2025年4月10日木曜日

米国は同盟国と貿易協定結び、集団で中国に臨む-ベッセント財務長官―【私の論評】米のCPTPP加入で拡大TPPを築けば世界貿易は変わる? 日本が主導すべき自由貿易の未来

 米国は同盟国と貿易協定結び、集団で中国に臨む-ベッセント財務長官

まとめ

  • EUの中国へのシフトは「自らの首を絞めるようなもの」
  • ベッセント氏「中国は国際貿易システムにおいて最悪の違反者」
ベッセント米財務長官

 ベッセント米財務長官は9日、同盟国と貿易協定を結び、その基盤を固めた後に、グループとして中国に対して不均衡な貿易構造を是正するよう求める構想を示した。ワシントンでの講演後、同氏は同盟国との合意が実現可能と述べ、経済面での連携強化を強調した。

 一方で、EUが米国から離れ中国に接近することに警告を発し、特にスペインがその動きを支持していると指摘、「自らの首を絞める行為」と批判した。中国を国際貿易システムの「最悪の違反者」と呼び、人民元の連続切り下げに対抗し、世界各国が関税引き上げで影響を相殺せざるを得ないと主張した。また、日米協議が間もなく始まるほか、ベトナム、韓国、インドとの貿易交渉が進行中であることを明らかにした。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧ください。

【私の論評】米のCPTPP加入で拡大TPPを築けば世界貿易は変わる? 日本が主導すべき自由貿易の未来

まとめ
  • 米国の関税戦略と自由貿易の矛盾:米国は2018年に中国や鉄鋼製品に高関税を課し、2025年現在もEUとの報復関税が続くなど保護主義的だが、関税を中国の不公正な貿易慣行(人民元切り下げ、補助金)を是正する交渉ツールとして活用し、自由貿易を模索している。
  • ベッセント氏の構想とTPPの可能性:ベッセント財務長官は同盟国と協定を結び中国に対抗する構想を示し、これは米国主導のTPP(現CPTPP)に似た枠組みを想定しているとみられる。日本主導のCPTPPは高水準なルールで2025年時点で世界GDPの13%を占め、米国の目標と合致する。
  • IPEFの限界:2022年発足の米主導のIPEFは関税削減を含まず、貿易分野の実効性に疑問。インドが2022年に貿易分野への参加を見送った事例は、経済的魅力の薄さを示す。
  • CPTPPの拡大と世界貿易ルール:米国がCPTPPに加入すれば、日本や英国ら同盟国と公正な貿易体制を構築でき、ルールを世界標準に拡大可能。WTOが中国加入(2001年)で失敗した補助金や市場歪曲の是正を繰り返すべきではない。
  • 日本の主導性と柔軟な運用:米国はCPTPP加入後、関税などの必要性があると判断すれば離脱など柔軟な運用が可能だ。しかし米国流の協定に偏るのを防ぐため、日本が主導権を握り米国を引き込むべき。

2018年トランプ大統領は、中国に関税を課した

米国は関税を積極的に課してきた国だ。2018年には中国製品に最大25%の関税を課し、鉄鋼やアルミニウムにも追加関税を導入した。2025年現在、EUが米国製品に210億ユーロの報復関税を承認し、4月中旬から一部が発効する予定だ。一見、自由貿易を推進する姿勢と矛盾しているように見える。しかし、米国は関税を単なる保護主義ではなく、戦略的な交渉ツールとして活用している。

中国の人民元切り下げや補助金政策など、不公正な貿易慣行を是正し、公正な競争環境を作るのが目的だ。ベッセント財務長官は同盟国と貿易協定を結び、集団で中国に対抗する構想を示している。これはかつて米国が主導した「環太平洋パートナーシップ協定(TPP)」に似た形を想定している可能性がある。TPPは2016年に12カ国で署名されたが、2017年にトランプ政権が離脱。現在は日本が主導し、「包括的及び先進的な環太平洋パートナーシップ協定(CPTPP)」として2018年に発効し、11カ国で運用されている。

2018年TPP発効

一方、米国が2022年に始めた「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」もある。14カ国(日本、オーストラリア、インドなど)が参加し、貿易、サプライチェーン、クリーンエネルギー、公正経済の4分野で構成されている。2025年現在、サプライチェーン協定が2023年に署名され、2024年にはクリーン経済協定が発効した。しかし、貿易分野は関税削減を含まず、従来の自由貿易協定とは異なる。

実効性に疑問符がつくのも当然だ。過去のTPPやNAFTAは関税削減で市場を開放し、経済効果を生んできたが、IPEFにはそれがない。参加国にとって経済的魅力が薄いとされ、インドは2022年の発足時に貿易分野への参加を見送り、「具体的な利益が見えない」と表明した。これは関税削減がない枠組みの限界を示している。

