2020年6月12日金曜日

中国共産党が進めるオーストラリア支配計画 目に見えぬ侵略は日本でも始まっている—【私の論評】日本は旗幟を鮮明にし、日米豪同盟を強化せよ!(◎_◎;)

中国共産党が進めるオーストラリア支配計画 目に見えぬ侵略は日本でも始まっている
国際 中国 2020年6月11日掲載




 先月、中国共産党の対オーストラリア工作を明らかにした『目に見えぬ侵略 中国のオーストラリア支配計画』(飛鳥新社)が出版された。著者はオーストラリアの作家で、チャールズ・スタート大学の教授、クライブ・ハミルトン氏である。地政学者の奥山真司氏が翻訳した問題作。オーストラリアだけでなく世界覇権を目論む中国は、すでに日本にも触手を伸ばしている。オーストラリアの失敗から学ぶべきことは?

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 原著は、出版社と契約を結んでいたが刊行中止。その後も2社から断られた、ようやく出版にこぎつけたいわくつきの書である。英紙フィナンシャル・タイムズは、「販売中止を決めた自粛は自己検閲だ」と批判している。

 公共倫理を専門とするハミルトン氏は2016年8月、労働党のサム・ダスティヤリ上院議員の政治スキャンダルが発覚した際、中国共産党の工作に気づいた。この議員は中国共産党とつながりのある中国人富豪と癒着。これをきっかけにオーストラリアの主要政党にとって、裕福な中国人や中国系オーストラリア人のビジネスマンたちが最大の資金提供者となっていたことが判明したのだ。

 さらにハミルトン氏の調査で、中国共産党は、オーストラリアの連邦政府、企業、主要政党、大学、メディアなどに浸透し、影響を与え、コントロールするための体系的な活動を行なっていることがわかったという。

 中国がオーストラリアにターゲットを定めたのは、2004年8月。世界中に散らばる中国の外交官を北京に集め、秘密会議が開かれた。当時の共産党総書記であった胡錦濤(こきんとう)のもと、党の中央委員会がオーストラリアを中国の周辺地域に組み込むべきであると決定した。中国最大の狙いは、米豪同盟を壊し、オーストラリアを属国化することだったという。

 05年2月には、共産党の外交部副部長であった周文重(しゅうぶんじゅう)がキャンベラを訪れて、在豪中国大使館の高官たちとの会合で中央委員会が決定した戦略を伝えた。ハミルトン氏の取材に応じた在シドニー中国領事館の政務一等書記官だった陳用林氏(ちんようりん‐2005年にオーストラリアに政治亡命)によれば、中国は経済的な手段を使って、オーストラリアに対して軍事関連や人権問題を含む、様々な分野で譲歩を迫り、オーストラリアをアメリカに対してノーと言える西洋の国にしようと画策しているという。

    2002年8月、オーストラリアは中国広州省に天然ガスを供給する契約を結び、有頂天になって喜んだ。しかし、陳用林氏によれば、中国は数カ国を招いて入札を行い、1番安い金額を提示したインドネシアに決めていたが、

北京の共産党中央委員会があえてオーストラリアに決めたのだという。これはいわば中国の対オーストラリア工作の伏線で、オーストラリアを中国の方に振り向かせる狙いがあった。

日米同盟の弱体化

    「中国の対オーストラリア工作は、主に在外華僑を使っています。これを僑務工作と呼んでいます。オーストラリアに移住している中華系住民を使って、政界や財界工作を行うのです。中でも、最も影響力があった富豪実業家のひとりが黄向墨(ほわんしゃんも)でした。彼はオーストラリアの政界、財界、メディアまで大変影響力のあった人物で、シドニー工科大学に豪中関係研究所を設立し、元外相のボブ・カーを所長に据えました。ボブ・カーは、天安門事件が起こった時、中国の一党独裁体制を『滑稽なほど時代遅れ』と批判していました。ところが中国の工作によって、親中派になってしまったのです。そのため、“北京ボブ“という渾名が付いています。2019年、オーストラリア当局は黄向墨と中国共産党とのつながりを調査した結果、永住権を剥奪し、再入国を禁止、市民権申請を却下しました」

