「子や孫のツケ」という呪文が日本を貧しくする。「子や孫のツケ」という言葉はいかにも耳当たりがよい。しかし、景気を冷え込ませて成長を止め、人への投資を後回しにするほうが、かえって子どもや孫など次の世代に大きな負担を残してしまう。
— 金子洋一神奈川20区(相模原市南区、座間市)元参議院議員 (@Y_Kaneko) April 19, 2025
政府債務のコストは 「国債利子率 r− 名目経済成長率… pic.twitter.com/nvdALp3hmM
まとめ
- 直感に基づく経済政策の成否は暗黙知に依存する。高橋是清の関東大震災復興(1923年)と積極財政(1930年代)は、暗黙知に支えられた直感が現実の問題を捉え、国債活用で成功した。
- 高橋の暗黙知は、財政・金融の実務経験から生まれた「経済停滞の解決策」の直観であり、ケインズ理論(1936年)以前にその実践がケインズの形式知の礎となった。
- 失敗例(1987年の日本リゾート法、2022年のトラス減税)は、暗黙知の欠如で経済の複雑さや制約を見誤り、信頼を失い混乱を招いた。
- 金子洋一氏の語る「r<gなら債務の重みは低下」は、暗黙知と結びつくと国債の有効性を示すが、暗黙知がなければ形式知は空回りする。
- 成功には暗黙知で現実を捉え、国債で負担を分散し、信頼を保つことが不可欠。トランプ関税のような外部ショックへの対応も、暗黙知と形式知の融合が効果を上げる。
直感に基づく経済政策が成功するか失敗するかは、何が決めるのか。金子洋一氏は「政府債務のコストは国債利子率r-名目経済成長率gで決まる。r<gなら債務の重みは低下する」と喝破する。これは正しい。米国や日本のような国では、この法則が債務の負担を軽くする。
トランプ関税のような外部ショックが襲えば、誰もが「国内の景気を下支えしよう」と考える。それが直感だ。この直感が、経済政策を動かす鍵となる。だが、直感は時に大成功を呼び、時に大失敗を招く。その差は何か。歴史の事例を紐解き、高橋是清の鉄橋と暗黙知の力を軸に、その核心に迫る。
まず、成功の物語だ。1930年代、世界恐慌で日本はデフレと失業に喘いでいた。高橋是清蔵相は「経済にお金を流せば動く」と直感し、緊縮財政を捨てた。公共事業と軍事支出を増やし、日銀に国債を引き受けさせて通貨供給を拡大。円安で輸出を刺激し、1930年から1935年で工業生産は80%も増えた。工場が動き、雇用が戻り、街に活気が蘇った。国民は「経済が動き出した」と実感した。
これはケインズ理論の登場(1936年)より前だ。高橋には理論的裏付けなどなかった。蔵相や日銀副総裁の経験から生まれた現実感覚が、彼を突き動かした。この直感は、ケインズが有効需要の理論を形式知としてまとめる礎となり、彼の実践が後の経済学に影響を与えた。
高橋の直感は、1923年の関東大震災復興でも輝いた。東京や横浜が壊滅し、江東地区の木造橋が焼失。蔵相として復興を主導した高橋は、税金だけで賄えば現世代が貧困に沈むと直感。国債を発行し、資金を調達した。頑丈な鉄橋や道路を建設し、コストを将来に分散。現世代と将来世代の負担を公平にしたのだ。
これらの鉄橋は、1945年の東京大空襲で避難路となり、多くの命を救った。戦後80年経ても、たとえば江東新橋は今も経済活動を支え、ドラマの舞台にもなる。もし税金だけで賄っていたら、当時の日本は貧困に喘ぎ、その後の世代は鉄橋の便益も十分活かせなかっただろう。この成功体験が、1930年代の積極財政を後押しした。国債で長期プロジェクトを賄う鉄橋の歴史は、その正しさを雄弁に物語る。
トランプ関税のような外部ショックが襲えば、誰もが「国内の景気を下支えしよう」と考える。それが直感だ。この直感が、経済政策を動かす鍵となる。だが、直感は時に大成功を呼び、時に大失敗を招く。その差は何か。歴史の事例を紐解き、高橋是清の鉄橋と暗黙知の力を軸に、その核心に迫る。
まず、成功の物語だ。1930年代、世界恐慌で日本はデフレと失業に喘いでいた。高橋是清蔵相は「経済にお金を流せば動く」と直感し、緊縮財政を捨てた。公共事業と軍事支出を増やし、日銀に国債を引き受けさせて通貨供給を拡大。円安で輸出を刺激し、1930年から1935年で工業生産は80%も増えた。工場が動き、雇用が戻り、街に活気が蘇った。国民は「経済が動き出した」と実感した。
