2025年4月11日金曜日

未来に生まれた偽の人々が失業給付金を受け取る:DOGE―【私の論評】トランプの「どぶさらい」が暴く550億円詐欺!日本は?

まとめ

  • DOGEにより失業保険詐欺550億円が発覚米政府効率化局(DOGE)が、2020年以降の連邦失業給付金で約382百万ドル(約550億円)の詐欺を確認。2154年生まれの人物が4万1000ドルを請求。
  • 不正受給の内訳115歳以上の2万4500人が59百万ドル、1~5歳の2万8000人が254百万ドルを不正請求。イーロン・マスク氏は「制度にチェックがない」と批判。
  • 今後の対応トランプ政権下で設立されたDOGEが税金回収と再発防止策を検討。制度改革が求められる。
トランプ氏は政府がDOGEと協力し人員削減・部客廃止などをすすめるように大統領令に署名していた

米政府効率化局(DOGE)は10日、2020年以降の連邦失業給付金において、総額約382百万ドル(約550億円、1ドル=145円換算)に上る詐欺的な支払いがあったと発表した。驚くべきことに、15年以上の未来の誕生日を持つ約9700人が69百万ドル(約100億円)を受け取っており、2154年生まれの人物が4万1000ドル(約600万円)を請求したケースも確認された。

DOGEの調査によると、不正受給の内訳は以下の通りだ。115歳以上の2万4500人が59百万ドル(約86億円)、1~5歳の2万8000人が254百万ドル(約370億円)を不正に請求していた。米国の最年長者は114歳とされる中、115歳以上の受給者が多数存在することから、死亡者への支払いも含まれているとみられる。

DOGEの共同リーダーであるイーロン・マスク氏は「失業保険には異常な若さや高齢の人々に対するチェックが全くなかった」と指摘し、制度のずさんさを批判した。マスク氏は「政府の無駄を根絶する」と強調しており、今回の調査はその一環だ。

DOGEはトランプ大統領が今年1月に就任後、政府支出の効率化を目指して設立した組織で、マスク氏とヴィヴェック・ラマスワミ氏が主導する。失業保険制度の脆弱性が露呈した今回の事態を受け、さらなる改革が求められている。政府は不正に使用された税金の回収を進めるとともに、再発防止策を検討する方針だ。


この記事は、米国メデイアSUNの元記事を、要約して、新聞記事風に要約してリライトしたものです。詳細をご覧になりたい方は、元記事(英語)をご覧になってください。

【私の論評】トランプの「どぶさらい」が暴く550億円詐欺!日本は?

まとめ
  • 米国で550億円の失業保険詐欺が発覚:DOGEが暴いた不正は総額550億円。2154年生まれの人物が4万1000ドルを請求するなど、死者や幼児への給付が明らかになり、制度のずさんさが露呈。
  • 米国社会の反応が分かれる:民主党系団体が「弱者への給付制限」と抗議する一方、保守派は「バイデン政権の不正を暴いた」と評価。DOGEスタッフは「年間数百ビリオンドルの詐欺」と主張し、改革の必要性を訴える。
  • 労働省が強い決意:労働省長官ロリ・チャベス・デレマー氏は「盗まれた税金を回収し、詐欺を根絶する」と断言。DOGEと連携し、不正受給の撲滅に本腰を入れると発言。
  • トランプの「どぶさらい」公約:トランプ氏は2016年と2024年の選挙で「どぶさらい」を掲げ、腐敗と無駄遣いの根絶を約束。ノースカロライナやニューハンプシャーでの集会で支持者の熱狂的な支持を得た。
  • 日本も「どぶさらい」が急務:コロナ禍の給付金不正が300億円、高齢者詐欺被害が500億円に上る日本。Transparency Internationalも汚職対策の遅れを指摘。米国のような大胆な改革で税金の不正使用を根絶すべきだ。
死者が受け取る年金? AI生成画像
米国で発覚した失業保険詐欺は衝撃的だ。総額550億円に上る不正が明るみに出たのだ。米「San.com」(2025年4月10日付)が報じたところによれば、トランプ政権下で設立された政府効率化局(DOGE)がこの詐欺を暴いた。驚くべきことに、2154年生まれという未来の人物が4万1000ドルを請求していた。115歳以上の2万4500人が59百万ドル、1~5歳の2万8000人が254百万ドルを不正に受け取っていたことも判明した。米国の最年長者は114歳だ。死者にまで給付金が流れていた事実に、誰もが目を疑う。

この事態に、米国社会は大きく揺れている。米紙「Washington Examiner」(4月10日付)によると、民主党系の団体「MoveOn」や「Indivisible」が全国で抗議活動を展開している。DOGEの調査が政府サービス削減につながり、弱者への給付が制限されると彼らは懸念する。

一方、保守派の反応はまったく異なる。米保守系メディア「PJ Media」(4月10日付)は、「DOGEの調査はバイデン政権下での意図的な不正を暴いた。トランプ政権の効率化努力の成果だ」と高く評価した。イーロン・マスク氏が「政府の無駄遣いを根絶する」と強調した点を称賛し、「これこそ納税者が求める改革だ」と断言している。

Washington Examiner(同日付)も、DOGEスタッフ7人がFox Newsのインタビューで「政府支出の詐欺は年間数百ビリオンドルに上る」と主張し、保守派の間で「DOGEの取り組みは政府の透明性を高める第一歩」との声が広がっていると伝えた。

労働省の対応も注目を集めている。Washington Examiner(同日付)によれば、労働省長官のロリ・チャベス・デレマー氏は強い決意を示した。「DOGEチームの驚くべき発見だ。約400百万ドルの詐欺的な失業保険支払いが見つかった。労働省は盗まれた税金を回収し、悪質な詐欺を根絶するために全力を尽くす。責任は我々に課せられている」。この発言は、労働省がDOGEと連携し、不正受給の根絶に本腰を入れる方針を示すものだ。

労働省長官ロリ・チャベスデリマー氏

トランプ大統領はこの結果を予見していたのかもしれない。彼は2016年の大統領選挙で「どぶさらい(Drain the Swamp)」を掲げ、政府の無駄遣い根絶を約束した。米紙「The Washington Post」(2020年10月24日付)によると、ノースカロライナ州の集会で「ワシントンでどぶさらいをする」と宣言した際、支持者から「Drain the Swamp!」のチャントが沸き起こった。

2024年の選挙キャンペーンでもトランプ氏はこのスローガンを再び強調した。米「The Guardian」(2025年4月10日付)が報じたところでは、2月のニューハンプシャー州の集会で「ワシントンの腐敗を一掃し、再びどぶさらいを実行する」と訴え、支持者から大きな拍手が湧き上がったという。

2016年のトランプの「どぶさらい」を現したイラスト

日本も目を覚ますべきだ。厚生労働省の発表(2023年3月31日付)によれば、コロナ禍での給付金不正受給が全国で約300億円に上り、2022年度だけで約1万件の不正が発覚した。2021年に大阪府で明るみに出た事例では、架空の事業者を装ったグループが持続化給付金約2億円をだまし取り、逮捕者が出る事態となった(朝日新聞デジタル、2021年6月15日付)。

