2025年4月14日月曜日

今日は、世界量子デー(World Quantum Day)―【私の論評】量子コンピュータの未来を解く!ソーマトロープと猫が教える不思議な世界

 今日は、世界量子デー(World Quantum Day)

上のアニメーションDoodle(Googleが特別なイベントや記念日を祝うために、検索エンジンのホームページのロゴを一時的に変更したデザインやアニメーションのこと)は、世界量子デーを祝います! Doodleは、量子コンピューティングを可能にする基本原理の1つである重ね合わせの概念を表現しています。

世界量子デーについて

このDoodleは、量子物理学と技術の理解を深める年次行事である世界量子デーを祝います。日付である4月14日は、プランク定数の最初の3桁を表しており、これは量子エネルギー(例えば光子)のエネルギー と周波数の関係を記述します:4.14×10−15 eV。

今日のDoodleに登場するアートワークは、ソーマトロープを描いています。これは、両面に異なる絵が描かれたディスクからなる道具であり、光学的なおもちゃです。高速で回転させると、私たちの脳は両方の画像を重ね合わせ、1つの画像が合成されたように見えます。ソーマトロープは、粒子が複数の状態に同時に存在する量子重ね合わせの概念を説明するのに役立ちます。

【私の論評】量子コンピュータの未来を解く!ソーマトロープと猫が教える不思議な世界

まとめ
  • ソーマトロープとシュレディンガーの猫は、量子力学の重ね合わせ(複数の状態が同時に存在する現象)をわかりやすく説明する例え話である。
  • 量子コンピュータは、重ね合わせ、干渉、もつれを利用し、薬開発、暗号解読、最適化などで革新的な速度を実現する。
  • 2025年は量子力学100周年で、ユネスコが「国際量子科学技術年」に指定し、量子技術の重要性が世界で高まっている。
  • 日本の量子コンピュータ開発は進むが、米中の先行に比べ投資や人材が不足し、加速が必要である。
  • 日本の文化や職人技術、言語の柔軟性は、量子コンピュータ開発に有利な強みを持ち、産業や安全保障での可能性を秘める。
ソーマトロープとシュレディンガーの猫は、量子の世界の不思議さを鮮やかに描く例え話である。ソーマトロープは、ディスクに鳥とかごの絵が描かれている。ぐるぐる回せば、脳が二つの絵を重ね、「鳥がかごに入っている」姿を見せるのだ。これは、量子の世界で物が「Aの状態」と「Bの状態」を同時に持つことをイメージしやすくする。

一方、シュレディンガーの猫は、箱の中の猫が「生きている」か「死んでいる」か、開けるまでわからない状況を想像する。実は、開ける前は両方の状態が共存していると考えるのだ。これは、量子の世界で観察されるまで複数の可能性が混在することを示す。どちらも、1つのものが2つの状態を持つ量子の謎を、身近な絵で伝える。

2025年は量子力学誕生から100年である。ユネスコは「国際量子科学技術年」に定めた。ハイゼンベルクやボルンが基礎を築いたあの瞬間から、100年が経つのだ。


量子理論は、現代のコンピュータに革命を起こしている。普通のコンピュータは、0か1のビットで動く。だが、量子コンピュータは量子ビットを使い、重ね合わせで0と1を同時に表現する。ソーマトロープの絵が混ざるように、複数の状態を一気に計算するのだ。

量子干渉は正しい答えを浮かび上がらせ、シュレディンガーの猫のように観察まで状態が共存する不思議さを利用する。量子もつれは、離れた情報を瞬時に結び、複雑な処理を可能にする。これにより、薬開発、暗号解読、最適化が劇的に速くなる。GoogleやIBMが突き進む中、量子理論は普通のコンピュータの暗号やアルゴリズムにも影響を及ぼし、技術を根底から変えている。

量子コンピュータの未来は、ソーマトロープが新たな絵を描くように、驚くべき解決策を生み出す。がんの特効薬を数日で作れるかもしれない。分子の動きを瞬時に計算し、薬の最適な形を見つけるのだ。今は数十年かかるがん治療薬の開発が、量子コンピュータなら個人に合わせた薬を短期間で生み出す。

物流では、渋滞を解消するルートをリアルタイムで計算し、エコな社会を築く。AIは気象データを処理して台風を予測し、遺伝子データからがんを早期発見する。軍事では、暗号を一瞬で破る力を持つ一方、量子もつれで盗聴不可能な通信を守る。兵器シミュレーションやドローンの配置も高速化する。まだ道半ばだが、量子理論は新薬、環境、AI、軍事をSFの世界に変える。

日本の量子コンピュータ開発は、世界に遅れつつも進んでいる。理化学研究所や富士通は2023年、64量子ビットのマシンを完成させた。ソーマトロープの絵が形になり始めた瞬間だ。だが、IBMの1121量子ビットや中国の量子通信に比べると、まだ差がある。中村泰信博士は1999年、超伝導量子ビットを世界で初めて作り、日本の底力を示した。

だが、2014年頃の国の投資不足で停滞し、海外との差が開いた。2020年の「量子技術イノベーション戦略」や2022年の「量子未来社会ビジョン」で再び動き出したが、2050年までの実用化目標には加速が必要だ。

日本が量子技術を全力で進めるべき理由は明快だ。まず、国の安全がかかっている。量子コンピュータは暗号を瞬時に破る。独自技術がなければ、機密や金融システムが他国に握られる。2023年のG7で量子が議題に上がり、日本が危機感を持った証拠だ。

次に、産業の未来がある。量子コンピュータは化学や材料で革新を起こす。富士通と大阪大学は、誤り訂正の量子ビットを10分の1に減らす技術を開発した。これが進めば、新素材や薬で世界をリードする。気候変動対策も変わる。CO2吸収材料を短期間で設計できれば、日本の環境技術が世界の希望になる。分子科学研究所と日立は2025年、中性原子方式のマシンを動かす予定だ。

だが、投資は米国の37億ドル、中国の150億ドルに対し、日本は2.67億ドルと少ない。研究者も足りず、海外流出が心配だ。しかし、希望もある。2025年の大阪・関西万博で、大阪大学とアルバックが純国産の量子コンピュータを公開する。日本製の部材で作られた初のマシンで、技術自立の象徴だ。

理研の国産超電導量子コンピューター初号機

実は、日本には量子コンピュータ開発で有利な強みがある。まず、物事の考え方だ。日本の文化は、調和や曖昧さを重んじる。量子力学の「確定しない状態」を受け入れる発想は、欧米の二元論的な思考より日本の感性に近い。

2023年の国際量子学会で、日本人研究者が量子もつれを「糸でつながれた双子の心」に例え、複雑な数式をシンプルな物語で説明し、聴衆を魅了した。このエピソードは、日本の直感的な発想が量子研究に新たな光を当てることを示す。

次に、職人文化だ。量子コンピュータの部品は、ナノメートル単位の精密さが必要だ。日本の半導体技術や光学機器のノウハウは、これに直結する。ニコンやキヤノンのレンズ技術は、量子ビットの制御に必要なレーザー装置に応用されている。

言語の強みもある。日本語の柔軟な表現は、複雑な量子現象をチームで共有するのに役立つ。東京大学の研究チームは2024年、日本語の「曖昧な指示」を活かし、量子アルゴリズムの設計で新たなアイデアを生んだと報告した。

これらの強みを生かせば、日本は量子技術で世界を驚かせることになる。産学官が力を合わせれば、量子革命の中心に立てる。ソーマトロープが鮮やかな絵を描くように、量子コンピュータは日本の未来を力強く切り開くのだ。

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