2023年4月17日月曜日

北方領土で演習のロシア太平洋艦隊は日本を脅かせるほど強くない──米ISW―【私の論評】ロシアが北方領土で軍事演習を行っても日本に全く影響なし(゚д゚)!

北方領土で演習のロシア太平洋艦隊は日本を脅かせるほど強くない──米ISW

 <ロシアの太平洋艦隊は、日本のウクライナ追加支援を牽制するため北方領土でミサイル発射訓練などを行っただが、日本を脅すほどの戦闘力はない、と米シンクタンクが分析した>

 ロシア海軍がアジア太平洋地域で軍事・安全保障任務を遂行するためにある太平洋艦隊は、他国から脅威とみなされるには「戦闘力」不足の可能性が高いと、米シンクタンクが指摘した。



 アメリカのシンクタンク戦争研究所(ISW)は、4月14日にウクライナ戦争に関する最新の分析を発表。ロシア軍が太平洋艦隊の抜き打ち検査の一環としてミサイル発射と魚雷のテストを実施したことについてコメントした。

 ロシア政府は目前に迫った5月のG7サミットにおいて日本のさらなるウクライナ支援を抑止する材料として、太平洋艦隊の戦闘点検で威嚇しようとしたのだろう、とISWは述べている。

 ドイツのキール世界経済研究所が4月4日に発表したデータによると、この戦争が始まってから、日本がウクライナに提供した援助の総額は、2月24日の時点で56億6000万ユーロ(62億ドル)に達している。

 ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相は14日、今回の抜き打ち検査の目的は 「海洋における敵の攻撃を撃退するために、軍隊の能力を高めることだ」と、国営テレビで発表した。

 この検査は「あらゆる戦略的方向で任務を遂行するための軍司令部や各部隊の状態を評価し、準備態勢を高めること」をめざすものだ、とショイグは述べ、それには千島列島南部とサハリン島に上陸する敵を撃退する能力も含まれる、と付け加えた。

対ウクライナ追加支援を警戒

 千島列島の国後、択捉、色丹、歯舞の4島は、第二次世界大戦の終結時にソ連が占領し、自国領に「編入」した島々だ。日本はこの4島を日本固有の「北方領土」と主張しており、この問題で日露関係は何十年にもわたって緊張している。第二次大戦を正式に終結させる平和条約が日露間で締結されなかったのは、日本が領有権を主張し、ロシアが占領している島々をめぐる紛争が主な理由となっている。

 この4島は日本の北海道とロシアのカムチャッカ半島の間に位置するため、多くの軍事的、政治的な利点がある。

 5月19日から21日にかけて開催されるG7サミットで議長を務める予定の岸田文雄首相は、3月にウクライナの首都キーウをサプライズ訪問。議長国を務める日本として「ウクライナ侵略への対応を主導する決意を示すことができた」と語った。

 「ロシアの東部を管轄する東部軍管区(EMD)は最近、日本の千島列島の北に位置する幌筵島(パラムシル島)に、ロシアが開発した沿岸防衛用地対艦ミサイルシステムの砲台を配備した。これは日本がウクライナへの追加支援を行うことに対する警告であろうと当研究所は評価した」とISWは報告している。


 ISWは、広島で開催されるG7で日本がウクライナへの支援を増やさないように、ロシアは北太平洋で「軍事態勢」をとり、日本の鼻先で軍備増強をしてみせようとしている可能性が高いと述べた。

 だがISWの評価によれば、ロシア軍は「現時点で日本を脅かす立場にない」という。そして、太平洋艦隊の第40海軍歩兵旅団と第155海軍歩兵旅団の部隊が、昨年末と今年初めにウクライナ東部ドネツク州のヴフレダール付近の戦闘で、大きな損害を被ったことを指摘した。

 「太平洋艦隊は、太平洋地域におけるロシアのパワー・プロジェクション(戦力投射)能力に必要な戦闘力が不足しているようだ。そうであれば、日本にとっての真の脅威となるような姿勢を見せたり、対等な軍事大国であることを中国に確信させたりすることは難しい」と、ISWは主張している。

【私の論評】ロシアが北方領土で軍事演習を行っても日本に全く影響なし(゚д゚)!