さらに、国民生活センター(2024年10月1日付)が報告したところでは、高齢者を狙った詐欺被害が急増し、2023年度の被害総額が約500億円に達した。国際的な評価も厳しい。

Transparency Internationalの「腐敗認識指数」(2021年1月28日付)では、日本は世界19位(スコア73)と比較的高い評価を得ているが、アジア太平洋地域全体で「汚職対策が進展していない」と指摘されている。政府の不正摘発体制の強化が求められているのだ。日本も米国のような大胆な「どぶさらい」を急ぎ進め、税金の不正使用を根絶する取り組みを本格化させるべきだ。国民の信頼を取り戻すため、今こそ行動する時である。

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2025年4月10日木曜日

米国は同盟国と貿易協定結び、集団で中国に臨む-ベッセント財務長官―【私の論評】米のCPTPP加入で拡大TPPを築けば世界貿易は変わる? 日本が主導すべき自由貿易の未来

 米国は同盟国と貿易協定結び、集団で中国に臨む-ベッセント財務長官

まとめ

  • EUの中国へのシフトは「自らの首を絞めるようなもの」
  • ベッセント氏「中国は国際貿易システムにおいて最悪の違反者」
ベッセント米財務長官

 ベッセント米財務長官は9日、同盟国と貿易協定を結び、その基盤を固めた後に、グループとして中国に対して不均衡な貿易構造を是正するよう求める構想を示した。ワシントンでの講演後、同氏は同盟国との合意が実現可能と述べ、経済面での連携強化を強調した。

 一方で、EUが米国から離れ中国に接近することに警告を発し、特にスペインがその動きを支持していると指摘、「自らの首を絞める行為」と批判した。中国を国際貿易システムの「最悪の違反者」と呼び、人民元の連続切り下げに対抗し、世界各国が関税引き上げで影響を相殺せざるを得ないと主張した。また、日米協議が間もなく始まるほか、ベトナム、韓国、インドとの貿易交渉が進行中であることを明らかにした。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧ください。

【私の論評】米のCPTPP加入で拡大TPPを築けば世界貿易は変わる? 日本が主導すべき自由貿易の未来

まとめ
  • 米国の関税戦略と自由貿易の矛盾:米国は2018年に中国や鉄鋼製品に高関税を課し、2025年現在もEUとの報復関税が続くなど保護主義的だが、関税を中国の不公正な貿易慣行(人民元切り下げ、補助金)を是正する交渉ツールとして活用し、自由貿易を模索している。
  • ベッセント氏の構想とTPPの可能性:ベッセント財務長官は同盟国と協定を結び中国に対抗する構想を示し、これは米国主導のTPP(現CPTPP)に似た枠組みを想定しているとみられる。日本主導のCPTPPは高水準なルールで2025年時点で世界GDPの13%を占め、米国の目標と合致する。
  • IPEFの限界:2022年発足の米主導のIPEFは関税削減を含まず、貿易分野の実効性に疑問。インドが2022年に貿易分野への参加を見送った事例は、経済的魅力の薄さを示す。
  • CPTPPの拡大と世界貿易ルール:米国がCPTPPに加入すれば、日本や英国ら同盟国と公正な貿易体制を構築でき、ルールを世界標準に拡大可能。WTOが中国加入(2001年)で失敗した補助金や市場歪曲の是正を繰り返すべきではない。
  • 日本の主導性と柔軟な運用:米国はCPTPP加入後、関税などの必要性があると判断すれば離脱など柔軟な運用が可能だ。しかし米国流の協定に偏るのを防ぐため、日本が主導権を握り米国を引き込むべき。

2018年トランプ大統領は、中国に関税を課した

米国は関税を積極的に課してきた国だ。2018年には中国製品に最大25%の関税を課し、鉄鋼やアルミニウムにも追加関税を導入した。2025年現在、EUが米国製品に210億ユーロの報復関税を承認し、4月中旬から一部が発効する予定だ。一見、自由貿易を推進する姿勢と矛盾しているように見える。しかし、米国は関税を単なる保護主義ではなく、戦略的な交渉ツールとして活用している。

中国の人民元切り下げや補助金政策など、不公正な貿易慣行を是正し、公正な競争環境を作るのが目的だ。ベッセント財務長官は同盟国と貿易協定を結び、集団で中国に対抗する構想を示している。これはかつて米国が主導した「環太平洋パートナーシップ協定(TPP)」に似た形を想定している可能性がある。TPPは2016年に12カ国で署名されたが、2017年にトランプ政権が離脱。現在は日本が主導し、「包括的及び先進的な環太平洋パートナーシップ協定(CPTPP)」として2018年に発効し、11カ国で運用されている。

2018年TPP発効

一方、米国が2022年に始めた「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」もある。14カ国(日本、オーストラリア、インドなど)が参加し、貿易、サプライチェーン、クリーンエネルギー、公正経済の4分野で構成されている。2025年現在、サプライチェーン協定が2023年に署名され、2024年にはクリーン経済協定が発効した。しかし、貿易分野は関税削減を含まず、従来の自由貿易協定とは異なる。

実効性に疑問符がつくのも当然だ。過去のTPPやNAFTAは関税削減で市場を開放し、経済効果を生んできたが、IPEFにはそれがない。参加国にとって経済的魅力が薄いとされ、インドは2022年の発足時に貿易分野への参加を見送り、「具体的な利益が見えない」と表明した。これは関税削減がない枠組みの限界を示している。

対照的に、TPPは米国離脱後、日本が引き継いだ。今のCPTPPは知的財産保護、労働基準、環境規制といった高いルールを備えた最先端の協定だ。日本、英国、オーストラリア、シンガポールなど、米国の主要な同盟国が名を連ね、2025年時点で経済規模は13兆ドル、世界GDPの13%に達する。日本は2017年の米国離脱後、11カ国をまとめ、わずか1年で発効にこぎつけた。英国も2023年に加盟し、CPTPPはアジア太平洋を超えて拡大している。

ここで私の意見だ。米国はCPTPPに加入し、拡大TPPを構築すべきだ。日本や英国といった信頼できる同盟国と組めば、公正な自由貿易の体制を迅速に作れる。CPTPPの高水準なルールは中国を牽制し、補助金で優遇される国有企業への規制はベッセント氏の「不均衡是正」の目標とも一致する。

さらに視野を広げよう。米国が加われば、CPTPPを基盤に貿易ルールを拡大し、実質的な世界標準にできる。これは、条件を満たさない中国を加入させたWTOの失敗を繰り返さないためだ。WTOは1995年に発足し、2001年に中国を受け入れたが、補助金や市場歪曲が是正されず、米中対立の火種となった。2020年のWTO総会で米国が中国の「発展途上国」待遇に異議を唱えたが、改革は進まず、機能不全に陥っている。

2001年 中国のWTO加入 調印式

米国はTPPに加入しつつ、関税を課したくなれば脱退するような柔軟な運用も可能だ。NAFTAからUSMCAへの移行(2018年)や、TPP離脱(2017年)を大統領令で即実行した実績がある。協定を維持しつつ自国優先の政策を進められる。CPTPPに入り、必要なら関税を課し、状況次第で抜ける選択は、ベッセント氏の「米国中心の経済圏」と整合し、既存の枠組みを効率的に使う道だ。

米国は歴史的にGATTやWTOで自由貿易を推進してきたが、農産物補助金で国内を守る二面性も持つ。今の「選択的自由貿易」もその延長だ。しかし、関税の多用は日本やEUの不信を招き、ベッセント氏の「経済面で完璧でない同盟国」という言葉は、その軋轢を認めている。

米国がCPTPPに加入し拡大すれば、こうした衝突を減らし、時間も節約できる。国内の保護主義や「アメリカ第一主義」が壁だが、公正で強固な貿易秩序は米国と同盟国の長期的な利益になる。成功は同盟国との連携と中国の対応にかかっている。だが、黙っていれば米国流の、米国に都合の良い新たな米国主導の協定ができる可能性がある。それではCPTPPの加盟国や加盟を目指す国々が求める公正な貿易ではない。日本よ、動け! 主導権を握り、米国を引き込んでくれ!

