2025年4月30日水曜日

商品価格、26年にコロナ禍前水準に下落 経済成長鈍化で=世銀—【私の論評】日本経済の試練と未来:2025年、内需拡大で危機を乗り越えろ!

商品価格、26年にコロナ禍前水準に下落 経済成長鈍化で=世銀

まとめ
  • 世界銀行は、貿易摩擦による経済成長鈍化で、商品価格が2025年に12%、2026年に5%下落し、コロナ禍前の水準に戻ると予測。
  • エネルギー価格は2025年に17%、2026年に6%下落し、インフレ率を2022年に2%ポイント以上押し上げたが、2023・2024年はインフレ鈍化に寄与。
  • 商品価格下落はインフレリスクを緩和するが、商品輸出依存の途上国に悪影響を及ぼす可能性があり、自由貿易や財政規律の強化が推奨される。

世界銀行の報告によると、貿易摩擦による世界経済の成長鈍化で、商品価格は2025年に12%、2026年に5%下落し、コロナ禍前の水準に戻る見込み。2022年のエネルギー価格高騰は世界のインフレ率を2%ポイント以上押し上げたが、2023・2024年はインフレ鈍化に寄与。

価格下落はインフレリスクを緩和する一方、商品輸出依存の途上国に悪影響を及ぼす可能性がある。エネルギー価格は2025年に17%、2026年に6%下落し、北海ブレント原油は2025年に1バレル64ドル、2026年に60ドルに。石炭価格も2025年に27%、2026年に5%下落。金価格は2025年に最高値を更新後、2026年に落ち着く見込み。自由貿易の推進や財政規律の強化が途上国に推奨される。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】日本経済の試練と未来:2025年、内需拡大で危機を乗り越えろ!

まとめ
  • 世界経済の危機と日本の影響:世界銀行の2025年予測によると、商品価格下落でインフレは抑えられるが、貿易利益は商品輸出国で縮小し、日本も鉄鋼輸出(2023年4兆円)の価格10%下落などで影響を受ける。
  • 内需拡大策の不十分さ:2025年の所得税減税(1兆円規模)や賃上げ(5%予測)は、需給ギャップ20兆円を埋められず、円安による家計圧迫や中小企業の利益圧迫で効果が限定的である。
  • 過去の成功例:安倍・菅政権のコロナ対策100兆円補正予算は、需給ギャップ100兆円を対象に雇用調整助成金で失業率2.8~3.0%を維持し、日銀の金融緩和が雇用を支えた。
  • 2025年補正予算の遅れ:2024年度補正予算(13.9兆円)は成立したが、2025年度補正予算は与党調整不足や金利懸念で審議が進まず、需給ギャップ対応が不透明である。
  • 必要な対策:需給ギャップを埋める大胆な財政出動(消費税減税や直接給付)、日銀の金融緩和継続、円安抑制の為替介入で内需を強化し、GDP成長率1.1%を死守すべきである。
世界経済の嵐と日本の試練


世界銀行の「一次産品市場見通し」(2025年4月29日)が突きつける現実は厳しい。商品価格は下落し、インフレの火は抑えられるが、貿易の利益は商品輸出国で縮小する。日本もその荒波に飲み込まれるのだ。

2023~2024年のエネルギー価格下落がインフレを抑え、2023年中東紛争での原油価格低下(90ドルから83ドル)がそれを証明する。IMFの2025年予測も、関税のインフレ圧力を価格下落が打ち消すと断言する。

だが、貿易の利益は確実に削られる。途上国の3分の2が商品輸出に依存し、2023年の金属価格12%下落がザンビアやコンゴの財政を直撃した。インドの2023年米輸出制限はバングラデシュの食料危機を悪化させた。中国の2025年経済成長率4.5%への鈍化予測も、商品需要の低迷を物語る。

日本も無傷ではいられない。2023年の鉄鋼輸出額4兆円が、グローバル金属価格12%下落で圧迫された。2024年第2四半期、中国の鉄鋼需要低迷で日本の鉄鋼輸出価格は10%下落、東南アジアでの競争激化が追い打ちをかけた。2025年の経済成長率1.1%予測は、貿易依存の日本の弱さを浮き彫りにする。

