まとめ
- 相互関税の発動: トランプが4月2日に「相互関税」を発表。貿易相手国の関税や非関税障壁(為替操作、補助金、消費税など)に対抗し、日本には実質関税率46%の半分、24%を課す。
- 目的と論理: 貿易赤字是正と製造業の国内回帰を目指す。消費税の輸出還付(例: トヨタ6102億円)が補助金と見なされ、非関税障壁に含まれる。
- 安全保障の背景: 関税政策は、経済合理性を欠くという批判があるが、たとえば有事の製造能力喪失(造船能力は中国の1/242)が危機とされ、安全保障強化を優先するための製造業国内回帰を目指すもの。
- 市場と経済の反応: 発表後、日本株は一時急落も下げ止まる。米国経済は消費者信頼感低下とインフレでスタグフレーション傾向。
- 短期戦略: 中間選挙(2026年秋)を見据え、2025年夏までの短期的な経済回復を目標に、関税収入と歳出削減で減税や支給を計画。
これらを合算した「実質的な関税率」を計算し、それに匹敵する関税をアメリカが課すのが「相互関税」の仕組みだ。例えば日本に対しては、実質関税率を46%と推計しつつ、「寛大」にもその半分程度の24%の関税を課すとしている。この46%という数字は、日本の対米貿易黒字と輸出総額の比率(684億ドル÷1482億ドル)から導かれた可能性がある。
特に注目されるのは、消費税が非関税障壁に含まれる点だ。例えば日本では、輸出企業が国内で支払った消費税を還付される仕組みがあり、トヨタの場合、2023年4月から2024年3月までの還付額は6102億円に上る。これは輸出品が国内消費されないため当然の措置だが、取引の実態では還付が補助金的な効果を持つとアメリカ側は解釈している。
トランプの目的は、貿易赤字是正だけでなく、製造業を国内に戻し、安全保障を強化することにある。経済学的には、自由貿易が最適な生産と利益をもたらすとされ、トランプの関税政策は「荒唐無稽」と批判される。実際、アメリカは製造業が衰えた一方で、金融やデジタル分野で強みを発揮し、国際分業が進んでいる。しかし、有事における製造能力の喪失が安全保障上の危機と見なされており、例えば造船能力が中国の242分の1しかない現状では、戦争時の補充が困難だ。この危機感が、経済合理性を超えた政策の背景にある。
発表後、日本の株式市場は4月3日に一時1600円以上下落したが、下げ止まり、悪材料出尽くしとの見方が広がった。今後、各国との交渉で関税が緩和されるとの楽観論もある。しかし、アメリカ経済は消費者信頼感の急落(3月の指数は92.9とコロナ禍以来の低水準)やインフレ進行でスタグフレーション傾向にあり、トランプがさらなる関税引き上げを検討する可能性も否定できない。トランプは中間選挙までの時間を計算し、関税収入と歳出削減で減税や国民への支給を実施し、短期的な経済回復を目指しているとみられる。
朝香 豊(経済評論家)
【私の論評】トランプ関税の裏に隠れた真意とは?エネルギー政策と内需強化で米国は再び覇権を握るのか
まとめ
- トランプは関税政策ばかりが強調されるが、エネルギー政策も重要だ。エネルギーではシェールガスや石油の増産、小型原子炉(SMR)、核融合技術への投資で価格を下げ、経済を活性化させる狙いがある。
- 関税は経済成長目指すものではなく、内需比率の引き上げが目的だ。2018~2019年の対中関税でGDP成長率が2.9%から2.3%に落ちたが、中国依存を減らし、国内製造業を戻す戦略である。
- 第二次世界大戦中、米国は輸出がGDPに占める割合は4~6%と低く、内需で経済を支えた。これが戦争を有利に進めた要因であり、トランプはこれを再現しようとしている。
- 関税で経済が停滞するリスクに対しては、エネルギー政策で対処しようとしている。2019年のエネルギー輸出増で米国は純輸出国となり、2025年にはシェールオイル拡大で経済を下支えする計画だ。
- 関税政策は経済合理性だけでは理解しにくいが、中国との対決や安全保障を優先し、内需を固める盾だ。エネルギー政策と組み合わせ、国力を維持しながら内需拡大を目指すのがトランプの戦略だ。
トランプの政策に関しては、最近では関税政策ばかりが目立ち、もう一つの重要な政策に関してはあまり振り返られことはない。もう一つの政策とはエネルギー政策である。これについては昨日このブログに掲載したばかりだ。
この記事より、一部を以下に引用する。
内需が大きい国は、国内の消費や投資が経済の主要な推進力であるため、外国の経済状況や需要の変動に左右されにくい。米国のように国内市場が巨大で自給自足的な要素が強い場合、輸出入の変動があっても内需が安定していれば経済全体への影響は限定的だ。
一方、外需が大きい国は、輸出や外国からの需要に依存しているため、海外の景気後退や貿易政策の変更などの影響を直接受けやすい。例えば、ドイツや韓国のように輸出主導型の経済では、外国の需要が落ち込むと経済成長が大きく鈍化する傾向がある。戦争やそこまでいかなくても、経済戦争などが起こった場合、内需の大きな国は、外需が大きい国より、圧倒的に有利だ。