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2025年4月9日水曜日

「AppleはiPhoneを米国内で製造できる」──トランプ政権―【私の論評】トランプの怒りとAppleの野望:米国製造復活の裏で自公政権が仕掛ける親中裏切り劇

 「AppleはiPhoneを米国内で製造できる」──トランプ政権


まとめ
  • 米連邦政府報道官キャロライン・リービットは4月8日の記者会見で、Appleが中国で製造するiPhoneを米国で生産可能と述べ、中国への関税引き上げを発表。
  • トランプ大統領は製造業雇用増加と技術・AI分野での主導権を目指し、米国には労働力と資源があるとし、Appleの5000億ドル投資を根拠に製造可能性を強調。

 米連邦政府のキャロライン・リービット報道官は4月8日の記者会見で、Appleが主に中国で製造しているiPhoneを米国で生産可能との見解を示した。中国への関税引き上げが同日24時1分から発表され、トランプ大統領が製造業雇用を増やし、技術・AI分野での主導権を目指していると説明。

 米国にはiPhone製造を移転できる労働力と資源があるとし、Appleの米国への5000億ドル投資を根拠に、製造が不可能ならそのような投資はしないだろうと語った。

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【私の論評】トランプの怒りとAppleの野望:米国製造復活の裏で自公政権が仕掛ける親中裏切り劇

まとめ
  • Appleの5000億ドル投資とMac Proの米国生産が、リービット報道官の「iPhoneを米国で製造可能」という主張を裏付ける。トランプ政権はFoxconnのウィスコンシン計画など、製造業復活を目指す動きを見せる。
  • 米国は過去のグローバリズムの失敗を繰り返さず、経済・国家安全保障のために製造力を取り戻しつつある。中国依存は緊急時の弱点となり、Appleの動きはその第一歩だ。
  • 現実には、中国の効率的なサプライチェーンやコスト優位性が壁だが、政策支援があれば中長期的に米国でのiPhone製造は可能。造船業でも設計や新型の研究開発は優れるが大量生産体制が不足。
  • 第二次大戦中の米国は「リバティ船」量産で勝利を掴んだが、今は知識優位でも大量生産が弱い。トランプ政権は関税などでこの危機を打破しようとしている。
  • トランプ氏は日本を「貿易で不当に扱う」と批判し、特に「中国との関係を変えろ」と警告(https://truthsocial.com/@realDonaldTrump/114296909356614075)。にもかかわらず、公明党代表は首相の親書を携え22日訪中するという。親中姿勢は米国の信頼を裏切り、日本を危険に晒す愚行だ。

アップル本社「アップル・パーク」

Appleの米国への5000億ドル投資が、キャロライン・リービット報道官の言葉を裏付ける決定的な証拠だ。テキサス州で新しいキャンパスを建て、米国の部品業者に発注を増やすなど、その動きは本物だ。2018年、Appleは5年間で3500億ドルを米国に注ぎ込むと宣言し、製造にも一部が使われている。「もし米国でモノが作れないなら、こんな巨額を投じるはずがない」とリービット氏は言い切る。

Appleが本気で米国での製造に乗り気だと誰もが思うだろう。米国には、優れた技術を持つ労働者と、半導体や部品を作る基盤が揃っていると彼女は断言する。事実、Appleは2019年からテキサスでMac Proの一部を組み立てている。これは、iPhoneのような複雑な製品も米国で作れるという証明だ。

トランプ政権下での製造業の復活劇も見逃せない。Foxconnがウィスコンシン州で工場を計画した例は、たとえ規模が縮小したとしても、米国でのモノづくりを本気で取り戻そうとする動きそのものだ。iPhoneだって、政策が後押しすれば米国で作れる。そんな可能性が目の前にある。

テキサス州オースティンでフレックスが運営する工場 マックプロも組み立てている

この考えは、米国がiPhoneを中長期的には自国で組み立てるのが正しい道だという信念に直結する。かつてのグローバリズムの過ち、つまり海外に製造を丸投げしたせいで国が弱体化した現実を、米国はもう繰り返さない。経済効率だけを追い求めるなら、設計やデザイン、新規開発だけやって、製造は中国に任せればいい。

だが、それでは緊急時にモノが作れず、中国の脅しに屈するしかない。経済安全保障も国家安全保障も、米国でのモノづくりなしには守れない。Appleの投資やMac Proの生産実績は、その第一歩だ。リービット氏が胸を張って言う「労働力と資源」が、こうした安保の危機感を支えている。

だが、現実は甘くない。iPhoneの製造は、中国の完璧に整ったサプライチェーンに依存している。労働コストや効率で、米国がすぐに追い抜くのは難しい。Foxconnのウィスコンシン計画が期待外れに終わったように、大きな移転には時間も金もかかる。5000億ドルの投資だって、製造工場に直結するものばかりではなく、研究や小売に流れている可能性もある。それでも、政策の後押しがあれば、iPhoneを米国で作るというリービット氏の主張は現実味を帯びる。完全な移転は簡単ではないが、長い目で見れば、米国の産業を強くする道は開けている。

この発想はiPhoneだけに留まらない。造船業を見れば、その深刻さがよく分かる。かつて海洋を支配した米国の造船力は、今や中国に遠く及ばない。iPhoneと同じだ。新型艦艇の設計や研究では米国が圧倒的に勝るが、大量生産の体制がまるで整っていない。第二次世界大戦中の米国は、今とはまったく違う。最先端の技術と大量生産の力を両立させていた。

例えば、米国は「リバティ船」(貨物船)を2週間足らずで1隻作り、1941年から1945年までに2710隻を量産した。あの製造力こそ、米国を勝利に導いた切り札だった。だが、今の米国は知識では勝っていても、大量生産ができない国に成り下がりつつある。この危機を打破しようと、トランプ政権は動く。アップルも米国内で何も大量生産できないというのであれば、いままではそれが大きな利益を生んでいたが、今後はそうではないことを悟ったのだろう。

リバティ船の1つ「ジョン・W・ブラウン」 戦時仕様のため、船頭と船尾に砲を備えている

米国はたとえ短期的には経済が縮小しても、製造力を取り戻す腹だ。2018年の鉄鋼・アルミニウム関税は、国内産業を守り、海外依存を減らすための明確な一撃だった。日本は幸いなことに、グローバリズムによって産業構造が歪になった面はあったものの米国ほど製造業の製造基盤が失われることはなかった。しかし、対中依存はかなり強まった。それに産業界は、未だ今後の世界がどうなかについて、見通しを持っていないのだろう。

