2025年4月8日火曜日

アメリカとの関税交渉担当、赤沢経済再生相に…政府の司令塔として適任と判断―【私の論評】石破vsトランプ関税:日本がTPPで逆転勝利を掴む二段構え戦略とは?

アメリカとの関税交渉担当、赤沢経済再生相に…政府の司令塔として適任と判断


政府は8日、米国による関税措置見直しの対米交渉担当に赤沢経済再生相を任命した。赤沢氏は石破首相の側近で、米国との包括的協議に適任とされる。林官房長官は、首相が赤沢氏の手腕や経験を考慮して決定したと説明。

これまで交渉は武藤経済産業相が担ってきたが、今後は農産品関税など省庁横断的な対応が必要なため、司令塔となる閣僚の設置が求められていた。過去のTPPや日米貿易協定交渉で経済再生相を担当した前例も理由とされる。赤沢氏は鳥取県選出で当選7回、内閣府副大臣や財務副大臣を歴任。

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【私の論評】石破vsトランプ関税:日本がTPPで逆転勝利を掴む二段構え戦略とは?

まとめ
  • 石破首相は7日、トランプとの電話会談で対立を避け、トランプ関税を批判しつつ、日本が対米投資大国であることを主張し、関係維持に努めたが、具体的な方針や戦略を示さず、丸投げ状態だ。
  • トランプ関税は中露などの貿易ルール無視する国々やこれに追随する国々への対抗策であり、米国は内需強化で対抗する。日本が主導するTPP(CPTPP)は厳格なルールでこれらを締め出し、米国にも利益をもたらすチャンスだ。
  • 日本はTPPを拡大し、2023年に英国加盟で勢力を広げた。トランプ関税で米国が孤立すれば、CPTPPの価値が上がり、日本は自由貿易のリーダーとして地位を固められる。
  • 短期的には消費税廃止や米国の原潜・企業買収で貿易不均衡を是正し、長期的にはTPPで世界のルールを握る二段構えが有効だ。米国との関係悪化リスクはあるが、実行力次第で勝機がある。
  • 石破の曖昧な対応は問題だ。8日の総合対策本部で赤沢経済再生相を任命したが、明確な戦略がない。成功には石破政権を終わらせ、実行力あるリーダーが必要だ。


石破首相が7日、トランプ大統領と電話会談をした。石破は、対立は避け、双方の利益を第一に考え、具体的な交渉カードは出さなかった。米国の勝手な関税に文句を言いながらも、日本が対米投資の大国であることを主張し、協調こそが正解だと訴えた。会談後、「率直で建設的な話し合いを続ける」とした。政府内ではトランプとの関係をぶち壊すまいと慎重な声が強い。交渉のスタートラインに立てただけで「十分な収穫」と胸を張る。8日には総合対策本部を開き、今後の方針を固めるつもりのようだ。

だが、ここで問題だ。石破はトランプにも、国内にも、何一つハッキリした方針を示していない。包括的な「パッケージ」の話は出たが、それがどんな狙いか、どんな戦略か、全く分からない。細かい中身を今すぐ明かせとは言わない。だが、どんな方向性で米国に差し出すのか、その大枠くらいは示すべきだ。これでは、トランプとの電話も、国内の会議も、ただの丸投げだ。トランプは選挙戦から関税を叫び続けている。大枠の対策を考える時間は山ほどあったはずだ。

一方で、トランプ関税を日本にとって全部悪いと決めつけるのも馬鹿げている。TPPを引っ張る日本にとって、これはまたとないチャンスだ。中国やロシアがWTOの貿易ルールを無視し、他の国もそれに便乗する。そんな無法地帯にトランプが関税で鉄槌を下す。中国はWTOに入っても補助金やパクリをやめず、2023年の報告書でもボロクソに叩かれた。

日本国内でも、いまだにパクリをやっている。ロシアもクリミア併合以来、制裁を出し抜いてきた。米国は2018~19年、2500億ドル分の中国製品に25%の関税をかけ、その結果製造業雇用を1.4%増やした。内需を鍛える作戦だ。

