2024年8月17日土曜日

総裁選「地震」で不出馬に追い込まれた岸田首相 ダメ押しは日向灘地震と中央アジア訪問ドタキャン 米対応で高市氏の存在が浮上―【私の論評】高市早苗氏の米国連邦議会での経験と自民党総裁選の重要性

 高橋洋一「日本の解き方」

総裁選「地震」で不出馬に追い込まれた岸田首相 ダメ押しは日向灘地震と中央アジア訪問ドタキャン 米対応で高市氏の存在が浮上

まとめ
  • 岸田文雄首相が9月の自民党総裁選への不出馬を表明し、党内外に衝撃を与えた。
  • 政権の危機管理能力の低下が背景にあり、能登半島地震後の補正予算未実施や日向灘地震後の中央アジア訪問中止が問題視された。
  • 総裁選は事実上開始され、麻生太郎副総裁と菅義偉前首相が争う可能性が高い。
  • 高市早苗経済安保相が注目されており、彼女は米大統領選への対応力を持つ稀有な候補者とされている。
  • 今後の総裁選では活発な政策論争が期待され、日本の政治の方向性を左右する重要な選挙となる見込み。
麻生太郎副総裁と菅義偉前首相

 岸田文雄首相が9月の自民党総裁選への不出馬を突如表明したことは、党内外に大きな衝撃を与えた。この決定は、前日まで出馬を検討しているとみられていただけに、より一層驚きを呼んだ。岸田政権の末期症状は、特に危機管理の面で顕著に表れていた。

 能登半島地震後の対応は、その綻びの一つだった。震度7の大地震に対して補正予算を組むことは政治家として絶好の機会であったにもかかわらず、岸田首相はその機会を逃した。さらに、8月8日の日向灘地震への対応も批判を浴びることとなった。南海トラフ巨大地震への懸念がある中、首相は予定されていた中央アジア訪問をキャンセルした。これは危機管理の観点からも、外交面からも適切ではない。

 中央アジア5カ国への訪問は、日本にとって戦略的に重要な機会だった。これらの国々はロシア、中国、イラン、アフガニスタンに囲まれ、ユーラシア大陸の中心に位置している。日本の国益確保の面でも重要な地域であり、この訪問のキャンセルは「外交の岸田政権」の看板に疑問を投げかけるものとなった。

 こうした一連のミスが、岸田首相の政権運営の限界を示すこととなり、総裁選不出馬という決断につながったと考えらる。もちろん、「政治とカネ」の不祥事も政権に打撃を与えてきたが、最終的には地震対応の危機管理の問題が決定打となったようだ。

 総裁選は事実上始まり、キングメーカーとして麻生太郎党副総裁と菅義偉前首相の争いが注目されている。菅氏は小泉進次郎元環境相、石破茂元幹事長、河野太郎デジタル相らへの影響力があり、優勢とみられている。一方、麻生氏は高市早苗経済安保相を推す可能性もある。

 高市氏は特に注目されており、米大統領選への対応力が評価されいる。政策の観点からトランプ氏が勝利しても、女性同士であることや高市氏はかつて米民主党議員のスタッフの経験もあることからハリス氏が勝利しても対応できる稀有な人物といえる。保守政策への理解と、過去の民主党議員スタッフの経験を持つ高市氏は、幅広い対応力を持つ候補者といえる。

 今後の総裁選では、こうした候補者たちによる活発な政策論争が期待されており、日本の政治の方向性を左右する重要な選挙となることが予想される。

 この記事は、元記事の要約です。詳細知りたい方は、元記事を御覧ください。

【私の論評】高市早苗氏の米国連邦議会での経験と自民党総裁選の重要性

まとめ

  • 高市早苗氏は、米国連邦議会でCongressional Fellowとして活動し、米民主党下院議員パトリシア・シュローダーの事務所で議員立法の調査や分析を行った経験がある。この経歴は日米関係において重要な意味を持つ可能性がある。
  • 高市氏の経歴については、過去に「議会立法調査官」としての呼称が経歴詐称と指摘されたが、後に「Congressional Fellow」という正式な名称に訂正され、事実であることが証明されている。
  • 自民党総裁選の情勢が変わる中、麻生太郎副総裁が高市氏を推す可能性が注目されている。麻生氏は高市氏との政策的親和性が高く、保守派の結集を図る狙いがあると見られている。
  • 他の総裁候補では、トランプ氏の予測不可能な政策に対して十分な対応策を持っているとは言い難く、特に安倍元首相のような個人的な信頼関係を構築できる候補がいないことが課題である。
  • 自民党総裁選は、単なる人気投票ではなく、自民党や岸田政権の支持率低下の原因を真摯に反省し、信頼回復と政策の明確化を図る選挙でなければ、党勢は衰え、下野する危機に直面することになるだろう。

上の記事では、高市氏はかつて民主党議員のスタッフの経験もあるとされていますが、これは意外と知られていないようです。私も色々調べてみましたが、これに関する情報はなかなか見当たりませんでした。

結局のところ米国連邦議会Congressional Fellowであったことがわかりました。これについ調べていくと、2016年あたりに、いわゆる経歴詐称問題があったことを思い出しました。

米国連邦議会Congressional Fellowは、研究者や実務家に米国連邦議会の仕組みや政策形成プロセスについて実践的に学ぶ機会を提供するプログラムです。参加者は議員オフィスや委員会スタッフとして実際の業務に携わり、政策立案や法案作成のプロセスを間近で観察・参加します。通常、数ヶ月から1年程度の期間で行われ、参加者は無給または低賃金の研修生的な立場で活動します。

