2024年8月11日日曜日

スウェーデン「ロシア支持のくせに我々の援助を受け取るな」→マリが大使を国外退去――他の先進国は続くか―【私の論評】ウクライナ侵攻がもたらす国際関係の変化とスウェーデン外交の影響

スウェーデン「ロシア支持のくせに我々の援助を受け取るな」→マリが大使を国外退去――他の先進国は続くか

まとめ
  • マリの軍事政権は、スウェーデンの閣僚がロシア接近を批判したことに反発し、スウェーデン大使を国外退去させると発表した
  • マリは、ロシアが侵攻を続けるウクライナとの外交関係を断絶した
  • スウェーデンのフォシェル国際開発協力・貿易相は、ウクライナ侵攻を支持する国がスウェーデンからの援助を受けることはできないと発言した
  • マリやニジェール、ブルキナファソの軍政は、欧米からの距離を強め、米国やフランスの部隊を撤収に追い込んでいる
  • 他の先進国がスウェーデンに同調する可能性は低いとされており、援助停止が逆効果を招くリスクがあるため、慎重な対応が求められている。

マリ共和国(緑色の部分)

 スウェーデンの大臣が、マリがウクライナ侵攻に対して先進国と同調しないことを理由に援助停止を示唆したことが外交的な緊張を引き起こした。これを受けて、マリはスウェーデン大使の国外退去を命じたが、他の先進国がスウェーデンを支持する兆候は見られない。この状況にはいくつかの背景と理由がある。

 まず、スウェーデンの国際開発協力担当大臣ヨハン・フォルセルがロシアによるウクライナ侵攻を支持する国に対して援助を停止するべきだと発言したことが、マリの反発を招いた。マリはスウェーデン大使に72時間以内の退去を命じ、この外交的措置は断交に次ぐ強い意味を持ち、両国間の緊張を一層高める結果となった。

 他の先進国がスウェーデンを支持しない理由として、まず援助停止の効果とリスクが挙げられる。援助停止は現代の国際関係において効果が薄く、むしろ逆効果を招く可能性がある。援助を停止することでロシアや中国の影響力が増すリスクがあり、先進国としては慎重な対応が求められる。冷戦時代とは異なり、現在の国際社会では援助を受ける国が複数の選択肢を持つことが一般的であり、援助国が一方的に条件を押し付けることは難しくなっている。

 次に、ウクライナによるマリ反体制派支援の疑惑が問題視されている。マリは、ウクライナが同国北部の分離主義者や過激派に軍事支援を行っていると非難し、ウクライナとの外交関係を断絶した。この疑惑はウクライナ政府が否定しているものの、他の先進国がこの問題について沈黙していることからも、疑惑の深刻さがうかがえる。このため、ウクライナの行動を理由にマリを非難することは、他の先進国にとってリスクが高いと考えられている。

 さらに、スウェーデンの国内政治的背景も影響しています。スウェーデンでは極右系の政党が影響力を持ち、反イスラーム的な姿勢を強調することが国内政治的に支持を集める手段となっている。スウェーデン政府は、マリとの関係悪化を利用してイスラーム嫌悪に傾いた支持者へのアピールを図っている。しかし、このような国内政治的動機に基づく外交政策は、他の先進国にとっては受け入れがたく、スウェーデンに追随することは避けられている。

 結論として、スウェーデンとマリの関係悪化はウクライナ侵攻をめぐる国際的な対立の一環として発生したが、他の先進国はスウェーデンの方針に追随することに慎重だ。援助停止がもたらす国際的な影響や、ウクライナとマリ間の複雑な関係、さらにはスウェーデンの国内政治的背景が絡み合い、他の先進国がスウェーデンを支持することは難しい状況となっている。

国際政治学者
博士(国際関係)。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学などで教鞭をとる。アフリカをメインフィールドに、国際情勢を幅広く調査・研究中。最新刊に『終わりなき戦争紛争の100年史』(さくら舎)。その他、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、『世界の独裁者』(幻冬社)、『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『日本の「水」が危ない』(ベストセラーズ)など。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】ウクライナ侵攻がもたらす国際関係の変化とスウェーデン外交の影響

まとめ
  • ウクライナ侵攻は西側諸国の外交政策に影響を与え、アフリカ諸国は西側の対応をダブルスタンダードとして批判している。
  • 戦争経済の時代には、国益に基づく行動が重視され、経済的合理性よりも軍事的同盟や安全保障が優先される。
  • スウェーデンのような国が特定の外交政策を取ると、他の先進国が同調する可能性があるが、現在は様子見の状況にある。
  • マリの行動がロシア主導の経済活動を強化し、アフリカ諸国のロシアとの関係が深まる可能性がある。
  • 西側諸国は、スウェーデンに同調するというよりも、さらに厳しい措置を取る可能性がある。
昨日のブログ記事では、「ウクライナの侵攻は西側諸国の外交政策にも影響を与えています。アフリカ諸国は、西側諸国の対応をダブルスタンダードとして批判しており、ウクライナ避難民への手厚い支援が報道されるたびに、西側諸国からの距離が広がっているように見えます」と指摘しました。上の記事でのマリのスウェーデン大使の国外追放は、この内容を端的に示しているといえると思います。

