2024年11月21日木曜日

【中国の南シナ海軍事要塞の価値は500億ドル超】ハワイの米軍施設を超えるか、米シンクタンクが試算―【私の論評】米国の南シナ海戦略:ルトワック氏の爆弾発言と軍事的優位性の維持の意思

 【中国の南シナ海軍事要塞の価値は500億ドル超】ハワイの米軍施設を超えるか、米シンクタンクが試算

岡崎研究所

まとめ
  • 中国の軍事施設の価値増加: 海南島や南シナ海の軍事インフラの価値は20年以上で3倍以上に増加し、2022年には500億ドルを超える。
  • 楡林海軍基地の重要性: 海南島の楡林海軍基地は南シナ海における中心地であり、その価値は180億ドル以上で、米軍の重要施設に匹敵する。
  • 米軍優位性の脅威: 現在の傾向が続くと、米軍の優位性が脅かされる可能性があり、専門家は米国が同盟国と共に軍事能力を強化する必要があると警告。
  • 南シナ海の戦略的役割: 南シナ海は中国にとって戦略原潜の「要塞」となり得る地域であり、外部勢力の介入を排除するための軍事施設が強化されている。
  • 攻撃的行動の変化: 中国は過去の慎重な行動から、2000年代以降は攻撃的な実力行使に出るようになり、特にフィリピンとの緊張関係が高まっている。

滑走路が配備された南シナ海の中国軍基地

 米国防総省の委託を受けたシンクタンクが南シナ海の中国軍事施設をドル価格で数値化した資料を作成、これをワシントン・ポスト紙が共有し、同紙国家安全保障レポーターのEllen Nakashimaらが、米軍基地と比較しながら中国の軍事施設近代化が如何に急速に進んでいるかを解説している。

 まず、海南島は過去10年間で中国の近代的軍事力が最も強化された地域となり、南シナ海への攻撃的な進出の出発地点として機能しています。防衛コンサルタントの長期戦略グループ(LTSG)の分析によれば、中国人民解放軍(PLA)は20年以上にわたり、海南島や南シナ海の埋め立てられた岩礁における軍事インフラの価値を3倍以上に増加させ、2022年にはその総価値が500億ドルを超えた。この金額は、ハワイにあるすべての米軍施設の価値を上回っており、地域における中国の軍事的プレゼンスの強化を示している。

 特に、海南島の楡林海軍基地は南シナ海における中国海軍の中心地であり、空母乾ドックや空母桟橋などの重要なインフラを備えている。この基地の価値は180億ドル以上とされ、米軍の重要な施設であるパールハーバー・ヒッカム統合基地と同等の重要性を持つと評価されている。これにより、中国は南シナ海における海軍の運用能力を大幅に強化している。

 現在の傾向が続くと、米軍の長年の優位性が脅かされる可能性が指摘されている。米軍の高官たちは習近平が米軍に対して攻撃を仕掛ける準備が整っているとは考えていないものの、その日は遅かれ早かれ訪れるだろうと警告している。専門家は、中国が航空機、ミサイル、民兵、船舶、潜水艦など、複数の手段で戦力を投射する能力を構築しつつあるとし、米国が同盟国とともに軍事能力と態勢を強化する必要があると述べている。

 さらに、南シナ海は中国にとって戦略原潜の「要塞」としての役割を果たす可能性がある。中国は、南シナ海の深海に位置する潜水艦基地を建設することで、上空や海上の防護を強化し、外部勢力の介入を排除しようとしている。特に、南シナ海での活動を強化することで、米本土への攻撃能力を高めることが期待されており、中国はより広範な地域における軍事的影響力を確保しようとしている。

 また、中国の行動パターンも変化している。20世紀の終わり頃までは、米国やソ連のプレゼンスが減少した隙を利用して南シナ海の島嶼を占領してきたが、2000年代以降はより攻撃的な実力行使に出るようになり、特にフィリピンとの緊張関係が高まる中で、スカボロー礁をフィリピンから奪取するなどの軍事的な行動を強化している。このような行動は、米国との軍事協力が進むフィリピンに対する圧力を高める要因ともなっている。

 今後の展望として、専門家は南シナ海の軍事的緊張が続くと予測しており、米国およびその同盟国は地域における中国の影響力を抑制するための戦略を見直す必要があると警告している。特に、フィリピン近海での衝突がエスカレートする中で、米軍は迅速な対応能力を維持するための基盤を強化する必要がある。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】米国の南シナ海戦略:ルトワック氏の爆弾発言と軍事的優位性の維持の意思

