2023年4月9日日曜日

「中国の軍事力を強大だとするのは神話に過ぎない」 著名な軍事研究家が断言するワケ―【私の論評】人口比で比較してみると、中国人民解放軍は日本の自衛隊よりも桁違いに多いとはいえない(゚д゚)!

「中国の軍事力を強大だとするのは神話に過ぎない」 著名な軍事研究家が断言するワケ


 軍事史、軍事戦略研究、安全保障論を専門とし、『ルトワックの日本改造論』や『中国4.0 暴発する中華帝国』などの著書で知られる戦略家のエドワード・ルトワックは、増加し続ける中国の国防費を真に受けるべきではないと語る。「その金額が示すほどには、実質的な軍事力を強化できていない」と彼が言い切る理由とは──。

米中の国防費を読み解く

 中国最後の穏健派、前国務院総理の李克強が2023年の経済成長率の目標として5%を掲げ、さらなる市場の自由化を求めた翌日、習近平はこれに反応し、国防費を7.2%に引き上げると発表した。

 これは習の一貫した攻撃的姿勢を示すものであり(ナンシー・ペロシの台湾訪問に対する反応として、一連の弾道ミサイルを発射したことは記憶に新しい)、中国が2049年までに世界の覇権を握るという党の公約にも通ずる。

 とはいえ、この数字は現実には何を示しているのだろうか?

 発表されているところでは、今回引き上げられた国防費は総額1兆5600億元であり、現在のレートで約30兆円に相当する。もしこれが事実なら、中国は米国に大きく遅れをとっていることになる。というのも、米国の2023年度の国防費は7970億ドル(約105兆円)に達しているからだ(この数字には軍事施設の建設費用やウクライナへの救援費は含まれていないため、実際はもっと多い)。

 専門家たちは、中国の国防費もまた、実際より大幅に低く示されていると考えている。細かく改ざんされているというよりは、国防費から丸ごと除外されている項目があるのだ。たとえば、軍の研究開発費は非軍事予算に計上されている。

 中国の実際の国防費を明らかにするため、また米国の国防費から何が抜け落ちているのかを見極めるために、両国にエリート調査員の軍団を送り込んだとしても、彼らが実際にどの程度軍事力を強化しようとしているのかは、おぼろげにしか見えてこないないはずだ。

 ただ、確実に言えることがひとつある。両国とも、公表された国防費の上げ幅が示すほどには、実質的な軍事力を強化できていないということだ。

中国軍の深刻な人手不足

 中国の人民解放軍の場合、陸軍および海軍で人員不足により軍事費が削減されている。近い将来、空軍にも影響が及ぶだろう。陸軍の人員は現在97万5000人だが、この数字は14ヵ国と2万2000キロに及ぶ国境を接している国としては非常に少ない。

 これらの国のなかには、エンジンが機能しなくなる超高山地帯や、遠隔地の監視が困難なジャングル地帯、密輸のはびこるロシアとの国境地帯が含まれている。また、インドとの国境にある係争地ラダックでは、両国が陸軍を大規模動員する事態となっており、中国側の国境には少なくとも8万人が送り込まれている。

 いまや戦地になりつつあるラダックは別として、国境は軍隊ではなく、国境警備隊によって防衛されることになっている。かつて中国は国境付近にも軍を配備し、多額の予算を投じていたのだが、いまでは廃止されている。それは、人民解放軍の陸軍がきわめて小規模であるのと同じ理由からだ。すなわち、この地域での兵役を志願する健康な中国人男性が、壊滅的に少ないのだ。

 対照的に、都市部ではこうした深刻な人手不足の心配はないようだ。知人いわく、その結果、中国・チベットとネパールの国境地帯で奇妙な現象が起きているらしい。広東から来たよそよそしい都会の警官の一団が、チベットに入ろうとする旅行者をチェックして「国境を守っている」というのだ(彼らは2ヵ月間この仕事を「押し付けられた」と言っていた)。

 中国共産党の強力な中国人民武装警察部隊(フランスの国家憲兵隊、イタリアの国家憲兵隊と財務警察、スペインの治安警備隊に相当する)ですら、若い中国人男性たちに志願してもらえず、その影響を受けている。

 150万人という隊員数は多いように思われるが、人口が中国の5%、わずか6000万人に留まるイタリアの国家憲兵隊および財務警察には、人民武装警察部隊の10%に相当する15万人が属している。さらにイタリアの場合、新疆のウイグル人やカザフ人、チベットの牧夫たち、激しく不満を募らせるモンゴル人らを囲い込んで統制するために、大規模な武装人員を配置する必要もない。

Edward Luttwak

【私の論評】人口比で比較してみると、中国人民解放軍は日本の自衛隊よりも桁違いに多いとはいえない(゚д゚)!

上の事例では、残念ながら日本の例はでてきませんが、これは割り算をすれば、ある程度簡単に比較できます。

上の記事にある通り、陸軍の人員は現在97万5000人です。中国の人口は現在14億人、日本は1億2千万人です。人口では、中国は人口11.7倍です。計算を簡単にするため、11倍とします。

陸自の令和2年度末の人員は、常備自衛官15万0695名、即応予備自衛官は7,981名で、年間平均人員は約14万0347名です。これも計算を簡単にするために、14万人とします。

中国の陸軍に換算すると、日本の陸自は14万人✕11=154万人ということになり、これは中国の陸軍より圧倒的に多いです。

中国陸軍

こんなのは数字のマジックであり、軍人数は実数で扱うべきという人もいるかもしれませんが、自衛隊や普通の国の軍隊は、国民を守るが責務であり、この比較自体は数字のマジックとはいえないでしょう。ルトワック氏の上の記事で、イタリアの事例を出していますが、これも人口をを切り口として比較しています。

