まとめ
- 台湾の海巡署は、9月14日に北部・新北市の海岸付近でゴムボートに乗った中国籍の男を発見・拘束し、男は脱水症状を訴えて治療を受けている。
- 男は中国浙江省寧波から出発し、台湾で新たな生活を始めたかったと供述している。
- 現場は中国軍の上陸が想定される淡水河の河口から数キロの地点であり、台湾への密航者の漂着が相次いでいることから、台湾側の対応能力を試す「グレーゾーン作戦」の可能性が指摘されている。
拘束された地点は、中国軍が台湾に侵攻する際の上陸地点として想定される淡水河の河口から数キロの距離にあり、台湾当局はこの地域における中国からの侵入に対して警戒を強めている。実際、6月には小型ボートを使って侵入した中国海軍の退役軍人が逮捕され、「自由を求めて台湾に投降した」と供述していた。
今回の事件は、台湾における中国からの「密航者」の漂着が相次いでいることを示しており、台湾の対応能力を試す「グレーゾーン作戦」の一環ではないかとの懸念も広がっている。台湾の陸軍は、有事に備えて防衛部隊を配置しており、淡水河の河口は台北の官庁街から約22キロの距離に位置している。
この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。
【私の論評】日本の安全保障と中国人の日本移住:米台との比較と今後の課題
まとめ
- 台湾では、中国人男性が亡命を希望し、海巡署が逮捕した事件が発生。これにより台湾の防衛上の弱点が指摘されている。
- 日本でも密航の問題があり、中国からの不法入国が増加している。特に「蛇頭」と呼ばれる密航組織が関与しているケースが多い。
- 日本と台湾は密輸密航対策協力覚書を締結し、海上保安機関間の協力を強化している。
- 中国経済の悪化により特に若年層の不安が高まっている。これが日本への移住の増加につながっている。
- 日本に移住する中国人の増加には不動産市場や教育機関への影響、安全保障上の懸念があり、高度人材の受け入れについても慎重な対応をすべきであり、日本も米台と同じく中国人の移住を制限すべきである。
台湾メディアの「フォーカス台湾」によれば、台湾の海巡署は9月9日、新北市の河口に小型船で侵入した60歳前後の中国人男性を逮捕しました。この男性は、中国政府を批判したことを理由に亡命を希望していると供述しています。この事件に関連して、台湾の国防相は、中国の「グレーゾーン作戦」の可能性を指摘しました。
海巡署は、レーダーで小型船を台湾の漁船と誤認し、対応が遅れたことが問題視されています。台湾政府は、警備体制の強化を検討しており、過去11年間で121人の中国人が台湾に不法進入していることも報告されています。専門家は、この事件が台湾の防衛上の弱点を探る中国の試みである可能性を指摘しており、台湾の沿岸警備の課題が浮き彫りになっています。
日本でも、密航の問題があります。日本への中国からの密航に関する具体的な統計データは限られていますが、いくつかの重要な点があります。近年、日本の国境を越えた不法入国が増加しており、特に「蛇頭」と呼ばれる国際的な密航組織(主に中国の福建省を拠点とする)が関与しているケースが多いです。また、国内に根付いた不法滞在者が犯罪グループを形成し、身代金目的の誘拐や広域窃盗事件が報告されています。
2018年には日本と台湾が「密輸密航対策協力覚書」を締結し、海上保安機関間の協力が強化されました。密航者は小型船やゴムボートを使用することが多く、レーダーでの検知が難しい場合もあります。経済的理由から新たな生活を求める人々が密航を試みるケースも見られ、これらは日本の法執行機関にとって継続的な課題となっています。
日本の海上保安庁と台湾の海巡署(日本の海保に相当)が2024年7月18日、千葉県房総半島沖で初めての合同訓練を実施しました。これは1972年の日台断交後、初めての海上訓練となります。この訓練の主な目的は、中国の強引な海洋進出に対応し、東シナ海や南シナ海での不測の事態に備えることです。また、台湾有事への危機感が高まる中、訓練の定例化も目指しています。
この訓練に関しては、具体的な訓練内容は公開されていないため、詳細は不明ですが、両国の海上保安機関の連携強化と、地域の海上安全と法執行能力の向上を目的としたものだと推測されます。「密輸及び密航への対策に係る協力に関する覚書」に基づいた訓練も行われた可能性が高いと考えられます。
日台合同訓練のため東京港に入港する台湾の「巡護9号」7月11日 |
私は、今回の出来事は確かに「グレーゾーン作戦」などの軍事的な意味合いを否定はしませんが、そのようなことよりも、もっと差し迫った脅威が、それも台湾よりは日本にあると考えています。
それは、中国経済の悪化が移住や密航等の増加につながる可能性です。まず、経済の減速に伴い、失業率の上昇や所得の低下が予想され、これによりより良い経済機会を求めて海外へ移動しようとする人々が増える可能性があります。また、経済悪化は社会的な不満や不安を高める傾向があり、政治的な抑圧と相まって、一部の人々が国外への脱出を考えるきっかけとなることも考えられます。
