2024年11月27日水曜日

<インドネシアとロシア初の海軍合同演習の意図>国際紛争解決へ、日本が「挑戦」する時―【私の論評】安倍外交の継承とアジア版クアッドが描く日本の未来戦略

<インドネシアとロシア初の海軍合同演習の意図>国際紛争解決へ、日本が「挑戦」する時

岡崎研究所

まとめ
  • インドネシアとロシアは、プラボウォ政権発足後初めて二国間海軍訓練を実施。これはインドネシアの外交的中立性維持と影響力拡大を象徴している。
  • インドネシアはBRICSへの加盟を表明し、米中露の間でバランス外交を展開。ロシアとの関係深化は、多国間協力戦略の一環とされる。
  • 米国の国際紛争への関与減少により、日本が主導してアジア諸国を巻き込む必要性が高まっている。
  • インドネシアを含む日印豪による新たな枠組み「アジア版クアッド」が地域安定の手段として議論されるべき。
  • インドネシアの戦略的立場を活用し、BRICSやASEANとの調和を保ちながら、日本が地域での主導的役割を果たすことが重要である。

ロシアとインドネシアが初の合同海軍演習を実施した

 11月4日付のフィナンシャル・タイムズの記事では、インドネシアとロシアが初の海軍合同演習を実施したことについて、その背景と意義が詳しく論じられている。プラボウォ大統領は、国際舞台でのインドネシアの存在感を高めることを目指しており、この合同演習はその一環として位置づけられている。演習はジャワ島東岸沖で行われ、ロシアは戦艦4隻とタグボート1隻を派遣した。

 プラボウォ大統領は、インドネシアの長年の中立的外交政策を維持しつつも、世界第4位の人口を有する国として相応しい影響力を求めている。また、インドネシアは豊富な天然資源を背景に、クリーンエネルギー供給網の中心国としての地位を確立しようとしている。これにより、同国は多国間の外交関係を強化し、特に中国や米国といった大国とのバランスを取ろうとしている。

 今回の合同演習は、インドネシアが過去にASEANの枠組みでロシアと共同訓練を行った経験はあるものの、初の二国間での実施となる。これは、インドネシアが米国やその同盟国とも毎年共同訓練を行っている中で、ロシアとの関係を深化させる重要なステップである。専門家は、このような動きがインドネシアの国際関与のあり方に劇的な変化をもたらす可能性があると指摘している。

 プラボウォ政権は、前任者のジョコウィ政権に比べて、世界の指導者との関与においてより積極的な姿勢を示しており、次期大統領として10カ国以上を訪問し、プーチンや習近平と会談を行っている。最近では、BRICSへの加盟意思も表明しており、これはロシアとの関係をさらに強化する意図を示している。プラボウォは、米国、中国、ロシアの間でバランスを取りつつ、各国との協力を進めようとしている。

 一方で、米国の国際紛争に対する関与が低下している中で、日本を含む同盟国が紛争解決の責任を共有する必要がある。特に、インドネシアとロシアの合同演習などの動きは、米国の影響力の低下を反映しており、日本がその空白を埋めるために積極的に行動する必要がある。

 インドネシア、タイ、マレーシアなどの国々がBRICSに加盟する動きは、反米的な姿勢を強める可能性があるものの、同時に米国との関係も維持したいという複雑な立場を示している。これに対し、日本はこれらの国々をどのように巻き込むかが重要な課題である。特にインドネシアは、将来的に国際的な影響力を持つ国となることが期待されており、インドとの協力関係を深化させることが鍵となる。

 また、インドネシアとロシアの合同演習やBRICS加盟の動きは、米国の威信が低下していることを示している。日本は、グローバル・サウスの支持を得るために、より積極的に行動する必要がある。特に、日印豪インドネシアからなる「アジア版クアッド」の立ち上げを考えることが重要である。 

