日本の安全保障環境が急速に厳しくなっている。中国の2019年の国防費は前年実績比7・5%増と、日本の防衛予算の約4倍まで膨れ、「反日」の文在寅(ムン・ジェイン)大統領率いる韓国の国防費も日本とほぼ肩を並べた。ロシアは今春、広島に投下された原爆の100倍を優に超える威力(最大2メガトン)の核弾頭を搭載可能な新型原子力魚雷「ポセイドン」を就役させる。「今そこにある危機」に目を向けるべきだが、わが国の国会では、厚労省の統計不正問題や、桜田義孝五輪担当相の適性問題が最大の焦点になっている。これで、国民の生命と安全を守れるのか。
「海洋強国を建設する」
中国の第13期全国人民代表大会(全人代=国会)第2回会議が5日、北京の人民大会堂で開幕した。李克強首相は政府活動報告で、こう宣言した。
中国の国防費は、経済減速が続くなか、前年実績比7・5%増の1兆1898億7600万元(約19兆8000億円)と突出している。日本の防衛予算案(2019年度)は総額は5兆2986億円だけに、3・7倍の規模となっている。
具体的には、中国海軍は今年、初の国産空母を就役させる予定で、2隻目の国産空母の建造も進めている。東・南シナ海での軍事的拡張を進め、沖縄・尖閣諸島周辺海域に連日のように侵入している。宇宙空間の軍事的支配ももくろみ、現在の米国のミサイル防衛(MD)では撃墜不可能とされる戦略兵器「極超音速飛翔(ひしょう)体」の開発も急いでいる。
まさに、日本の「安全保障上の脅威」と言って間違いない。
国会議長による「天皇陛下への謝罪要求」や、海上自衛隊哨戒機への危険極まるレーダー照射など、常軌を逸した「反日」姿勢を示している韓国も要注意だ。
韓国の19年度予算案の国防費は約4兆7000億円で、日本の防衛予算と遜色がなく、このままでは日本を抜き去りそうだという。文大統領は「一日も早く、親日残滓を清算すべきだ」と公言し、「南北統一」を悲願としているが、これが大問題だ。
先月末の米朝首脳会談でも、北朝鮮は「核・ミサイル」の完全廃棄を進める気はなかった。同国は、日本全土を射程に入れる中距離弾道ミサイル「ノドン」を数百発配備している。もし、南北統一となれば、朝鮮半島に「核を持った反日朝鮮国家」ができるのだ。
これは「国家存亡の危機」といえる。
ウラジーミル・プーチン大統領率いるロシアも油断できない。
同国国防省は先月末、核弾頭が搭載可能な新型原子力魚雷「ポセイドン」の発射実験の映像を初公開した。全長10メートル以上で、深度1000メートルまで潜航し、最高速度は70ノット(=時速約130キロ)。航続距離は1万キロに達するという専門家の分析もある。
プーチン氏は先月20日、「試験には成功した。航続距離は無制限だ!」と演説し、今春に1番艦を就役予定と表明した。海に囲まれた日本や、同盟国・米国への脅威であることは確実だ。
軍事ジャーナリストで評論家の潮匡人氏は「中国の国防費増強は『対米国』や『台湾侵攻』を念頭に置き、日本を含む周辺諸国への国益の最大化を目指している。韓国も建前上、『対北朝鮮』で国防費を伸ばしているが、内訳をみれば『対日脅威』を潜在的に想定している。ロシアの核魚雷は日米の脅威だ。旧ソ連時代からの戦略は変わっていない。中朝だけに目を奪われていては危険だ」と分析する。
わが国が、こうした「安全保障上の危機」に直面していながら、現在開会中の通常国会の審議には緊張感はみられない。
5日の参院予算委員会では、厚労省の統計不正問題や、桜田五輪担当相の適性問題が集中的に取り上げられた。安全保障に関しては、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古移設をめぐる県民投票が取り上げられたが、日本の防衛力をチェックする視点や、沖縄の地政学的重要性を説くような質問はなかった。
政治評論家の伊藤達美氏は「政治家は、国民に対し、安全保障環境の厳しい現実を丁寧に説明すべきだ。国会では今こそ、大所高所からの建設的議論が必要だ。ところが、立憲民主党などの左派野党はひどい。安倍晋三首相の批判ばかり。小学生でもできるレベルの質問だ。『空想的平和主義』からは卒業すべきだ」と指摘した。
国会で、日本を守るための審議は聞かれないのか。
前出の潮氏も「中国や韓国、ロシアは本気で軍備拡張を進めているのに、政治家やメディアは周辺諸国の脅威を直視していない。国民も理解できない。このままでは、防衛予算だけでなく『国防意識の差』も開くことは間違いない。恐ろしい未来が待っている」と語った。
【私の論評】日本は韓国をeconomic statecraft(経済的な国策)の練習台にせよ(゚д゚)!