トランプ氏は日本の動きにも目を光らせている。石破首相との会談後、Truth Social(トランプ氏のSNS)でこう吠えた。「日本は貿易で米国をひどく不当に扱ってきた。彼らは我々の車を受け入れないが、我々は彼らの車を何百万台も受け入れる。農業や他のモノも同じだ。全てを変える必要がある。特に中国との関係は変えなければならないhttps://truthsocial.com/@realDonaldTrump/114296909356614075 

なぜか、太字の部分が、日本の主要メデイアでは、カットされたりその意味あいを報道しない傾向が強いが、これはかなり重要である。日本の親中姿勢への痛烈な警告だからだ。

なのに、日本政府の行動は信じがたい。公明党の斉藤鉄夫代表が4月22日から北京を訪れ、石破首相の親書を習近平に渡すという。中国共産党や政府の要人と会い、経済交流の強化を訴える予定だと報じられている。

トランプ氏の警告を無視し、米国の戦略に真っ向から逆らう愚行だ。日本政府のこの対応は、徹底的に批判されて当然だ。トランプ氏が言うように、その個々の是非はともかく日米の貿易不均衡は長年の問題だ。そうして日本の対中依存は、米国にとって地政学的な脅威そのものだ。米国が中国包囲網を築く中、日本が親中路線を突き進むのは、同盟国への裏切り以外の何物でもない。

石破政権と公明党は、目先の経済的利益に目がくらんでいるのかもしれない。だが、長期的には米国の信頼を失い、日本の安全保障を自ら危険に晒す行為だ。もし米国が日本に経済制裁や関税強化を突きつければ、日本経済は大打撃を受ける。中国との経済交流を深めれば、技術流出や経済的従属が進み、いざという時に日本が自立できなくなる。

第二次大戦時の米国の製造力を目指すトランプ政権の戦略を、日本が無視するのは歴史の教訓を踏みにじる行為だ。造船を含む安保の課題に立ち向かう米国と、Appleの事例をモデルに産業を復活させる動きは、中長期的な製造回帰の正しさを証明している。日本政府は目を覚ますべきだ。米国の同盟を軽視し、中国にすり寄る道は、日本を滅ぼす一歩にしかならない。

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アメリカとの関税交渉担当、赤沢経済再生相に…政府の司令塔として適任と判断


政府は8日、米国による関税措置見直しの対米交渉担当に赤沢経済再生相を任命した。赤沢氏は石破首相の側近で、米国との包括的協議に適任とされる。林官房長官は、首相が赤沢氏の手腕や経験を考慮して決定したと説明。

これまで交渉は武藤経済産業相が担ってきたが、今後は農産品関税など省庁横断的な対応が必要なため、司令塔となる閣僚の設置が求められていた。過去のTPPや日米貿易協定交渉で経済再生相を担当した前例も理由とされる。赤沢氏は鳥取県選出で当選7回、内閣府副大臣や財務副大臣を歴任。

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【私の論評】石破vsトランプ関税:日本がTPPで逆転勝利を掴む二段構え戦略とは?

まとめ
  • 石破首相は7日、トランプとの電話会談で対立を避け、トランプ関税を批判しつつ、日本が対米投資大国であることを主張し、関係維持に努めたが、具体的な方針や戦略を示さず、丸投げ状態だ。
  • トランプ関税は中露などの貿易ルール無視する国々やこれに追随する国々への対抗策であり、米国は内需強化で対抗する。日本が主導するTPP(CPTPP)は厳格なルールでこれらを締め出し、米国にも利益をもたらすチャンスだ。
  • 日本はTPPを拡大し、2023年に英国加盟で勢力を広げた。トランプ関税で米国が孤立すれば、CPTPPの価値が上がり、日本は自由貿易のリーダーとして地位を固められる。
  • 短期的には消費税廃止や米国の原潜・企業買収で貿易不均衡を是正し、長期的にはTPPで世界のルールを握る二段構えが有効だ。米国との関係悪化リスクはあるが、実行力次第で勝機がある。
  • 石破の曖昧な対応は問題だ。8日の総合対策本部で赤沢経済再生相を任命したが、明確な戦略がない。成功には石破政権を終わらせ、実行力あるリーダーが必要だ。


石破首相が7日、トランプ大統領と電話会談をした。石破は、対立は避け、双方の利益を第一に考え、具体的な交渉カードは出さなかった。米国の勝手な関税に文句を言いながらも、日本が対米投資の大国であることを主張し、協調こそが正解だと訴えた。会談後、「率直で建設的な話し合いを続ける」とした。政府内ではトランプとの関係をぶち壊すまいと慎重な声が強い。交渉のスタートラインに立てただけで「十分な収穫」と胸を張る。8日には総合対策本部を開き、今後の方針を固めるつもりのようだ。

だが、ここで問題だ。石破はトランプにも、国内にも、何一つハッキリした方針を示していない。包括的な「パッケージ」の話は出たが、それがどんな狙いか、どんな戦略か、全く分からない。細かい中身を今すぐ明かせとは言わない。だが、どんな方向性で米国に差し出すのか、その大枠くらいは示すべきだ。これでは、トランプとの電話も、国内の会議も、ただの丸投げだ。トランプは選挙戦から関税を叫び続けている。大枠の対策を考える時間は山ほどあったはずだ。

一方で、トランプ関税を日本にとって全部悪いと決めつけるのも馬鹿げている。TPPを引っ張る日本にとって、これはまたとないチャンスだ。中国やロシアがWTOの貿易ルールを無視し、他の国もそれに便乗する。そんな無法地帯にトランプが関税で鉄槌を下す。中国はWTOに入っても補助金やパクリをやめず、2023年の報告書でもボロクソに叩かれた。

日本国内でも、いまだにパクリをやっている。ロシアもクリミア併合以来、制裁を出し抜いてきた。米国は2018~19年、2500億ドル分の中国製品に25%の関税をかけ、その結果製造業雇用を1.4%増やした。内需を鍛える作戦だ。

対して、日本が旗振り役をすTPP(今はCPTPP)は貿易ルールがガチガチだ。2018年の発効以来、デジタル貿易や労働基準を厳格に定め、違反したら即アウト。中国やロシアは今のままじゃ入れない。他の国もルールを破れば蹴り出される。TPPが世界のルールになれば、無法者は締め出され、米国も得する。不公平な取引を潰し、関税に頼らず済むからだ。

日本には勝機がある。米国が2017年にTPPを抜けた後、日本はCPTPPを引っ張り、アジア太平洋の貿易を仕切ってきた。2023年には英国が入り、GDP総額は世界の15%近くに膨らんだ。トランプ関税で米国が孤立すれば、CPTPPの価値は跳ね上がる。2022年、ASEANへの輸出は12%増え、米国頼みが減った。中国やロシアが締め出される中、日本は自由貿易のリーダーになれる。

