外に移住した中国富裕層が、中国政府の要求に応じて情報提供や協力を求められる可能性があることを意味します。

香港に掲示された国家安全法の看板

さらに、国家安全法は、すべての中国国民に対して国家安全に協力する義務を課しています。この法律の解釈によっては、海外に移住した中国国民も、中国政府の要請に応じて情報提供や協力を行う義務を負う可能性があります。

これは、移住先の国の法律や利益と衝突する可能性があり、二重忠誠の問題を引き起こす可能性があります。個人情報保護法も、中国国民の個人情報を保護するために、海外のデータ処理者にも一定の義務を課しています。これにより、中国から移住した富裕層が関与する海外企業も、中国の法律に従って個人情報を処理する必要が生じる可能性があります。

特に戦争や重大な安全保障上の危機が発生した場合、中国の国家安全法と国防動員法は、海外在住の中国国民にも影響を及ぼす可能性があります。これらの法律は、中国国民に対して、戦時や緊急時に国防のために動員される義務を課しています。

具体的には、戦争や重大な安全保障上の危機が発生した場合、中国政府は海外在住の中国国民に対して情報提供や諜報活動への協力、技術や専門知識の提供、資金や物資の提供、場合によっては中国への帰国と軍事活動への参加を要求する可能性があります。これらの要求は、移住先の国の法律や国益と明らかに衝突する可能性があり、海外在住の中国国民を非常に困難な立場に置く可能性があります。

これらの法律の域外適用は、国際法上の問題を引き起こす可能性があり、各国の主権や法の支配との衝突を招く可能性があります。移住先の国々は、このような法律の域外適用に対して警戒を強めており、自国の安全保障や経済的利益を守るために、中国からの移住者に対する審査を厳格化したり、重要な技術や情報へのアクセスを制限したりする措置を講じています。

結果として、多くの国々は中国からの移住者、特に富裕層や専門家に対する審査を厳格化しています。一部の国では、重要なインフラや技術分野への中国人の参加を制限したり、国家安全保障上の理由で特定の個人の入国や永住権の取得を拒否したりするケースも増えています。

一方で、中国籍を放棄して完全に移住先の国籍に変更する場合、これらの問題は大幅に軽減されます。しかし、中国政府が元中国国民に対しても影響力を行使しようとする可能性は依然として存在します。このような複雑な状況下で、移住先の国々は、経済的利益と安全保障上のリスクのバランスを慎重に取りながら対応を進めています。

カナダは1980年代から2014年まで、投資家クラス移民プログラムを実施し、一定額の投資を条件に富裕層に永住権を与えていました。このプログラムは特に中国の富裕層に人気が高く、外国からの投資を呼び込む目的で導入されました。

しかし、予期せぬ問題が生じました。大都市で不動産価格が急騰し、多くの投資移民が実際の収入よりも大幅に少ない所得を申告したため、税収が期待を下回りました。

また、「アストロノート家族」という現象が生じました。これは、家族の一部がカナダに移住し、主な稼ぎ手が中国に残って働き続けるという状況を指します。この現象により、社会統合の問題も浮上しました。

これらの問題に対応するため、カナダ政府は2014年に連邦レベルの投資家クラス移民プログラムを廃止しました。現在、カナダの移民政策は、単なる資産の多寡ではなく、スキルや教育レベル、言語能力などを重視する方向にシフトしています。

カナダの経験は、富裕層を対象とした投資移民プログラムが短期的な経済的利益をもたらす可能性がある一方で、長期的には社会経済的な課題を引き起こす可能性があることを示しており、他の国々の移民政策にも影響を与えています。

カナダの中国人街

日本政府の中国人移住に対する対応は、安全保障上の重大なリスクを十分に考慮しておらず、極めて不十分かつ危険です。中国の安全保障や情報に関する法律の域外適用により、すべての中国人移住者は、その意思に関わらず潜在的なリスクとなります。この状況は中国共産党が作り出したものであり、日本側に責任はありません。

中国の国家安全法や国防動員法などの存在により、日本に居住するすべての中国国民が、有事の際に中国政府の指示に従って行動することを強いられる可能性があります。このリスクは個人の意思や性質とは無関係であり、すべての中国人移住者に適用されます。

さらに、中国政府がスパイを移住者の中に潜り込ませる可能性が高いことを考慮すると、日本の現状は極めて危険です。この状況に対処するため、スパイ防止法の成立を急ぐべきです。この法律により、外国のスパイ活動を効果的に取り締まり、国家機密や重要技術の流出を防ぐことが可能になります。

日本政府は、このような法体系を持つ国からの移住者をなるべく受け入れるべきではありません。経済的利益よりも国家安全保障を優先し、中国からの移住や投資を厳しく制限する政策を採るべきです。

総じて、日本政府の対応は問題の本質を捉えておらず、短期的な経済的利益を優先する姿勢が目立ちます。安全保障上のリスクを軽視したこの姿勢は、将来的に日本の国益を大きく損なう可能性があります。スパイ防止法の成立を含む、包括的かつ実効性のある対策を早急に講じる必要があります。この問題の責任は全て中国共産党にあり、日本はこの現実を直視し、適切な対応を取るべきです。

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