2024年7月20日土曜日

欧州は10年続くウクライナ戦争を覚悟すべきとNATO事務総長―【私の論評】戦争長期化と平和構築の課題:ストルテンベルグ事務総長の発言と未来の展望

欧州は10年続くウクライナ戦争を覚悟すべきとNATO事務総長

まとめ
  • ストルテンベルグ事務総長は、ウクライナでの戦争が10年間続く可能性があると述べた。
  • 同時に、長期的かつ強力な支援が戦争の早期終結につながるという逆説を強調した。
  • NATOは、ドイツにウクライナ支援の指揮部隊を設置し、支援の予測可能性と責任を明確にする計画を発表した。
  • ドイツがウクライナへの軍事支援を半減させる計画がある一方、アメリカの支援が減少する可能性も懸念されている。
  •  NATO加盟国の防衛費増額と、アメリカの選挙結果に関わらずNATOへの支持が継続することの重要性を強調。
ストルテンベルグ事務総長

 10月に退任する、ストルテンベルグ事務総長は、ウクライナでの戦争が10年間続く可能性があると警告しましたが、同時に西側諸国による強力で持続的な支援が、むしろ戦争の早期終結につながるという「逆説」を強調しました。彼は、ロシアのプーチン大統領がNATOの撤退を待っているため、逆に長期的な支援の意思を示すことが重要だと指摘しました。

 この文脈で、NATOはドイツにウクライナ支援の指揮部隊を設置する計画を発表しました。ストルテンベルグ氏は、これにより支援の予測可能性が高まり、NATOの長期的なコミットメントを示すことになると説明している。

 一方で、ドイツが2025年のウクライナへの軍事支援を約8億ユーロから4億ユーロに半減させる計画が明らかになりました。これは、アメリカの支援が減少する可能性への懸念がある中での決定だ。特に、ドナルド・トランプ前大統領が再選された場合、アメリカの支援が大幅に削減または停止される可能性が指摘されている。トランプ氏の副大統領候補J.D.ヴァンス上院議員が、過去にウクライナ支援に批判的な立場を示していることも、この懸念を強めている。

 しかし、ストルテンベルグ事務総長は、アメリカの選挙結果に関わらず、NATOへの支持は継続すると自信を示している。彼は、アメリカ国内でNATOへの超党派的な支持があることを指摘し、強力なNATOがアメリカの国益にも合致すると主張している。

 また、ストルテンベルグ氏は、NATO加盟国の防衛費増額の重要性を強調しました。2024年までにGDP比2%の防衛費支出目標を達成する国が増えていることを評価しつつ、欧州諸国とカナダの防衛力強化の必要性も指摘している。

 最後に、ストルテンベルグ氏はNATOを「歴史上最も成功した同盟」と評し、加盟国間の立場の違いを乗り越えて団結する能力がその成功の鍵だと強調した。彼は、この団結がアメリカの選挙後も継続することへの期待を示している。

 これらの発言は、ウクライナ戦争の長期化への懸念と、同時に西側諸国の結束と持続的支援の重要性を浮き彫りにしている。NATO加盟国の防衛費増額や支援の継続が、今後の国際情勢に大きな影響を与える可能性がある。

 この記事は元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事を御覧ください。

【私の論評】戦争長期化と平和構築の課題:ストルテンベルグ事務総長の発言と未来の展望

まとめ
  • ストルテンベルグ事務総長の「10年戦争」の可能性に関する発言は、軍事専門家として妥当な見解である。
  • ウクライナの反攻作戦の成否はまだ結論づけられず、今後1〜2年で占領地を奪還できる可能性もある。
  • 戦争自体は最長10年程度かかる可能性があり、その後の平和構築と社会変革には50年程度の長期的な関与が必要かもしれない。
  • エドワード・ルトワック氏の理論に基づく長期的な軍事駐留と社会再構築の必要性は、持続可能な平和構築のために重要な視点である。
  • 戦争終結後、NATOがウクライナに軍を派遣し、ロシアの干渉排除や汚職対策など、法の遵守のために活動すべきである。これは長期的な平和構築の観点から重要である。
  • 昔から、実行可能な戦略は兵站能力に規定されており、このことを認識しなければ、戦争の現実的な側面を理解できない。
ストルテンベルク事務総長の、「ウクライナでの戦争が10年間続く可能性がある」と述べていますが、それは軍事専門家として当然の発言だと思います。最悪は、10年続く可能性もあります。

これについては、ウクライナ軍の反攻が始まってすぐのブログ記事にも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
ウクライナ、反攻で「破滅的」損失 プーチン氏―【私の論評】今回の反転攻勢が成功すると、2~3年以内に占領された土地を奪還できるかも!戦争はまだ続く(゚д゚)!