米国は内需で中国と殴り合う。2025年、個人消費はGDPの68%を占め、戦争並みの危機でも耐えられる。1940年代、内需と軍需で経済を回した実績がある。中国とのバトルが過熱しても持ちこたえる。だが、いつまでも続くわけじゃない。冷戦が1989年のベルリン崩壊で終わったように、中国との衝突も終わる。TPPルールが世界の常識になれば、米国は戻ってくるべきだ。2021年、バイデン政権でもTPP復帰の声が上がった。

米国が関税政策をやめて、厳格なルールにのっとった自由貿易体制に戻るには、それなりの時間がかかるだろうが、TPPに加入すれば、それはすぐに実現する。米国にとってもこれは大きな利益になるだろう。そのためにも、日本は加盟国を増やしておくべきだろう。

TPP協定発効記念式典で各国の関係者と談笑する安倍晋三首相(中央右 当時)と茂木敏充経済再生担当相(同左)

ただしTPPは長い目で見るべきだ。短期的には大胆に動くべきだ、消費税をぶった切り、内需をぶち上げれば、対米輸入が増える。2019年の試算では、消費税ゼロで家計消費が年4兆円以上跳ねる。米国の攻撃型原潜(1隻35億ドル)を買えば、安全保障の絆が強まる。ハーバード(資産500億ドル)やディズニー(時価総額1800億ドル)を買い取り、日本流に作り直せば、影響力とソフトパワーが手に入り、貿易赤字も減る。

さすがに、ハーバードやディズニーは無理だろうが、米国はこれに準ずる優秀な大学や企業がごまんとある。トランプは、大学、研究機関、エンタメ企業などでも、リベラル系は大嫌いで補助金などをカットしつつあり、経営がなりたたなくなるものも出てくるだろう。トランプは、これらの買収に関してはあまり反対しないだろう。むしろ日本流につくりかえることを歓迎するかもしれない。

日本がデズニーを買収したら和風デズニーランドが・・・・・? AI生成画像

ただ依然としてリスクはある。2023年、対米輸出は1650億ドルだ。関税が自動車や電子機器に食い込めば痛い。日米関係がこじれれば、安全保障も危うい。石破が7日の会談で協調を選んだのは、その火種を消すためだ。交渉の第一歩を「十分」と政府は言う。8日には赤沢経済再生相を対米交渉の担当に据えた。LNG投資、非関税障壁の見直し、農産品関税、防衛費増額がテーブルに乗り、林官房長官は「効果的な策を練る」と意気込む。

赤澤氏はTPPや日米貿易協定交渉で経済再生相を担当したので、今回の交渉には良い人選だとは思う。ただ、石破総理の明確な方針や戦略がない。これでは、赤沢氏もせっかくの経験を活かせないかもしれない。

結論だ。二段構えなら日本は勝てる。短期で消費税廃止や米国資産買収をぶち上げ、不均衡を直す。長期でTPPを広げ、ルールを握る。中国、ロシア、その腰巾着どもを締め出し、米国にも旨味を持たせる。日本はこれをトランプに叩きつけ、交渉を制する。実行力さえあれば、道は開ける。そのためにも、石破政権を終わらせなければならない。

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2025年4月7日月曜日

<主張>中国軍の演習 無謀な台湾封鎖許されぬ―【私の論評】中国の台湾封鎖は夢想!76年経っても統一が実現しない理由と西側の備え

<主張>中国軍の演習 無謀な台湾封鎖許されぬ

まとめ
  • 中国軍が台湾海峡封鎖を想定した大規模演習「海峡雷霆―2025A」を2日連続で実施。空母「山東」や数十隻の艦船、軍用機を動員し、船舶拿捕や港湾攻撃で封鎖能力を検証。台湾に心理的圧力をかけ、トランプ新政権の出方と頼清徳政権を牽制する狙いがある。
  • 北東アジアの平和を乱す行為として、日米が強く反発。米国防長官は「中国の侵略阻止」を掲げ抑止力強化を表明し、米国務省は緊張悪化と地域安全への脅威を非難。日本の石破政権にも厳しい対峙が求められている。
  • 2027年までの台湾侵攻準備を指示し、海上封鎖を鍵とする。軍事侵攻に加え、威圧と米台離反で28年の総統選を影響下に置き、統一を目指すシナリオも追求。今回の演習は侵略への威嚇として警戒が必要だ。


 中国がまた無謀な軍事行動に出た。台湾海峡の封鎖を想定し、2日連続で大規模演習を実施したのだ。台湾国防部によると、空母「山東」や数十隻の軍艦、海警船が台湾を包囲し、軍用機が中間線を越えた。北東アジアの平和を乱す許されざる行為だ。中国軍は「海峡雷霆―2025A」と名付け、船舶拿捕や港湾攻撃で封鎖能力を検証。映像公開で台湾に圧力をかけた。昨秋も似た演習を行い、今回はトランプ新政権下で初の公表だ。頼清徳政権を牽制し、米国の反応を探る狙いがある。

 日米は抑止力強化を打ち出し、米国務省は「中国の攻撃性が地域と世界を危険に晒す」と非難した。習近平は2027年までに台湾侵攻準備を指示し、海上封鎖を鍵とする。米シンクタンクは、軍事侵攻せずとも威圧と離間で統一を狙うシナリオも指摘。28年の台湾総統選を睨んだ心理戦だ。今回の演習は侵略への威嚇であり、警戒が必要だ。中国は日本の懸念に「強烈な不満」を表明したが、石破政権は毅然と対峙すべきだ。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】中国の台湾封鎖は夢想!76年経っても統一が実現しない理由と西側の備え

まとめ
  • 中国の台湾封鎖は「夢想」:台湾の対艦ミサイル(雄風II・III)、潜水艦(海鯤・剣龍級)、米軍の原潜、台湾の空対空(AIM-120等)・地対空ミサイル(天弓III等)と航空戦力、中国の海上輸送力の限界とASWの弱さ、地理的条件(山岳と狭い海峡)が封鎖を困難にする。
  • 核使用の非現実性:核ミサイルで簡単に終わるという考えは夢想。ウクライナ戦争でロシアは核を使わず3年経過し戦況は膠着し、国際的反発(バイデン警告、RAND報告)を恐れた例が証明。大量の通常ミサイルでも降伏は無理。
  • 陸続きでないことが難易度を高める:台湾と中国は海峡で隔てられ、上陸作戦は補給が命。ウクライナ戦争でのロシアと違い陸で兵を送れず、CSIS報告が「史上最大の水陸両用作戦」と失敗リスクを警告。
  • 76年経っても統一できず:1949年から毛沢東が統一を宣言し、76年経過。歴代指導者の試み(1979年、1995-96年、2019年)も失敗。台湾の抵抗と国際圧力が壁。
  • 準備の必要性:封鎖・侵攻は無理でも、追い詰められた中国の予測不能な行動に備え、台湾と西側は政治・軍事的準備を怠れない。ウクライナの教訓から戦争を防ぎ、戦争になつって早期終結を目指すべき。