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】安倍外交の継承とアジア版クアッドが描く日本の未来戦略

まとめ
  • 安倍氏の戦略は、単なる対中牽制を超え、アジア太平洋地域の安定と繁栄を目指した多角的な枠組みを構築した。
  • アジア版クアッドは、軍事同盟に頼らず、戦略的柔軟性と経済的相互依存を追求する枠組みとして注目されている。
  • ヨーロッパ型の軍事同盟モデルをアジアに適用する石破氏の発想は、地域の歴史的・文化的背景を無視したものである。
  • 2023年バリ島やジャカルタでの会合を通じて、海洋安全保障や経済協力などの幅広い多国間協力が議論された。アジア版クアッドは、オプションの一つとして浮上した。
  • 単なる軍事力の誇示ではなく、経済、文化、安全保障の全てにおいて地域の連帯を深める柔軟かつ現実的なアプローチこそが、アジアの安定に寄与し日本の未来を切り拓く鍵となるだろう。

地政学的激動の只中にある現代アジアで、日本の外交戦略は今、極めて重要な岐路に立たされている。その選択は、単なる政策の範囲を超え、日本の国家的アイデンティティとアジア太平洋地域全体の未来を決定づける歴史的なものだ。ここで浮かび上がるのが、安倍晋三元総理が提唱したビジョンをどのように継承するかという課題である。安倍氏の外交は、単なる対中牽制を超えた戦略的多角化の象徴であり、アジア太平洋地域の安定と繁栄を目指す高度に洗練された枠組みを提示してきた。

2022年から2023年にかけて水面下で進められてきた「アジア版クアッド」構想は、その一例といえる。この枠組みは、ニューデリー、東京、ワシントン、キャンベラでの外相会合や非公式な外交対話を通じて徐々に具体化された。そして、インドネシアの戦略的重要性が議論の中心となり、地域の安定に向けた多国間協力の可能性が再認識された。

2023年インドネシア、首都ジャカルタで開催されたASEAN会議

特に2023年3月のジャカルタでのASEAN会議における非公式戦略対話では、南シナ海の安全保障、気候変動対策、経済的レジリエンスといった課題が集中的に取り上げられた。この場で、ジョコ・ウィドド大統領が「アジア太平洋地域の安定は軍事同盟だけでなく、経済的相互依存と文化的対話によってもたらされる」と強調した発言は、参加各国に深い影響を与えた。

こうした背景の中で、アジア版クアッドは、従来の軍事同盟の硬直性を排し、戦略的柔軟性と経済的相互依存を同時に追求する革新的な枠組みとして注目されている。この構想は、冷戦期の二項対立的な国際秩序が崩壊し、多極的で複雑な新時代が到来する中で生まれた知的遺産ともいえる。安倍外交の遺産を継承するこの取り組みは、単なる対中牽制にとどまらず、地域全体の安定と発展を目指す多国間協力の新たな模範を示している。

一方で、石破茂氏が提唱する「アジア版NATO」の構想は、その発想が現実の地域情勢と乖離しているとの批判を免れない。ヨーロッパのNATO型集団安全保障体制をそのままアジアに移植するという考え方は、この地域の複雑な歴史的背景や文化的文脈を無視した危険な試みと言える。韓国や中国による歴史修正問題、ASEAN諸国の微妙な立場の違い、そして中国・ロシアとの地政学的対立が絡むこの地域では、単純な軍事同盟モデルは分断と緊張を助長する危険性が高い。

石破首相

2023年9月にバリ島で開催された非公式戦略対話は、アジア版クアッドの可能性を明確に示す場となった。この対話では、海洋安全保障やデジタルインフラ、気候変動対策を含む幅広い協力が議論され、特にインドネシアの独自の視点が注目を集めた。インドネシアのような国々は、中国との経済的依存関係を維持しながら安全保障上の選択肢を広げたいと考えており、アジア版クアッドの柔軟な枠組みはこうした戦略に合致している。

南シナ海における中国の挑発的な行動に対し、直接的な対決を避けつつ、地域の安定に向けた多国間協力を模索するこうしたアプローチは、まさに安倍氏の外交哲学の延長線上にあるものだ。

現在、日本の進むべき道は明らかである。安倍晋三氏が築いた知的かつ戦略的な外交の遺産を引き継ぎ、アジア太平洋地域の安定と繁栄を主導する新たな枠組みを構築することが求められている。単なる軍事力の誇示ではなく、経済、文化、安全保障の全てにおいて地域の連帯を深める柔軟かつ現実的なアプローチこそが、日本の未来を切り拓く鍵となるだろう。

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