国土だけを比較の対象とすれば、中国のように、人が住める地域が少なく、住んでいる地域は点と線に限られているといわれるような国では国土を目安にするのでは客観的な比較はできないでしょう。人口を切り口としても、正確とはいえないですが、国土よりははるかに正確といえるでしょう。正確な比較はできないものの、ある程度の目安にはなるでしょう。

では、海自と空自ではどうなのでしょうか。

海自の人員は、定員45,329人(現員43,419人 充足率95.8%)である。 令和4年度(2022度)の予算額は約1兆2922億円 基地の数は約31です。

これに対して、中国海軍はどうなのでしょうか。

2017年版ミリタリーバランスによると、海軍人員数は、現役総員約235,000名の内、海軍航空部隊約26,000名、陸戦隊(海兵隊)約10,000名が含まれるとしています。
海軍司令員: 董 軍海軍大将
海軍政治委員: 袁華智海軍大将
現総人員: 約29万人
本部: 北京市
これも海自の定員数4万4千人として11倍にしてみると、約44万人であり、これも中国海軍より圧倒的に多いです。

中国海軍

空自はどうなのでしょうか。空自の現員数は、2022年では、43,720人とされており、これも計算をやりやすくするため、4万3千人とします。

では、中国空軍はどうなのでしょうか。ウィキペデイアによれば、総兵力39.5万人(空挺部隊を含む)とされています。

空自の現員数43,000人✕11=473,000人の換算となります。これも、空自のほうが多いです。

これらの比較は、無論正確ではないので、これで単純比較はできないものの、それでもさすがに人口比で比較してみると、中国軍は日本の自衛隊よりも桁違いに多いとはいえないという結論にはなるでしょう。

中国空軍

さらに、中国の軍隊は他国の軍隊と異なり、中国共産党の下に直結しており、国民を守る軍隊ではありません。いわば共産党の私兵のような存在です。そのため、もし戦争になっても、共産党を守る義務はありますが、国民を守る義務はありません。実際に戦争になれば、人民解放軍は中国共産党は守るかもしれませんが、国民は放置するかもしれません。

そのため、14億人も存在する国民を守る義務がないので、身軽といえば身軽ですが、暴動が起こったときには武装警察がこれを弾圧する任にあたりますが、大規模になれば、人民解放軍がその任にあたります。そのため、その身軽さも帳消しになっているといえます。

これは、中国のGDPについても同じようなことがいえます。実は、中露は一人あたりのGDPはいずれも1万ドル(日本円では100万円)を少し超えた程度です。ただ、ロシアの人口は1億4千万人であり、中国のそれは14億人であり、丁度10倍であり、GDPでも中国は国家単位では、ロシアの10倍です。

日本を含むG7諸国も一人あたりのGDPでは中露を下回る国は一つもありません。中国は世界第2の経済大国といわれていますが、一人あたりでは全く西側諸国には及ばないのです。軍事力もこれと同じであり、人口比で比較すれば、中国の軍事力はとても強大とはいえないのです。

しかも、現在の日本は米とは同盟関係、英豪と実質的な同盟関係にありますが、中露は同盟関係とみなす人もいますが、実際には同盟関係とはいえず、パートナーシップ程度のものです。同盟関係のない中国は不利であるのは間違いないです。

以上の計算は、コロナ感染者数や死亡者数の報道を彷彿とさせます。私は、民放のコロナ感染者数、死者数の報道には現在もイライラします。なぜなら、民放では未だに、都道府県単位で実数だけを報道するからです。

東京都は人口1396万人、島根県は人口66.52万人です、にもかかわらず実数だけで報道されると、東京都と島根県ではどちらが深刻なのかすぐには判断できないのでイライラします。

このようなことをなくすため、感染症学では県や都市などは、10万人あたりに換算して統計を出します。国単位では、100万人あたりに換算して出します。こうすることによってある程度客観的に比較できます。確かに、各都道府県で状況は違い、正確無比な比較などできないですが、それても、深刻さの度合い等が伝わります。

NHKでは今では感染者、死者数の発表するときは、各都道府県の10万人あたりに換算した数値を公表しています。しかし、民放では今だに実数だけを公表するので本当にイライラしてしまうのです。

これに関して、私の知っている人の中にも、10万人あたりと言われても良くわからないという人もいますが、そういう人は、実数で出されたものもよく理解できているはずもないので、報道するときには、やはり都道府県別では、10万人あたりなどで公表すべきでしよう。これを理解できない人のことは考慮する必要はないと思います。

しかし、過去には高橋洋一氏が100万人あたりの数値で、日本や海外を比較して、海外と比較すれば、日本は「さざ波」程度と事実を発言して物議を醸しました。

このような日本ですから、中国の軍事力は強大という説のほうが日本国内では幅をきかせ続けるでしょう。

そうして、それは中国共産党を利することになりかねません。しかし、心ある人は中国を等身大に見て、判断すべきです。

ただし、だからといって、中国を軽視しろといっているわけではありません。先日もこのブログで述べたように、米国下院「中国委員会」のマイク・ギャラガー氏が指摘しているように、長期では中国よりも圧倒的に米国のほうが有利であり、長期的には中国は米国に対して手も足もだせず、弱体化する一方です。そのため、10年以内に中国は無謀な冒険に打ってでる可能性は捨てきれません。

特に、習近平は中国の力を過信して、そのような挙にでる可能性は捨てきれません。だからこそ、少なくてもここ10年くらいは日本も中国に対峙する姿勢を崩すことはできないのです。

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