日本は安倍晋三首相の下で、安全保障面での国際的な存在感の向上のためにさまざまな取り組みを行ってきました。2012年に発足した安倍政権はそれまで続いていた防衛費の減少を止め、安全保障に関する官僚組織を再構築し、安全保障関連の政策や方針に大きな変化をもたらしてきました。
このような変化がある一方で、日本が安全保障上改善する余地のある重要な点が存在します。その最たるものが、経済的な手段を用いて地政学的な国益を追求する「economic statecraft(経済的な国策)」です。欧米などでは認識され、政策に応用されていますが、現時点では日本にない概念であり、日本語に直訳するのは難しいです。ブログ冒頭の記事でも、その点につては掲載されていません。
ロシアの新型原子力魚雷「ポセイドン」は確かに日本等にとって脅威です。しかし、だからといって、ロシアが「ポセイドン」をあちこち発射して、世界を我がものにしたり、世界を自分の従わせることができるかといえば、そうではありません。
このような兵器はたとえば、ロシアが他国から核攻撃されたとか、されそうになったという最終局面でしか使えません。しかも、使えば自国も確実に核で報復されかなり破壊されることになります。
そのような兵器は確かに抑止力になりますが、通常の戦いでは、あまり役に立ちません。しかし、economic statecraftは日常的に使える手段です。そうして、これは米中や日本などある程度経済規模が大きな国が使うとかなり効果を期待できます。
逆に、ロシアや韓国など(ともにGDPは東京都と同程度)経済規模の小さな国では、あまり効果がありません。
中国やロシアは多用し始めている
各国政府、特に中国やロシアなどは、このようなeconomic statecraftを多用し始めています。たとえば、他国が自国の意向に反する政策をとった場合に、見せしめとして輸入に制限をかけます。あるいは、経済的に脆弱な国に対して、ODAや国営企業の投資をテコに一方的な依存関係を作り出すことで援助受入国を「借金漬け」状態にし、自国の意向に沿わない政策を取らせにくくする、といった政策です。
米国がこうした経済外交をeconomic statecraftと定義し、米国としてもこれに対抗するeconomic statecraft戦略を描くべきである、という議論がオバマ政権末期から安全保障政策専門家の間で高まっていることが、トランプ大統領のニュースに埋もれて日本では認識されてきませんでした。
米国がこうした経済外交をeconomic statecraftと定義し、米国としてもこれに対抗するeconomic statecraft戦略を描くべきである、という議論がオバマ政権末期から安全保障政策専門家の間で高まっていることが、トランプ大統領のニュースに埋もれて日本では認識されてきませんでした。
economic statecraftの道具と目的は以下の表で示す通りです。
日本語に翻訳すると、貿易制限、金融制裁、投資制限、金銭的制裁です。
年初には安全保障分野で著名な米国シンクタンクである戦略国際問題研究所(CSIS)が、米国は「中国の挑戦」に対抗するにはより洗練されたeconomic statecraftを用いる必要性があると提案したのに加え、ほかのシンクタンクもこのような政策の具体案を構想し始めています。
これらの分析において重要なポイントは、米国がeconomic statecraft戦略を展開するうえで同盟国や友好国との連携の重要性を強調していることで、世界の経済規模で第3位にある日本との連携が極めて重要になることは間違いないです。しかし、日本でeconomic statecraftの観点から米国と連携していかれる十分な構想と体制が整っているとは必ずしも言えません。
就任から5年、安倍政権は日本の安全保障政策の本質的な変革を進めてきました。政府は国家安全保障会議(NSC)を設立することで安全保障政策の意思決定過程を再編成し、首相官邸に権限を集約しました。NSCは日本初の国家安全保障戦略を生み出し、その戦略を政策へと落とし込む「防衛計画の大綱」と「中期防衛力整備計画」を発表しました。
また、「特定機密の保護に関する法律」を通過させ、集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈変更をし、平和安全法制を作成しました。米国との同盟関係を強化したほか、オーストラリア、韓国、インド、英国といった友好国との安全保障関係を深め、他のインド太平洋地域の国家と防衛協力も強化。さらに、「防衛装備移転三原則」と「開発協力大綱」を閣議決定しました。そして政府は、宇宙とサイバー空間の側面を含む国家安全保障戦略を打ち出しました。
