2023年4月30日日曜日

動き出したスリランカ支援―【私の論評】スリランカの破綻の直接の原因は実はエネルギー問題、日本は途上国と先進国の両方を満足させる技術を持っている(゚д゚)!

動き出したスリランカ支援

深刻な経済的苦境にあるスリランカの新大統領にラニル・ウィクラマシンハ氏が選出され抗議する人々(2022年7月20日)

【まとめ】

IMF、スリランカに対する4年間で30億ドル相当の金融支援を行うことで合意。

G20中央銀行総裁会議、日本主導でスリランカの債務返済繰り延べに向け債権国会議を発足。

・中国は債権国会議の対応を見ながら、自らの力をより大きく見せる方途を探っている。

 
経済危機に直面するスリランカに対する支援を巡り、動きが活発化してきている。

スリランカは人口の70%が仏教徒主体のシンハリ人で、タミル人との紛争が終結した2009年以降も国内で政争が絶えなかった。

2019年の爆破テロ事件、同年のゴダバヤ・ラージャーパクサ大統領による減税や新型コロナ感染拡大での主力産業の観光の落ち込みなどで外貨準備が輸入額の1か月分にも満たない額にまで減少

2022年3月以降、大統領の退陣を求めるデモが起きた。同国財務省は同年4月12日、国際通貨基金(IMF)の経済調整プログラムに沿った債務再編が行われるまで債務支払いを停止するとデフォルト宣言をした。

このため、5月にはマヒンダ・ラージャーパクサ首相が辞任に追い込まれ、その後の大規模デモ・騒動でゴタバヤ・ラージャ―パクサ大統領は国外脱出後に辞任するという事態に陥った。マヒンダが兄でゴダバヤが弟だ。その後、ウィクラマシンハ首相が新大統領に選出され、今日に至っている。

IMFは同年9月の事務レベル会合で、スリランカに対する4年間で30億ドル(約3,950億円)相当の金融支援を行う拡大信用供与措置(Extended Fund Facility=EFF)を採ることで合意。今年3月20日の理事会でEFFを承認した。

EFFは国際収支の改善を通じ、マクロ経済の安定化、債務の持続性、貧困者や弱者に対する影響の軽減を狙ったもの。同承認を受け、IMFはスリランカにまず3億3,300万ドルの支援を行うこととなった。

◾️日本の主導で債権国会議が発足

日本は、1951年の二次大戦後のサンフランシスコ講和会議で、スリランカのジャヤワルデナ蔵相(当時)が「憎悪は憎悪によって止むことなく、愛によって止む」という仏陀の言葉を引用して演説したことに感銘。大統領になったジャヤワルデナを1979年9月、国賓として日本に迎えた。日本からは1990年に海部俊樹首相(当時)がスリランカを訪問、2014年9月には安倍晋三首相(当時)が、日本の首相として24年ぶりに同国を訪れている。老練政治家のウィクラマシンハ大統領は、そうした流れの中で日本政府関係者の受けが良い。

今年の4月13日には米ワシントンで、G20 ・中央銀行総裁会議が開かれた。途上国で問題化する債務問題などで共同声明は出せなかったが、日本の主導でスリランカの債務返済繰り延べに向けた債権国会議を発足させた。鈴木俊一財務相兼金融担当相、インドのシータラーマン財務相、フランスのムーラン経済・財政省国庫総局長、スリランカのウィクラマシンハ大統領兼財務相(オンライン参加)およびセーマシンハ財務担当国務相、国際通貨基金(IMF)のゲオルギエヴァ専務理事、岡村健司副専務理事が記者会見し、同会議の発足を表明した。

鈴木財務相はその席で「広範な債権国間の協調体制が生まれることは歴史的快挙」と述べた。G20 は2020年に低所得国の債務問題を扱う共通の枠組みをつくり、スリランカのような中所得国扱いに対する債務返済危機に対しては債権国で構成するパリクラブが当たっていた。今回のスリランカに対する債権国会議にパリクラブのメンバーでないインドも入っている。鈴木財務相は、国としてスリランカに最大の債権を有する中国が同会議に出席するかどうかについて言及しなかった。

