2024年10月23日水曜日

〈ソ連崩壊に学んだ中国共産党〉守り続ける3つの教訓と、習近平が恐れていること―【私の論評】習近平体制の内なる脆弱性:ソ連崩壊と中国共産党の共通点

〈ソ連崩壊に学んだ中国共産党〉守り続ける3つの教訓と、習近平が恐れていること

岡崎研究所

まとめ
  • 習近平は中国共産党がソ連の運命を辿ることを恐れ、党の内部統制とイデオロギー強化を重視している。
  • 「ゼロコロナ」政策の急な終了や経済復興の困難さが、党の安定に影響を与えている。
  • 習近平は後継者の育成に無関心で、自らの長期在位を望む姿勢が将来の権力移行を不安定にする可能性がある。
  • 党の統治継続、イデオロギー堅持、米国との直接対決回避を教訓として、習近平はこれを守りつつも党内外のバランスに苦しむ。
  •  習近平の厳格な管理は党の自発性を奪い、腐敗や無気力を生むリスクがあるが、党の体制自体は強固で経済が崩壊しない限り維持されるだろう。

習近平

 エコノミスト誌10月5日号の解説記事が、今年10月に創設75周年を迎えた中国共産党は、支配年月がソ連共産党のそれを超えたが、指導者の習近平は中国がソ連のように崩壊することを恐れている、と書いている。要旨は次の通り。

 中国共産党が創設75周年を迎えた2024年、習近平国家主席は自身の党の永続的な支配について深い懸念を抱いている。特にソ連崩壊の歴史から学んだ教訓を基に、党の内部統制とイデオロギー管理の強化を図っている。

 習近平の政策は、ソ連の崩壊が党内の派閥争いやイデオロギー的、組織的規律の喪失によるものだと捉えており、これを避けるため、党の団結と戦闘力を維持する必要性を強調している。2022年の党大会やその後の演説で、彼は「我々を敗北させ得るのは我々だけだ」と述べ、内部からの崩壊に警戒を呼びかけている。

 しかし、習近平の施策は二つの面で問題を孕んでいる。一つ目は、経済政策の失敗とその後の景気刺激策が必ずしも成功を収めていないこと。2022年の「ゼロコロナ」政策の突然の撤廃やその後ろくな復興策なしに経済を回復させようとした結果、国民の間に不満が広がっている。

 二つ目は、習近平自身が後継者育成に無関心であり、自身の権力維持を優先する姿勢だ。これにより、将来的な権力移行が混乱を招く可能性が指摘されている。ソ連の指導者選びが党内争いやクーデターで決まったという歴史を反面教師にすべきだが、習はその教訓を活かしているとは言い難い。

 鄧小平時代以降、中国はソ連崩壊の原因を徹底的に研究し、政策提言をまとめてきた。鄧の教訓では、共産党の統治継続、イデオロギーの堅持、そして米国との力比べを避けることが挙げられた。これらの原則を習近平は守っているが、彼の厳格な党管理は、党内外のバランスを崩し、党官僚に過度なプレッシャーを与えている。党員の献身性を求める一方で、組織の自発性を殺し、腐敗や無気力さを招く可能性もある。

 習近平の路線は、党のガバナンスの難しさを象徴している。引き締めと緩和の適切なバランスを見つけることは容易ではなく、現在の中国が直面する最大の課題の一つである。しかし、党の内部には、党の統治継続というコンセンサスがあり、経済が崩壊に瀕しない限り、党の体制自体が傾くことは考えにくい。党内での是正力が働くという観点から、共産党の支配は今後も続くと見られている。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】習近平体制の内なる脆弱性:ソ連崩壊と中国共産党の共通点

まとめ
  • 習近平の強権的な統制は、党内部の弱点を覆い隠すための手段である可能性が高い。
  • ソビエト連邦も中央集権による統制を試みたが、地方の腐敗や非効率性が崩壊を引き起こした。
  • KGBやプロパガンダなどで体制を維持したが、ソ連の根本的な問題は解決されず、最終的に崩壊した。
  • 習近平の政策はソ連の全体主義を継承しているが、同じ道を辿るリスクがある。
  • 中国の軍事演習は強大に見えるが、内部には多くの問題があり、体制の脆弱さを示唆している。
元記事には次のような記述が見受けられる。

「習近平による組織管理と精神教育の強化は、すべてを党が指導することを国政の中心に据えた結果、その実施部隊である党幹部と党員があまりにふがいないというので進めている可能性の方が高い」

中国共産党の結党100周年を祝う式典

この発言を深く考察すると、中国共産党の表面的な強さは実は内なる弱さを隠しているに過ぎないことが浮かび上がってくる。党の全てを握り、党幹部や党員に強権的な統制を敷くことは、一見すると党の結束力や支配力の強化に映るかもしれない。しかし、それは真に強固な基盤を築いているわけではなく、むしろ党の内部に潜む問題を覆い隠すための手段であると言えるのではないだろうか。

