- DEEP DIVEの設立:小原凡司氏と小泉悠氏が、日本の安全保障強化のため、非営利の民間インテリジェンス機関「DEEP DIVE」を設立。公開情報(OSINT)と衛星情報を活用し、透明な分析で早期警戒情報を提供。
- クラウドファンディングの成功:目標1000万円に対し、2933人から約4232万円を集め、市民の高い期待と共感を得て活動基盤を構築。
- 特徴的な役割:①根拠を示す分析、②多様な知見を集める「議論のハブ」、③政府・民間・自治体をつなぐ情報共有の橋渡しを目指す。例:中国ウイグル地区の衛星画像公開で情報募集。
- 背景と課題:日本の安全保障情報が英語圏に依存し、政府の機密情報が民間や地方に共有されない問題や、ウクライナ戦争予期の失敗を背景に、独自の情報機関の必要性を強調。
- 市民参加と目標:非営利運営で、支援者を「安全保障の一口株主」と位置づけ、セミナーや会員制度で「会いに行ける情報機関」を目指す。安全保障を身近なものに変える挑戦。
日本の安全保障環境が不安定化する中、軍事評論家の小原凡司氏と東京大学准教授の小泉悠氏が、非営利の民間インテリジェンス機関「DEEP DIVE」を設立した。公開情報(OSINT)と衛星情報を駆使し、明確な根拠に基づく分析を提供することで、日本社会に早期警戒情報を届けることを目的とする。クラウドファンディングでは当初目標の1000万円を大幅に上回り、2カ月で2933人から約4232万円を集め、予想を遥かに超える期待と共感を得た。この資金で基盤を固め、持続可能な活動を目指す。
DEEP DIVEの特徴は三つある。①衛星画像や公開情報を用いた透明な分析を行い、反証可能な根拠を示す。②軍事や安全保障だけでなく、建設や地域研究など多様な専門家の知見を集める「議論のハブ」として機能。③政府、民間、地方自治体をつなぐ情報共有の橋渡し役を担う。例えば、中国ウイグル地区の謎の穴の衛星画像を公開し、一般や専門家から情報を募ることで、ネットワーク型の分析を推進。こうした形態は、英国の「ベリングキャット」に着想を得た、日本独自のオープンなインテリジェンスの形だ。
設立の背景には、日本の安全保障情報が英語圏のシンクタンク(例:ストラトフォー)に依存し、政府の機密情報が民間や地方自治体に共有されない課題がある。さらに、2022年のウクライナ戦争を日本のロシア研究コミュニティが予期できなかった反省も動機となっている。DEEP DIVEは、資金とやる気さえあれば入手可能な衛星情報や電波情報(ELINT・SIGINT)を活用し、自治体や民間企業が危機管理や避難計画に使える「実践的な情報」を提供する。
非営利の一般社団法人として運営し、東京海上ディーアールとの業務提携など、持続可能なビジネスモデルを構築中だ。事務作業に苦労しながらも、支援者には「安全保障の一口株主」としての当事者意識を促し、セミナーや会員制度を通じて「会いに行ける情報機関」を目指す。安全保障を国家や専門家だけのものではなく、市民が参加できる身近なものに変える挑戦として、危機感と新しい可能性への期待を背景に活動を展開。支援者からの激励や参加意欲も、DEEP DIVEの理念が広く共鳴していることを示している。
この記事は、元記事の要約です。元記事は、三人の鼎談ですが、その鼎談を元に新聞記事風にまとめたのが、この記事です。
【私の論評】情報革命の衝撃:民間インテリジェンスが切り開く日本の安全保障とコロナ起源の真実
まとめ
- 情報革命と民間インテリジェンス:インターネットの普及と衛星画像の低コスト化がOSINTを進化させ、DEEP DIVEのような民間インテリジェンス機関の設立を後押し。情報収集の民主化が個人や民間団体の分析を可能にした。
- インターネットの力:2000年代のSNS(Facebook、Twitter)やWeb 2.0により、リアルタイム情報が増加。2011年のアラブの春やベリングキャットのMH17調査は、OSINTの統合力を示す。
- 衛星画像の進化:民間衛星(Ikonos、Planet Labs)の発展で、衛星画像が手頃に。2021年の中国ミサイルサイロ発見やウクライナ紛争での活用は、市民参加の安全保障分析を証明。
- 民間インテリジェンスとラボリーク説:Stratfor、Jane’s、東京海上ディーアールが民間インテリジェンスのモデルを提供。DRASTICやXコミュニティはWIVの不透明性を暴き、ラボリーク説を推進。トランプ政権の2025年サイトはOSINT成果を反映。