このような目まぐるしい変化の中には、経済的な手段をもって戦略的に地政学的な国益を追及するeconomic statecraftの視点が抜け落ちています。近代化以来、国家権力の経済基盤を重要視してきた日本が、安全保障戦略の中で具体的な経済戦略を描き切れていないことは意外な事実であると言えるでしょう。
日本も安全保障戦略では「経済」を意識しているが
近年の日本における安全保障政策上の変化において、経済的な側面がまったく強調されていないわけではありません。日本の国家安全保障戦略には、「経済」または「経済的」という文言が57回述べられているのに加え、宇宙・サイバー空間における経済的重要性が強調されています。また、「開発協力大綱」と「防衛装備移転三原則」は、日本経済の活性化に寄与すべきであると言及しています。
さらに、2013年の「日本再興戦略」では、積極的にODAを用いて世界規模のインフラプロジェクトや医療市場において日本が大きな割合を占めるよう呼びかけています。それにより「新興国の成長を取り込み、日本経済の活性化につながる」ようにさせ、「ODAを活用した中小企業等の海外展開支援」をするとしています。
また、日本は北朝鮮に対する制裁措置の適用を積極的に支持してきた国の1つです。ただ、その実行相手は敵対的な関係にある国家や国際的な協議によって合意された経済制裁相手でしかなく、日本の意向に沿わない政策をとられたからといって、特定企業や特定品目を対象とした経済制裁などの発動を行うことは決してありませんでした。
しかし、今後は米国も含めて、自国の意向に沿った政策がとられるか否かによってピンポイントでの経済制裁を繰り出し合う経済戦争時代であると他国が認識している環境において、日本も能動的なeconomic statecraft 戦略を描いておくことは不可欠でしょう。
では、具体的に日本政府はどうするべきか。まず、経済的に関与・拡大をすべき領域の特定と優先順位付けを行う戦略を策定すると同時に、その戦略を実行するにあたって民間企業との連携が必要な場合は、発生するリスクを政府が負うような仕組みとするべきです。
たとえば、政府は特定のODAプロジェクトがより大きな戦略的な構想の中でどのような位置づけにあるかを明示すべきでしょう。現在政府は個別のプロジェクトに出資しており、民間部門はこれが利益を生むという理由から受け入れています。
しかし、たとえばODAを通じてロシアの病院設立に出資することで善意は買えるかもしれないですが、本来このような戦略はより大きな日露関係の発展に寄与しなければならないです。民間企業は日本政府の意図を理解し、このような取り組みを企業戦略に取り込んで行くには、全体的な日露関係の改善という文脈だけでなく、日本政府とどのように協力することでロシアの国家医療戦略と政策に影響を与えられるかというビジョンが必要となります。
ただし、日本も最近では実質的なeconomic statecraftを実行しています。2019年の初めから日本はロシア産石油の買入量を一気に40.5%削減しました。また液化天然ガス(LNG)の輸入も前年同時期比で7.6%減少しました。一方で米国の炭化水素の輸入は急増。石油は328%、LNGは36.1%増加しています。
これは、一方ではアジアのエネルギー市場でのシェア拡大を望む米国と、もう一方にはロシアの領土問題への不変の姿勢に否定的に反応し、交渉姿勢を強めようとする日本の試みがあると考えられます。
近年の日本における安全保障政策上の変化において、経済的な側面がまったく強調されていないわけではありません。日本の国家安全保障戦略には、「経済」または「経済的」という文言が57回述べられているのに加え、宇宙・サイバー空間における経済的重要性が強調されています。また、「開発協力大綱」と「防衛装備移転三原則」は、日本経済の活性化に寄与すべきであると言及しています。
さらに、2013年の「日本再興戦略」では、積極的にODAを用いて世界規模のインフラプロジェクトや医療市場において日本が大きな割合を占めるよう呼びかけています。それにより「新興国の成長を取り込み、日本経済の活性化につながる」ようにさせ、「ODAを活用した中小企業等の海外展開支援」をするとしています。
また、日本は北朝鮮に対する制裁措置の適用を積極的に支持してきた国の1つです。ただ、その実行相手は敵対的な関係にある国家や国際的な協議によって合意された経済制裁相手でしかなく、日本の意向に沿わない政策をとられたからといって、特定企業や特定品目を対象とした経済制裁などの発動を行うことは決してありませんでした。
しかし、今後は米国も含めて、自国の意向に沿った政策がとられるか否かによってピンポイントでの経済制裁を繰り出し合う経済戦争時代であると他国が認識している環境において、日本も能動的なeconomic statecraft 戦略を描いておくことは不可欠でしょう。