この危機を前に、日本はどう動くべきか。答えは一つ。内需を燃え上がらせることだ。
内需拡大の失敗と過去の教訓
2025年の内需拡大策は、はっきり言って力不足だ。2024年度補正予算(13.9兆円)は2024年12月17日に成立し、物価高対策や能登半島地震復興、AI・半導体振興を盛り込んだが、2025年度は動きが鈍い。3月31日、2025年度本予算(115.2兆円)が成立したが、補正予算の審議は進んでいない。4月上旬、政府が物価高やトランプ関税対応の補正予算を検討したが、与党内の調整不足や金利上昇懸念で現国会での提出は見送られた。需給ギャップ約20兆円(日本経済研究センター推計)への対応が議論されるが、審議日程や金額は未定だ。
現行策も弱い。2024年補正予算の所得税減税(1兆円規模)は低所得層に届かず(みずほリサーチ&テクノロジーズ)、日銀のゼロ金利政策は円安(2024年1ドル150円台、野村證券予測)を招き、輸入物価上昇で家計を締め上げる。2025年春闘の賃上げ率5%予測も、中小企業の6割が利益圧迫に苦しむ(帝国データバンク2024年調査)現実では空手形だ。
安倍政権時代の2020年4月の安倍総理と菅官房長官
過去の成功に光を当てる。安倍政権の2020年、60兆円のコロナ対策補正予算、菅政権の2020~2021年、40兆円の補正予算は、計100兆円を投じ、当時の需給ギャップ100兆円(内閣府推計)を埋めるべく設計された。国債発行と日銀の買い取りで資金を確保し、雇用調整助成金で休業手当の最大90%を補助。日本の失業率は2.8~3.0%で踏みとどまり、米国の7.8%(2020年)の雇用崩壊を回避した。日銀の金融緩和がなければ、企業の資金繰りは破綻し、雇用は守れなかった。

だが、2025年の需給ギャップ20兆円に対し、1兆円減税は焼け石に水だ。コロナ期の給付金は低所得世帯の消費を5%押し上げたが、財政赤字懸念(財務省)で同様の給付は期待薄である。
真の道と日本の未来
輸出多角化や自由貿易は未来を切り開く。2024年の半導体輸出10%増、TPPによる2023年アジア輸出回復は希望の光だ。だが、技術開発や通商交渉に時間が必要で、トランプ関税リスク(世界経済成長率0.7%下押し)への即応性はない。
現在の日本は、いまだデフレギャップが存在する
2025年の内需策が弱い理由は、家計への直接給付や中小企業への補助金が乏しいからだ。需給ギャップ20兆円を埋めるには、コロナ期のような大胆な財政出動が不可欠だ。日銀の金融緩和は雇用維持に欠かせないが、消費税減税のような強力な一手がなければ、消費は火を噴かない。
安倍・菅政権の100兆円補正予算は、需給ギャップを的確に捉え、日本が危機を乗り切れる国であることを示した。あの果断な支援を再現し、2025年の実質GDP成長率1.1%を死守する。それが日本の使命だ。地政学的リスクが迫る今、ちまちました策を捨て、内需を一気に燃え上がらせる。日本の未来は、その決断にかかっている。
出典:世界銀行「Commodity Markets Outlook」2025年4月29日、IMF、日本貿易振興機構、日本鉄鋼連盟、内閣府、みずほリサーチ&テクノロジーズ、日本経済研究センター、ジェトロ、野村證券、帝国データバンク、財務省、厚生労働省、総務省、米国労働統計局、NHK、朝日新聞、読売新聞、過去事例。

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2025年4月3日









2025年4月29日火曜日

オタクの知識が日本の安全保障のカギになる…軍事研究のプロ2人が異色の「会いに行ける情報機関」を作ったワケ—【私の論評】情報革命の衝撃:民間インテリジェンスが切り開く日本の安全保障とコロナ起源の真実