まとめ
  • 米国の戦略家ルトワック氏は、中国の南シナ海の軍事基地を「無防備な前哨基地」とし、軍事衝突時には5分で吹き飛ばせると指摘した。
  • その言葉を裏付けるように、米海軍は「バージニア級」攻撃型原潜やP-8ポセイドン対潜哨戒機が南シナ海に展開し、中国の軍事活動を監視・対処している。
  • 2023年の国防総省の報告書では、中国の軍事施設が米軍の攻撃に対して十分な防御力を持たないことが強調されている。
  • にもかかわらず、国防総省が中国の南シナ海軍事基地の脅威に関する報告書を公表する理由は、予算確保や戦略的利益を訴えるためであり、中国の軍事拡張に対する警戒を示す意図がある。
  • 米軍は、南シナ海における優位性をこれからも維持していく決意を報告書で表明したといえる。

米戦略家ルトワック氏

中国の南シナ海の軍事基地について、米国の戦略家ルトワック氏は2018年の産経新聞のインタビューで衝撃的な発言をした。彼は、中国が南シナ海を軍事拠点化する動きに対し、「航行の自由」作戦によって「中国による主権の主張は全面否定された。中国は面目をつぶされた」と強調した。その上で、彼は中国の軍事拠点を「無防備な前哨基地にすぎず、軍事衝突になれば5分で吹き飛ばせる。象徴的価値しかない」と断言した。この発言は、現在の米軍の南シナ海における強化と相まって、ますます現実味を帯びている。

具体的な裏付けとして挙げられるのは、南シナ海に展開する米海軍の攻撃型原潜と、その強力な対潜水艦戦(ASW)能力である。2021年から、米海軍の「バージニア級」攻撃型原潜がこの海域に姿を現し、中国の軍事活動を監視している。この原潜は、敵の防空網を突破し、精密攻撃を行う能力を持つ。2022年にはさらなる艦が配備され、米軍の戦略的プレゼンスは一層強化された。

米バージニア級攻撃型原潜

さらに、P-8ポセイドン対潜哨戒機は、長距離からの海上監視や攻撃能力を発揮し、2023年にはその運用が南シナ海において一層強化されている。この機体は、対潜ミサイルや魚雷を搭載し、潜水艦の追跡や攻撃に特化している。演習「リムパック」や「カールビンソン」では、実際の戦闘シナリオが模擬され、中国の潜水艦や艦艇への効果的な対処法が訓練されているのだ。

また、2023年に発表された国防総省の報告書では、中国の南シナ海における軍事施設が、米軍の攻撃に対して十分な防御力を持たないことが強調されている。特に、これらの基地はミサイル防御システムや迅速な再補給能力に欠けているため、実際の軍事衝突が発生した際には迅速な対応が難しい。この報告書は、米国の軍事戦略における重要な視点を提供している。

では、なぜ国防総省は南シナ海の中国軍基地の脅威を示す報告書を公表するのか。それは、予算確保や戦略的利益に関わる重要な要素があるからである。具体的な脅威を示すことで、議会に対して防衛予算の必要性を訴える根拠を提供し、競争が激化する中で説得力のあるリスク評価が求められるのだ。

中国の軍事拡張は米国の戦略的利益に直接影響を与え、南シナ海の重要性を強調することで、戦略的優先順位を明確にし、リソースの配分にも影響を及ぼす。また、中国を脅威とすることで、国際社会からの支持を得て、同盟国との連携を強化する狙いもある。

短期的には中国の基地が脆弱でも、長期的なリスクを考慮し、早期に対策を講じる必要がある。この報告書は、米国の立場を強化し、国際的なリーダーシップを示すための重要な材料となる。国防総省の報告は単なる軍事評価にとどまらず、予算確保や国際的な戦略、政治的影響力の強化を狙ったものである。

 パラシュートシステムでMk 8魚雷を投下するP-54A航空機

米軍は、2018年のルトワックの発言から今日まで南シナ海に強力な攻撃型原潜を配備し、P-8ポセイドン対潜哨戒機を配備するなどして、優位性を保ってきた。これは、米国がその影響力を維持するための重要な一手である。今後もこの動きは続けられるだろう。そして、米国防総省は先の報告書を公表することで、その意志を改めて示したのだ。

中国の軍事拠点が象徴的価値しか持たないというルトワックの見解は、今後の国際情勢においてますます重要な意味を持つことになるだろう。米国の強化された存在感は、南シナ海の地政学的な局面にどのような影響を及ぼすのか、今後の展開に注目が集まる。

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