さらに、経済の不確実性が高まると、富裕層が資産を海外に移転しようとする動きが強まります。これが合法的な移住だけでなく、非合法な手段での出国にもつながる可能性があります。中小企業の倒産が増加することで、経営者や従業員が新たな機会を求めて海外へ移動しようとすることも考えられます。また、特に若年層において、中国国内での将来に対する不安が高まっており、これが海外への移住や場合によっては密航につながる可能性もあります。
米台と日本における中国人の移住状況には顕著な違いがあります。米国では、2023年に不法入国した中国人が3万7000人以上に達し、前年の約10倍に増加しました。この急増の背景には、ビザ発給制限や中国国内の経済・政治的な不満、さらにSNSを通じた密入国情報の拡散が影響しています。
多くの人々がより良い経済機会や自由を求めて、冒険的な試みとして不法入国を選択しています。
台湾は中国人の移住に対して厳格な規制を設けています。原則として、中国人の台湾への渡航は禁止されており、移住には特別な手続きが必要です。主に、台湾人との結婚や台湾での就労、投資、就学が認められています。
特に中国人配偶者の場合、居住権を得るまでに長期間かかります。また、中国人は台湾国籍と中国国籍を同時に持つことができず、台湾国籍を取得するには中国国籍を放棄する必要があります。これらの規制は、人口構成の変化や安全保障上の懸念から設けられており、台湾政府は慎重に管理しています。
一方、日本では、中国人の合法的な移住が増加傾向にあります。これは、日本の労働力不足を背景に外国人労働者の受け入れが拡大していることが大きな要因です。
また、日本の大学や専門学校への留学生の増加、さらに日本企業による中国人高度人材の採用も進んでいます。これらの動きは、教育やキャリア向上を目的とした安定した移動パターンを示しています。
このように、米台への不法入国は主に経済的な冒険を求める動機による一方、日本への合法的移住は、より安定した生活を求める傾向が強いです。今のままだと、今後日本への合法移住が増えていくのは間違いありません。
米台が中国人の移住を制限しているにもかかわらず、日本はそうではありません。これは、大きな問題になりつつあります。
日本に移住する中国人の増加には、いくつかの懸念すべき点があります。特に、多くの中国人移住者が日本に帰化せず中国籍を保持し続けることは、潜在的な危機をもたらす可能性があります。
まず、不動産市場への影響や教育機関への圧力、文化的摩擦、雇用市場への影響などが懸念されます。さらに、安全保障上の問題も重要です。中国籍を保持し続ける移住者の中に、中国政府のスパイ活動に関与する可能性がある人物が含まれる可能性があり、日本の国家安全保障に影響を与える恐れがあります。
在日中国人組織で日本最大規模の「華人時代」写真は2018年の東京マラソンの応援で集まったときの写真 |
この懸念は、中国の法律によってさらに深刻化する可能性があります。中国には、海外に居住する中国人にも中国政府への協力を求める法律が存在します。具体的には以下の法律が挙げられます。
- 国家情報法(2017年制定):第7条で「いかなる組織及び公民も、法に基づき国の情報活動を支持、協力、協助する義務を負う」と規定しています。
- 反スパイ法(2014年制定、2023年改正):海外の中国人を含むすべての中国国民に対し、スパイ活動に関する情報を当局に報告する義務を課しています。
- 国家安全法(2015年制定):第11条で「中華人民共和国の公民、法人その他の組織は、国家の安全を維持する義務を負う」と規定しています。
これらの法律は、中国国籍を持つ者に対して、居住地に関わらず中国政府への協力を求める内容を含んでおり、日本在住の中国人にも適用される可能性があります。この法律により、個々の中国人の人柄や信条などは関係なく、日本への安全保障上の脅威が高まったといえます。
長期的には、移住者の増加が日本の社会保障制度に追加の負担をかける可能性や、特定の地域で中国文化の影響が強まり、日本の伝統的な文化や生活様式が変化する可能性も懸念されます。
高度人材を含む中国人の日本への移住には、極めて慎重な対応が必要です。中国の国家情報法により、これらの人材が日本の重要な技術や情報を中国政府に提供する可能性があり、安全保障上の重大な懸念があります。
また、産業スパイのリスクや、企業や研究機関の中枢での意思決定への影響も無視できません。さらに、習得した技術や知識の中国への移転、日本の長期的な国家戦略への悪影響、そして社会的影響力を通じた中国に有利な世論形成の可能性も考慮すべきです。
特に政府機関や防衛関連企業での機密情報へのアクセスは、国家安全保障上の極めて深刻なリスクとなります。
これらの理由から、特に高度人材とされる中国人の移住については、日本の国家安全保障、技術的優位性、そして長期的な国益を守るため、厳格な審査基準を設け、受け入れを厳しく制限すべきです。同時に、既に日本国内にいる中国人高度人材に対しても、適切な監視と管理体制の構築や場合によっては国外退去を求めるなどの対応が不可欠です。無論、高度人材以外の中国人に対しても、厳しくすべきです。
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