オタクの知識が日本の安全保障のカギになる…軍事研究のプロ2人が異色の「会いに行ける情報機関」を作ったワケ

まとめ
  • DEEP DIVEの設立:小原凡司氏と小泉悠氏が、日本の安全保障強化のため、非営利の民間インテリジェンス機関「DEEP DIVE」を設立。公開情報(OSINT)と衛星情報を活用し、透明な分析で早期警戒情報を提供。
  • クラウドファンディングの成功:目標1000万円に対し、2933人から約4232万円を集め、市民の高い期待と共感を得て活動基盤を構築。
  • 特徴的な役割:①根拠を示す分析、②多様な知見を集める「議論のハブ」、③政府・民間・自治体をつなぐ情報共有の橋渡しを目指す。例:中国ウイグル地区の衛星画像公開で情報募集。
  • 背景と課題:日本の安全保障情報が英語圏に依存し、政府の機密情報が民間や地方に共有されない問題や、ウクライナ戦争予期の失敗を背景に、独自の情報機関の必要性を強調。
  • 市民参加と目標:非営利運営で、支援者を「安全保障の一口株主」と位置づけ、セミナーや会員制度で「会いに行ける情報機関」を目指す。安全保障を身近なものに変える挑戦。

日本の安全保障環境が不安定化する中、軍事評論家の小原凡司氏と東京大学准教授の小泉悠氏が、非営利の民間インテリジェンス機関「DEEP DIVE」を設立した。公開情報(OSINT)と衛星情報を駆使し、明確な根拠に基づく分析を提供することで、日本社会に早期警戒情報を届けることを目的とする。クラウドファンディングでは当初目標の1000万円を大幅に上回り、2カ月で2933人から約4232万円を集め、予想を遥かに超える期待と共感を得た。この資金で基盤を固め、持続可能な活動を目指す。
DEEP DIVEの特徴は三つある。①衛星画像や公開情報を用いた透明な分析を行い、反証可能な根拠を示す。②軍事や安全保障だけでなく、建設や地域研究など多様な専門家の知見を集める「議論のハブ」として機能。③政府、民間、地方自治体をつなぐ情報共有の橋渡し役を担う。例えば、中国ウイグル地区の謎の穴の衛星画像を公開し、一般や専門家から情報を募ることで、ネットワーク型の分析を推進。こうした形態は、英国の「ベリングキャット」に着想を得た、日本独自のオープンなインテリジェンスの形だ。
設立の背景には、日本の安全保障情報が英語圏のシンクタンク(例:ストラトフォー)に依存し、政府の機密情報が民間や地方自治体に共有されない課題がある。さらに、2022年のウクライナ戦争を日本のロシア研究コミュニティが予期できなかった反省も動機となっている。DEEP DIVEは、資金とやる気さえあれば入手可能な衛星情報や電波情報(ELINT・SIGINT)を活用し、自治体や民間企業が危機管理や避難計画に使える「実践的な情報」を提供する。

非営利の一般社団法人として運営し、東京海上ディーアールとの業務提携など、持続可能なビジネスモデルを構築中だ。事務作業に苦労しながらも、支援者には「安全保障の一口株主」としての当事者意識を促し、セミナーや会員制度を通じて「会いに行ける情報機関」を目指す。安全保障を国家や専門家だけのものではなく、市民が参加できる身近なものに変える挑戦として、危機感と新しい可能性への期待を背景に活動を展開。支援者からの激励や参加意欲も、DEEP DIVEの理念が広く共鳴していることを示している。

