まとめ
- ドイツ東部のテューリンゲン州では、反移民の右派政党AfDが33.2%の得票率で州議会レベルで初めて第1党になる見込みである。
- ザクセン州では保守派が31.5%でAfDを僅差でリードしているが、国政与党3党は苦戦しており、社会民主党(SPD)だけが議席獲得に必要な5%を上回った。
- 左派新党BSWが両州で3位につけ、今後の政権樹立において重要な役割を果たす可能性があり、各政党はAfDとの協力を否定している。
公共放送ZDFの予測によると、AfDは同州で33.2%の票を獲得する見通しで、保守派の23.6%を大きく上回っている。
ザクセン州では保守が31.5%で、AfDを1.1%ポイントの僅差でリードしている。
国政与党3党はさえず、議席獲得に必要な5%を明確に上回っているのはショルツ首相の中道左派「社会民主党(SPD)」のみ。総選挙を1年後に控える中、連立政権にとって厳しい結果となっている。
移民抑制やウクライナへの武器供与停止を訴える左派新党「ザーラ・ワーゲンクネヒト同盟(BSW)」が両州で3位につける。
いずれの政党もAfDとの協力を否定しており、BSWが両州で安定的な政権を樹立する鍵を握る可能性がある。
【私の論評】ドイツ政治の転換点:AfDの台頭、経済課題と東西格差の影響 - 変わりゆく欧州の中心国家
まとめ
- AfDは2013年に設立された右派ポピュリスト政党で、最近の州議会選挙で大きな躍進を見せている。
- AfDの支持基盤拡大の背景には、与党の経済政策、エネルギー政策、移民政策への不満がある。
- AfDはSNSを効果的に活用しているが、若者層の支持率は全年齢層平均と同程度である。
- ドイツの名目GDPが日本を追い越したが、これは高インフレや為替変動の影響であり、実質的な経済成長を示すものではない。
- AfDは特に旧東ドイツ地域で強い支持を集めているが、その背景には経済格差や文化的要因がある。
州議会選が行われたドイツ東部チューリンゲン州都エアフルトで、親指をあげるAfD同州支部のヘッケ共同代表 |
AfD(ドイツのための選択肢)は、2013年に設立された右派ポピュリスト政党で、当初はユーロ圏政策に反対する立場から始まり、その後、移民政策や欧州連合に対する批判的な姿勢を強めました。最近の州議会選挙では、テューリンゲン州で32.8%、ザクセン州で30.6%の支持を得て、大きな躍進を見せています。
多くの日本のメディアは、AfDを単純に「極右」と呼んでいますが、これは適切ではありません。党内には様々な思想的立場があり、民主的プロセスに参加し、経済政策では自由主義的な立場を取るなど、単純に「極右」とは分類できない側面があります。AfDの支持層は、比較的収入が高い中上層の社会階層出身者が多く、高学歴の傾向を示しています。
AfDの躍進の背景には、与党の経済政策、エネルギー政策、移民政策のまずさがあります。経済面では、インフレや生活費の上昇に対する不満が高まっています。ドイツのインフレ率は2024年1月に3.1%まで鈍化しましたが、2024年5月にはさらに2.8%にまで鈍化しました。これは、ECB(欧州中央銀行)の目標である2%をまだ上回っており、ドイツ経済に課題を突きつけています。
エネルギー政策においては、脱原発政策による電力価格の上昇や、ロシアからのガス輸入停止による影響が国民の不安を煽っています。ドイツの電力価格は、日本と比較して高い水準にあります。2023年のデータによると、ドイツの家庭用電力料金は1kWhあたり約0.46ユーロ(約60円)で、日本の約0.25ユーロ(約33円)を大きく上回っています。
移民政策では、2015年以降の難民受け入れ政策に対する反発が根強く残っています。2024年の調査では、ドイツの若者の46%が「移民・難民」を重要なテーマと考えており、これは他の欧州諸国と比べても高い割合です。
AfDはSNSを効果的に活用しており、若者層にも支持を広げています。しかし、若者の支持に関しては、16歳から24歳の年齢層のAfD支持率は16%で、全年齢層平均と同じ割合であり、特に若者が右傾化しているわけではありません。
ドイツの若者が不安を感じている問題は、インフレーション(65%)、ヨーロッパおよび中東における戦争(60%)、住宅問題(54%)、社会の分断(49%)、気候変動(49%)となっています。
多くの日本のメディアは、AfDを単純に「極右」と呼んでいますが、これは適切ではありません。党内には様々な思想的立場があり、民主的プロセスに参加し、経済政策では自由主義的な立場を取るなど、単純に「極右」とは分類できない側面があります。AfDの支持層は、比較的収入が高い中上層の社会階層出身者が多く、高学歴の傾向を示しています。
AfDの躍進の背景には、与党の経済政策、エネルギー政策、移民政策のまずさがあります。経済面では、インフレや生活費の上昇に対する不満が高まっています。ドイツのインフレ率は2024年1月に3.1%まで鈍化しましたが、2024年5月にはさらに2.8%にまで鈍化しました。これは、ECB(欧州中央銀行)の目標である2%をまだ上回っており、ドイツ経済に課題を突きつけています。
エネルギー政策においては、脱原発政策による電力価格の上昇や、ロシアからのガス輸入停止による影響が国民の不安を煽っています。ドイツの電力価格は、日本と比較して高い水準にあります。2023年のデータによると、ドイツの家庭用電力料金は1kWhあたり約0.46ユーロ(約60円)で、日本の約0.25ユーロ(約33円)を大きく上回っています。