ロシア軍の北方領土の演習は、日本でも報道されましたが、ほとんどの番組では、淡々と事実を述べるのみで、それがどのような意味を持つのか、この演習そのものは、日本にとって脅威なのか、伝えないため、多くの人にとっては無意味なものになっています。

ロシアは北方艦隊を含めて5つの軍管区に分かれているのですが、このうち北方艦隊を除いて4つの軍管区の地上部隊をドンバスの戦いに参加させていました。

4つの軍管区からの部隊をウクライナ侵攻では、南、中央、東、西という4つの方面軍に分けていることが確認され、プーチン大統領はそれぞれに信頼する将軍を司令官に任命していました。

北方領土に展開するロシア軍は、上の記事にもあるように、極東ロシア地上軍(東部軍管区)です。極東ロシア地上軍は、ソ連邦崩壊前では、40数個師団でした。現在では、半数以下の12個旅団(師団の半分から2/3の規模)と2個師団合計8万人です。

これは、最盛期の4分の1以下になったということになります。軍の地位も下がり、予算も多く削減され、兵員の士気は下がっていました。一時増やしはじめたこともあったのですが、これはウクライナ戦争で頓挫したよゔてす。

この極東からも、ロシア軍はウクライナに戦車揚陸艦で戦車や弾薬、人員等を運んだというのですから、いかにウクライナに侵攻したロシア軍が物資不足や人員不足に悩まされているのかがうかがえます。

東部管区には、太平洋艦隊が配置されていますが、太平洋艦隊の第40海軍歩兵旅団と第155海軍歩兵旅団の部隊が、昨年末と今年初めにウクライナ東部ドネツク州のヴフレダール付近の戦闘で、大きな損害を被ったと上の記事では指摘されています。

今年2月には、精鋭5000人で構成されるとされていた、極東・太平洋艦隊第155海軍歩兵旅団が、東部の戦闘で壊滅した可能性が浮上していました。

太平洋艦隊第155海軍歩兵旅団の上陸訓練 ウラジオストック(2020年)

現在のロシア軍による日本への挑発行為は、今の極東ロシア軍にできる精一杯の虚勢に過ぎず、わが国に脅威を与えるような活動とは程遠いです。

ある程度の準備期間を経て、満を持してウクライナに侵攻したロシア軍でさえ、あの体たらくです。ましてや、日米に比して貧弱で駆逐艦以上の戦闘艦艇は7隻程度しかなく海上自衛隊の10分の1程度の太平洋艦隊です。

ロシア太平洋艦隊旗艦「ワリャーグ」、ウクライナで撃沈された「モスクワ」と同型艦

ロシア空軍は、日常の活動などを見ても航空機の稼働率がおそらく30%に満たず、パイロットの操縦訓練(飛行時間は空自の半分以下)も全く航空自衛隊とは比較にならないような低練度の空軍の飛行部隊や海軍航空部隊の現状で、通常戦力ではとても日米の軍事力に太刀打ちできるはずはないです。

仮に日露が有事になったとするとロシアの艦船は、日本の潜水艦が潜む宗谷海峡と津軽海峡は危なくて通れなくなるので、太平洋方面での作戦やウラジオストクから補給を受けるカムチャツカの基地の維持も難しくなります。

海戦では、対潜水艦戦(ASW:Anti Submarine Warfare)能力が圧倒的に優れた日本はロシアを圧倒することになるでしょう。、実際もし第二次日露戦争が勃発したら「日本が海戦を制する」とロシアメディアが断言しています。