この記事は、元記事の要約です。元記事は、三人の鼎談ですが、その鼎談を元に新聞記事風にまとめたのが、この記事です。

【私の論評】情報革命の衝撃:民間インテリジェンスが切り開く日本の安全保障とコロナ起源の真実

まとめ
  • 情報革命と民間インテリジェンス:インターネットの普及と衛星画像の低コスト化がOSINTを進化させ、DEEP DIVEのような民間インテリジェンス機関の設立を後押し。情報収集の民主化が個人や民間団体の分析を可能にした。
  • インターネットの力:2000年代のSNS(Facebook、Twitter)やWeb 2.0により、リアルタイム情報が増加。2011年のアラブの春やベリングキャットのMH17調査は、OSINTの統合力を示す。
  • 衛星画像の進化:民間衛星(Ikonos、Planet Labs)の発展で、衛星画像が手頃に。2021年の中国ミサイルサイロ発見やウクライナ紛争での活用は、市民参加の安全保障分析を証明。
  • 民間インテリジェンスとラボリーク説:Stratfor、Jane’s、東京海上ディーアールが民間インテリジェンスのモデルを提供。DRASTICやXコミュニティはWIVの不透明性を暴き、ラボリーク説を推進。トランプ政権の2025年サイトはOSINT成果を反映。
  • 民間インテリジェンスの未来:民間機関は政府の機密情報の限界を補い、透明な情報で危機管理を支援。市民参加で安全保障を身近にし、英語圏依存を打破。民主的議論と迅速な危機対応を可能にし、日本独自のプラットフォームを築く。
DEEP DIVEのような民間インテリジェンス機関の誕生は、情報革命の最前線に立つ日本の挑戦だ。インターネットの爆発的な普及によるオープンソース・インテリジェンス(OSINT)の進化、衛星画像の驚くべき入手しやすさ、そして既存の民間インテリジェンス機関の成功モデルが、この新たな動きを後押ししている。これらは情報を民主化し、国家や大企業だけでなく、個人や民間団体にも高度な分析の扉を開いた。

インターネットと衛星画像:情報の民主化

中国の夜の照明を捉えた衛星写真 これでGDPが推測できるという・・・・

インターネットの普及は、OSINTを革命的に変えた。ニュース、SNS、公式文書、動画を分析するOSINTは、1990年代までは新聞や書籍に頼るしかなかった。しかし、2000年代のWeb 2.0、2004年のFacebook、2006年のTwitter(現X)の登場で、情報は爆発的に増え、誰もがリアルタイムで発信・入手できるようになった。

Statistaによると、2022年のSNSユーザーは46億人、2025年時点でインターネットユーザーは世界人口の75%に迫る。2011年のアラブの春では、市民がTwitterやYouTubeで抗議の映像を公開し、研究者が瞬時に情勢を分析した。ベリングキャットは2014年のマレーシア航空MH17便撃墜事件で、SNS写真とGoogle Earthを駆使し、ロシアの関与を暴いた。この手法は、軍事や文化の壁を越えて情報を統合する力を示す。

衛星画像の進化も見逃せない。かつては軍事機密か大金の必要な衛星画像が、2000年代以降、民間衛星産業の飛躍で手の届くものに変わった。1999年のIkonos打ち上げを皮切りに、Planet LabsやMaxar Technologiesが低コスト・高解像度の画像を提供。2020年代には、1シーン数万円のサブスクリプションで個人でも購入可能だ。

合成開口レーダー(SAR)の進化で、夜間や悪天候でも撮影でき、カナダのRADARSAT-2は2022年のウクライナ紛争で民間にデータを供給した。2021年、OSINTコミュニティが中国の核ミサイルサイロ拡張を衛星画像で突き止め、IEEE Spectrumは「衛星は安全保障の新境地」と評した。北朝鮮の軍事基地や中国の不審な施設を衛星画像で分析する例は、市民参加の力を示す。衛星画像の価格は、リアルタイム監視で数十億円、月次レポートで数億円、簡易レポートなら数千万~数百万円と用途に応じて選べる。

民間インテリジェンスとラボリーク説

コロナウイルスの写真と模式図

既存の民間インテリジェンス機関は、新たな道を照らす。米国のStratforは1996年設立のシンクタンクで、地政学リスクを公開情報と人的ネットワークで分析。2001年の9.11テロや2011年のリビア内戦を予測し、企業や政府に重宝される。日本の商社がStratforに頼る現状は、英語圏依存の壁を浮き彫りにする。

英国のJane’s(現Janus Intelligence Services)は軍事情報の権威で、衛星画像や公開情報を基に、兵器や軍事施設のレポートを販売。日本の民間インテリジェンス機関としては、東京海上ディーアール株式会社のリスクマネジメント部が挙げられる。リスク評価や危機管理サービスを提供し、地政学リスク分析に取り組む。日本の民間インテリジェンスは欧米に比べ小規模だが、東京海上ディーアールは商業的補完として機能する可能性がある。これらの機関は、OSINTや衛星情報の商業的可能性を示し、持続可能な道筋を指し示した。