高市早苗氏は、このCongressional Fellowの経験を持っています。高市氏の公式プロフィールによると、彼女は「米国連邦議会Congressional Fellow(金融・ビジネス)」として活動しました。具体的には、1987年から1989年にかけて、アメリカ下院議員パトリシア・シュローダーの事務所でCongressional Fellowとして勤務し、議員立法のための調査や分析を行ったとされています。

アメリカ下院議員パトリシア・シュローダー氏

パトリシア・シュローダーは、1973年から1997年まで24年間にわたり、コロラド州第1選挙区選出の民主党下院議員を務めました。彼女はコロラド州から初めて連邦議会に選出された女性議員であり、リベラルな立場から社会福祉、女性の権利、軍事支出などの問題に取り組みました。シュローダーは下院軍事委員会の初の女性メンバーとなり、軍事費削減や女性の軍隊での権利擁護に尽力しました。

パトリシア・シュローダーが活躍した時代の民主党は、確かにリベラルな立場を取りながらも、現代の民主党とは異なる特徴を持っていました。

当時の民主党は、リベラルな政策を推進しつつも、より穏健で中道的な立場を維持していました。労働者の権利や社会福祉の拡充を重視しながら、経済政策においては比較的バランスの取れたアプローチを取っていました。

この時期の民主党は、今日見られるような極端な左翼思想の影響を受けておらず、アイデンティティ政治やポリティカル・コレクトネスへの傾斜も顕著ではありませんでした。代わりに、幅広い有権者層の利益を代表することに重点を置いていました。

特に注目すべきは、当時の民主党と共和党の間に存在した相互尊重の雰囲気です。両党間での対話や妥協が可能であり、政策立案においてより建設的な協力が行われていました。これは、現代の極端な政治的分断とは対照的です。

シュローダー氏自身も、強い信念を持ちながらも、他党の議員とも協力できる柔軟性を示しました。これは当時の政治文化を反映しており、今日の民主党とは異なる、より実務的で妥協を重視するアプローチを示しています。

このように、シュローダー氏が活躍した時代の民主党は、リベラルな価値観を持ちつつも、今日のような極端な左傾化や分断を避け、より広範な国民の支持を得られる政党として機能していたと言えるでしょう。

ただし、この経験の呼称については後に議論がありました。高市氏は帰国後、「議会立法調査官」という訳語を使用していましたが、これが2016年2月ジャーナリスト鳥越太郎氏により経歴詐称ではないかという指摘を受けました。その後、高市氏は「Congressional Fellow」という正式な名称を使用し、「議会立法調査官」という呼称の使用を止めました。高市氏は自身の業務内容に関するシュローダー議員によるサイン入り文書と、研究費としての月2000ドルの送金記録を提示し、自身の経験を証明しています。

米国連邦議会Congressional Fellow時代の高市早苗氏

このように、高市早苗氏のCongressional Fellow経験は事実であり、米国議会政治の実態を学ぶ貴重な機会となったと考えられますが、その経験の呼称や内容については一時期議論があったことが分かります。

結局のところ、経歴詐称とマスコミが騒ぎ立てたのですが、その後それが事実ではないことがわかり、現在でマスコミなどがこの問題に関しては、沈黙しているということなのでしょう。そのため、「民主党議員のスタッフの経験」とだけ検索すると、ほとんど出てこないという状況になっているのだと思われます。

高市早苗氏の経歴は、確かに他の総理候補と比較して特異であり、その経験は日米関係において重要な意味を持つ可能性があります。トランプ氏、ハリス氏のいずれが大統領になったにしても十分に対応できる可能性が高いです。

全体として、他の候補ではトランプ氏の予測不可能な政策や交渉スタイルに対して、十分な対応策を持っているとは言い難い状況です。特に、安倍元首相のようなトランプ氏との個人的な信頼関係を構築できる候補が見当たらないことが、大きな課題です。

また、トランプ氏の「アメリカ・ファースト」政策に対して、日本の国益を守りつつ協調関係を維持するための具体的な戦略が、いずれの候補からも明確に示されていないことも懸念材料です。

自民党総裁選の情勢が大きく変わる中、麻生太郎副総裁の動向が注目されています。岸田文雄首相の不出馬表明を受け、麻生氏が高市早苗経済安保相を推す可能性が浮上しています。

麻生氏は党内で強い影響力を持つ実力者であり、高市氏との政策的親和性が高いことから、保守派の結集を図る狙いがあると見られています。高市氏は女性リーダーとしての注目も集めており、自民党が女性の登用を重視する中で有力な候補者となっています。

一方で、河野太郎デジタル担当相の動向も注目されています。河野氏は麻生氏と菅義偉前首相の間で板挟みになっている状況が報告されています。麻生氏が河野氏の出馬を認めない可能性がある一方、菅氏は河野氏を重要な候補者と見なしているようです。

麻生氏が高市氏を推すことで、党内のパワーバランスを保とうとする可能性もあります。しかし、高市氏の一部の政策や発言が党内リベラル派や親中派の反発を招くこともあり、麻生氏の判断は慎重になると予想されます。

安倍総理と高市氏

総裁選に向けて、麻生氏の動向は党内外から注目されており、高市氏への支持表明があれば、それは大きな政治的意味を持つことになるでしょう。今後の展開や、新たな総裁が誰になるかについては、まだ不透明な状況が続いています。

このような状況の中で、自民党総裁選が単に次の選挙に当選したいだけの議員らによる人気投票になってはいけません。自民党や岸田政権の支持率が落ちた理由、特に従来の保守岩盤支持層が離れていった理由を精査し、かつ真摯に反省し、その前提に立った総裁選を行わなければ、自民党の党勢は衰え、下野する危機に直面することになるでしょう。党としての信頼回復と政策の明確化が急務であり、これを怠れば、国民の支持を失いかねません。

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