- 民間インテリジェンスの未来:民間機関は政府の機密情報の限界を補い、透明な情報で危機管理を支援。市民参加で安全保障を身近にし、英語圏依存を打破。民主的議論と迅速な危機対応を可能にし、日本独自のプラットフォームを築く。
DEEP DIVEのような民間インテリジェンス機関の誕生は、情報革命の最前線に立つ日本の挑戦だ。インターネットの爆発的な普及によるオープンソース・インテリジェンス(OSINT)の進化、衛星画像の驚くべき入手しやすさ、そして既存の民間インテリジェンス機関の成功モデルが、この新たな動きを後押ししている。これらは情報を民主化し、国家や大企業だけでなく、個人や民間団体にも高度な分析の扉を開いた。
インターネットと衛星画像:情報の民主化
インターネットの普及は、OSINTを革命的に変えた。ニュース、SNS、公式文書、動画を分析するOSINTは、1990年代までは新聞や書籍に頼るしかなかった。しかし、2000年代のWeb 2.0、2004年のFacebook、2006年のTwitter(現X)の登場で、情報は爆発的に増え、誰もがリアルタイムで発信・入手できるようになった。
Statistaによると、2022年のSNSユーザーは46億人、2025年時点でインターネットユーザーは世界人口の75%に迫る。2011年のアラブの春では、市民がTwitterやYouTubeで抗議の映像を公開し、研究者が瞬時に情勢を分析した。ベリングキャットは2014年のマレーシア航空MH17便撃墜事件で、SNS写真とGoogle Earthを駆使し、ロシアの関与を暴いた。この手法は、軍事や文化の壁を越えて情報を統合する力を示す。
衛星画像の進化も見逃せない。かつては軍事機密か大金の必要な衛星画像が、2000年代以降、民間衛星産業の飛躍で手の届くものに変わった。1999年のIkonos打ち上げを皮切りに、Planet LabsやMaxar Technologiesが低コスト・高解像度の画像を提供。2020年代には、1シーン数万円のサブスクリプションで個人でも購入可能だ。
合成開口レーダー(SAR)の進化で、夜間や悪天候でも撮影でき、カナダのRADARSAT-2は2022年のウクライナ紛争で民間にデータを供給した。2021年、OSINTコミュニティが中国の核ミサイルサイロ拡張を衛星画像で突き止め、IEEE Spectrumは「衛星は安全保障の新境地」と評した。北朝鮮の軍事基地や中国の不審な施設を衛星画像で分析する例は、市民参加の力を示す。衛星画像の価格は、リアルタイム監視で数十億円、月次レポートで数億円、簡易レポートなら数千万~数百万円と用途に応じて選べる。
民間インテリジェンスとラボリーク説
既存の民間インテリジェンス機関は、新たな道を照らす。米国のStratforは1996年設立のシンクタンクで、地政学リスクを公開情報と人的ネットワークで分析。2001年の9.11テロや2011年のリビア内戦を予測し、企業や政府に重宝される。日本の商社がStratforに頼る現状は、英語圏依存の壁を浮き彫りにする。
英国のJane’s(現Janus Intelligence Services)は軍事情報の権威で、衛星画像や公開情報を基に、兵器や軍事施設のレポートを販売。日本の民間インテリジェンス機関としては、東京海上ディーアール株式会社のリスクマネジメント部が挙げられる。リスク評価や危機管理サービスを提供し、地政学リスク分析に取り組む。日本の民間インテリジェンスは欧米に比べ小規模だが、東京海上ディーアールは商業的補完として機能する可能性がある。これらの機関は、OSINTや衛星情報の商業的可能性を示し、持続可能な道筋を指し示した。
ベリングキャット以外のOSINTグループでは、DRASTIC(Decentralized Radical Autonomous Search Team Investigating COVID-19)がラボリーク説を強く推し進めた。2020年春に結成されたこの分散型グループは、専門家とアマチュアがXや公開データベースを駆使し、武漢ウイルス研究所(WIV)の研究と安全管理の不備を暴いた。
