2023年4月29日土曜日

防衛財源確保法案のカラクリ 本当は「増税なしでも手当可能」だ 透けてみえる財務省の思惑―【私の論評】確実に税収が上ブレする現状で防衛財源確保法案は、財務省の増税の意図を隠す表看板に過ぎない(゚д゚)!



 防衛力の強化をめぐり、防衛財源確保の特別措置法案が提出された。「防衛力整備計画」の財源を裏打ちしたものだ。

 防衛力整備計画は国防に関する中長期的な整備計画で、改定された「国家安全保障戦略」および、防衛計画大綱に代わって策定された「国家防衛戦略」とともに昨年12月16日に閣議決定された。

 同計画の5年間の防衛力整備に係る金額は43兆円程度とされており、その財源として、歳出カット、外国為替資金特別会計(外為特会)の利差益などとともに実施時期未定の防衛増税がある。

 宇宙・サイバー・電磁波領域を含む全ての領域における能力を有機的に融合し、平時から有事までのあらゆる段階における柔軟かつ戦略的な活動の常時継続的な実施を可能とする多次元統合防衛力を抜本的に強化するとされている。

 日本を取り巻く安全保障環境の急変から、大幅な防衛予算には異論が少ないだろうが、財源にはさまざまな意見がある。

 安倍晋三元首相は生前、「防衛国債」を主張した。「道路や橋は次の世代にインフラを届けるための建設国債が認められている。防衛予算は消耗費といわれるが間違っている。防衛予算は次の世代に祖国を残していく予算だ」と語っていた。

 一方、岸田文雄首相は「国債でというのは、未来の世代に対する責任として採り得ない」と述べた。

 どちらが正しいかといえば、安倍元首相だ。防衛はインフラと同じで将来世代まで便益があるのだから、国債にふさわしい。そもそも「有事費用は国債で賄われる」という歴史事実さえ押さえておけば、事前の有事対応にも国債がふさわしいのは自明だ。だが、今回も経済や学者からはまともな声は出てこない。

 ドイツは防衛費の国内総生産(GDP)比2%のために1000億ユーロ(14・5兆円程度)の特別基金を創設し、国債発行で賄った。これは、安倍元首相の防衛国債そのものだ。

 国債に関連していえば、減債基金自体、先進国ではかつてはあったが今では存在していないので債務償還費の繰り入れがない。となると、日本の予算では、歳出が債務償還費分、歳入はその同額の国債が先進国から見れば余分に計上されていることになる。

 その債務償還費の一般会計繰り入れを特例法で停止し、それで基金をつくれば、少なくともドイツと同じ特別基金ができる。しかも増税は必要なくなる。事実上、防衛国債と同じだ。

 また、現状では外為特会の利差益は財源とするが評価益は使わないという。評価益を使えば、これも増税なしになる。

 これまでの中期防衛力計画では、今回のような財源確保法はなく、毎年度予算で対処してきた。もっと率直にいえば5カ年計画の財源はすぐに用意できるので増税の必要はまったくない。なのに防衛財源確保法案を出すのは、防衛予算の大幅増を奇貨として、増税にもっていこうとする財務省の思惑が透けてみえる。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】確実に税収が上ブレする現状で防衛財源確保法案は、財務省の増税の意図を隠す表看板に過ぎない(゚д゚)!

世界中の国々で、戦争や大規模な自然災害への対応として、政府が国債を発行して資金を調達するのは普通のことです。これにはいくつかの理由があります。

日本の戦時国債

まず、国債は、政府が多額の資金を迅速に調達するための手段だからです。政府が国債を発行するということは、実質的に投資家からお金を借りるということです。投資家は国債を購入し、お金を貸す代わりに国から利息を受け取ります。このため、政府は、増税や他の分野での支出を削減することなく、多額の資金を調達することができます。

第二に、国債は、政府が緊急の出費を長期にわたって分散させる方法を提供するものです。政府が債券を発行する場合、通常、一定期間(10年、30年など)、債券の利息を支払うことになります。戦費などの場合は、数十年から100年近くに及ぶ場合もあります。

実際、日露戦争(1904〜1905年)の戦費は、国債で賄っており、1980年代にその償還が終了しています。これにより、政府は緊急事態の費用を一度に支払うのではなく、より長い期間にわたって分散させることができます。

第三に、債券は、政府が信用力を維持するための手段でもあります。政府が債券を発行するということは、その政府が資金を借り入れ、債務を返済する能力があることを実質的に証明することです。このことは、政府の財政管理能力に対する信頼を維持することにつながり、経済の安定を維持する上で重要です。