戦争経済の観点から、グローバリズムの時代と比較して他の先進国がスウェーデンに同調する可能性について考察すると、いくつかの重要な要素が浮かび上がります。

グローバリズムの時代には、各国は経済合理性に基づいて、世界中で最もコストが低くなるように経済活動を行っていました。このため、各国は相互依存を深め、国際的な協力を促進することが一般的でした。しかし、戦争経済の時代には、必ずしも経済合理性が優先されるわけではなく、国益に基づく行動が重視されるようになります。

戦争経済が深化することで、国家間の経済的な競争が激化し、特に軍事的な側面が強調されるようになります。このため、各国は自国の安全保障を優先し、経済的利益よりも軍事的な同盟や協力を重視するようになる可能性があります。これにより、スウェーデンのような国が特定の外交政策を取った場合、他の先進国がそれに同調する可能性が高まるかもしれません。

さらに、戦争経済の進行に伴い、国際的な経済協力が減少し、国家主義的な政策が台頭することが考えられます。このような環境では、各国が自国の利益を最優先に考え、他国との協力を控える傾向が強まるかもしれません。しかし、共通の脅威に対抗するために、特定の国々が協力を強化する動きも見られる可能性があります。


『戦争と交渉の経済学: 人はなぜ戦うのか』の著者でもある、クリストファー・ブラットマンの視点を加えると、戦争経済の中での国際関係の変化についてさらに理解が深まります。ブラットマンは、戦争が単なる経済的合理性だけでなく、誤認識や感情的な要因によっても引き起こされることが多いとしています。

彼の分析は、国家間の対立が必ずしも合理的な経済的利益に基づくものではなく、より複雑な要因が絡み合っていることを示しています。誤認識や楽観バイアスが戦争の引き金となることがあり、このような心理的要因が国家の意思決定に影響を与えることがあります。

戦争経済では、国家が自国の安全保障を優先し、経済的利益よりも軍事的な同盟や協力を重視するため、国益に基づく行動が重視されます。ブラットマンの理論は、これらの要因がどのように国家間の協力や対立に影響を与えるかを理解するための枠組みを提供しています。

彼はまた、戦争を避けるための平和的な手段についても考察しており、取引や交渉が戦争を防ぐための重要な要素であることを示唆しています。これが戦争経済における国家間の関係にどのように影響するかを理解する鍵となります。このように、戦争経済の中での国際関係の変化を考える際には、ブラットマンの理論が重要な視点を提供していると言えます。

スウェーデンにおいては、移民の増加が社会に大きな影響を与えています。2015年から中東難民を大量に受け入れた結果、スウェーデンでは犯罪率が急増し、社会的な混乱が生じています。現地法務部によると、外国移民家庭の子供たちの犯罪率は、スウェーデンの親から生まれた子供たちよりも3.1倍高いと報告されています。さらに、暴力組織と警察の癒着が指摘されるなど、治安の悪化が深刻化しています。これにより、スウェーデンはかつての平和な国から、犯罪率が欧州で2番目に高い国へと変貌しました。

トルコは移民難民の通過点となる率が高かく、それを考慮するとスウエーデンが受け入れ率が最も高かった

結論として、戦争経済が深化する中で、他の先進国がスウェーデンに同調する可能性は、グローバリズムの時代よりも高まる可能性があります。これは、国家間の経済的な結びつきが弱まる一方で、軍事的な同盟や安全保障上の協力が重視されるようになるためです。国益に基づく戦略的判断が優先される状況では、スウェーデンの政策に同調することが戦略的に有利と判断される場合も考えられます。

スウェーデンは、移民政策や治安対策において多くの課題に直面しています。過去に多数の難民を受け入れた結果、社会的な混乱や犯罪率の上昇が問題視されています。これに対して、他の国々がスウェーデンの経験を参考にし、移民政策を見直す動きが見られます。例えば、デンマークやノルウェーなどの北欧諸国は、スウェーデンの移民政策を教訓に、より厳格な移民政策を採用する方向にシフトしていることが示唆されています。

マリの行動を許しておくと、アフリカ諸国におけるロシア主導の経済活動が強化される可能性があります。現在、マリはロシアと非常に親密な関係を築いており、ロシアは民間軍事会社「ワグネル」を通じてマリに戦闘員や兵器を送り込んでいました。

これにより、マリはロシア支持を鮮明にしています。ロシアは、アフリカでの影響力を拡大するために、ワグネルを通じてリビアやスーダン、中央アフリカなどの不安定な国々で軍事的、経済的な利権を確保しようとしていました。

ワグネルの創設者であるプリゴジン氏の死後、ロシア政府はアフリカでの活動を引き継ぐために新たな準軍事組織を立ち上げました。これにより、ロシアはより直接的にアフリカでの影響力を強化しようとしています

マリでは、フランス軍の撤退後にイスラム過激派によるテロが悪化しており、ロシアはマリとの協力を強化しています。ロシアのプーチン大統領は、マリの軍事政権とテロ対応や経済、人道面での協力強化について話し合いを行っています

プーチン

これらの動きから、マリがロシアとの関係を深めることで、他のアフリカ諸国もロシア主導の経済活動に引き込まれる可能性があります。特に、ロシアがアフリカでの影響力を拡大する中で、アフリカ諸国がロシアとの経済的・軍事的な関係を強化することが予想されます。これにより、ロシアはアフリカにおける戦略的な地位をさらに強化することができるでしょう。

このような動きが顕著になる前に、西側諸国はスウェーデンに同調するというよりは、さらに厳しい措置を取る可能性は十分あります。現在は様子見という状況にあるだけでしょう。

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