2021年、WIVが2012年のコウモリコロナウイルス(RaTG13)データを隠していた事実を突き止め、ラボリーク説の根拠とした。2025年2月のル・モンドは、DRASTICの調査がWHOや米国政府を動かし、「陰謀論」から真剣な議論へと転換したと報じた。匿名メンバー「The Seeker」は、WIVの2018年機能獲得研究計画を公開。2023年、米国エネルギー省やFBIがラボリーク説を支持する一因となった。
DRASTICは武漢市場の動物感染証拠の欠如を強調し、2022年のScience誌の動物起源説に反論したが、状況証拠への依存や科学的検証の不足で批判も浴びた。XやRedditの非公式OSINTコミュニティもラボリーク説を後押しした。2020年以降、武漢の病院やWIV周辺の衛星画像、交通データを分析。2019年秋の異常な活動(駐車場の混雑増加)を指摘した。
ハーバード大学の2021年研究は、衛星画像と検索データで2019年秋の感染開始を示唆し、ラボリーク説の間接的証拠となった。Redditのr/OSINTでは、WIVの資金やEcoHealth Allianceとの関係を追う議論が盛んだ。匿名Xユーザーが2019年9月のWIVデータベースオフライン化を発見し、DRASTICが拡散。2021年のニューヨーク・タイムズや2023年の米国議会報告書に影響した。しかし、科学的証拠の不足や政治的バイアスの懸念から、主流科学界では懐疑的な見方が強い。
トランプ政権のラボリーク説サイトと民間OSINTの輝かしい貢献
2025年4月、トランプ政権はCovid.govを「Lab Leak: The True Origins of COVID-19」(写真上)と題したウェブサイトに刷新した。このサイトは、コロナウイルスが武漢の研究所から漏洩したとするラボリーク説を力強く主張。ニューヨーク・タイムズによると、サイトはWIVの安全性問題や機能獲得研究を強調するが、新たな直接的証拠は提示していない。
民間OSINTグループの貢献は、このサイトの基盤を築いた輝かしい成果だ。DRASTICやX上のコミュニティは、WIVのデータ不透明性や2019年秋の異常活動を丹念に掘り起こし、ラボリーク説に説得力を持たせた。DRASTICが発見したRaTG13データの隠蔽やデータベースのオフライン化は、サイトの「自然起源の証拠がない」という主張に直接反映されている。XやRedditのOSINT愛好家は、衛星画像や交通データからWIV周辺の異変を指摘し、ハーバード大学の2021年研究を支えた。これらの努力は、市民の情熱と技術が、従来の政府や科学界が見過ごした可能性を浮かび上がらせた好例だ。
トランプ政権のサイトは、民間OSINTの成果を広く世に知らしめる役割を果たした。ベリングキャットやDRASTICの手法がなければ、こうした議論はここまで広がらなかった。CIAやFBIが「低信頼度」でラボリーク説を支持する背景にも、OSINTコミュニティの地道な調査がある。政治的色合いや証拠の限界が議論されるが、民間OSINTは、透明性と市民参加を通じて、真実追求の新たな道を切り開いている。
民間インテリジェンスの未来
2022年のウクライナ侵攻では、Maxarの衛星画像がロシア軍の動きを可視化し、SAR画像が戦術的失敗を露呈。2022年1月のトンガ火山噴火では、日本の気象衛星「ひまわり」が噴煙を捉え、災害時の衛星画像の即時性を示した。報道実務家フォーラム(2021年)で、ロイターのクリスティン・チャン氏は衛星画像を「報道の武器」と位置づけた。
インターネットと衛星画像の進化は、情報収集を市民の手に委ねた。XやTelegramはリアルタイム情報共有を可能にし、衛星画像の低コスト化は民間での地政学リスク監視を現実のものにした。政府の機密情報が民間や地方に届かない課題を、民間機関は透明な情報で埋める。
民間インテリジェンス機関の活動は、現代の安全保障に欠かせない意義を持つ。政府の情報は機密に縛られ、民間や地方自治体に届かない。
民間機関は、透明な情報で危機管理や住民避難を支え、英語圏依存の日本の現状を打破する。市民を巻き込み、安全保障を身近にすることで、民主的な議論を呼び覚ます。政府の限界を補い、多様な知見を結集して迅速な危機対応を可能にするのだ。民間インテリジェンスは、情報収集の民主化を体現し、日本独自の安全保障プラットフォームを築く先駆者として、未来を切り開く。
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