 と解説するのは、本書の監訳者で「日本国際戦略研究所」を主宰する山岡鉄秀氏。同氏はオーストラリアに約23年間在住し、オーストラリアの変化を肌で感じていた。

 豪中関係研究所は、表向きは中関係発展のための研究機関となっている。しかし、そのセミナーや出版物の内容を見ると、中国共産党のプロパガンダそのものだという。黄向墨は、冒頭で紹介したサム・ダスティヤリ上院議員に資金提供していた人物でもある。

    「私は、シドニーで大学院生だった頃、中国系の学生たちと仲良くなりました。彼らは、オーストラリアで生まれ育った移民2世、3世で、適度に西洋化され付き合いやすかった。真面目でよく勉強もしていました。ところが最近のオーストラリアの主だった大学は、雰囲気がガラっと変わりましたね。留学生の4割は中国人で、彼らは中国政府の管理下にあります。中国からガチガチの愛国教育を受けています。中国の留学生のミッションには、中国に批判的な個人や団体の監視が含まれます。教師が中国に批判的な発言をしたり、中国政府の見解に合わない資料を使ったりすれば、吊るし上げて謝罪を求める。領事館から大学に直接抗議が入ることもあります」(同)

 中国は次に日本をターゲットにする可能性もある。ハミルトン氏によれば、中国は、日本をアメリカから引き離すために「エコノミック・ブラックメール」(経済的強迫)を使って政治面での譲渡を迫っている。すでに日本には、北京の機嫌をとる親中派の財界人が多いという。中国は、日米同盟を決定的に弱体化させなければ日本を支配できないことをよく知っているのだ。

    「すでに中国は、日米同盟を弱体化するための手を打っています。米中の貿易戦争が厳しくなっている中、安倍晋三首相が一昨年10月に財界人を伴って訪中しました。中国は、天安門広場に日の丸を掲げて大歓迎。その際経団連の中西宏明会長は、『中国は敵ではなく、我々を求めている』と発言しています」(同)

 コロナ禍でも同様だという。

    「他国が中国全土からの入国を拒否している中、日本はなかなか入国を拒否しませんでした。武漢や浙江省だけ拒否していました。これは習近平の来日が予定されていたこと、中国から「大ごとにしないで欲しい」と言われたことへの配慮だと思われます。政府は国民の安全より中国を優先してしまいました。中国からすれば、まさに思う壺ですよ。日本が米中の狭間で漁夫の利を得ようとして姑息なことを考えれば、破滅につながります。米中が争っているのだから、アメリカの同盟国である日本は、中国に対して毅然とした態度を取るべきです」(同)

週刊新潮WEB取材班

【私の論評】日本は旗幟を鮮明にし、日米豪同盟を強化せよ!(◎_◎;)

クライブ・ハミルトン氏

『目に見えぬ侵略 中国のオーストラリア支配計画』の著者のハミルトン氏は豪州キャンベラのチャールズ・スタート大学公共倫理学部の教授です。ハミルトン氏は2008年、北京五輪の年、豪州における中国勢力の浸透に不審を抱きました。

聖火が到着したキャンベラに何万人もの中国系学生が集まり、一般のオーストラリア人が中国人たちから蹴られ、殴られました。自分の国で外国人学生の乱暴狼藉をなぜ受けなければならないのでしょうか。そもそも万単位の中国人学生たちは如何にして突如キャンベラに集結したのでしょうか。この疑問が氏の中国研究の始まりでした。

氏の体験は、同じ年、長野市に中国人学生が集結しチベット人や日本人に暴力を振るった事件とほぼ完全に重なります。

本書は日本に対する警告の書でもあります。豪州の人々は中国の侵略の意図など夢にも気づかず国を開きすぎたとハミルトン氏は書いています。

中国の意図は米国の同盟国を米国から分離させ、米国の力を殺ぎ落とし、中華の世界を築き上げることです。『目に見えぬ侵略』は、北京が豪州とニュージーランド(NZ)を米国の同盟国の中の「最弱の鎖」と見ていること、この両国を第二のフランス、つまり「米国にノーと言う国」に仕立て上げたいと考えていること、その為に両国の国全体、社会全体をコントロールし易いように親中的に変えていく政策を、中国政府が採用したことをつきとめています。

これは中国の常套手段と言っても良い手法です。1998年に江沢民国家主席(当時)が国賓として訪日しました。それに先立って中国共産党がまとめた対日政策の中に「日本を支配するには日本人が自ら中国に尽くすように日本人の価値観を変えていくことが重要で、その為に未来永劫歴史問題を活用するのが最上の手段だ」などと書かれています。