米国のエネルギー戦略がはまれば、形勢は逆転する。トランプ政権はシェールガスや石油をガンガン増産し、安全な原子炉スモール・モジュール・リアクター(SMR)や、核融合っていうクリーンな技術に巨額の投資をする。これでエネルギー価格を下げる算段だ。
![]() |
SMRの1ユニットはトレーラーで運べる程度の大きさ |
トランプ氏は気候変動対策や脱炭素には冷ややかだ。当面は化石燃料をフル回転させ、3年後にはSMR(小型モジュール炉)でコストを下げ、5年後には核融合の実用化で製造業をブーストする気だ。欧州や日本が脱炭素に拘泥している間に、米国はエネルギー安をバネに経済を活性禍させるだろう。エネルギー価格が下がればインフレは収まり、国内生産は勢いづく。エネルギー輸出が増えれば貿易収支も上向き、ドル高の圧力も和らぐ。こうして関税の不況を帳消しにし、米国経済は成長のレールに戻る。この逆襲は3~5年以上の時間がかかる。鍵はエネルギー技術のブレイクスルーだ。
トランプ政権のエネルギー政策は、グリーンな頭ではなく経済合理性の観点からみれは、非常に納得のいく政策だ。それも、先の先まで見通している。最終的に目指すのは核融合だが、これに成功すれば、人類はあまりエネルギーを心配する必要はなくなる。しかし、これは今ではない、それでもエネルギー価格を安定させるため、まずは化石燃料を掘りまくり、次の段階ではSMRによるエネルギー供給だ。これらは、核融合炉が稼働するまでのつなぎという考え方だろう。
![]() |
緑色の帽子を被ったグレター・トゥーンベリ AI生成画像 |
こうした冷徹な経済合理性を追求する一方で、経済合理性からみるとまったく不合理な関税政策するのはなぜかという問いに対して上の記事では、「製造業を国内に戻し、安全保障を強化することにある」としている。
これは、妥当な見方だと思う。しかし、私はそれだけではないと思う。それを以下で紐解いていく。
これも以前このブログに掲載したことだが、米国の内需は近年低下傾向にあった。以下に一部引用する。
以上のような状況は、いわゆるグローバリズムがもてはやされた結果、経済的利益を優先し、安保や社会の安定等を無視して貿易に過度に走ったための弊害が出てきたため、それを是正しようとする動きであると言える。米国の輸出と輸入の状況を振り返ると、興味深い事実が浮かび上がる。米国の輸出がGDPに占める割合は、1960年の5%から長い間10%未満が続いた。しかし、2019年には12%に達し、長期的に貿易依存度が上昇しているものの、他の主要国と比べると依然として低水準である。2023年時点では、輸出のGDP比は11.01%と、パンデミック前の水準には完全には回復していない。この背景には、米国の巨大な国内市場(2023年実質GDP成長率2.5%)と堅調な個人消費(第3四半期3.5%増)が持続的な経済成長を支えていることが挙げられる。近年、輸出主導型成長戦略の限界が指摘されるようになり、各国が内需拡大へと戦略を転換している。ドイツの輸出信用保証は1990-2002年に輸出を1.7~6倍に促進したが、同制度は輸出企業に21億ユーロ(総輸出の2.9%)を保証する一方、政府債務残高は年平均115億ユーロに上り、財政負担の持続可能性が課題となっていた。2010年代後半から2020年代初頭にかけてEC諸国は「非市場リスク」に限定する規制を導入したが、この背景には、過度な輸出支援が市場歪曲を招くリスクへの警戒があった。この規制は、環境基準を満たさない製品の輸出制限や、適切でない労働条件からの製品に対する輸入制限を含む。また、消費者保護の観点から、安全基準を満たさない製品やデータ保護規制に違反する企業のデータの国外持ち出しも制限される。
内需が大きい国は、国内の消費や投資が経済の主要な推進力であるため、外国の経済状況や需要の変動に左右されにくい。米国のように国内市場が巨大で自給自足的な要素が強い場合、輸出入の変動があっても内需が安定していれば経済全体への影響は限定的だ。
一方、外需が大きい国は、輸出や外国からの需要に依存しているため、海外の景気後退や貿易政策の変更などの影響を直接受けやすい。例えば、ドイツや韓国のように輸出主導型の経済では、外国の需要が落ち込むと経済成長が大きく鈍化する傾向がある。戦争やそこまでいかなくても、経済戦争などが起こった場合、内需の大きな国は、外需が大きい国より、圧倒的に有利だ。
内需比率が高かったことは、第二次世界大戦中に米国が他国と比べ国内への影響を抑え、戦争を有利に進めることができた要因でもあった。米国は第二次世界大戦中であっても、輸出がGDPの4~6%程度と低く、内需と豊富な資源で経済を支えることができた。貿易途絶の影響をほとんど受けなかった。