では、具体的に日本政府はどうするべきか。まず、経済的に関与・拡大をすべき領域の特定と優先順位付けを行う戦略を策定すると同時に、その戦略を実行するにあたって民間企業との連携が必要な場合は、発生するリスクを政府が負うような仕組みとするべきです。
たとえば、政府は特定のODAプロジェクトがより大きな戦略的な構想の中でどのような位置づけにあるかを明示すべきでしょう。現在政府は個別のプロジェクトに出資しており、民間部門はこれが利益を生むという理由から受け入れています。
しかし、たとえばODAを通じてロシアの病院設立に出資することで善意は買えるかもしれないですが、本来このような戦略はより大きな日露関係の発展に寄与しなければならないです。民間企業は日本政府の意図を理解し、このような取り組みを企業戦略に取り込んで行くには、全体的な日露関係の改善という文脈だけでなく、日本政府とどのように協力することでロシアの国家医療戦略と政策に影響を与えられるかというビジョンが必要となります。
ただし、日本も最近では実質的なeconomic statecraftを実行しています。2019年の初めから日本はロシア産石油の買入量を一気に40.5%削減しました。また液化天然ガス(LNG)の輸入も前年同時期比で7.6%減少しました。一方で米国の炭化水素の輸入は急増。石油は328%、LNGは36.1%増加しています。
これは、一方ではアジアのエネルギー市場でのシェア拡大を望む米国と、もう一方にはロシアの領土問題への不変の姿勢に否定的に反応し、交渉姿勢を強めようとする日本の試みがあると考えられます。
日本は昨年も1月から9月にかけての時期にロシア産石油の輸入量を減らしていました。ところが両国間での平和条約の議論が始まるやいなや状況は変化しはじめ、11月には日本はロシアの石油の購入を急増させました。そして現在は、交渉の行方が不透明になりはじめたことから、ロシア産エネルギーの日本の輸入量は再び減少し始めているのです。
これは、一方では米国との同盟関係を強化し、他方では北方領土問題に消極的なロシアに対して制裁を課すという、economic statecraftです。
日本は昨年12月、ノルウェーから約4年ぶりに液化天然ガス(LNG)6万3200トンを輸入 |
新技術の重要性が高まっている
このeconomic statecraftには技術的な側面も含まれています。ハドソン研究所のアーサー・ハーマン分析官は「最近まで従来の防衛セクターには存在しなかった技術やシステムが、多くの場合、民間のハイテク技術を防衛上のニーズに合わせることで、将来の軍事システム開発と展開を目的とする国防省の『第三の相殺戦略』に導入されるようになった」と強調しています。米国の「第三の相殺戦略」とは、米国の国防予算の制限や技術的優位性の相対的喪失を「相殺」する戦略です。この技術面での中核的な要素としては、無人システム、ロボット工学、小型化、人工知能(AI)、ビッグデータなどが含まれます。
2014年に発足した「米国防衛革新イニシアティブ」は、国防総省が従来依存してきた組織や団体とは異なる、外部の民間技術力を活用することを目的として掲げています。この中には他国家も含まれており、これらのさまざまな分野で最先端の技術を持つ日本はこの試みにおいて主要なパートナーとなり得ます。
日本政府も、今後の国家経済と安全保障の健全性のためには新技術の重要性が高まっていることを認識しています。たとえば、上述した米国防衛革新イニシアティブの論理は日本の防衛省の文書からも見て取れます。
2014年に防衛省が出した「防衛生産・技術基盤戦略」では、「外部から防衛技術に適用できる優れた民生先進技術(潜在的シーズ)を適切に取り込んでいく必要がある」と指摘。そのためには「民生最新技術の調査範囲を拡大」し、情報共有や共同研究といった国際協力を促進するとしています。日米は幅広い分野の技術研究をしていることからも、これは更なる日米協力が考えられる分野でしょう。
日本は近隣の競争国におくれを取らず、米国やその同盟国・パートナーと歩調を合わせるためには、economic statecraftと呼ばれる幅広いアプローチを受け入れる必要があります。この考えは、新たな米国「国家軍事戦略」にも明示的に表れています。この文書には「中国は近隣諸国を脅かすために略奪的な経済手法を用いる戦略的競争相手である……中国は軍事近代化や、他国への工作活動、略奪的経済手法を用いて、インド太平洋地域を自国にとって有利になるように秩序の再構築を行おうとしている」とあります。
