2023年4月23日日曜日

ドイツの脱原発政策の「欺瞞」 欧州のなかでは異質の存在 価格高騰し脱炭素は進まず…日本は〝反面教師〟とすべきだ―【私の論評】エネルギーコストがあがれば、産業も人も近隣諸国に脱出

 ドイツの脱原発政策の「欺瞞」 欧州のなかでは異質の存在 価格高騰し脱炭素は進まず…日本は〝反面教師〟とすべきだ


廃炉に向かうドイツの原発

 ドイツのエネルギー政策はひどい。2021年12月23日の米紙ウォール・ストリート・ジャーナル社説で「ドイツの自滅的なエネルギー敗戦」と酷評された。書かれていることは、10年前のエネルギー政策転換の時からいわれていたことだ。11年の福島第1原発事故を受けて、アンゲラ・メルケル前首相は原発の段階的廃止を打ち出し、それが完遂された。

 その結果、太陽光・風力発電政策に翻弄される状態を自ら作り出した。しかも、自国では原発を廃止するが、隣国の原発大国、フランスから電力を輸入する欺瞞(ぎまん)もある。さらに、電力供給維持のためロシア産天然ガスへの依存が、ウクライナ侵攻で裏目に出た。

 ここまで脱原発をしても脱炭素は進展していない。21年のエネルギー別発電割合をみると、石炭・褐炭が27・9%、再生可能エネルギーが40・9%、原子力が11・8%、天然ガスが15・3%などとなっている。

 世界的な脱炭素の動きもあり、さらにはロシアのウクライナ侵攻でロシア以外に天然ガスを求めざるを得ないこともあり、天然ガスやその他のエネルギー価格の上昇にもドイツはさらされているのが実情だ。

 そして、ドイツの電力料金は日本の2倍以上になっている。こうしたドイツにおけるエネルギー構成のゆがみや価格の高騰は、エネルギー問題ではあらゆる供給手段を用意しておくという「エネルギー安全保障」を完全に無視した結果だ。

 せめて原発を廃止しなければ、今のエネルギー価格の高騰の一部を抑えられただろう。さらに、天然ガスも段階的にゼロにするというのは、まともなエネルギー政策とはいえない。

 脱炭素については、いろいろな議論があるものの、世界の流れであるのは誰も否定できない。その脱炭素の流れの中では、二酸化炭素(CO2)を出さず、風力や太陽光と異なり天候にも左右されない原発は、もってこいの手段だ。

 ドイツとは正反対であるが、フランスや英国が主導し、欧州で再び原発を活用する動きが活発になっている。脱炭素を進めるためには、原発は欠かせない要素だからだ。ちなみに、オランダやフィンランドでは原発新設などの動きもある。ドイツだけが欧州のなかでは異質の存在だ。

 また、世界中で小型モジュール式原子炉は有望だ。そのシンプルな設計は安全性を高めるとともに、コスト削減や建設期間短縮化になる。

 日本国内では、ドイツを見習い脱原発を主張する向きもあるが、やめるべきだ。そもそも欧州連合(EU)は、石炭というエネルギー問題を多国間で解決するため1952年の欧州石炭鉄鋼共同体から発展してきた。

 ドイツが変なエネルギー政策をとっても民主主義の陸続きの欧州他国からの助けもあるが、日本は周りを海で囲まれ、隣国は専制国家である。ドイツのようなことは期待できない。

 むしろ、エネルギー政策において欧州の中で異質なドイツを反面教師とした方がいい。

(元内閣参事官・ 嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】エネルギーコストがあがれば、産業も人も近隣諸国に脱出!

ドイツでは、さらにエネルギー問題に追い打ちをかけるように、ハーベック経済相が19日、石油・ガスを使用した暖房設備の大半を2004年から禁止する法案を政府が承認したと明らかにしました。

ハーベック独経済相

 連立与党は先月、24年以降新設される暖房設備の大半について、稼働エネルギー源の65%を再生可能エネルギーにすることで合意しました。 ドイツは45年までに温暖化ガスの排出を実質ゼロにするカーボンニュートラルを目指しており、法案はこの目標達成に向けた計画の一環となります。

建設部門が昨年排出した温暖化ガスは全体の約15%を占めていました。 法案関連資料によると、化石燃料の代替として再生可能電気で稼働するヒートポンプや地域暖房、電気暖房、太陽熱システムなどを家庭用暖房として使用できます。 ただ、この計画を巡ってはコストが高く、低・中所得世帯や賃貸物件利用者への負担が大きいとの批判が政権内からも出ています。