政府が戦争や自然災害への初動を国債で賄った例としては、次のようなものがあります。

米国は、第一次世界大戦と第二次世界大戦の際に戦時国債を発行し、戦費を調達しました。日本もそうでした。

日本は、巨額の戦費を国債で賄ったため、終戦後超インフレになりかけました。これをもって国債を発行することを忌避するむきもありますが、これには一考を要します。

もし、日本が仮に巨額の戦費をすべて増税で賄っていたとしたら、国力が衰えて、そもそも米英等とは戦争できなかったかもしれません。この一面だけを捉えると現実を見失います。

米英と戦争しなくても、日本はソ連に一方的に押しまくられる存在になったていたでしょう。結局、日本はいずれかの形でソ連圏に組み込まれていたかもしれません。そうなれば、今頃わたしたちの国日本は、ウクライナのようになっていたかもしれません。それどころか、日本が加わったソ連は、さらに精強になり、今頃まだ冷戦は終わっていなかったかもしれません。

第二次世界大戦は、日本では日本と英米との戦いのみが、強調されますが、日ソの戦いがあったことも忘れるべきではありません。

朝鮮戦争後、マッカーサーは公聴会で日本の中国大陸での戦争について聴かれ、「朝鮮戦争で実際に戦ってみてわかったが、日本は満州でソ連と対峙していたのであって、その意味では彼らの戦争は防衛戦争だったといえる」と証言しています。


関東軍が満州で踏ん張っていたからこそ、日本はソ連圏に組み込まれることはありませんでした。もしそうでなかったら、日本だけでなく中国や朝鮮半島も、第二次世界大戦後ソ連に組み込まれていたでしょう。そのようなことが予め予想できたので、日本は中国大陸での戦争に踏み切ったのでしょう。

現在のように国連や国連軍もNATOもなかった時代には、自国を守るためには、残念ながら他に選択の余地はなかった思います。当時の日本のような地政学的な位置にあれば、他国でも同じようなことをしたでしょう。マッカーサーはこれを理解したのでしょう。現在の尺度で歴史を見たり判断すべきではありません。

米英がこのことを理解していれば、第二次世界大戦はもっと違った形のものになったかもしれません。戦争後はソ連に、今日では中国や北朝鮮に振り回されことはなかったかもしれません。残念ながら、歴史には「もし」はありません。

米英がいくら当面の戦争を早めに終わらせるためとは言え、全体主義国ソ連を仲間に引き入れたのは、明らかな間違いでした。その後の世界を複雑なものにしてしまいました。今日のウクライナ問題も、大きな枠組みでは、そのための余波といえます。

巨大な戦費に関して、目先のことだけで判断していれば、判断を誤ります。防衛費も大きな視野、長期の時間軸によって考えるべき筋のものです。ちなみに、英国では戦時には戦費を賄う会議に財務大臣を参加させません。

米国をはじめとする多くの国は、COVID-19の大流行に対する初期対応として、景気刺激策や医療制度への支援などのために国債を発行しています。日本もそうでした。

国債は、戦争や大規模な自然災害やパンデミック等への初期対応に必要な資金を調達するために、政府が多額の資金を迅速に調達できる便利で柔軟な方法です。

政府が防衛費倍増のための巨額の資金を得るためには、さまざまな方法がありますが、コロナ以前の二度の増税があったこと、さらにはコロナ禍があったことなどから、現在で需要ギャップが30兆円程度はあると考えられており、増税などではなく、国債で賄うべきなのは明らかてす。

防衛財源確保法案は、防衛省が中期防衛力整備計画に必要な財源を確保するために、必要な手段を講じることができるようにするために提出された法案です。この法案によって、防衛省は必要な費用を確保するために、税制改正や政府債券の発行など、様々な手段を講じることができるというのが建前ですが、これは財務省が増税するための隠れ蓑として用いているとしか思えません。

中期防衛力整備計画の財源を毎年度予算で対処することは可能であり、しかも、国の一般会計税収が大幅に増加していることからこれは確実にできます。

さらに足元の月次税収の趨勢を踏まえ、2022 年度は 72 兆円程 度への着地を予想されています。22 年度税収は当初予算時点で 65.2 兆円のところ、昨年 11 月の補正予算時点 で 68.4 兆円と上方修正がなされましたが、ここから更なる上振れ着地が予想されます。 

一般会計税収(4~翌 2 月の累計値)

背景にはインフレ・円安、賃金・雇用の回復などがあります。足元で特徴的なのが景気の振幅に影響 されにくい消費税が大きく伸びている点です。およそ 40 年ぶりの物価急上昇は、税収にもこれまでに ない変化をもたらしています。

このような状況でも、わざわざ防衛財源確保法案を出すのは、これを財務省は増税の隠れ蓑にするためだと判断するのが妥当だと思います。

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