◾️「債務のわな」を仕掛けた中国の出方がカギ

スリランカは中国の一大経済圏構想「一帯一路」の下で、「債務のわな」に陥ったとの見方が一般的だ。中国はそうした見方に反発している。しかし、スリランカは南部の主要港であり、ラージャーパクサ兄弟の地元であるハンバントタ港の建設資金約14億ドルに関し、中国からの負債と同港の99年間の運営権をスワップ(交換)している。その合意では、中国の軍関係者の関与を禁じるとなっているようだが、中国がミャンマー、パキスタンに続き、スリランカにインド洋進出の拠点を手中にしたと見る向きは根強い

スリランカの対外債務額は資料によって異なるが、IMFの今年3月段階の同国レポートによると、2022年の官民の対外債務総額は暫定値で587億ドル、2023年の予測値は562億ドルとなっている。外国法に準拠した2022年の公的対外債務額は約415億ドル弱。うち、IMF、世界銀行、アジア開発銀行など多国籍機関が115億ドル弱。個別国の総額は114億ドル強で、日本などパリクラブ所属国が48億ドル弱、非パリクラブ国の中国が45億ドル弱、同じく非パリクラブ国のインドが18億ドル強。中国の国家開発銀行などによる貸し付けが29億ドルなどとなっている。

IMFはスリランカの今年の実質GDP成長率をマイナス3.0%と見込んでいる。

スリランカの貿易相手国で、輸入で最大なのは中国でシェアは21%、2位はインドで22.4%、産油国のアラブ首長国連邦(UAE)が3位で6.8%。輸出は、米国が24.8%、英国が7.5%、インドが6.6%の順。

ロイター電は3月初旬、中国輸出入銀行がスリランカに送付した書簡の中で2022年と2023年が支払期限の債務について支払い猶予を数か月内に実施などと繰り返し強調、と報じている。

中国は債権国会議の対応を見ながら、自らの力をより大きく見せる方途を探っているように見える。(敬称略)

【私の論評】スリランカの破綻の直接の原因は実はエネルギー問題、日本は途上国と先進国の両方を満足させる技術を持っている(゚д゚)!

上の記事では、スリランカがなぜデフォルトしたのかについては、述べていません。特にデフォルトの直接にきっかけについては述べていません。これについては、以前このブログに述べたことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
破産宣言のスリランカ 債務再編主導を日本に依頼へ―【私の論評】スリランカは、日本に開発途上国から化石燃料を奪う事の非を欧米に理解させ、その開発・利用への支援を再開して欲しいと願っている(゚д゚)!
この記事より一部を引用します。
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スリランカの経済が破綻し大規模デモがおきて政権が転覆したのは、数々の失政が重なった結果ですが、とどめの一撃となったのは燃料費の高騰でガソリンが輸入できなくなったことでした。

スリランカの最大都市コロンボで最近みられる、ガソリンスタンドでたくさんの車やバイクが行列ぎょうれつをつくる光景

いまの開発途上国でのエネルギー危機は、単にウクライナの戦争のせいではありません。近年になって、欧米の圧力によって化石燃料事業への投資が停滞していたことが積み重なって、今日の破滅的な状態を招いているのです。