対照的に、TPPは米国離脱後、日本が引き継いだ。今のCPTPPは知的財産保護、労働基準、環境規制といった高いルールを備えた最先端の協定だ。日本、英国、オーストラリア、シンガポールなど、米国の主要な同盟国が名を連ね、2025年時点で経済規模は13兆ドル、世界GDPの13%に達する。日本は2017年の米国離脱後、11カ国をまとめ、わずか1年で発効にこぎつけた。英国も2023年に加盟し、CPTPPはアジア太平洋を超えて拡大している。

ここで私の意見だ。米国はCPTPPに加入し、拡大TPPを構築すべきだ。日本や英国といった信頼できる同盟国と組めば、公正な自由貿易の体制を迅速に作れる。CPTPPの高水準なルールは中国を牽制し、補助金で優遇される国有企業への規制はベッセント氏の「不均衡是正」の目標とも一致する。

さらに視野を広げよう。米国が加われば、CPTPPを基盤に貿易ルールを拡大し、実質的な世界標準にできる。これは、条件を満たさない中国を加入させたWTOの失敗を繰り返さないためだ。WTOは1995年に発足し、2001年に中国を受け入れたが、補助金や市場歪曲が是正されず、米中対立の火種となった。2020年のWTO総会で米国が中国の「発展途上国」待遇に異議を唱えたが、改革は進まず、機能不全に陥っている。

2001年 中国のWTO加入 調印式

米国はTPPに加入しつつ、関税を課したくなれば脱退するような柔軟な運用も可能だ。NAFTAからUSMCAへの移行(2018年)や、TPP離脱(2017年)を大統領令で即実行した実績がある。協定を維持しつつ自国優先の政策を進められる。CPTPPに入り、必要なら関税を課し、状況次第で抜ける選択は、ベッセント氏の「米国中心の経済圏」と整合し、既存の枠組みを効率的に使う道だ。

米国は歴史的にGATTやWTOで自由貿易を推進してきたが、農産物補助金で国内を守る二面性も持つ。今の「選択的自由貿易」もその延長だ。しかし、関税の多用は日本やEUの不信を招き、ベッセント氏の「経済面で完璧でない同盟国」という言葉は、その軋轢を認めている。

米国がCPTPPに加入し拡大すれば、こうした衝突を減らし、時間も節約できる。国内の保護主義や「アメリカ第一主義」が壁だが、公正で強固な貿易秩序は米国と同盟国の長期的な利益になる。成功は同盟国との連携と中国の対応にかかっている。だが、黙っていれば米国流の、米国に都合の良い新たな米国主導の協定ができる可能性がある。それではCPTPPの加盟国や加盟を目指す国々が求める公正な貿易ではない。日本よ、動け! 主導権を握り、米国を引き込んでくれ!

【関連記事】

「AppleはiPhoneを米国内で製造できる」──トランプ政権―【私の論評】トランプの怒りとAppleの野望:米国製造復活の裏で自公政権が仕掛ける親中裏切り劇 2025年4月9日

アメリカとの関税交渉担当、赤沢経済再生相に…政府の司令塔として適任と判断―【私の論評】石破vsトランプ関税:日本がTPPで逆転勝利を掴む二段構え戦略とは? 2025年4月8日

二大経済大国、貿易戦争激化へ 中国報復、米農産物に打撃 トランプ関税―【私の論評】米中貿易戦争の裏側:米国圧勝の理由と中国の崩壊リスクを徹底解剖 2025年4月6日

「荒唐無稽」「乱暴すぎる」トランプ関税が世界中から総スカン!それでも強行する「トランプのある危機感と狙い」―【私の論評】トランプ関税の裏に隠れた真意とは?エネルギー政策と内需強化で米国は再び覇権を握るのか 2025年4月5日

「手術は終了 アメリカ好景気に」トランプ大統領が関税政策を正当化 NY株価大幅下落も強気姿勢崩さず 新関税も正式発表か―【私の論評】トランプ関税の衝撃と逆転劇!短期的世界不況から米エネルギー革命で長期的には発展か 2025年4月4日

0 件のコメント:

欧州中央銀行 0.25%利下げ決定 6会合連続 経済下支えねらいも―【私の論評】日銀主流派の利上げによる正常化発言は異端! 日銀の金融政策が日本を再びデフレの闇へ導く危険

欧州中央銀行 0.25%利下げ決定 6会合連続 経済下支えねらいも まとめ 利下げとインフレ: ECBは6会合連続で0.25%利下げ、政策金利を2.25%に。インフレ率は2.2%上昇で低下傾向。 経済と貿易摩擦: トランプ関税による貿易摩擦で景気減速懸念。ECBは経済下支え狙い、...