2024年9月23日月曜日

アメリカは中国との絆を切る―【私の論評】総裁選に埋没する日本の対中政策:米国の中国特別委員会から学ぶべき課題

アメリカは中国との絆を切る

まとめ
  • 米国議会下院中国特別委員会が、中国共産党の活動に対し厳しい監視と規制を行っている。
  • 米中の大学間の共同研究が、中国軍との関係を理由に中止されるなど、学術分野にも影響が。
  • 米国の中国に対する強硬姿勢は、日本にも重要な教訓となり得る。


アメリカでは大統領選に注目が集まる一方で、中国問題が連邦議会で重要な課題となっている。特に下院の中国特別委員会は、超党派で中国の活動を監視し、強硬な対応を進めている。最近の公聴会では、中国政府が批判者を抑圧するために法律を利用している事例が取り上げられ、議員たちは人権弾圧や領土拡張を厳しく非難した。

この委員会は、ジョージア工科大学と中国の天津大学との共同プログラムを終了させた。これは、天津大学が人民解放軍と密接な関係にあることから、安全保障上の懸念が理由とされている。アメリカでは、中国を「敵性国家」と呼ぶことも一般化しており、警戒感が高まっている。日本も同様の対中認識を見直す必要があるかもしれない。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事を御覧ください。

【私の論評】総裁選に埋没する日本の対中政策:米国の中国特別委員会から学ぶべき課題

まとめ
  • 日本にはアメリカの中国特別委員会に相当する単一の組織が存在せず、対中政策が複数の機関に分散しているため、一貫した戦略の策定と実行が困難になっている。
  • 最近の日本人児童刺殺事件や福島処理水問題は、中国による反日教育や情報操作が背景にあると考えられ、これらの問題に対する対応が不十分である。
  • 米国は下院特別委員会を通じて、中国に対する統一された戦略を立案・実行しており、これが国家統治術として位置づけられている。
  • 日本も米国の例を参考にし、対中政策を国家統治術の次元に引き上げる必要があり、専門的な組織の設立が求められている。
  • 総裁選に注力するあまり、対中政策が埋没している現状は、日本の国益を損なう可能性があり、早急な対応が必要である。

総裁選には過去最大の候補者が立候補

日本でも総裁選にあまりに多くの光が集中し、他の重要課題がみすごされがちです。

そもそも、日本には米国の「中国共産党とアメリカの戦略的競争に関する下院特別委員会」に相当する単一の組織が存在しないことは、深刻な問題です。この欠如は、日本の国益を損なう可能性がある多くの理由があります。

現在の日本の対中政策は、国家安全保障会議(NSC)、外務省中国・モンゴル第一課、国会の外交防衛委員会、自民党外交部会、そして「日本の領土を守るため行動する議員連盟」などの超党派の議員連盟など、複数の機関や枠組みによって分散して形成・実施されています。この分散した体制により、一貫した戦略の策定と実行が困難になっています。

最近の日本人児童刺殺事件は、この問題の深刻さを浮き彫りにしました。この事件の背景には、中国による組織的・体系的な反日教育があるとみられています。長年にわたる反日感情の醸成が、このような悲劇的な事件につながった可能性があります。また、福島第一原子力発電所の処理水放出問題に関しても、中国政府による情報操作や過剰反応が、両国間の緊張を高めています。

これらの問題に対して、日本の現在の分散した体制では十分に対応できていない可能性があります。例えば、中国残留邦人等への支援など、特定の問題に対しては厚生労働省が対応していますが、より包括的な対中政策の立案と実施には至っていません。

一方、米国は下院特別委員会を通じて、中国に対する統一された戦略を立案・実行しています。この委員会は、中国の脅威を包括的に分析し、それに対する効果的な対策を提案する役割を果たしています。日本もこのような専門的な組織を設立することで、中国の反日教育や情報操作、経済制裁などの問題に、より効果的に対応できる可能性があります。

中国共産党とアメリカの戦略的競争に関する下院特別委員会初代委員長マイク・ギャラガー

また、中国に進出した日系企業が直面する問題や困難に対しても、統一された対応が不足しています。行政上の問題や規制の問題など、企業が直面する課題に対して、日本政府が一貫した支援や交渉を行うためには、専門的な組織が必要不可欠です。

さらに、台湾問題に関しても、日本の対応は分散しています。米中関係の行方は台湾問題と密接に関係しており、台湾が米中摩擦の代理戦争的な舞台となることが懸念されています。日本も、この問題に対して統一された戦略を持つ必要があります。

このように、日本の対中政策における分散した体制の問題点は多岐にわたります。米国の中国特別委員会のような単一の専門組織を設立することで、これらの課題に効果的に対応し、日本の国益を守ることができるでしょう。同時に、こうした組織は、日中関係の改善や相互理解の促進にも貢献する可能性があります。

米国が中国特別委員会を設置したことは、対中政策を米国のstatecraft(国家統治術)の次元に高めた重要な動きです。statecraftとは、国家の利益を追求し、国際関係を管理するために用いられる政治的手腕や外交技術を指します。これには外交、経済政策、軍事戦略など、国家が用いるあらゆる手段が含まれます。

米国ではステートクラフト・シミュレーターが学生向けに提供されている


中国特別委員会の設置により、米国は対中政策を単なる外交問題や経済問題としてではなく、国家の総合的な戦略として位置づけました。この委員会は、経済、技術、安全保障、人権など、多岐にわたる分野で中国との競争や対立に対処するための包括的な戦略を立案し、実行する役割を担っています。

これにより、米国は中国との競争を国家の最重要課題の一つとして明確に位置づけ、政府のあらゆるリソースを動員して対応する体制を整えました。この アプローチ は、単なる対症療法的な対応ではなく、長期的かつ戦略的な視点から中国との関係を管理し、米国の国益を守るためのものです。

日本も同様のアプローチを採用し、対中政策をstatecraftの次元に引き上げることで、より効果的かつ一貫した対応が可能になるでしょう。これは、日本の国益を守り、地域の安定に貢献する上で極めて重要な課題となっています。

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