2024年7月21日日曜日

“ウクライナはロシア軍の損害に注力すべき” 英シンクタンク―【私の論評】活かすべき大東亜戦争の教訓:山本五十六の戦略と現代の軍事戦略への影響

“ウクライナはロシア軍の損害に注力すべき” 英シンクタンク

まとめ
  • イギリスのシンクタンクRUSIは、ウクライナ軍が占領地解放よりもロシア軍への最大限の損害に注力すべきだと提言。
  • RUSIは欧米側に対し、射程の長いミサイルシステムなどの供与が最も重要だと強調。
  • ロシア軍は東部ドネツク州など広範囲にわたる戦線で攻勢を強化。
  • ウクライナでは18〜60歳の男性に軍への個人情報登録が義務付けられ、約469万人が登録を完了。
  • 登録対象者の約半数が未登録との報道があり、一部の男性からは戦地に赴くことへの不安の声も。
ウクライナ軍

 イギリスのシンクタンク、イギリス王立防衛安全保障研究所(RUSI)は、ウクライナ軍の戦略について報告書を公表した。同報告書では、ウクライナ軍が現在力を入れるべきは、占領された領土の解放ではなく、ロシア軍に最大限の損害を与えることだと指摘している。この戦略により、ウクライナ軍は戦力を確保するための時間を稼ぐことができるとしている。

 また、RUSIは欧米側に対して、砲弾や射程の長いミサイルシステムの供与が最も重要であると強調した。これにより、ウクライナ軍が効果的にロシア軍に対抗できるとしている。

 一方、ウクライナでは兵力不足が問題となっており、18歳から60歳の男性に対して住所や家族などの個人情報を軍に登録することが義務づけられた。この登録の期限は今月16日で、ウクライナ国防省によると、専用のアプリや窓口で登録を済ませた人は約469万人に上る。しかし、一部のメディアは、登録対象となる男性は約1100万人であり、少なくとも600万人が未登録であると報じている。

 NHKがキーウ市内で対象年齢の男性にインタビューしたところ、登録は済ませたものの、戦地に赴くことへの不安の声が聞かれた。52歳の男性は「行きたくない人の気持ちはとてもよくわかる。強制的な方法で人を集めるのではなく、特典などを与えて関心を持ってもらうほうがいい」と話していた。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】活かすべき大東亜戦争の教訓:山本五十六の戦略と現代の軍事戦略への影響

まとめ
  • 敵軍に損害を与えることに注力する戦略は、古くから軍事常識として知られており、孫子の『孫子兵法』にも記されている。
  • この戦略は敵の戦力削減、戦略的優位性の確保、戦争の早期終結を可能にし、資源の効率的使用にもつながる。
  • 太平洋戦争で米軍は重要拠点のみを占領する戦略を採用し、効果的に戦局を進めた。
  • 日本海軍は過度な戦線拡張を行い、資源を消耗させる戦略的誤りを犯した。
  • 山本五十六の短期決戦追求戦略は日本の敗因となり、彼を「愚将」と評価する意見がある。この評価は後世への重要な教訓となる。
占領地の解放よりも敵軍に損害を与えることに注力すべきという考え方は、軍事戦略において古くから知られた常識です。

これは、敵の戦闘能力を削減し、戦争全体の進行を有利に進めるための基本的な戦略です。敵軍に最大限の損害を与えることで、敵の兵力や物資を消耗させ、長期的な戦争の持続能力を低下させる効果があります。

ウクライナ軍によるロシア占領地の奪還

また、戦場での戦略的優位性を確保し、重要な補給線や通信網を破壊することで、敵の指揮系統を混乱させ、効果的な反撃を困難にします。さらに、敵軍に大きな損害を与えることで、敵の戦意を喪失させ、早期に戦争を終結させることが可能になります。これは、戦争の長期化による自国の損害を最小限に抑えるためにも重要です。

占領地の維持には多大な資源と人員が必要である一方で、敵軍に損害を与えることに集中する戦略は、限られた資源を効率的に使用することができます。これにより、戦争の持続可能性が高まります。

