2024年9月26日木曜日

海自護衛艦「さざなみ」が台湾海峡を初通過、岸田首相が派遣指示…軍事的威圧強める中国をけん制―【私の論評】岸田政権の置き土産:台湾海峡通過が示す地政学的意義と日本の安全保障戦略

海自護衛艦「さざなみ」が台湾海峡を初通過、岸田首相が派遣指示…軍事的威圧強める中国をけん制

まとめ
  • 海上自衛隊の護衛艦「さざなみ」が台湾海峡を初めて通過し、オーストラリアやニュージーランドの艦艇も同行した。
  • 中国軍は日本周辺での軍事活動を活発化させており、情報収集機による領空侵犯や空母「遼寧」の接続水域航行が初めて確認された。
  • 中国の軍事活動に対抗するため、岸田首相は海自派遣を決断した。
  • 日本の歴代政権は中国側の反発を考慮し、海自艦艇による台湾海峡通過を控えてきたが、今回初めて踏み切った。
  • 習近平国家主席が2027年までに台湾侵攻の準備を命じたことを背景に、日本の安全保障環境に対する危機感が高まっている。
日米豪共同訓練を実施中の「さざなみ」 先頭の艦艇

 海上自衛隊の護衛艦「さざなみ」が25日、自衛隊発足以来初めて台湾海峡を通過した。これは中国の軍事的威圧に対する対抗措置として、岸田首相の指示により実施された。さざなみは東シナ海側から南方向に航行し、オーストラリアやニュージーランドの艦艇も同時に通過した。

 中国軍は8月以降、日本周辺での軍事活動を活発化させており、情報収集機による領空侵犯や空母「遼寧」の接続水域航行が初めて確認された。首相は中国軍の行動がエスカレートする可能性を懸念し、海自派遣を決断した。

 台湾海峡は最狭部でも幅約130キロメートルあり、米国などは国際水域とみなしているが、中国はこれに反対している。日本の歴代政権は中国側の反発を考慮し、海自艦艇による通過を控えてきたが、今回初めて踏み切った。

 この決断は、日本の主権を脅かす中国軍の活動に対し、毅然とした態度を示すためである。習近平国家主席は2027年までに台湾侵攻の準備を整えるよう命じているとされ、最近の中国軍の動きはその一環とみられている。

 岸田首相は日本の安全保障環境に危機感を強め、従来の慎重な姿勢では平和を守れないと判断したようだ。今後は中国側の反発や対抗措置が予想され、新総裁は対中政策のあり方を問われることになる。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】岸田政権の置き土産:台湾海峡通過が示す地政学的意義と日本の安全保障戦略

まとめ
  • 台湾海峡は重要な地政学上でいうチョークポイントであり、世界の海上貿易や資源輸送に極めて重要な役割を果たしている。
  • 経済的に重要な海上交通路であるとともに、軍事的にも中国の太平洋進出や米日の中国けん制の要所となっている。
  • 台湾海峡の封鎖は多国のエネルギー安全保障や経済活動に大きな影響を与える可能性がある。
  • 海自艦艇初の台湾海峡通過は、「航行の自由」の主張や中国の軍事的威圧へのけん制を示している。
  • この行動は岸田政権による「自由で開かれたインド太平洋」構想の実践であり、同盟国との連携強化や次期政権への政策継続性を示している。


今回海自の護衛艦が通過した、台湾海峡は重要なチョークポイントです。これは、地政学において重要な概念であり、海上交通の要衝を指します。具体的には、海上輸送の集中点となる狭い海峡や運河など、戦略的に重要な海上水路のことを意味します。これらの地点は、世界の海上貿易や資源輸送において極めて重要な役割を果たしており、その管理や安全確保は国際的な関心事となっています。

例えば、大西洋から太平洋に物資を運ぶのに、もしパナマ運河を通れなければ、南米をぐるっと大回りするルートしかなく、かかる日数は大幅に伸び、燃料や人件費などコストが跳ね上がってしまいます。チョークポイントを支配する国に高い通行料を払ってでも、他の国の船はパナマ運河を通るほうが効率は良いです。