ベリングキャット以外のOSINTグループでは、DRASTIC(Decentralized Radical Autonomous Search Team Investigating COVID-19)がラボリーク説を強く推し進めた。2020年春に結成されたこの分散型グループは、専門家とアマチュアがXや公開データベースを駆使し、武漢ウイルス研究所(WIV)の研究と安全管理の不備を暴いた。

2021年、WIVが2012年のコウモリコロナウイルス(RaTG13)データを隠していた事実を突き止め、ラボリーク説の根拠とした。2025年2月のル・モンドは、DRASTICの調査がWHOや米国政府を動かし、「陰謀論」から真剣な議論へと転換したと報じた。匿名メンバー「The Seeker」は、WIVの2018年機能獲得研究計画を公開。2023年、米国エネルギー省やFBIがラボリーク説を支持する一因となった。

DRASTICは武漢市場の動物感染証拠の欠如を強調し、2022年のScience誌の動物起源説に反論したが、状況証拠への依存や科学的検証の不足で批判も浴びた。XやRedditの非公式OSINTコミュニティもラボリーク説を後押しした。2020年以降、武漢の病院やWIV周辺の衛星画像、交通データを分析。2019年秋の異常な活動(駐車場の混雑増加)を指摘した。

ハーバード大学の2021年研究は、衛星画像と検索データで2019年秋の感染開始を示唆し、ラボリーク説の間接的証拠となった。Redditのr/OSINTでは、WIVの資金やEcoHealth Allianceとの関係を追う議論が盛んだ。匿名Xユーザーが2019年9月のWIVデータベースオフライン化を発見し、DRASTICが拡散。2021年のニューヨーク・タイムズや2023年の米国議会報告書に影響した。しかし、科学的証拠の不足や政治的バイアスの懸念から、主流科学界では懐疑的な見方が強い。

トランプ政権のラボリーク説サイトと民間OSINTの輝かしい貢献


2025年4月、トランプ政権はCovid.govを「Lab Leak: The True Origins of COVID-19」(写真上)と題したウェブサイトに刷新した。このサイトは、コロナウイルスが武漢の研究所から漏洩したとするラボリーク説を力強く主張。ニューヨーク・タイムズによると、サイトはWIVの安全性問題や機能獲得研究を強調するが、新たな直接的証拠は提示していない。

民間OSINTグループの貢献は、このサイトの基盤を築いた輝かしい成果だ。DRASTICやX上のコミュニティは、WIVのデータ不透明性や2019年秋の異常活動を丹念に掘り起こし、ラボリーク説に説得力を持たせた。DRASTICが発見したRaTG13データの隠蔽やデータベースのオフライン化は、サイトの「自然起源の証拠がない」という主張に直接反映されている。XやRedditのOSINT愛好家は、衛星画像や交通データからWIV周辺の異変を指摘し、ハーバード大学の2021年研究を支えた。これらの努力は、市民の情熱と技術が、従来の政府や科学界が見過ごした可能性を浮かび上がらせた好例だ。

トランプ政権のサイトは、民間OSINTの成果を広く世に知らしめる役割を果たした。ベリングキャットやDRASTICの手法がなければ、こうした議論はここまで広がらなかった。CIAやFBIが「低信頼度」でラボリーク説を支持する背景にも、OSINTコミュニティの地道な調査がある。政治的色合いや証拠の限界が議論されるが、民間OSINTは、透明性と市民参加を通じて、真実追求の新たな道を切り開いている。

民間インテリジェンスの未来

2022年のウクライナ侵攻では、Maxarの衛星画像がロシア軍の動きを可視化し、SAR画像が戦術的失敗を露呈。2022年1月のトンガ火山噴火では、日本の気象衛星「ひまわり」が噴煙を捉え、災害時の衛星画像の即時性を示した。報道実務家フォーラム(2021年)で、ロイターのクリスティン・チャン氏は衛星画像を「報道の武器」と位置づけた。