夢想する習近平 AI生成画像
中国による台湾封鎖は無謀というよりは「中国側の夢想」に過ぎない。台湾の対艦ミサイル、潜水艦、米軍の攻撃型原潜、中国の海上輸送力の限界、台湾の空対空・地対空ミサイルと航空戦力、中国の対潜水艦戦(ASW)の弱さ、台湾の地理的条件からいってそういえる。
軍事に疎い奴が「中国が核ミサイルを数発ぶち込めば終わり」と考えるのも夢想だ。それをウクライナ戦争が証明してるし、台湾と中国が陸続きじゃないことが侵攻をメチャクチャ難しくしてる。そして、中国が台湾統一を言い出してから何十年経ってもできてない。それでも追い詰められた中国は何をしでかすかわからないから、台湾と西側諸国は準備を怠っちゃいけない。これを以下に解説する。
まず、台湾海峡を封鎖するには、中国人民解放軍が海上と航空を押さえる必要がある。しかし、台湾の地理がそれを許さないのだ。島は山だらけで、東側は海岸は切り立った崖。西側には平地もあるが、河川が複雑に入り組んでおり、上陸地点は限られている。このブロクでは何度か指摘してきたことだ。上陸は至難の業だ。
日本より狭い島嶼国の台湾だが、最高峰の玉山は日本の富士山の標高を上回る
さらに、台湾海峡は幅130~180kmと狭く、浅瀬と潮流が複雑。大規模艦隊を動かすには窮屈だ。ここで台湾は「雄風II」「雄風III」対艦ミサイルをぶっ放す。射程は150~400km以上。超音速の雄風IIIは迎撃がほぼ無理だ。2023年の台湾国防部報告でも実戦配備済み。中国の艦艇なんてボロボロになる。
潜水艦もヤバい。台湾は2024年9月に国産「海鯤」を進水させ、2025年には就役済みだ。最新の魚雷と機雷を積み、ディーゼル電気推進で音が静か。中国が探し出すのは無理だ。古いタイプの「剣龍級」も改修済みで、2020年代の台湾海軍発表によれば少数でも侮れない。水中で封鎖艦隊や補給線を狙う。中国の肝が冷える。
中国のASW能力は未だ低い。米軍や日本に比べりゃ子供だ。2023年の米国防総省報告でも、対潜機やソナーが足りず、技術も訓練も追いついてない。台湾海峡の浅瀬は雑音だらけで、潜水艦を見つけるのはお手上げだ。台湾の「海鯤」や米軍の原潜にボロ負けだ。封鎖なんて穴だらけだ。
アメリカも黙っちゃいない。インド太平洋にはバージニア級やロサンゼルス級の攻撃型原潜がうろついてる。射程2500km以上のトマホークミサイルや対艦ミサイルをぶち込む準備ができてる。米軍の潜水艦はいつも哨戒中で、台湾海峡にすぐ飛び込んでくる。米国防総省の報告でも実力は折り紙付きだ。米軍が動けば、封鎖線は一瞬で崩れる。
オハイオ型原潜のミサイル発射ハッチを全開した写真
中国の海上輸送力もボロボロだ。2023年で輸出額3.5兆ドルを支える商船隊はあるが、軍事用の輸送力は足りない。補給艦は10隻程度。2022年の米国防総省報告では、米軍の30隻には及ばない。民間船を引っ張り出しても改造と訓練に時間がかかる。戦場で台湾のミサイルや潜水艦に補給線を切られたら終わりだ。
台湾の空の力も半端じゃない。F-16戦闘機が140機あって、AIM-120 AMRAAM空対空ミサイルを300~400発持ってる。射程100~180kmだ。AIM-9XサイドワインダーもF-16Vに載ってる。地対空ミサイルは「天弓III」で射程125マイル。弾道ミサイルも航空機もぶち落とせる。パトリオットPAC-3は射程70km、2025年にはNASAMSが台北を守る。射程20マイルだ。国産F-CK-1経国号は50機あって、雄風IIIや「万剣」巡航ミサイルを積む。射程200~400kmで、海も陸も叩ける。中国の航空優勢なんて夢だ。
軍事に疎い奴が言う。「中国が核ミサイルを数発ぶち込めば終わりだろ」と。笑いものだ。ウクライナ戦争がそれを証明してる。2022年2月、ロシアがウクライナに侵攻した時、核をちらつかせた。だが、2025年4月時点で3年目だ。ロシアは核を使わず、ウクライナは降伏しない。なぜだ?核を使えば、アメリカやNATOが黙っちゃいないからだ。2022年10月、バイデン大統領が「核使用は壊滅的な結果を招く」と警告した。
ロシアは経済制裁でボロボロだ。中国が台湾に核を撃てば、同じ道だ。アメリカは「台湾関係法」で支援を約束してるし、核戦争に発展すれば中国の都市も灰になる。2023年のRAND研究所の報告でも、核使用は国際的反発と報復を招き、中国の経済と政権が持たないと結論づけてる。核で終わりなんて夢想だ。核以外のミサイルを多数用いて攻撃にしても、それですぐに台湾が降伏するはずもない。実際、ウクライナ戦争であれだけロシアがウクライナを攻撃して破壊しても、ロシアは戦争に勝てず、膠着状態だ。これから戦況がどうなっても、ロシアの完全勝利などない。
しかも、台湾と中国は陸続きじゃない。これが侵攻をメチャクチャ難しくしてる。ロシアはウクライナと国境を接してるから、戦車や兵をガンガン送り込めた。2022年のキエフ攻勢では、数百kmの補給線を陸で確保した。だが、台湾は海を隔ててる。幅180kmの海峡を渡るには、船と飛行機しかない。上陸作戦は補給が命だ。中国の補給艦は10隻しかないし、台湾のミサイルと潜水艦に狙われる。陸続きじゃないから、兵力と物資を運ぶのは悪夢だ。2023年のCSIS報告でも、台湾侵攻は「史上最大の水陸両用作戦」になり、失敗リスクがデカいと警告してる。第二次世界大戦末期にも、米軍は台湾に侵攻しなかった。ノルマンディー上陸作戦を上回る史上最大の軍事作戦になることがわかっていたからだ。
中国が台湾統一を言い出したのは1949年だ。中華人民共和国が建国されてすぐ、毛沢東が「台湾は中国の一部」と宣言した。それから76年経つ。2025年の今でもできてない。1979年の「台湾同胞に告ぐ書」で「平和統一」を打ち出し、鄧小平が「一国二制度」を提案した。それでもダメだ。1995年や1996年の台湾海峡危機でミサイルを撃ち込んで脅した。結果はゼロだ。習近平は2019年に「統一は必然」と演説し、2049年を目標に掲げた。それでも進まない。なぜだ?台湾の抵抗と国際社会の圧力だ。76年経っても夢想のままだ。
中華人民共和国成立を宣言する毛沢東(紙をもっている人物) AIでカラー化したもの
国際社会も中国を見放す。台湾封鎖は日本、韓国、東南アジア、アメリカのシーレーンをぶった切る。アメリカは原潜や空母を繰り出す。2022年のペロシ訪台で中国が喚いた時も、世界は冷ややかだった。中国経済は輸出で食ってる。2023年で3.5兆ドルだ。封鎖で自分の首を絞めるなんてアホだ。