それでも、台湾有事などで中国の艦隊と連携行動を取られると、ロシア海軍も日米にとって煩わしい存在になるでしょうが、それも大したものにはならないでしょう。

なぜ、このようなことになるかといえば、現在のロシアはウクライナ戦争前であってすら、GDPは韓国を若干下回る程度でした。一人あたりのGDPに至っては、1万ドル(日本円で100万円)を若干上回る程度てす。ちなみに、中国も一人あたりGDPではロシアとあまり変わりありませんが、人口が14億人なので、中国のGDPはロシアの10倍です。

ロシアというと軍事大国というイメージが強いですが、軍事費に関していうと、実はそうでもありません。以下に

世界各国の軍事費をみていくと、やはり米国が世界一の軍事大国で、2位の中国の2.7倍。ただし中国はこの10年で2倍以上、20年では10倍以上も軍事費を増やしており、存在感を増していることがわかります。

世界各国の軍事費をみていくと、やはり米国が世界一の軍事大国で、2位の中国の2.7倍。ただし中国はこの10年で2倍以上、20年では10倍以上も軍事費を増やしており、存在感を増していることがわかります。
世界各国の軍事費をみていくと、やはり米国が世界一の軍事大国で、2位の中国の2.7倍。ただし中国はこの10年で2倍以上、20年では10倍以上も軍事費を増やしており、存在感を増していることがわかります。 【世界の軍事費 トップ10】 1「米国」80,067,200万米ドル 2「中国」29,335,200万米ドル 3「インド」7,659,800万米ドル 4「イギリス」6,836,600万米ドル 5「ロシア」6,590,800万米ドル 6「フランス」5,601,700万米ドル 7「ドイツ」5,556,400万米ドル 8「サウジアラビア」5,412,400万米ドル 9「日本」5,412,400万米ドル 10「韓国」5,022,700万米ドル ーーーーーーーーーーーーーーー 36位「ウクライナ」594,300万米ドル 出所:世界銀行 資料:GLOBAL NOTE ※データは2021年 ※中国は政府公式予算に含まれない軍事支出の推計を含む、日本は軍人恩給を含まない
ロシアは世界第2の軍事大国だとされてきましたが、軍事費でいうと、現在ではイギリスを下回ります。日本は、防衛費を倍増すると、ロシアの軍事費を大幅に上回ることになります。

これで、なぜ世界第2 の軍事大国といわれきたかというと、それはロシアはソ連の核や兵器及び軍事技術を継承した国であるため、それを加味して、世界第2と言われてきたと思います。そのため、決して侮ることはできないです。実際、中距離弾道弾も多数配備しており、この点では軽視すべき相手ではありません。

ただ今や、ロシアにはウクライナと北方領土の2正面で戦争をできるだけの力がないことは明らかです。現状では、米国抜きのNATOとも正面から対峙するのは不可能でしょう。

ウクライナ戦争が始まった直後、私はこのブログで、ロシアがウクライナ戦争でできることは、兵站の脆弱さを根拠に、東部のいくつかの州の全部もしくは一部を占領できるのが関の山だろうと予測しましたが、現在戦況は実際にそうなりつつあります。

マスコミはこのようなことは報道せず、ただロシアが北方領土で演習という事実を淡々と報道するだけです。それは、結果として単純にロシアの脅威を煽ることになりかねませんし、北方領土交渉を間違った方向に誘導しかねません。

米軍は、台湾有事などのシミレーションで、米軍が負ける場合を想定する事が多いです。それを米国は、軍の改善や改革に結びつけています。日本もそのような姿勢を堅持すべきです。中国は、負ける場合を指摘した将軍に「執行猶予付き死刑判決」を出しています。どちらが、軍を強くするかといえば、無論米国の方です。

ただ、私達は、あくまでロシアを等身大に見ていくべきです。今回ロシアが北方領土で演習を行ったとしても、上の記事にあるようにロシア軍は「現時点で日本を脅かす立場にない」です。

日本政府がこれによって、ウクライナ政策を変えたり、その他の政策や防衛・外交政策を変えざるを得ないような影響を受けることは、全くありません。

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