対して、日本が旗振り役をすTPP(今はCPTPP)は貿易ルールがガチガチだ。2018年の発効以来、デジタル貿易や労働基準を厳格に定め、違反したら即アウト。中国やロシアは今のままじゃ入れない。他の国もルールを破れば蹴り出される。TPPが世界のルールになれば、無法者は締め出され、米国も得する。不公平な取引を潰し、関税に頼らず済むからだ。

日本には勝機がある。米国が2017年にTPPを抜けた後、日本はCPTPPを引っ張り、アジア太平洋の貿易を仕切ってきた。2023年には英国が入り、GDP総額は世界の15%近くに膨らんだ。トランプ関税で米国が孤立すれば、CPTPPの価値は跳ね上がる。2022年、ASEANへの輸出は12%増え、米国頼みが減った。中国やロシアが締め出される中、日本は自由貿易のリーダーになれる。

米国は内需で中国と殴り合う。2025年、個人消費はGDPの68%を占め、戦争並みの危機でも耐えられる。1940年代、内需と軍需で経済を回した実績がある。中国とのバトルが過熱しても持ちこたえる。だが、いつまでも続くわけじゃない。冷戦が1989年のベルリン崩壊で終わったように、中国との衝突も終わる。TPPルールが世界の常識になれば、米国は戻ってくるべきだ。2021年、バイデン政権でもTPP復帰の声が上がった。

米国が関税政策をやめて、厳格なルールにのっとった自由貿易体制に戻るには、それなりの時間がかかるだろうが、TPPに加入すれば、それはすぐに実現する。米国にとってもこれは大きな利益になるだろう。そのためにも、日本は加盟国を増やしておくべきだろう。

TPP協定発効記念式典で各国の関係者と談笑する安倍晋三首相(中央右 当時)と茂木敏充経済再生担当相(同左)

ただしTPPは長い目で見るべきだ。短期的には大胆に動くべきだ、消費税をぶった切り、内需をぶち上げれば、対米輸入が増える。2019年の試算では、消費税ゼロで家計消費が年4兆円以上跳ねる。米国の攻撃型原潜(1隻35億ドル)を買えば、安全保障の絆が強まる。ハーバード(資産500億ドル)やディズニー(時価総額1800億ドル)を買い取り、日本流に作り直せば、影響力とソフトパワーが手に入り、貿易赤字も減る。

さすがに、ハーバードやディズニーは無理だろうが、米国はこれに準ずる優秀な大学や企業がごまんとある。トランプは、大学、研究機関、エンタメ企業などでも、リベラル系は大嫌いで補助金などをカットしつつあり、経営がなりたたなくなるものも出てくるだろう。トランプは、これらの買収に関してはあまり反対しないだろう。むしろ日本流につくりかえることを歓迎するかもしれない。

日本がデズニーを買収したら和風デズニーランドが・・・・・? AI生成画像

ただ依然としてリスクはある。2023年、対米輸出は1650億ドルだ。関税が自動車や電子機器に食い込めば痛い。日米関係がこじれれば、安全保障も危うい。石破が7日の会談で協調を選んだのは、その火種を消すためだ。交渉の第一歩を「十分」と政府は言う。8日には赤沢経済再生相を対米交渉の担当に据えた。LNG投資、非関税障壁の見直し、農産品関税、防衛費増額がテーブルに乗り、林官房長官は「効果的な策を練る」と意気込む。

赤澤氏はTPPや日米貿易協定交渉で経済再生相を担当したので、今回の交渉には良い人選だとは思う。ただ、石破総理の明確な方針や戦略がない。これでは、赤沢氏もせっかくの経験を活かせないかもしれない。

結論だ。二段構えなら日本は勝てる。短期で消費税廃止や米国資産買収をぶち上げ、不均衡を直す。長期でTPPを広げ、ルールを握る。中国、ロシア、その腰巾着どもを締め出し、米国にも旨味を持たせる。日本はこれをトランプに叩きつけ、交渉を制する。実行力さえあれば、道は開ける。そのためにも、石破政権を終わらせなければならない。

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