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【私の論評】ドイツの脱原発政策が招く危機と日本の教訓:エネルギー政策の失敗を回避するために
欧州「脱・原発」ブームの罪と罰
スイスをはじめとする国々で、原子力政策が大きな転換を迎えている。スイスは2017年に原発新設禁止を可決し、脱原発の方針を国是としていた。しかし、2023年8月にアルベルト・レシュティ・エネルギー大臣が、地政学的緊張の高まりを背景にエネルギー供給の強化が必要であると述べ、原発政策の見直しを示唆した。これにより、スイス政府は年末までに「脱・脱原発」方針の法案改正提案を議会に提出する予定であり、脱原発の流れに終止符を打つことが確実視されている。
スウェーデンでも同様の動きが見られる。1980年に脱原発を宣言したスウェーデンは、2022年9月の総選挙で中道右派連合が政権を握ったことを契機に、原子力政策を大きく転換した。新政権は、原発の新設禁止や閉鎖済み原発の再稼働禁止といった制限を撤廃し、2026年までに最大4000億クローナの投資を行い、新規原発建設の環境を整える方針を打ち出している。
イタリアも原発政策に変化が見られる。1987年に脱原発を決定し、その後も原発再開に関する国民投票で否決されてきたが、ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギーコストの急上昇を受けて、国民の意識が変化した。2023年5月、メローニ政権が原発の活用を検討する動議を下院に提出し、7月には小型原子炉への投資を可能にする法律が国会に提出された。また、フランスとの間で原子力利用の推進に関する覚書も交わされ、国内の原子力を再構築する方針が示されている。
ベルギーも脱原発計画を見直し、原子炉の寿命を延長する決定を下した。国際原子力機関(IAEA)との共同開催による「原子力エネルギー・サミット」では、エネルギー安全保障の強化や持続可能な開発における原子力の重要性が強調された。韓国やイギリスもそれぞれ原子力発電の割合を増加させる方針を示している。
一方、ドイツは依然として反原発の姿勢を崩さず、世界の潮流から遅れをとっている。高い電力料金が製造業に深刻な影響を及ぼし、フォルクスワーゲンが国内工場の閉鎖を検討していることが報じられている。野党のキリスト教民主同盟(CDU)は原子力の維持を主張しているが、再稼働には高いハードルが存在する。このような状況の中で、ドイツの製造業の空洞化は避けられないと見込まれている。これらの動きは、エネルギー安全保障や電力料金の競争力を維持するための重要な戦略として位置づけられている。
まとめ
- スイスは脱原発政策を見直し、原発新設禁止の方針を転換する動きを見せている。年末までに「脱・脱原発」方針の法案改正提案を議会に提出予定。
- スウェーデンも原発政策を転換し、原発の新設禁止や閉鎖済み原発の再稼働禁止を撤廃。2026年までに新規原発建設環境を整える計画を発表。
- イタリアはエネルギーコストの急上昇を受け、原発再開に向けた動きを開始。小型原子炉への投資を可能にする法律を国会に提出し、フランスとの協力覚書も交わした。
- ベルギーは脱原発計画を見直し、原子炉の寿命を延長。国際的な原子力エネルギーサミットを開催し、原子力の重要性を強調。
- ドイツは依然として反原発政策を維持しており、高い電力料金が製造業に影響を及ぼしている。製造業の空洞化が進行する懸念がある。
2023年4月15日ドイツの全原発が操業を停止したことを伝えるテレビの画面 |
スウェーデンでも同様の動きが見られる。1980年に脱原発を宣言したスウェーデンは、2022年9月の総選挙で中道右派連合が政権を握ったことを契機に、原子力政策を大きく転換した。新政権は、原発の新設禁止や閉鎖済み原発の再稼働禁止といった制限を撤廃し、2026年までに最大4000億クローナの投資を行い、新規原発建設の環境を整える方針を打ち出している。
イタリアも原発政策に変化が見られる。1987年に脱原発を決定し、その後も原発再開に関する国民投票で否決されてきたが、ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギーコストの急上昇を受けて、国民の意識が変化した。2023年5月、メローニ政権が原発の活用を検討する動議を下院に提出し、7月には小型原子炉への投資を可能にする法律が国会に提出された。また、フランスとの間で原子力利用の推進に関する覚書も交わされ、国内の原子力を再構築する方針が示されている。
ベルギーも脱原発計画を見直し、原子炉の寿命を延長する決定を下した。国際原子力機関(IAEA)との共同開催による「原子力エネルギー・サミット」では、エネルギー安全保障の強化や持続可能な開発における原子力の重要性が強調された。韓国やイギリスもそれぞれ原子力発電の割合を増加させる方針を示している。
一方、ドイツは依然として反原発の姿勢を崩さず、世界の潮流から遅れをとっている。高い電力料金が製造業に深刻な影響を及ぼし、フォルクスワーゲンが国内工場の閉鎖を検討していることが報じられている。野党のキリスト教民主同盟(CDU)は原子力の維持を主張しているが、再稼働には高いハードルが存在する。このような状況の中で、ドイツの製造業の空洞化は避けられないと見込まれている。これらの動きは、エネルギー安全保障や電力料金の競争力を維持するための重要な戦略として位置づけられている。
この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。元記事のタイトルは『ドイツはもうおしまいだ…フォルクスワーゲンが国内工場を閉鎖した「真の原因」』は明らかな間違いと思われたので、改変しました。