インターネットと衛星画像の進化は、情報収集を市民の手に委ねた。XやTelegramはリアルタイム情報共有を可能にし、衛星画像の低コスト化は民間での地政学リスク監視を現実のものにした。政府の機密情報が民間や地方に届かない課題を、民間機関は透明な情報で埋める。

民間インテリジェンス機関の活動は、現代の安全保障に欠かせない意義を持つ。政府の情報は機密に縛られ、民間や地方自治体に届かない。

民間機関は、透明な情報で危機管理や住民避難を支え、英語圏依存の日本の現状を打破する。市民を巻き込み、安全保障を身近にすることで、民主的な議論を呼び覚ます。政府の限界を補い、多様な知見を結集して迅速な危機対応を可能にするのだ。民間インテリジェンスは、情報収集の民主化を体現し、日本独自の安全保障プラットフォームを築く先駆者として、未来を切り開く。

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2025年4月28日月曜日

中台で情報戦激化の様相…中国が台湾のサイバー部隊を名指し非難—【私の論評】中台サイバー戦争の最前線:台湾侵攻より現実的なデジタル戦の脅威

中台で情報戦激化の様相…中国が台湾のサイバー部隊を名指し非難

まとめ
  • サイバー空間での情報戦の激化: 現代の情報戦はサイバー空間が主戦場となり、中国と台湾の間で対立が激化。中国国家安全省が台湾国防部所属の4人をサイバー攻撃関与者として特定し、氏名やIDを公開する異例の措置を取った。
  • 台湾のサイバー部隊と中国の牽制: 台湾は2017年にサイバー専門部門を設立し、中国への情報窃取や破壊工作を行ったとされるが、中国はこれを阻止したと主張。台湾の軍事審判制度復活への対抗として、中国は情報公開で能力を誇示。
  • 中国のサイバー戦能力と警告: 中国はサイバー戦部隊を強化し、台湾の民進党政権を「台湾独立を目論む」と非難。情報公開は台湾当局や住民への威嚇と国内監視強化を意図し、情報戦の緊張の高まりを示す。

現代の情報戦は、かつてのスパイ活動とは異なり、サイバー空間が主戦場となっている。元RKB解説委員長の飯田和郎氏が4月28日のRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で解説したところによると、中国と台湾の間で情報戦が激化している。中国国家安全省は、台湾国防部所属の4人を中国へのサイバー攻撃に関与したとして特定し、氏名、顔写真、台湾のIDナンバーまで公開する異例の措置を取った。

台湾は2017年にサイバー専門部門を設立し、中国への機密情報窃取や破壊工作、反プロパガンダ活動を行ったとされるが、中国はこれを全て阻止したと主張。中国は台湾の軍事審判制度復活への牽制として情報を公開し、情報収集力とサイバー戦能力を誇示。日本の防衛白書によると、中国のサイバー戦部隊は強化されており、台湾の民進党政権への警告と国内市民への監視強化も意図している。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】中台サイバー戦争の最前線:台湾侵攻より現実的なデジタル戦の脅威

まとめ
  • 中台間の情報戦はサイバー空間で激化し、中国が2025年3月に台湾のサイバー部隊4人を名指し公開、情報収集力と威嚇を示す。
  • 台湾の2017年設立のサイバー部隊が中国への攻撃を仕掛けたとされるが、中国は阻止と主張。台湾の軍事審判制度復活への牽制が背景。
  • 2024年、台湾へのサイバー攻撃が倍増(1日240万件)、重要インフラを標的に。中国のグレーゾーン戦術と偽情報キャンペーンが民主プロセスを脅かす。
  • 台湾侵攻はノルマンディー上陸作戦を上回る困難さで非現実的。サイバー戦は低コストかつ即効性が高く、現実的な脅威。
  • 地政学的対立と技術進化がサイバー戦争を加速。インド太平洋の安全保障に影響し、国際的なサイバーセキュリティ基準と台湾支援が急務。
台湾軍の「資通電軍(情報電子戦軍)指揮部」