ですから海上ルートを支配するには、チョークポイントを押さえれば効率よく影響力を持てるわけです。逆にチョークポイントを封鎖すれば世界の貿易や安全が脅かされてしまいます。

台湾海峡は、このようなチョークポイントの代表的な例の一つです。中国本土と台湾島の間に位置し、東シナ海と南シナ海を結ぶ重要な海上交通路である台湾海峡は、世界の海上貿易の主要ルートとして多くの商船が通過する経済的に重要な海域です。特に、エネルギー資源や工業製品の輸送に欠かせない航路となっています。

また、台湾海峡は軍事的にも非常に重要な意味を持っています。中国の「第1列島線」上に位置し、中国軍にとって太平洋への進出を可能にする重要な海域である一方、米国や日本にとっては中国の海洋進出を抑制するための要所となっています。さらに、中国と台湾の関係やアメリカの台湾支援など、国際的な緊張関係が集中する場所でもあります。

台湾海峡の重要性は安全保障の観点からも顕著です。この海峡が封鎖されると、日本を含む多くの国のエネルギー安全保障や経済活動に大きな影響を与える可能性があります。また、中国軍が頻繁に軍事演習を行う場所でもあり、台湾や周辺国にとっては常に警戒が必要な海域となっています。

台湾海峡は重要なチョークポイントであり、中国がその支配を試みることに対して、米国は強い懸念を示しています。もし台湾海峡が自由に航行できなくなれば、地域の安全保障や経済に深刻な影響を及ぼすため、米国はその自由を維持することを重視しています。

沖縄の米軍基地は、台湾海峡に近接しており、有事の際に迅速に対応できる戦略的な位置にあります。このため、米国は台湾への支援を迅速に行える態勢を整え、中国に圧力をかけています。米軍は定期的に台湾海峡を航行し、「航行の自由」を示すことで、中国の行動をけん制しています。

沖縄の米軍基地

今回の海上自衛隊の護衛艦「さざなみ」による台湾海峡の通過は、極めて重要な意味を持つ出来事です。まず、これは海上自衛隊の艦艇として初めての台湾海峡通過であり、日本が「航行の自由」を実践的に主張したことを示しています。

台湾海峡は国際水域であり、自由に航行できるべきだという立場を日本が明確に示したといえます。次に、この行動は中国の軍事的な威圧に対するけん制の意味合いが強いです。中国が日本周辺での軍事活動を活発化させている中、日本もまた自国の安全保障上の利益を守る姿勢を示したと解釈できます。

さらに、オーストラリアやニュージーランドの艦艇と共に通過したことは、同盟国や友好国との連携を深め、地域の安全保障を共同で維持しようとする日本の姿勢を表しています。この行動は、台湾海峡の安定が日本の安全保障にとって重要であるという認識を示すとともに、中国に対して日本が受動的な立場にとどまらないことを明確に伝えるメッセージとなっています。同時に、アメリカの「航行の自由」作戦を支持し、日米同盟の強化にもつながる行動だといえるでしょう。

岸田首相

今回の日本の護衛艦による台湾海峡通過は、岸田政権の「置き土産」として評価される重要な出来事です。この行動は、岸田政権が推進してきた「自由で開かれたインド太平洋」構想の具体的な実践を示し、次期政権への政策の継続性を確保することになります。

また、オーストラリアやニュージーランドの艦艇と共に通過することで、同盟国との連携を強化し、中国への明確なメッセージを発信しました。さらに、台湾海峡の安定が日本の安全保障にとって重要であることを具体的に示し、「航行の自由」という国際法の原則を支持する姿勢を貫いたことも意味します。これらの要素は、岸田政権が残した重要な政策的遺産となり、次期政権にとっても大きな基盤となるでしょう。

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