続けて、元記事では「1980年代の半ばまでは、ソ連は極めて厳格に管理された党と社会であり、現在の中国など足元にも及ばない」としている。だが、これは実情を表面的に捉えたものであり、実際にはソ連の崩壊に至る数十年の間に問題は徐々に蓄積されていた。その問題は表に出なかっただけで、ソ連の成立当初から内包されていた不協和音であると捉えるべきだ。

ソビエト連邦は、理論上は中央集権による完全な統制を目指していた。すなわち、国家全体を一つの統一した力で支配し、全ての決定権を中央に集中させることが目標であった。しかし、理想と現実は異なる。現実世界は、ソ連が描いた統制モデルを超えるほどの複雑な問題に満ちており、そのために完全な中央集権体制は最後まで実現されなかった。

中央集権の弊害として、地方ごとの自治や経済計画の非効率性が生じ、地方官僚たちが腐敗し、時には中央の方針を逸脱して独自の行動を取ることもあった。情報伝達も遅滞し、中央の意図が末端に届くまでには時間がかかり、時には誤解が生じることもあった。また、党内には権力闘争が絶えず、その度に政権内部が揺れ動いていた。

それでもソ連は、中央集権の欠陥を補うためにさまざまな政策を打ち出した。その中でも、秘密警察であるKGBの強化は、中央の統制を維持するための重要な柱であった。KGBは反体制的な動きを迅速に察知し、地方の反抗を力で抑え込んだ。また、プロパガンダや教育を通じて共産主義のイデオロギーを国民に浸透させ、国家全体の統一意識を維持しようとした。さらに、経済面では重化学工業や軍事産業に巨額の投資を行い、国家の優先事項としてこれらを発展させることで、国全体の経済成長を目指した。

ソ連はまた、党の幹部を養成するための教育制度を整え、忠実な党員を育成し、彼らに中央からの政策を実行させる体制を構築した。このエリート層は「ノーメンクラトゥーラ」と呼ばれ、ソ連社会において特権階級としての地位を築いた。しかし、こうした取り組みは短期的には一定の効果をもたらすことがあっても、中央集権体制が抱える根本的な問題を解決するには至らなかった。その結果、ソ連の崩壊は、中央集権体制が理想と現実の間で揺れ動き、最終的にその矛盾に耐え切れなくなったことを象徴する出来事となった。

ソ連崩壊を伝える新聞紙面

このような歴史的背景を鑑みれば、習近平の政策もまた、ソ連と同様に、中央集権の名のもとに体制を強化しようとする試みだと言える。しかし、ソ連の全体主義を継承するだけでは、その運命もまた同じ道を辿るだろう。現状を維持することに固執すれば、中国共産党は自らの崩壊に向かうしかない。政治体制を自ら変革し、改革の道を歩むか、それとも内部分裂と崩壊の道を進むか、習近平にはその選択が迫られている。

その兆候は既に見られる。たとえば、最近の中国による台湾周辺での大規模な軍事演習である。この演習は台湾の海上封鎖を狙ったものであるとされているが、その実態は2022年8月のペロシ米下院議長(当時)の訪台時に行われたものとほぼ同じである。規模こそ拡大しているものの、演習の基本的な枠組みは変わっていない。このような演習が、台湾や周辺諸国に対する脅威を高めることは間違いないが、同時に日米の抑止力を強化させる結果にもなっている。

さらに、中国軍の内部でも不穏な動きがある。戦略ロケット部隊では、異例のトップ交代が発生しており、これは汚職や機密漏洩が背景にあるとされる。また、戦闘準備の不備が指摘されており、訓練や実戦能力に疑問を投げかける事態が相次いでいる。潜水艦部隊においても、新型潜水艦の導入が進んでいるが、その運用能力や効果については未知数である。最近の報道では、新型潜水艦が沈没したとのニュースも流れており、装備の統合や訓練不足が実戦での即応性に影響を与える可能性がある。


こうした状況を踏まえれば、習近平の中国は外から見れば強大な軍事力を誇示しているかのように映るが、内部には多くの問題が積み重なっていることがわかる。米国防総省のロイド・オースティン国防長官も、中国軍が台湾を包囲した5月の軍事演習に関して、その実行の難しさを指摘している。米軍は中国軍の演習を詳細に観察し、その運用方法や動向を分析している。その結果、米軍は中国の軍事力に対して適切な対策を講じることができているという。

このような軍事演習は、ソビエト連邦が崩壊前に行っていた大規模な軍事演習を思い起こさせる。冷戦期、ソ連は「ザーパッド演習」や「ビースト演習」などを定期的に行い、崩壊末期まで実施され、西側諸国に対する抑止力として用いていた。しかし、これらの演習は強さを誇示するものではなく、実はその内部に抱える弱さを隠すための手段であった。それはまさに現在の中国にも当てはまると言えるだろう。軍事演習の規模が大きければ大きいほど、むしろその体制の脆弱さが浮き彫りになるのだ。

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