現代の情報戦は、サイバー空間を舞台に中台間で火花を散らす。中国国家安全省が2025年3月、台湾国防部の情報通信電子戦司令部(ICEFCOM)に属する4人をサイバー攻撃の首謀者として名指し、氏名、顔写真、IDナンバーを公開した。この大胆な行動は、中国の情報収集力の凄まじさを示し、台湾の当局や民衆を震え上がらせる狙いがある。台湾はこれを「でっち上げ」と一蹴し、対決姿勢を鮮明にする。
台湾は2017年にサイバー専門部隊を立ち上げ、中国への機密窃取や破壊工作、反プロパガンダを仕掛けたと中国は主張する。中国はこれをことごとく跳ね返したと豪語するが、その裏には台湾の頼清徳総統がスパイ防止策として軍事審判制度を復活させたことがある。中国の情報公開は、この動きへの強烈な牽制だ。日本の2024年防衛白書によれば、中国のサイバー戦部隊は3万人規模で再編された可能性があり、その力は侮れない。
2024年、サイバー戦争は新たな段階に入った。台湾国家安全局の報告では、2024年に政府ネットワークへのサイバー攻撃が1日240万件に激増し、前年の2倍に達した。これらは中国の国家支援ハッカーの仕業で、政府だけでなく通信、交通、防衛関連の基盤を狙う。フィッシングやDDoS攻撃が猛威を振るい、中国の軍事演習時には台湾の交通や金融への嫌がらせが急増した。台湾は多くの攻撃を防いだが、中国の執拗な攻勢は脅威そのものだ。
「Anonymous 64」を伝える中国の英語メディア
中国は台湾のハクティビスト集団「Anonymous 64」を名指しで非難し、軍関係者3人の個人情報を暴露。この集団が中国の電力網や通信網を攻撃したと糾弾する。台湾はこれを中国のプロパガンダと切り捨て、逆に自らが攻撃の標的だと訴える。中国のグレーゾーン戦術も過熱する。2025年4月の「海峡雷霆-2025A」演習では、東シナ海で実弾演習を繰り広げ、台湾のエネルギー施設や港湾への模擬攻撃動画を公開。TikTokを通じた偽情報や反米プロパガンダが台湾のソーシャルメディアを席巻し、民衆の信頼を揺さぶる。
台湾はICEFCOMを中心にサイバー戦を強化する。1000人の精鋭が中国の軍事システムに侵入し、ミサイル追跡に成功。侵攻時には同盟国との連携時間を稼ぐ戦略だ。中国のサイバー企業が台湾の「Green Spot」(台湾に拠点を置くサイバー攻撃グループ)による攻撃を指摘するように、台湾の力は中国の防衛計画を脅かす。
中台の緊張を語る時、台湾侵攻の可能性がよく持ち出される。だが、これはノルマンディー上陸作戦を凌ぐ史上最大の作戦を必要とし、地理的制約や国際的反発を考えれば、すぐには実現しない。対して、サイバー空間の戦いは低コストで即効性があり、物理的リスクもない。軍事インフラの破壊、経済の混乱、国民の動揺を直接引き起こすサイバー攻撃は、はるかに現実的な脅威だ。中国は台湾の基盤や民主プロセスを狙い、戦わずして優位を握ろうとする。
史上最大の作戦 ノルマンディー上陸作戦
この激化の根底には、地政学的対立と技術の進化がある。頼清徳の独立志向や米国の台湾支援が中国の警戒心を煽り、AIや偽情報の活用で攻防は高度化する。サイバー攻撃は軍事から心理戦、経済戦へと広がり、台湾の団結と安定を切り崩す。中国の情報公開や演習連動の攻撃は、台湾への圧力と世界への力の誇示だ。一方、台湾のサイバー強化は中国の侵攻意図への抑止力となる。

この対立は、インド太平洋の安全保障を揺さぶる。米国や日本の関与が欠かせない。サイバーセキュリティの基準確立と台湾の支援は急務だ。中台のサイバー戦争は、民主主義と地域の安定を賭けた闘争だ。物理的侵攻が非現実的な今、サイバー空間こそ台湾の存続と平和を脅かす主戦場である。国際社会は結束し、ルール作りと防御力強化に動くべきだ。台湾の抵抗力と地域の未来を守る支援策が、今、求められている。

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