ドイツの産業用電力、ロシアからの天然ガスを用いて発電してきたのですが、ロシアからの天然ガスの供給が止まり電気代35倍になりました。すでに企業はドイツを捨て始めています。家庭用の石油ガス暖房禁止した場合、暮らしていけない人だらけになるでしょう。

上の記事で、高橋洋一氏は、ドイツが変なエネルギー政策をとっても民主主義の陸続きの欧州他国からの助けもあるとしていますが、これは逆にいえば、産業用電気代が35倍になれば、多くの企業がドイツを離れ、それにともないドイツ人がドイツを離れ、家庭用の石油ガス暖房を禁止すれば、さらに多くのドイツ人がドイツを離れることになるのではないでしょうか。

世界には、スイスやイタリアなどようにドイツ語圏内の地方を有する国々が存在しており、そのような国では、ドイツ人は言語も生活習慣もほとんど変えないで移住することができます。そこまで行かなくても、生活習慣の似ている国も多くあります。しかも、近隣諸国は陸続きです。
ドイツ語圏とドイツ語が通じる国


おそらく、ドイツはこのような馬鹿げた政策をいつまでも続けることはできないでしょう。問題はいつやめるかです。ドイツ産業が流入してくる国々は大喜びです。一旦流出すれば、また元に戻すのは大変です。

ドイツの脱原発は、このブログにも以前掲載したように、首相辞任直後にロシアエネルギー企業の役員になり、多数のロシアエネルギー企業の役員を務めたプーチンの友人シュレーダーが始めたもので、彼は反原発、脱石炭をうたう環境団体のスポンサーでもあります。

再生可能エネルギーの推進派は、太陽光エネルギーが石油を置き換える存在になるとアピールします。そうして、ドイツでは、かつてエネルギーの80%を太陽光パネルで得ていたと主張する人もいます。

しかし、2019年時点で、太陽光や風力で満たされたのはドイツの電力エネルギー全体の34%でしかありませんでした。上の記事では、21年時点でも再生可能エネルギー40.9%に過ぎません。ドイツのエネルギーの大半は今でも、天然ガスや石油、トウモロコシ由来のバイオガスから生み出されています。

さらに、太陽光パネルの製造には膨大な種類の素材が必要になります。ソーラーパネルの製造には原子力発電プラントの16倍にも及ぶ、セメントやガラス、コンクリートや鉄が必要で、排出されるゴミの量は300倍にも達するといいます。

米国では、太陽光パネルの製造や、ソーラー発電所の建設に必要な資材の多くは、米国最大のコングロマリットの1社として知られるコーク・インダストリーズが製造しています。石油や石炭、天然ガスなどのエネルギー産業を操るコーク・インダストリーズは、環境保護活動家が目の敵にする企業です。

これは全く皮肉な話としか言えないです。環境に優しいはずの太陽光パネルが、環境問題の元凶となる企業の部品で作られているのです。

太陽光発電等CO2の排出を減らし、人類を未来に連れて行ってくれると信じ込んでいる人々は多いです。けれどもそれは、人間を含めすべての生き物が生存している限りは、呼気でCO2を排出し続けるし、特に人間が生存だけではなく、意義や意味のある生活していく上では、さらにCO2を排出することになります。

このことからもわかるように、CO2の排出を極端に減らすことはできません。電気自動車を製造するにしても、太陽光発電パネルを製造するにしても、現在は結局大量のCO2を排出します。

私自身は、 エネルギーミックスの多様性を確保するために、再生可能エネルギーの研究を維持するのは悪くはないと思います。なぜなら、現状では不可能と思われていることでも、将来は技術革新によって可能になることもあり得るからです。


しかし、現状では、まずはすでに過去に確かめられた方法によりエネルギーを供給すべきと思います。小型モジュール式原子炉は、冷却を行うのに多量の水を必要とせず、より安全で全く新しいものにもみえますが、すでに似たものは原子力空母、原子力潜水艦で何十年も前から使われています。その本質は、これらを民生用等多用途に使えるようにすることです。

そうして、再生可能エネルギーを研究しつつも、原発を含めた様々なエネルギー源を活用するべきと思います。

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