移民政策では、2015年以降の難民受け入れ政策に対する反発が根強く残っています。2024年の調査では、ドイツの若者の46%が「移民・難民」を重要なテーマと考えており、これは他の欧州諸国と比べても高い割合です。
AfDはSNSを効果的に活用しており、若者層にも支持を広げています。しかし、若者の支持に関しては、16歳から24歳の年齢層のAfD支持率は16%で、全年齢層平均と同じ割合であり、特に若者が右傾化しているわけではありません。
ドイツの若者が不安を感じている問題は、インフレーション(65%)、ヨーロッパおよび中東における戦争(60%)、住宅問題(54%)、社会の分断(49%)、気候変動(49%)となっています。
Afdの支持者 |
AfDの躍進は、ショルツ政権にとって大きな打撃となっており、来年秋の総選挙に向けて重要な意味を持っています。一方で、環境重視の小政党Voltが若者層で支持を集めるなど、政治的な多様性も見られます。
Voltは、2017年に設立された汎ヨーロッパの社会自由主義政党で、EUの改革、気候危機への取り組み、公正で持続可能な経済、デジタル化を主要なテーマとしています。Voltは科学的根拠に基づくアプローチを重視し、ベストプラクティスの導入に高い関心を持っています。2019年の欧州議会選挙では、ドイツで0.7%の得票率を獲得し、1議席を得ました。
しかし、Voltの政治手法には批判もあります。テクノポピュリズムの傾向があり、既存の政治手法を否定しつつ、技術的な問題解決アプローチを採用しています。また、イデオロギーを超越した立場を主張していますが、これは有権者が政党の優先順位を理解することを困難にする可能性があります。
Voltの台頭は、ドイツの政治的多様性を示す一方で、EUの民主主義の課題も浮き彫りにしています。AfDとVoltという対照的な新興政党の存在は、ドイツの政治風景の変化と、有権者の既存政党への不満を反映しているといえるでしょう。
最近、ドイツの名目GDPが日本を追い越し、世界第3位の経済大国となったことが話題になっています。しかし、これは必ずしもドイツ経済が好調であることを示しているわけではありません。名目GDPが膨らんだ主な要因は、ドイツの物価高と為替の影響であり、実際の経済成長はマイナスとなっています。2023年のドイツの実質GDPは前年比0.3%減で、経済成長自体は停滞しています。
名目GDPとは、現在の市場価格で計算されたGDPであり、インフレや物価変動の影響を受けます。一方、実質GDPは物価変動を考慮して調整されたGDPで、経済成長の実態をより正確に反映します。したがって、名目GDPが増加しても、それが実質的な経済成長を意味するわけではありません。
ドイツの名目GDPが膨らんだ背景には、高インフレがあり、これが物価を押し上げた結果、名目GDPが増加しました。また、ユーロ高ドル安の為替変動も名目GDPを膨らませる要因となっています。一方、日本では円安が進行しており、ドル建てでのGDPが目減りする結果となりました。これらの要因が重なり、ドイツの名目GDPが日本を上回る結果となったのです。
ドイツのエネルギー価格の高騰も経済に影響を与えています。ロシアからのガス供給停止や脱原発政策によって電力価格が上昇し、これは日本の電力価格と比較しても高い水準にあります。2023年のデータによれば、ドイツの家庭用電力料金は1kWhあたり約0.46ユーロ(約60円)で、日本の約0.25ユーロ(約33円)を大きく上回っています。
このように、ドイツの名目GDPが日本を追い越したことは、ドイツ経済の好調を示すものではなく、むしろ高インフレや為替変動といった一時的な要因によるものです。名目GDPと実質GDPの違いを理解することは、経済の実態を正確に把握するために重要です。
AfDがかつての東ドイツ地域で特に強い支持を集めている背景には、複数の要因があります。
旧東ドイツの軍隊 |
まず、東西ドイツ統一後の経済格差が挙げられます。旧東ドイツ地域は統一後も経済的に西側に遅れをとり、失業率が高く、賃金水準も低い状態が続いています。これにより、多くの東ドイツ出身者が社会的な周縁化を感じており、AfDはこうした不満を巧みに取り込んでいます。
また、文化的な要因も重要です。旧東ドイツ地域の人々は、社会主義の権威主義的な体制下で育った経験から、AfDのポピュリスト的で反エリート的なレトリックを受け入れやすいという傾向があります。さらに、この地域では文化的多様性の経験が少ないため、AfDの反移民・反イスラムの主張が比較的受け入れられやすい土壌があります。
さらに、メディアや政治における東ドイツ出身者の過小代表も、AfDの支持拡大に寄与しています。多くの東部地域の新聞さえも西ドイツ出身の編集者によって運営されており、これが東ドイツ出身者の疎外感を強めています。
AfDはこうした状況を巧みに利用し、「東部が立ち上がる!」といったスローガンを掲げて地域のアイデンティティに訴えかけています。また、地域レベルでの草の根活動に力を入れ、パブでの集会や講演会などを通じて有権者と直接的な関わりを持つことで支持を拡大しています。
これらの要因が複合的に作用し、AfDは旧東ドイツ地域で特に強い支持基盤を築いています。しかし、AfDの支持は東部に限定されたものではなく、現在では全16州の議会に議席を持っており、全国的な現象となっています。
このように、ドイツの政治情勢は複雑化しており、AfDの躍進は既存の政党システムに大きな影響を与えています。今後の選挙や政策決定において、AfDの動向が重要な要因となることは間違いないでしょう。
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