さらに本土が戦場から遠く、生産基盤が維持され、労働力動員や消費も安定しており、国内経済は強さを保つことができた。ドイツや日本は外需依存で資源不足に苦しみ、経済が崩壊した。米国は内需のおかげで戦車や航空機を大量生産し、レンドリース法で連合国を支援し、物量で枢軸国を圧倒する。この経済的持久力と柔軟性が、戦争を有利に進める鍵であった。
米国以外の国々では、戦争経済への移行でGDPは伸びたものの、いびつな経済構造となって人々を苦しめた。しかし、米国は強力な内需により、他国より戦争経済に移行しても、その悪影響は少なかった。
![]() |
第二次世界大戦中の軍需工場で働く女性をモチーフにした写真 |
中国との本格的対立に先立って、トランプはまさにこの頃のような米国経済に戻ろうと目論んでいるのだろう。それを短期で実行する手段がトランプ関税であると考えられる。無論、このような方法に頼らなくても、内需の拡大はできるだろう。しかし、それには時間がかかる、短期に実行しようとした場合のトランプ流の回答が関税政策であるとみられる。短期的な混乱や、景気の低迷は織り込み済みだろう。一時的に、経済が縮小したとしても、内需の比率をあげようという腹だろう。
そもそも、トランプの関税政策はそれによって経済成長を目指すものではなく、内需比率の引き上げが目的と見られる。2018~2019年の関税で対中貿易赤字は減ったが、GDP成長率は2.9%から2.3%に鈍化し、全体の経済拡大は犠牲になった。2019年のメキシコへの関税威嚇は移民対策に成功したが、米国企業のコスト増で経済にブレーキをかけた例もある。彼の狙いは関税による経済規模の拡大より、中国依存からの脱却と内需の強化にあるのだ。
しかし、そのままでは米国の経済が長期停滞する恐れがある。その対策として上にも述べたようにエネルギー政策が鍵となる。トランプは化石燃料の増産を掲げ、2025年にシェールオイル生産を拡大する計画を進めている。2019年のエネルギー輸出増で米国は純輸出国となり、経済を下支えした実績がある。関税で内需をかため、エネルギーで停滞を防ぎ、いざというときに戦争経済に移行しやすくするというのが彼の戦略なのだろう。
そもそも、トランプの関税政策はそれによって経済成長を目指すものではなく、内需比率の引き上げが目的と見られる。2018~2019年の関税で対中貿易赤字は減ったが、GDP成長率は2.9%から2.3%に鈍化し、全体の経済拡大は犠牲になった。2019年のメキシコへの関税威嚇は移民対策に成功したが、米国企業のコスト増で経済にブレーキをかけた例もある。彼の狙いは関税による経済規模の拡大より、中国依存からの脱却と内需の強化にあるのだ。
しかし、そのままでは米国の経済が長期停滞する恐れがある。その対策として上にも述べたようにエネルギー政策が鍵となる。トランプは化石燃料の増産を掲げ、2025年にシェールオイル生産を拡大する計画を進めている。2019年のエネルギー輸出増で米国は純輸出国となり、経済を下支えした実績がある。関税で内需をかため、エネルギーで停滞を防ぎ、いざというときに戦争経済に移行しやすくするというのが彼の戦略なのだろう。
経済合理性だけでトランプ関税を眺めると、頭を抱えるしかない。数字だけ追いかける学者や評論家連中には、さっぱり理解不能な愚策に映るだろう。関税をかければ輸入品の値段が跳ね上がり、企業はコスト増で悲鳴を上げ、消費者は財布の紐を締める。結果、経済全体がガタガタになるリスクだってある。2018年の中国への25%関税で、アメリカのGDP成長率が2.9%から2.3%に落ち込んだデータを見れば、誰だって「何だこの自滅行為は!」と叫びたくなるだろう。
だが、ちょっと視点を変えてみれば、この関税の本質は、中国との殴り合いに備えて、内需をガッチリ固めるための盾であることが見えてくる。そう考えれば、このトランプ流の荒っぽいやり口も、ある程度は腑に落ちるのではないか。それに、関税政策もやりっぱなしではなく様子を見ながら、素早く変えていくだろう。さらに関税だけでなく、エネルギー政策も平行してすすめるなど、国力を落とさず内需拡大を目指す抜かりのなさも見えてくる。
【関連記事】
「トランプ誕生で、世界は捕食者と喰われる者に二分割される」アメリカの知性が語るヤバすぎる未来―【私の論評】Gゼロ時代を生き抜け!ルトワックが日本に突きつけた冷徹戦略と安倍路線の真価 2025年3月30日
中国、カナダの農産物・食品に報復関税 最大100%―【私の論評】中国vs加 関税戦争の裏側:中国が圧倒的に不利に陥る中、日本の使命とは 2025年3月8日
トランプ大統領が「日本の消費税廃止」を要求? JEEP以外のアメ車が日本で売れない理由は「そこじゃない」―【私の論評】トランプの圧力で変わるか?都内の頑丈な鉄橋の歴史が物語る日本の財政政策の間違い 2025年3月6日
コラム:「トランプ関税」に一喜一憂は不要、為替変動が影響緩和―【私の論評】変動相場制の国カナダ、メキシコとは異なる中国の事情 2025年2月11日
0 件のコメント:
コメントを投稿