ドローンを飛ばすウクライナ兵

今後の見通しとしては 、 今回の反転攻勢によりロシアの占領地の分断に成功すれば かなり有利になります 。

ただ 、分断すると 、今度は突破した部分が挟み撃ちに遭うので 、逆にウクライナ側は挟み撃ちから守りきる陣地をつくらなければなりません 。

これを秋冬の地面がぬかるむ時期にまでに できれば 、 分断されたロシア軍の弱い方を来年 ( 2024年 ) 攻めることになるでしょう 。 つまり 、 ドンバス地方かクリミアのどちらか弱い方を攻めて 、 再来年にもう片方残った方を攻める形になるでしょう 。

今回の反転攻勢が成功すると 、 2 ~ 3年以内には占領された土地を奪還できるかも知れないです 。 無論奪還しても戦争が終わるとは限りませんが 、 少なくとも見通しは立ちます 。

一方で反転攻勢に失敗し 、 投入された12旅団が磨り潰されるようなことになると、組織的な反転攻勢は今後 、 難しくなります 。 そうなると5年以上 、 下手をすると10年ぐらい膠着状態が続くかもしれません。いずれにせよ、現在の反転攻勢が成功したとしても、すぐに戦争が終わるとはみるべきではないです。

この記事でも述べたように、2〜3年以内には占領された土地を奪還できるかもしれないとしています。これは、現在でもあてはまる事実です。現時点で言い直せば1〜2年以内には占領された土地を奪還できるかもしれません。

この水準からすると、ウクライナ軍の反攻作戦は未だ成功とも失敗とも結論づけることはできません。現実の戦争は予期しないことが起こるのが常で、何かが起これば、さらにこれか5年〜10年はかかるかもしれないことは容易に類推することができます。

NATOのような組織が戦争に介入するならば、このくらいのことは覚悟しておくのが当然といえます。

そうして、戦争自体は最長10年くらいはかかるものとして、その後さらに軍隊を50年くらい駐留させて、ウクライナを完璧に作り変え、NATOの一員や、EUの一員とするくらいの覚悟を持たなければなりません。

エドワード・ルトワック氏は、国連などによる短期的な紛争仲裁や介入が表面的な解決にとどまり、根本的な問題解決に至らないと批判しています。彼の主張によれば、真の紛争解決には少なくとも50年にわたる軍隊の駐留が必要としています。これは社会の根本的な変革には世代を超えた時間が必要だという認識に基づいています。

ルトワック氏は、単なる停戦や表面的な和平合意ではなく、紛争地域の社会、政治、経済システムを根本から再構築する必要があると考えています。この長期的な関与を通じて、紛争の根本原因に取り組み、持続可能な平和を構築することが可能になると主張しています。

この考え方は、国際社会により大きな責任と長期的なコミットメントを求めるものです。しかし、主権の問題や介入の正当性、実行可能性など、多くの課題も存在します。

ルトワック氏の理論は、複雑で長期化した紛争地域における平和構築の難しさを浮き彫りにし、国際社会の紛争解決アプローチに再考を促す重要な視点を提供しています。従来の短期的なアプローチの限界を指摘し、より根本的で持続可能な解決策の必要性を強調する点で、国際関係や平和構築の分野に大きな影響を与えています。

この位の覚悟がなければ、ロシアの干渉を完璧に排除し、ウクライナの汚職体質を払拭することできないでしょう。

どのような形であれ、戦争が終結した暁には、NATOはウクライナに軍を恒常的に派遣すべきです。そうして、ロシア軍がウクライナに対して反撃すれば、それに対してすみやかに対応して排除すべきです。そうして、ロシアの軍事的・経済的干渉を完璧に排除します。さらにウクライナの汚職への対応など、法の遵守のために活動すべきです。

このくらいの覚悟がなければ、ウクライナの独立を守り、本格的な民主化をすすめることなどできません。1年くらいで、ウクライナ軍の反攻は失敗と簡単に結論づけるような人には、とてもできないことです。

米軍の軍用食料「MRE

こういう人には、昔から戦争には、現場に一人の兵士当たり3000キロカロリーの食料や水、多くの弾薬などの軍需物資を届けなければならず、それが戦争の形を規定してきた事実など思いも浮かばないのかもしれません。頭で戦略を考えたにしても、それを実行するには、兵站を考えなければなりません。兵站は戦略以上に重要であり、兵站能力が実行できうる戦略を規定してしまいます。兵站能力を超える戦略は絵に描いた餅にすぎません。

戦争には、最長10年、その後の体制つくりかえには、最低50年の年月が必要です。まともな軍人や、政治家などは、このくらいの時間がかかることを覚悟していることと思います。それくらいの覚悟を持たず、2〜3週間も戦えば、ウクライナを屈服させることができるとプーチンが考えていたとしたら、軍事のど素人と謗られても仕方ないでしょう。

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