これはケインズ理論の登場(1936年)より前だ。高橋には理論的裏付けなどなかった。蔵相や日銀副総裁の経験から生まれた現実感覚が、彼を突き動かした。この直感は、ケインズが有効需要の理論を形式知としてまとめる礎となり、彼の実践が後の経済学に影響を与えた。
高橋の直感は、1923年の関東大震災復興でも輝いた。東京や横浜が壊滅し、江東地区の木造橋が焼失。蔵相として復興を主導した高橋は、税金だけで賄えば現世代が貧困に沈むと直感。国債を発行し、資金を調達した。頑丈な鉄橋や道路を建設し、コストを将来に分散。現世代と将来世代の負担を公平にしたのだ。
これらの鉄橋は、1945年の東京大空襲で避難路となり、多くの命を救った。戦後80年経ても、たとえば江東新橋は今も経済活動を支え、ドラマの舞台にもなる。もし税金だけで賄っていたら、当時の日本は貧困に喘ぎ、その後の世代は鉄橋の便益も十分活かせなかっただろう。この成功体験が、1930年代の積極財政を後押しした。国債で長期プロジェクトを賄う鉄橋の歴史は、その正しさを雄弁に物語る。
では、失敗はどうか。1987年の日本、リゾート法は「観光で地方を活性化する」と直感したが、過剰融資と投機で土地価格が急騰。日銀は物価が安定しているのに金融引き締めに踏み切り、バブル崩壊を加速させた。
不良債権は80兆円に膨らみ、地方経済は苦しんだ。2022年の英国では、リズ・トラス首相が「減税で即成長」と直感。財源の裏付けなく大規模減税を発表し、市場がパニックに。ポンドは急落、国債利回りが急騰、年金基金が危機に瀕した。数週間でトラスは辞任。経済は混乱した。これらの失敗は、直感が経済の複雑さや現実の制約を見誤り、信頼を失った結果だ。
成功と失敗の分岐点は、暗黙知にある。本ブログ記事(2025年4月19日)では、暗黙知を「経験や観察から得た、言葉にしにくい知識」と定義するとした。高橋の暗黙知は、財政・金融の実務で磨かれた「経済停滞の原因と解決策」の直観だ。震災復興では、国債で負担を分散すれば現世代の貧困を防ぎ、将来に便益を残せると見抜いた。
1930年代では、需要不足を財政と金融で解消できると確信した。この暗黙知が、金子氏の「r<gなら債務の重みは低下」という形式知を活かした。暗黙知があれば、r<gは国債が経済成長で債務負担を軽減することを明確に示す。高橋はr<gの状況を直感的に理解し、国債を効果的に使った。![]() |
昨年破綻したリゾート運営会社 |
逆に、暗黙知が欠如すると、r<gの形式知は意味をなさない。リゾート法はバブルの過熱を見誤り、日銀の引き締めは物価の現実を無視。トラスは市場の反応を読み切れなかった。暗黙知がないと、形式知は空回りし、経済の複雑さに対応できない。
直感は、暗黙知に支えられて初めて力を発揮する。暗黙知があれば、トランプ関税のような外部ショックへの景気下支えも効果を上げる。r<gの形式知は、暗黙知と結びついて国債の有効性を示す。暗黙知の支えがない人にとっては、それが現実と結びつかず、単なる数式にすぎない。高橋の鉄橋と積極財政は、暗黙知が直感を成功に導き、ケインズの形式知の礎となった。
そうして、今では暗黙知のあるなしにかかわらず形式知によって財政政策の方向性は誰が実施しても、間違いがないようになっている。にもかかわらず、なぜ日本の財政政策は間違い続けてきたのだろうか。
日本では、1997年や2014年の消費税増税はデフレ下で消費を冷やし、GDPを押し下げた。財務省の「財政健全化」はr<gを無視。1987年のリゾート法はバブルを過熱させ、日銀の誤った引き締めで不良債権80兆円に。政治家や官僚は形式知を装った、財務省の嘘の論理に流され、現場の暗黙知を磨かず、コロナ禍の追加給付も見送り消費回復を遅らせた。
失敗は、暗黙知の欠如で現実を見誤り、信頼を失うことから生じる。高橋の成功は、暗黙知の力を証明する。経済政策の未来は、暗黙知と形式知の融合にかかっている。都内の丈夫な鉄橋をはじめとして、形式知の正しさを裏付ける暗黙知の見本は、古今東西を見回せばいくらでもある、それを漫然と見過ごすか、見過ごさないかで、大きな違いが出てくるようだ。
暗黙知に裏付けられた、形式知はほど強いもはない。私は、これを見過ごさなかったのが、高橋是清であり安倍晋三という政治家だったのだと思う。だかこそ、高橋は直感で、勇気を持って当時は多くの人に理解されなかった政策を行い日本経済を立て直し、安倍は貿易面で筋を通して、トランプ大統領に現実を認識させ、説得できたのだと思う。
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