豪州全体を親中色に染め上げるべく、北京政府は2000年に試験的に華僑の活用を開始し、11年に完全に制度として確立したとハミルトン氏は断じています。世界に散らばる華僑は2300万人規模、豪州総人口2500万人の内100万人以上が中国系市民で、彼らも北京政府の標的に含まれているといいます。

華僑を大勢力としてまとめる司令塔が僑務弁公室でした。同室は豊かな中国人ビジネスマンの政治献金、選挙時における中国系市民の組織票の動員、中国系候補者当選への支援、政府高官の取り込み、中国を利する政策決定の誘導等、幅広く活動します。

ハミルトン氏は、われわれは「中国共産党は支配のための、考え抜かれた長期的戦略」に従って動いていることを忘れてはならないと強調しています。中国は豪州人の精神を親中国に変えることに加えて、豪州に対する有無を言わさぬ支配権を握るべく工作してきました。そのひとつがインフラの買収です。

数ある事例のひとつが電力です。ビクトリア州の電力供給会社5社と南オーストラリア州唯一の送電会社はすでに、中国国営企業の国家電網公司と香港を拠点とする長江基建集団の所有とな離ました。

豪州西部州の三大電力販売会社のひとつ、エナジーオーストラリアは300万人の顧客を持つ大企業ですが、これも香港に拠点を持ち北京と深い関係にある「中電集団」に買い取られました。豪州最大級のエネルギーインフラ企業、アリンタ・エナジーも香港の大富豪、周大福に40億豪ドルで売却されました。

電力は産業のコメです。安定した供給なしにはその国の産業は成り立ちません。豪州政府が中国の意向に逆らうような政策を打ち出す場合、北京政府は中国系資本所有の電力会社の供給を止めることで豪州を締め上げることができます。

ハミルトン氏は警告しています。豪州の配電網は電信サービス網と融合しているため、前者の所有者は豪州全国民全組織のインターネットと電話のメッセージ機能すべてにアクセス可能になります。豪州政府の情報すべてを中国は文字どおり、手にとって見ることが可能なのです。豪州は政府ごと丸裸にされているということです。

中国はさらに攻勢を強め首都キャンベラや、シドニーを擁するニューサウスウェールズ州の電力インフラ、オースグリッドを99年間租借しようとしました。豪州連邦政府が危うくこれを阻止したのが16年8月でした。

ところが、豪州内の親中勢力はこの政府決定に徹底的に反撃しました。そして奇妙なことが起きました。17年4月に対中警戒レベルを上げていたはずの外国投資監査委員会が突如軟化し、巨大インフラ運用会社「デュエット社」を長江基建を主軸とする中国のコンソーシアムに74.8億豪ドルで売却することを許可したのです。

豪州の国運をかけての戦いは一進一退です。現在、北京はモリソン豪首相が新型コロナウイルスの発生源に関する独立調査を求めたのに対して豪州産農産物の輸入規制で報復中です。

モリソン豪首相

さらに中国は今月、輸入した牛肉の検疫で違反が見つかったとして、オーストラリアの企業4社からの肉製品の輸入を停止していて、新型コロナウイルスをめぐるオーストラリアの対応に反発した措置ではないかという見方も出ています。

中国がオーストラリア産の大麦が不当に安く輸入されているとして関税を上乗せする措置を始めたことについて、オーストラリアのリトルプラウド農相は「控えめに言って失望している。中国の決定に対して冷静かつ系統的に対処し、WTO=世界貿易機関にはかる権利は残しておく」と述べ、WTOを通じた解決も視野に対応を検討していく考えを明らかにしています。

輸出の3割を中国に依存する豪州には大きな痛手ですが、首相支持率は66%、2倍にはね上がりました。

業を煮やした北京政府が特別に甘い言葉をかけ始めたのが日本です。

中国共産党機関紙の環球時報が5月26日、「日本は豪州に非ず」という社説を配信しました。日本は豪州とは異なる、米国側につかず、中国側に来いとして、次のようにも書いていました。

「米中摩擦の中で日本が正義の側(中国側)でなく、同盟国側につくなら、日米同盟を当然の(安全)策として活用することはできない」

米国側につけばただでは措かないという恫喝です。日豪はいま中国の攻勢の真っ只中にあります。共に力を合わせて中国共産党の侵略から国と国民、経済を守り通さなければな離ません。

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