このような中国の考え方は、さまざまな政策から見て取ることができます。たとえば、「中国製造2025」計画は独自のイノベーションを奨励する政策をとることで、中国市場が海外企業にとって不利になるような計画となっています。また、米国製ミサイル防衛システムを受け入れようとする韓国を懲らしめるために、韓国行き団体旅行を禁止する事例も生じています。さらに、中国は政治危機の最中に日本へのレアアース輸出を禁じたことは記憶に新しいです。
単にこれらの政策を非難するのではなく、他国の政府もこのような手法を用いるべきであると考える専門家やアナリストが増えています。日本もこのような他国のeconomic statecraftに晒された際に、どのように日本として、あるいは同盟国・友好国と協力して対応して行くかについて本格的に考え、戦略の一部に取り込んで行く必要があるのではないでしょうか。
企業やビジネスも新概念を理解すべきだ
このような新たな安全保障環境においては、いくつかの新しい対応が必要とされています。
まず、日本は安全保障に対してより広い視野をとるeconomic statecraft戦略の構築を検討すべきです。この戦略は国力を包括的に捉え、貿易・投資・経済制裁・サイバー・経済援助(ODA)・金融政策・エネルギー政策・技術協力といった経済的なアプローチを含めるべきです。また、重視され始めてきたサイバー空間における脅威やパンデミックのような健康への被害、環境問題など、今なお進化・拡大し続ける安全保障上の脅威に対処するツールの性質と価値に対する柔軟な判断が求められます。
次に、日本は安全保障戦略におけるeconomic statecraft機能の強化に向けて、国家安全保障局内に「国家安全保障経済政策会議」を設置することが考えられます。米国では国家安全保障会議(NSC)と国家経済会議(NEC)が別々に存在していますが、安全保障と経済をきれいに分けることができなくなっている時代において、日本でも国家安全保障会議とは別の経済組織を作ることは必ずしも好ましくないです。国家安全保障経済政策会議は、戦略策定とその実施に限らず、安全保障に関する意思決定の最前線においてeconomic statecraftが考慮されるように努めなければならないです。
さらに、日本政府は民間企業と緊密に連携し、企業やビジネスに対してeconomic statecraftに関する考えを促し、奨励することが不可欠です。日本企業は、日本の国益を追求する上で経済ツールが果たす役割に対する理解がなく、また、この視点から戦略的に考える能力も持っていません。
日本企業は、サイバーセキュリティのベストプラクティスを導入・設計することから情報保護に関する政策に至るまで、安全保障と経済が重なる分野におけるニーズに敏感でなければならないです。日本政府や企業は新たに動き始めたeconomic statecraftを反映した戦略と実践の双方において、新しい考え方を受け入れることが必要不可欠なのです。
このeconomic statecraftには技術的な側面も含まれています。ハドソン研究所のアーサー・ハーマン分析官は「最近まで従来の防衛セクターには存在しなかった技術やシステムが、多くの場合、民間のハイテク技術を防衛上のニーズに合わせることで、将来の軍事システム開発と展開を目的とする国防省の『第三の相殺戦略』に導入されるようになった」と強調しています。米国の「第三の相殺戦略」とは、米国の国防予算の制限や技術的優位性の相対的喪失を「相殺」する戦略です。この技術面での中核的な要素としては、無人システム、ロボット工学、小型化、人工知能(AI)、ビッグデータなどが含まれます。
2014年に発足した「米国防衛革新イニシアティブ」は、国防総省が従来依存してきた組織や団体とは異なる、外部の民間技術力を活用することを目的として掲げています。この中には他国家も含まれており、これらのさまざまな分野で最先端の技術を持つ日本はこの試みにおいて主要なパートナーとなり得ます。
日本政府も、今後の国家経済と安全保障の健全性のためには新技術の重要性が高まっていることを認識しています。たとえば、上述した米国防衛革新イニシアティブの論理は日本の防衛省の文書からも見て取れます。
2014年に防衛省が出した「防衛生産・技術基盤戦略」では、「外部から防衛技術に適用できる優れた民生先進技術(潜在的シーズ)を適切に取り込んでいく必要がある」と指摘。そのためには「民生最新技術の調査範囲を拡大」し、情報共有や共同研究といった国際協力を促進するとしています。日米は幅広い分野の技術研究をしていることからも、これは更なる日米協力が考えられる分野でしょう。