中国の軍事力は伸びている。だが、空母や遠洋作戦はアメリカに比べりゃ子供だ。2023年の国際戦略研究所の分析でも、遠洋補給も対潜能力も貧弱だ。台湾の対艦ミサイル、潜水艦、米軍の原潜、空の戦力、天然の要塞のような地理、中国のASWの弱さに耐えられるわけがない。補給線を保つ力も経験もない。潜水艦戦じゃボロ負けだ。
台湾の地理、対艦ミサイル、空対空・地対空ミサイル、潜水艦、空の戦力、米軍の原潜、中国の輸送力の限界とASWの弱さ、核の夢想、陸続きじゃない現実、76年経っても統一できない事実。これを並べると、封鎖も侵攻も無理ゲーだ。「夢想」以外の何ものでもない。だが、威嚇や心理戦は仕掛けてくるのだ。
それでも、追い詰められた中国は何をしでかすかわからない。経済が傾き、政権が揺らげば、ヤケクソでロシアのように無茶をする可能性はゼロじゃない。ウクライナ戦争は膠着状態にいたり、もはやロシアにもウクライナにも勝利はない。しかし、戦争によって失われた一般市民や軍人の命は戻ってこない。台湾も西側諸国も、中国にそもそも戦争させない、仮に起こったにしても、初戦で木っ端微塵に打ち砕き戦争を早期終了させるようにするために、前もって政治的にも軍事的にも準備を怠ってはないけないのだ。
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2025年4月6日日曜日

二大経済大国、貿易戦争激化へ 中国報復、米農産物に打撃 トランプ関税―【私の論評】米中貿易戦争の裏側:米国圧勝の理由と中国の崩壊リスクを徹底解剖

二大経済大国、貿易戦争激化へ 中国報復、米農産物に打撃 トランプ関税

まとめ
  • 米中貿易戦争が激化し、相互関税の応酬が続く。トランプ政権は5日から一部関税を発動、中国は34%の追加関税で対抗。米国では農産物輸出や景気への悪影響が懸念。
  • TikTokの米事業売却が新たな火種に。トランプが期限を75日延長するが、中国は報復で承認を保留。依存度低下で報復に自信か。
  • 米国にとって中国は重要な輸出先。前回の貿易戦争で農産物輸出が急減、農家は今も苦境。対立はエスカレートする一方だ。

激論するトランプと習近平 AI生成画像

米国と中国の間で貿易戦争が激化し、相互関税の応酬がエスカレートしている。トランプ米政権は5日、一部関税を発動し、これに対し中国は米国からの輸入品すべてに34%の追加関税を課す対抗措置を打ち出した。米国では農産物の輸出減少や景気全体への悪影響が強く懸念されており、中国は報復として大豆やトウモロコシなど米国産農産物にも対象を広げている。

関税は2段階方式で、5日からすべての貿易相手国に一律10%が適用され、9日から貿易赤字の大きい国への上乗せ分が追加される。TikTokの米国事業売却問題も新たな火種となり、トランプ大統領は売却期限を延長したが、中国は相互関税への対抗として承認を保留している。

オランダのエコノミストは、中国の対米輸出依存度が低下していると指摘し、報復への自信を強めていると分析。米国農業界は前回の貿易戦争で受けた輸出急減などの打撃を訴え、再びの悪影響を避けるよう求めているが、事態悪化への懸念は収まる気配がない。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】米中貿易戦争の裏側:米国圧勝の理由と中国の崩壊リスクを徹底解剖

まとめ
  • 米中関税合戦では米国が圧倒的に有利。国際金融のトリレンマで、変動相場制の米国は自由に動けるが、管理変動相場制の中国は人民元を縛られ、金融政策が制限される。輸出品でも米国の大豆や天然ガスは代替が難しく、中国の電子機器や服は簡単に他国に切り替えられる。
  • 経済規模と貿易依存度でも差は歴然。米国のGDPは25兆ドルで内需が強く、輸出はGDPの11%。中国は18兆ドルで輸出依存度20%と高く、米国市場を失うと痛手が大きい。2018~2019年の貿易戦争で中国経済は揺れ、米国は平然と耐えた。
  • 技術とサプライチェーンでも米国がリード。ファーウェイ制裁や半導体規制で中国を締め上げ、TikTok売却問題でも圧力をかける。中国が報復関税に固執するのは意地だけだ。変動相場制と市場自由化が必要だが、共産党の統制がそれを阻む。
  • 共産党の体制が中国の足かせだ。民主化、政治と経済の分離、法治国家化が改革に必要だが、党の支配が崩れるのを恐れてできない。このままでは経済が衰退し、ソ連崩壊のような末路が待つ。経済に疎い習近平にはこの現実が見えていない可能性がある。
  • 現実が明らかになれば、中国は軍事で賭けるかもしれない。2024年の台湾演習や軍事費2450億ドルが示すように、覇権強化を狙う可能性がある。だが、米国は2正面作戦に限界があり、2025年トランプはアジアシフトを宣言。AUKUSや日韓協力で迎え撃つ準備を進めている。

トランプが「関税」のハンマーを振りかざし、習近平を圧倒! 米国の経済力と技術優位が中国を追い詰める   AI生成画像

米中間の関税合戦が火を噴いている。だが、マスコミがあまり騒がない裏で、中国が明らかに不利で、米国が圧倒的に有利な状況が広がっているのだ。この現実は、国際金融のトリレンマという世界の金の流れを支配するルールや、為替の違い、貿易への依存度から見ると、ビシッと浮かび上がる。米国は変動相場制で自由に動き回れるし、輸出品の強さ、国内市場の巨大さ、技術の力でも中国をぶっちぎっている。
中国が報復関税で意地を張っても、自分の首を絞めるだけだ。生き残る道は、為替制度をガラッと変え、市場を自由に開くことしかない。なのに、中国はそれができない。共産党の政治が足を引っ張り、民主化や法治国家への道を塞いでいるからだ。このままじゃ、長く衰退し、ソ連が崩れたみたいな末路が待っているかもしれない。
しかも、この現実は経済に疎い習近平やその取り巻きたちが強く認識していない可能性がある。今は報復関税に終始しているが、いずれ誰の目にも明らかになる。その時、中国は最後の賭けに出るかもしれない。それは、軍事力を使った覇権の強化だ。だが、米国は今、2正面作戦を余裕でこなせる状態じゃない。だからこそ、トランプはアジアにシフトすると宣言しているんだ。さあ、一気にその核心に突っ込んでみよう。
まず、国際金融のトリレンマだ。これは、金の流れを動かす3つの柱——為替を固定するか、資本を自由に動かすか、金融政策を自分で決めるか——を全部は手にできないという法則だ。どれか2つしか選べない。経験も数字もこれを裏付けている。米国は変動相場制を選んだ。ドルは世界の基軸通貨だ。資本を自由に動かしつつ、連邦準備制度が金融政策をガンガン進められる。2022年、インフレを抑えるために利上げした時、ドル高がグイッと進んだ。だが、米国経済はビクともしなかった。
変動相場制を採用している国なら、関税で輸出が減ると通貨が下落し、輸出品が安くなって競争力が回復する。2015年の日本の例を見ると、円安が進んだことで自動車や電子機器の輸出が持ち直し、経済が安定した(日本銀行データ)。米国も変動相場制だ。2022年、FRBがインフレ抑制のために利上げした時、ドル高が進んだが、その後調整が入り、輸出産業は大きなダメージを免れた(米国商務省)。つまり、米国は関税戦争の影響を為替の動きでカバーできる余地がある。

