2025年2月11日火曜日

コラム:「トランプ関税」に一喜一憂は不要、為替変動が影響緩和―【私の論評】変動相場制の国カナダ、メキシコとは異なる中国の事情

コラム:「トランプ関税」に一喜一憂は不要、為替変動が影響緩和

まとめ
  • トランプ政権の関税政策: トランプ大統領はメキシコとカナダに対して25%の関税を導入し、その後延期を発表した。中国に対する追加関税は引き続き適用されている。
  • 為替市場の反応: 関税発表後、ドルはメキシコペソとカナダドルに対して急上昇したが、関税延期の発表により反落した。ドル指数は一時上昇したものの、変動が見られた。
  • 関税のマクロ経済への影響: 為替レートの変動は関税の影響や米国の物価上昇圧力を和らげる可能性があるが、その結果、金利や債券利回りに多くの変化を引き起こすこともある。
  • 実効関税率とインフレ: ゴールドマン・サックスの試算によると、カナダとメキシコからの輸入品に25%の関税が持続すれば、米国全体の実効関税率が7%上昇し、コア個人消費支出価格指数が0.7%上昇するとされる。
  • 中央銀行の姿勢: 各国の中央銀行は関税問題に対して慎重な姿勢を保ち、不確実性が高いため、急いで利下げを行う必要がないと見ている。トランプの関税政策は、米国の物価に影響を与える一方で、為替市場の動きによってその影響が和らぐ可能性がある。

米ドルとユーロ紙幣

トランプ米大統領の関税政策が外為市場に敏感に反応しており、特にメキシコとカナダに対する25%の関税発表とその延期がドルの価値に大きな影響を与えた。ドルは当初、メキシコペソやカナダドルに対して急上昇したが、関税の延期が発表されると反落した。これにより、関税の導入が市場の「反応関数」によってドル高を促進する可能性があることが示唆された。

関税が海外経済に与えるダメージや米国内のインフレを引き起こす懸念が、ドル高要因である金利差の影響を増幅することが考えられる。ドル高が続けば、海外企業は米国での商品のドル建て価格を引き上げずに市場シェアを維持できるため、一定のプラス効果が見込まれる。

しかし、関税導入による影響は複雑で、企業の対応や不透明感が国内経済活動やグローバルな信頼感にどの程度影響するかは意見が分かれる。また、関税が実施されるかどうかやその規模が明確にならない限り、マクロ経済への最終的な影響を正確に予測するのは難しい。

ゴールドマン・サックスによると、カナダとメキシコからの輸入品に持続的に25%の関税が課される場合、米国全体の実効関税率が7%ポイント上昇し、コア個人消費支出価格指数が0.7%上昇すると試算している。この実効関税率の上昇が、昨年10月以来のドル指数の上昇とほぼ一致していることも興味深い。

このような複雑な要因を考慮すると、各国中央銀行が関税問題について一貫した姿勢を取らない理由が理解できる。米連邦準備理事会(FRB)高官は追加利下げの計画が消えていないことを示しつつ、トランプ氏の政策の全体像を見極めるために急ぐ必要がないと判断している。一方、欧州中央銀行(ECB)やイングランド銀行(BOE)、カナダ銀行、メキシコ銀行などは利下げを進めている。

トランプ氏の関税政策の真の意図は不明だが、関税が米国の物価を押し上げる影響や相手国への圧迫効果は、外為市場の迅速な動きによってある程度和らぐ可能性がある。全体として、外為市場は関税引き上げに対する即効性のある相殺要因となり得る。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧なってください。

【私の論評】変動相場制の国カナダ、メキシコとは異なる中国の事情

まとめ
  • 関税の影響: 関税が導入されると、輸入品の価格が上昇し、国内の物価も押し上げられるが、為替変動によってその影響が緩和されることがある。
  • 消費者の選択: 関税によって輸入品が高くなると、消費者は国内や他国の製品を選ぶ傾向が強まり、国内産業が一時的に利益を得る可能性がある。
  • 固定相場制の影響: 固定相場制を採用する国(例: 中国)では、為替レートの調整ができないため、企業は価格を引き下げることが難しく、競争力が低下する。
  • クルーグマンの見解: ノーベル経済学者ポール・クルーグマンは、為替の変動が国際貿易において重要な役割を果たし、関税の影響を緩和する可能性があると指摘している。
  • 経済への深刻な影響: 米国市場での中国製品の競争力が減少し、経済への影響が深刻になるリスクが高まる。
タリフ(関税)マンを自称するトランプ大統領