インド人の研究者である米国ブレークスルー研究所のビジャヤ・ラマチャンドランは科学雑誌Natureに書いています。
「近代的なインフラを最も必要とし、世界の気候変動問題への責任が最も軽い国々に制限を課すことは、気候変動の不公正の極みである」。
ラマチャンドランは、国際援助において、気候変動緩和をすべての融資の中心に据えるという近年の方針について、偽善であり、二枚舌だとして、猛烈に抗議しています。
「それは、経済開発に使える資源を必然的に減らすことになり、しかも地球環境にはほとんど貢献しない。・・なぜそのような努力をするのか。世界銀行とIMFの主要株主である富裕国は、これまでのところ、エビデンスや合理的なトレードオフに基づく気候変動政策の策定にはほとんど関心を示していない。 
それどころか、天然ガスを含む化石燃料への融資を制限し、自国では思いもよらないような制限を世界の最貧国に対して課すことを、自画自賛しているのである。その規制の中には、化石燃料への開発金融をほぼ全面的に禁止することも含まれている。 
世界銀行は、気候変動緩和政策と貧困削減の間の急激なトレードオフを最もよく理解しているはずである。しかし、国内の環境保護団体を喜ばせたい資金提供者が課した条件には従うしかなかったようだ。・・欧州連合は、自分たちはクリーンエネルギーの原子力発電所を停止し、天然ガスの輸出入を増やし、国内の石炭発電所を新たに稼働させる一方で、開発金融機関に対しては、貧困国でのすべての化石燃料プロジェクトを直ちに排除するよう主張している。」
「さらに悪いことに、EUの官僚たちは現在、『何がクリーンエネルギーか』をめぐって一進一退の攻防を繰り広げている。燃料不足に直面する加盟国から、原子力や天然ガスまで定義(タクソノミー)を拡大するよう圧力がかかっている。その一方でEUの広報担当者は、“EUの柔軟な分類法は、開発政策に反映されることはない”と明言した。つまり天然ガスはヨーロッパ人にとってはグリーンだが、アジアやアフリカの人々にとっては事実上禁止されるということだ。」
何十億人の人々が、先進国のエリートたちによって、化石燃料のない、貧困に満ちた未来へと組織的に強制されているのです。気候危機説を信奉する指導者たちが、開発途上国の化石燃料使用を抑圧しているからです。哲学者のオルフェミ・O・タイウォは、この現象を「気候植民地主義」と呼んでいます。
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「気候植民地主義」という言葉は、さまざまな学者や活動家によってさまざまな文脈で使われてきましたが、一般的にはインドの環境学者・物理学者であるヴァンダナ・シヴァの言葉だとされています。シヴァは、環境主義、社会正義、グローバリゼーションの交わるところについて幅広く執筆し、気候変動の緩和と適応の努力による費用と利益の不平等な分配は、新しい形の植民地主義を構成すると主張している。

ヴァンダナ・シバ

「気候植民地主義」とは、歴史的に温室効果ガスの最大排出国である先進国が、その富と権力を使って気候変動対策の条件を決定し、途上国に解決策を押し付け、しばしば地域社会や生態系を損なっているという考え方です。

これは、たとえば、ダムや再生可能エネルギー設備のような大規模なインフラプロジェクトが、しばしば地元の人々を追い出したりや生態系を傷つけたりすることにより、コミュニティ主導のアプローチや社会正義よりも市場ベースのメカニズムや技術的解決を優先する政策や協定をとることもあるとの主張です。

日本では、最近では無秩序な太陽光パネルの設置が問題になっています。

無秩序で危険極まりない太陽光バネルの設置(和歌山県)

CO2素排出削減目標や再生可能エネルギーの義務付けを行うことも、独善的と受け取られかねません。このようなアプローチは、途上国が経済成長と社会発展を支えるために、安価で信頼できるエネルギー源へのアクセスを必要とすることが多いという事実を無視しかねません。

 先進国は、エネルギー問題に関連する国際援助や開発資金に条件を付け、自国のエネルギーの優先順位を途上国に押し付けることがあります。これは、各国の多様なエネルギーニーズと優先順位を認識しない独善的なものと言わざるを得ないです。

例えば、エネルギープロジェクトに対する資金援助を、現地の状況における技術の適合性や実現可能性を考慮することなく、特定の技術やエネルギー源に結びつけることは、画一的なアプローチの押し付けと受け取られかねないです。

先進国は、再生可能エネルギー技術などのクリーンエネルギー技術の途上国への移転を制限することもあります。これは、途上国がよりクリーンなエネルギー源への移行や気候変動の緩和に役立つ技術にアクセスすることを妨げるものであり、独善的と受け取られかねません。

技術移転の制限は、先進国による知的財産保護主義や技術進歩の囲い込みの一形態と見なすことができ、途上国が持続的にエネルギー需要に対処するための進歩を妨げる可能性があります。