だが、中国のような固定相場制に近い管理変動相場制の国では話が違う。人民元はドルに縛られ、自由に動けない。中国人民銀行は為替を一定の範囲に抑えるため、2018~2019年の貿易戦争で外貨準備を大量に投入した(中国人民銀行発表)。為替が動かないから、関税のダメージを緩和する余地がない。2018年、米国が中国製品に25%の関税をかけた時、中国の輸出は急減し、GDP成長率が6.6%から6.1%に落ち込んだ(中国国家統計局)。一方、米国は為替調整で輸出競争力を維持し、内需の強さもあって経済は安定した(米国経済分析局)。
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次に、輸出品の違いだ。米国の対中輸出は大豆、トウモロコシ、天然ガスといった生活や産業に欠かせないものだ。中国が関税をかけても、完全には切れない。2018年、米国産大豆に25%の関税をぶつけた時、輸入は減った。だが、中国はブラジルに頼るしかなく、コストが跳ね上がった。米国農務省のデータを見れば、2020年以降、中国の需要が戻って輸出が盛り返している。一方、中国の対米輸出は電子機器や服だ。米国が関税をかければ、ベトナムやメキシコにサクッと切り替えられる。商務省の数字でも、2018~2019年に中国からの輸入が減った分、東南アジアがグンと伸びた。このズレが、中国をジリ貧に追い込む。

経済の大きさと市場の力も見逃せない。米国のGDPは約25兆ドル(2023年IMF推計)。中国は18兆ドルだ。米国は世界一の消費市場で、中国企業には欠かせない。2018年、トランプが中国製品に500億ドル、後に2500億ドルの関税を叩きつけた。中国の報復は米国製品600億ドル止まりだ。なぜか? 中国の対米輸出は総輸出の16%(2022年中国税関総署)。米国は7%(2022年米国商務省)。中国企業は米国を失うと痛い。
米国企業は他でカバーできる。貿易への依存度も目を引く。米国の輸出はGDPの11%(世界銀行、2022年)。内需がガッチリ支えている。中国は最近内需にシフトしたとはいえ、まだ20%だ。関税で輸出が減ると、中国経済はガタガタ揺れる。2018~2019年、輸出企業が売上を落とし、仕事が減った。米国は内需の力で平気だ。また米国の一人当たり名目GDPは約76,399ドルで、世界でもトップクラスに位置している。これに対し、中国の一人当たり名目GDPは約12,720ドル。この数字から、米国の一人当たりGDPは中国の約6倍に達している。この差はデカすぎる。
技術とサプライチェーンでも米国が圧倒する。半導体や先端技術でリードし、中国を締め上げる。2020年のファーウェイ制裁、2022年の半導体規制で、中国のハイテク産業は大打撃だ。国産化を急ぐが、台湾のTSMCや韓国のサムスンに追いつけない。米国は中国の安物に頼らず、サプライチェーンを広げられる。TikTokの話もそうだ。2025年4月、トランプが売却期限を75日延ばしたが、中国が承認を渋り、計画はポシャった。米国市場を失うリスクは中国側に重く、米国は平然と圧力をかける。
中国が報復関税にしがみつくのは、意地っ張りにしか見えない。経済に疎い習近平やその側近が、現実を分かってないのかもしれない。2018~2019年、GDP成長率が6.6%から6.1%に落ち(中国国家統計局)、製造業も低迷した。中国のGDP統計なんて信用ならないが、落ち込んだのは確かだ。関税は輸入コストを上げ、自国を苦しめる。抜け道はある。変動相場制にして人民元を市場に任せ、市場を自由にすればいい。2015年の人民元切り下げで輸出が持ち直した例もある。資本を自由に動かし、投資を呼び込めば、経済は強くなる。だが、中国は動けない。
なぜだ? 共産党の体制が邪魔をする。経済は党が牛耳り、人民銀行も国有企業も党の言いなりだ。変動相場制は人民元を市場に預けること。資本の自由化は資金が海外に逃げるリスクを孕む。それを防ぐには市場を透明にしないといけないが、共産党はそんなこと許さない。国有企業を優遇し、民間を締め付ける。2021年、アリババや滴滴出行を叩いたのは、党が経済を握りたいからだ。1989年の天安門後、鄧小平は経済を開いたが、政治は触らなかった。
今の習近平は権力を握り、改革を嫌う。本当は、民主化、政治と経済の分離、法治国家が必要だ。米国や西側じゃ当たり前だ。だが、中国では共産党が法の上に立ち、経済も党の道具だ。民主化は国民の声が力を持つ。政治と経済が別れれば、国有企業の利権が消える。法治国家なら党の勝手が通らない。だが、これをやれば共産党の支配が崩れる。だからできない。改革は体制を揺るがす爆弾だ。
だから中国は動けない。関税で意地を張るだけだ。だが、この現実は、いずれ誰の目にも明らかになる。経済に疎い習近平やその取り巻きは、今は報復関税に終始している。2025年3月、中国外務省の王毅は「米国の一方的ないじめ」と非難し、対抗措置をチラつかせた(CNN報道)。だが、経済は弱り、成長率は2010年代の8%超から5%台へ(2023年予測)。人口は減り、借金は膨らむ。
中国人民解放軍は今月2日間にわたって、台湾周辺で実弾演習を行った
ソ連は計画経済で潰れ、1991年に崩壊した。中国も同じ道をたどるか? その時、最後の賭けに出るかもしれない。軍事力を使った覇権の強化だ。2024年10月、習近平は台湾周辺で軍事演習を強化し、「戦争準備」を叫んだ(BBC報道)。中国の軍事費は2450億ドル(ストックホルム国際平和研究所、2023年)と米国(9160億ドル)の4分の1だが、アジアに集中すれば脅威だ。
だが、米国は今、2正面作戦を余裕でこなせる状態じゃない。ウクライナと中東で手一杯だ。2022年、ロシアのウクライナ侵攻で米国は軍事支援に追われ、2023年にはイスラエル支援も重なった(米国防総省)。兵站も予算も伸びきっている。だから、トランプはアジアにシフトすると宣言したのだ。2025年1月、彼は「アジアが最優先」と演説し、日本や韓国との同盟強化を強調した(AP通信)。AUKUSやクアッドも動き出し、2023年に米国、日本、韓国がキャンプデービッドで協力を固めた(ホワイトハウス発表)。中国が軍事で賭けに出ても、米国はアジアで迎え撃つ準備を進めている。
結論だ。米国は経済の力と体制の柔軟さで中国をぶっちぎる。報復関税は中国を弱らせるだけだ。為替と市場を変えなければ生き残れない。だが、共産党がそれを許さない。民主化も法治も無理だ。この現実を習近平が見誤れば、いずれ崩壊が誰の目にも明らかになる。その時、軍事で賭けるかもしれないが、米国はアジアにシフトして備えている。この戦い、米国が圧倒的に有利なのは、経済と現実が証明する揺るぎない真実だ。
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