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- ドイツは原発の全面廃炉を決定したが、これにより電力料金が高騰し、経済が低迷するリスクがあり、その結果、産業や人々がエネルギー価格の低い近隣諸国に移転する可能性があることは十分予想できた。
- ドイツ人やドイツ産業が移転しやすい環境として、ドイツ語が通じるスイス、北イタリア、ベルギーなどがあり、生活習慣も似ているため移住の障壁が低い。
- フォルクスワーゲンがドイツ国内の生産工場の閉鎖を検討しており、これはドイツのエネルギー政策の影響を強く受けた決断といえる。
- 日本はドイツと比較すれば、再生可能エネルギー、原子力発電、天然ガスをバランスよく組み合わせた政策を進めており、エネルギーの安定供給と経済性を考慮しているといえる。
- 日本が再生可能エネルギーに重きを置いたり、火力発電を減らす政策を続ければ、より現実的なエネルギー政策に転換しつつある他国に遅れを取る可能性があり、政府はエネルギー政策に真摯に取り組むべき時が来たといえる
ドイツが現在の状況に至ることは、ドイツが原発の全面廃炉を決めた時点で十分に予想されたことです。このことについては、過去の記事でも取り上げました。その記事のリンクを以下に掲載します。
この記事では、ドイツ国内で電力料金が大幅に上昇すれば、ドイツ経済が低迷し、その結果、ドイツ産業はエネルギー価格の低い近隣諸国に移転し、ドイツ人も近隣諸国へ移住するようになるだろうと予測しました。そのため、ドイツは脱原発政策を継続できなくなるだろうと考えました。ただし、脱原発からの転換がいつになるかが大きな課題であると指摘しました。
ドイツ人やドイツ産業が近隣諸国へ移転する理由として、以下の点を挙げました。
世界には、スイスやイタリアなど、ドイツ語圏の地域を有する国々が存在しています。これらの国々では、ドイツ人は言語や生活習慣をほとんど変えずに移住できます。また、ドイツ語圏でなくても、生活習慣が似ている国も多くあり、さらに近隣諸国は陸続きです。
ドイツ語圏(黒の部分)とドイツ語が通じる地域 |
このような状況から、ドイツはこの馬鹿げた政策を長く続けることはできないでしょう。問題は、いつこの政策を止めるかです。ドイツ産業が流出する国々は大喜びですが、一度流出した産業を再び戻すのは困難です。
ドイツ語を母語とし、ドイツ文化を維持するコミュニティとしては、フランスのアルザス・ロレーヌ地方やスイス(スイスのドイツ語圏は全体の62.1%)、北イタリアなどがあります。北イタリアのドイツ語圏は、主にトレンティーノ=アルト・アディジェ州(南チロル地方)に位置しており、この地域は歴史的にオーストリア・ハプスブルク帝国の一部で、第一次世界大戦後にイタリアに併合されました。
これ以外にも、ベルギーの東部地域、特にオイペン周辺にはドイツ語を公用語とするドイツ語共同体があります。デンマーク南部の国境付近にはドイツ系少数民族が住んでおり、彼らも独自の文化を持っています。さらに、ポーランドのシレジア地方やチェコ共和国のスデーテン地方にもドイツ語話者のコミュニティがあります。ルーマニアのトランシルバニア地方にはザクセン人の子孫であるドイツ系住民が暮らしており、彼らも独自の文化を維持しています。
このような背景から、島国日本の日本人や日本の産業が近隣諸国へ移転する場合と比べて、ドイツ人やドイツ産業が陸続きの近隣諸国に移る障壁ははるかに低いといえます。
ドイツの近隣諸国にはドイツ語圏や文化を継承する地域が多く存在する |
上の記事にもある通り、最近ではフォルクスワーゲンがドイツの生産工場の閉鎖を検討し、1994年以来維持してきた6つの主力工場での2029年までの雇用保証も破棄すると発表しました。もし実行されれば、欧州最大の自動車メーカーであるフォルクスワーゲンの87年の歴史において初めてのドイツ国内工場の閉鎖となり、このニュースは瞬く間に欧州中に広まりました。
ドイツが現在のエネルギー政策を継続する限り、このような事態は確実に進行するでしょう。その後、さらに他の産業もドイツを離れ、ドイツ人の移住も加速するでしょう。
一方で、日本のエネルギー政策はドイツとは異なり、再生可能エネルギーを推進しつつも、福島原発事故を経験した後も原子力発電を完全に否定することはなく、天然ガスにも力を入れてきました。日本のエネルギー政策は、エネルギーの安定供給、経済効率性、環境適合性、安全性(3E+S)の同時達成を目指した「エネルギー基本計画」に基づいており、バランスの取れたエネルギーミックスを目指してきました。
しかし再生可能エネルギーの普及には、天候に左右される供給の不安定さ、高額な初期投資、電力系統の安定性維持のためのコストなど、様々な課題があります。日本では、太陽光パネルの無秩序な設置が問題となることもあります。各国政府は、再エネ導入を推進しつつも、エネルギーの安定供給や経済性を考慮した政策調整を行い、より現実的なアプローチへと移行しています。
太陽光パネルの無秩序な設置が問題に・・・・ |
現在、日本はエネルギー政策の見直しの重要な時期を迎えています。政府は「エネルギー基本計画」の見直しを進めており、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする目標や、地政学的リスクを考慮したエネルギーの安定供給が焦点となっています。
特に、2035年度以降の電源構成の見直しが重要であり、原子力発電の位置づけや再生可能エネルギーの導入拡大と火力発電の低減策等が検討されています。また、天然ガスの利用拡大も重要視され、エネルギーインフラの整備が急務です。
世界がより現実的なエネルギー政策に移行しつつある中、日本だけが原発の再稼働をしないとか、再生可能エネルギーに重きを置き続けたり、火力発電を減らす政策を続けることで、他国に比べて遅れを取るリスクがあります。ドイツの現状を教訓に、政府はエネルギー政策に真摯に取り組むべき時が来たといえるでしょう。
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