先進国は、南半球のエネルギー資源や管理に関する先住民や地域の知識を軽視したり、過小評価したりすることがあります。

これは、何世代にもわたって天然資源とともに持続可能な生活を送ってきた地域社会の伝統的な知恵や慣習を無視するものであり、独善的と受け取られかねません。先住民や地域の知識を無視することは、地域コミュニティの疎外や移動につながり、先進国と途上国の間の力の不均衡を永続させる可能性があります。

世界のエネルギー問題に取り組むには、開発状況にかかわらず、すべての国の協力的な努力と相互尊重が必要であることを認識することが重要です。すべての国が持つ固有のエネルギーニーズ、状況、視点を考慮した包括的かつ公平なアプローチは、世界のエネルギー問題に対する有意義で持続可能な解決策を促進するのに役立ちます。

気候植民地主義の支持者は、このアプローチは植民地主義を特徴づける搾取と支配のパターンを再現し、途上国や先住民の主体性と主権を損なうと主張しています。気候変動の影響を最も受ける人々の声やニーズを重視し、気候危機の原因となった歴史的・継続的な不公正を認識した上で、より民主的で公平な気候変動対策へのアプローチを求めています。

私は、「環境植民地主義者」の主張に関して、これをすべて支持するものではありませんが、それにしても、これを無視することは、先進国の傲慢であると思います。

日本主導でスリランカの債務返済繰り延べに向け債権国会議を発足したことは喜ばしいことです。今年日本はG7議長国となります。開発途上国から化石燃料を奪う事の非を欧米に理解させて、化石燃料の開発・利用への支援の再開を訴えるべきです。

もしこれに失敗すれば、開発途上国は本当に欲しいものを供給し支援してくれる国々を頼るようになるかもしれません。それはロシアであり、中国かもしれません。あるいは、原子力発電の実績のある北朝鮮かもしれません。北朝鮮は、原子力発電所の輸出ととも、核兵器を輸出するかもしれません。

開発途上国は先進国が呼びかけた対ロシア経済制裁に殆ど参加しませんでした。つまりいつまでも先進国の言いなりにはならないということです。

そうした中での、日本主導でスリランカの債務返済繰り延べに向け債権国会議を発足です。これを機会に、日本は開発途上国から化石燃料を奪う事の非を欧米に理解させて、化石燃料の開発・利用への支援の再開を訴えるべきです。

そうして、それができる裏付けが日本にはあります。日本の化石燃料を用いた発電など、かなり技術が進んでいます。たとえば、横浜市にある磯子石炭火力発電所は、「クリーンコール技術」とよばれる技術を活用し、大気汚染物質の排出を大幅に削減しています。2002年のリプレース(建て替え)前に比べると、窒素酸化物(NOx)は92%、硫黄酸化物(Sox)は83%、粒子状物質(PM)は90%減っています。

さらに日本には、火力発電所で発生するCO2を分離、回収して貯留することでCO2を削減するCSSという技術も開発しています。

世界には、石炭をエネルギー源のひとつとして選択せざるを得ない国が存在しています。その理由は、安定した供給を行うことができるという「エネルギー安全保障」、そして「経済性」にあります。

国際エネルギー機関(IEA)の分析では、インド、東南アジア諸国を中心とした新興国では、経済発展とともに、今後も石炭火力発電のニーズが拡大する見通しとなっています。新興国にとって、安く、安定的に採れる石炭は、引き続き、重要なエネルギーなのです。

日本は、エネルギー面での、グローバル・サウス(発展途上国)と、先進国の両方満足させる技術やノウハウを提供できます。これを活用しない手はありません。これによりグローパルサウスがエネルギーで中露に取り込まれるのを避けるべきです。日本は、この面で先進国と途上国の両方の架け橋になるべきです。戦後一度も、紛争等に直接介入したり、覇権を行使してこなかった日本こそが、その役を担うことができると思います。

先進国の理想を実現しようとし、グローバル・サウスのほとんどが、中露に取り込まれるようなことだけは避けるべきです。


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