歴史的にも、この戦略は多くの戦争で採用されてきました。例えば、第二次世界大戦における連合軍の戦略爆撃や、湾岸戦争におけるアメリカ軍の空爆作戦などが挙げられます。これらの戦略は、敵の戦力を削減し、戦争の進行を有利に進めるために行われました。

この戦争上の常識を最初に語ったのは、古代中国の軍事思想家孫子です。彼の著作『孫子兵法』の中で、「敵の軍隊を撃破することが最も重要である」と述べています。孫子は、戦争において敵の戦力を削減することが最も効果的な方法であると主張し、この考え方は現代の軍事戦略にも影響を与え続けています。

日米による大東亜戦争において、日米海軍の戦略は大きく異なりました。日本は戦域のすべての島を占領し、その後に占領軍を設置する方式を採用しました。この戦略は、占領地を確保し、そこに兵力を配置することで防衛線を強化しようとするものでした。

一方、米軍は重要拠点だけを占領する戦略を採用しました。この戦略の格好の例として、第二次世界大戦末期に米軍は台湾を占領せず、沖縄侵攻を優先した事実があります。米軍は戦略的に重要な拠点を選び、そこを確保することで効率的に戦力を集中させ、補給線を短く保ちました。これにより、不要な消耗を避けつつ、効果的に戦局を進めることができました。


日本海軍は絶対国防圏を超えて戦線を拡張しましたが、これは大きな戦略的誤りでした。戦線の拡大は補給線の延長を招き、兵站の維持が困難になるだけでなく、各拠点の防衛力も薄くなります。結果として、日本は広範囲にわたる戦線を維持するために多大な資源を消耗し、戦局を不利に進める結果となりました。

このように、米軍の戦略は重要拠点に集中し、効率的に戦力を運用するものであり、日本の戦略は広範囲の占領地を維持するために過度に資源を消耗するものでした。

山本五十六の戦略については、その結果として日本が大きな損害を被ったことから、彼を「愚将」と呼ぶべきだとする意見が一部の保守派の中にあります。これは、彼の戦略が日本の資源を過度に消耗させ、多くの命を失わせたという観点からの批判です。特に、ハワイ攻略のような無意味な戦線拡張や、絶対国防圏を守ることに注力しなかったことが大きな問題とされています。

山本五十六

山本五十六は真珠湾攻撃をはじめとする数々の作戦を指揮し、日本海軍の象徴的な存在でした。しかし、彼の戦略は短期決戦を追求するものであり、これは日本の限られた資源と兵力を過度に消耗させる結果となりました。山本の戦略は、日本が持続可能な戦争を遂行するための現実的な防衛戦略ではなく、過度に攻撃的で拡張的でした。

一部の米国の学者は、もし日本が絶対国防圏の防衛に注力し、不必要な戦線拡大を避けていれば、戦況は大きく異なっていた可能性があると指摘しています。具体的には、台湾を占領せずに沖縄侵攻を優先した米国の戦略が示すように、重要な拠点に集中することで効率的に戦力を運用することが可能だったのです。

日本も同様に、重要拠点の防衛に集中し、無駄な戦線拡張を避けていれば、日本軍が米軍に完勝とまではいえなくても、より有利な条件で講和に持ち込むことはできたかもしれません。

山本の戦略は、結果的に日本の大敗北を招き、多くの命を失わせました。彼の決定が日本の戦争遂行能力を著しく低下させたことを考えれば、彼を「愚将」と呼ぶことは、抵抗のある人もいるかもしれませんが、後世に同じ過ちを繰り返させないための教訓として重要です。

特に、RUSIも指摘するように、現在のウクライナ戦争においても、無意味な戦線拡張や資源の無駄遣いは避けるべきであり、重要拠点に集中する戦略が求められます。

山本五十六の戦略は、日本の国力と地理的条件を考慮せず、過度に攻撃的であったという点で批判されるべきです。彼の過ちは、現代の軍事戦略においても重要な教訓となり得ます。

後世の世代が同じ過ちを繰り返さないためにも、山本を「愚将」として位置づけることには大きな意義があると言えます。

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