日本は近隣の競争国におくれを取らず、米国やその同盟国・パートナーと歩調を合わせるためには、economic statecraftと呼ばれる幅広いアプローチを受け入れる必要があります。この考えは、新たな米国「国家軍事戦略」にも明示的に表れています。この文書には「中国は近隣諸国を脅かすために略奪的な経済手法を用いる戦略的競争相手である……中国は軍事近代化や、他国への工作活動、略奪的経済手法を用いて、インド太平洋地域を自国にとって有利になるように秩序の再構築を行おうとしている」とあります。
このような中国の考え方は、さまざまな政策から見て取ることができます。たとえば、「中国製造2025」計画は独自のイノベーションを奨励する政策をとることで、中国市場が海外企業にとって不利になるような計画となっています。また、米国製ミサイル防衛システムを受け入れようとする韓国を懲らしめるために、韓国行き団体旅行を禁止する事例も生じています。さらに、中国は政治危機の最中に日本へのレアアース輸出を禁じたことは記憶に新しいです。
単にこれらの政策を非難するのではなく、他国の政府もこのような手法を用いるべきであると考える専門家やアナリストが増えています。日本もこのような他国のeconomic statecraftに晒された際に、どのように日本として、あるいは同盟国・友好国と協力して対応して行くかについて本格的に考え、戦略の一部に取り込んで行く必要があるのではないでしょうか。
企業やビジネスも新概念を理解すべきだ
このような新たな安全保障環境においては、いくつかの新しい対応が必要とされています。
まず、日本は安全保障に対してより広い視野をとるeconomic statecraft戦略の構築を検討すべきです。この戦略は国力を包括的に捉え、貿易・投資・経済制裁・サイバー・経済援助(ODA)・金融政策・エネルギー政策・技術協力といった経済的なアプローチを含めるべきです。また、重視され始めてきたサイバー空間における脅威やパンデミックのような健康への被害、環境問題など、今なお進化・拡大し続ける安全保障上の脅威に対処するツールの性質と価値に対する柔軟な判断が求められます。
次に、日本は安全保障戦略におけるeconomic statecraft機能の強化に向けて、国家安全保障局内に「国家安全保障経済政策会議」を設置することが考えられます。米国では国家安全保障会議(NSC)と国家経済会議(NEC)が別々に存在していますが、安全保障と経済をきれいに分けることができなくなっている時代において、日本でも国家安全保障会議とは別の経済組織を作ることは必ずしも好ましくないです。国家安全保障経済政策会議は、戦略策定とその実施に限らず、安全保障に関する意思決定の最前線においてeconomic statecraftが考慮されるように努めなければならないです。
さらに、日本政府は民間企業と緊密に連携し、企業やビジネスに対してeconomic statecraftに関する考えを促し、奨励することが不可欠です。日本企業は、日本の国益を追求する上で経済ツールが果たす役割に対する理解がなく、また、この視点から戦略的に考える能力も持っていません。
日本企業は、サイバーセキュリティのベストプラクティスを導入・設計することから情報保護に関する政策に至るまで、安全保障と経済が重なる分野におけるニーズに敏感でなければならないです。日本政府や企業は新たに動き始めたeconomic statecraftを反映した戦略と実践の双方において、新しい考え方を受け入れることが必要不可欠なのです。
格好の練習台韓国
最近の韓国はの日本に対する姿勢は、許容し難いところがあります。このブログでは、過去において解説したように、韓国と断交しても、日本が被る被害は軽微ですが、韓国は甚大な悪影響を被ることになります。
日本軽視を続ける文在寅韓国大統領 |
日本としては、韓国に単純に制裁を課すというのでなく、長期的な戦略を持ってeconomic statecraftを発動するのです。韓国は断交したとしても、日本にはあまり悪影響はないので、格好な練習台になります。さらには、米国などの同盟国も、これに対してはあまり反対したり批判したりすることはないでしょう。
無論、単純に断交するだけというのではなく、韓国がある程度変われば、TPPへの加入とか、ODAなども実行することも視野に入れた包括的なものにすべきと思います。変わらなければ、台湾に対して手厚い支援を行うなどのことも視野にいれるべきです。
こうして、韓国などに実行してみて、失敗したところはきちんとフィードバックして日本独自のeconomic statecraftの実施方法を確立した後に、本格的に北朝鮮、中国、ロシアにも適用していくべきと思います。
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