関税がマクロ経済に与える影響は、為替変動によって緩和されることがある。関税が導入されると、通常、輸入品の価格が上昇し、国内の物価も押し上げられる。しかし、為替レートが変動することで、これらの影響が相殺されることもある。

関税が導入されると、輸入品の価格が上がるため、消費者は代替品を選ぶ傾向が強まる。これにより国内産業が一時的に利益を得ることが期待されるが、同時に消費者の購買力が減少し、経済活動全体が鈍化する可能性がある。また、関税によってドルが強くなると、米国製品が海外市場で高価になり、米国の輸出は不利になる。

ノーベル経済学者ポール・クルーグマンは、国際貿易における新しい経済地理学の視点から関税の影響を分析している。彼は、関税が導入されると、対象商品に対して価格が上昇し、消費者の選択肢が狭まることを指摘している。これにより、国内産業が短期的に利益を得る可能性があるが、長期的には市場の効率性が損なわれる恐れがあると警告している。

クルーグマンはさらに、為替レートの変動が国際貿易において重要な役割を果たすことを強調する。彼によれば、為替が柔軟に変動することで、関税による価格上昇の影響が緩和され、経済全体の均衡が保たれる可能性がある。例えば、関税が導入されると、輸出国の通貨が下落し、輸出の競争力が回復することがある。これにより、関税のネガティブな影響が相殺され、経済の安定が期待される。

変動相場制を採用しているカナダやメキシコなどの国々では、関税の影響が為替の変動によって軽減されることが期待される。特定の製品に関税がかけられた場合、為替レートが調整されることで、これらの国の輸出品の競争力が維持される。

メキシコ国旗(左)とカナダ国旗 AI生成画像

一方、中国のように固定相場制を採用している国では状況が異なる。米国が中国からの輸入品に関税をかけると、米国内の輸入品の価格が上昇する。この影響で、米国内の消費者は高くなった中国製品の代わりに、国内や他国の製品を選ぶ傾向が強まる。

この結果、米国内では中国製品を避ける動きが出てくる。中国の企業は売上を維持するために価格を引き下げる必要が生じるが、固定相場制のため為替レートの調整ができない。カナダやメキシコのように為替レートの調整によって価格を下げることはできず、企業努力で価格を引き下げざるを得なくなる。

そのため、中国の企業は自社製品の価格を十分に引き下げることができず、輸出品の価格が高くなり、米国市場での競争力が低下する。結果として、米国市場での中国製品の競争力が減少し、経済への影響が深刻になる可能性がある。

中国製品をボイコットする女性 AI生成画像

このように、関税が米国内の消費者や市場に与える影響は、中国製品の選択に大きく影響し、結果として中国の企業の競争力にも影響を及ぼす。最終的には、米国市場での中国製品の競争力が減少し、経済への影響がさらに深刻になるリスクが高まる。

変動相場制の国同士の貿易の場合は、関税の影響は直接的には物価上昇を引き起こすが、為替変動によってその影響が緩和され、経済全体に対するネガティブな影響が軽減される可能性がある。これは、経済が複雑な相互作用の中で動いていることを示す一例であり、政策決定者はこれらの要因を考慮に入れる必要がある。 

【関連記事】

トランプ氏、カナダ・メキシコ・中国に関税 4日発動―【私の論評】米国の内需拡大戦略が世界の貿易慣行を時代遅れに!日本が進むべき道とは? 2025年2月2日

トランプ米政権、職員200万人に退職勧告 在宅勤務禁止などに従わない場合―【私の論評】統治の本質を問う:トランプ政権の大胆な行政改革 2025年1月30日

「大統領令」100本署名〝移民やEV〟大転換 トランプ氏、第47代大統領に就任 中国の息の根を止める?融和姿勢目立つ日本は大丈夫か―【私の論評】戦略なき親中姿勢により、米・中から信頼を失いつつある石破政権 2025年1月22日

アングル:トランプ次期米政権、LGBTQなど「政府用語」も変更か―【私の論評】アイデンティティー政治の弊害とトランプ政権の政策変更 2025年1月12日

「多臓器不全」に陥った中国経済―【私の論評】何度でも言う!中国経済の低調の真の要因は、国際金融のトリレンマ 2023年7月10日

0 件のコメント:

「魚雷じゃないよ」海自ステルス護衛艦の最新激レア装備が披露 次世代艦には必須か―【私の論評】日本の海上自衛隊が誇る圧倒的ASW能力!国を守る最強の防衛力

「魚雷じゃないよ」海自ステルス護衛艦の最新激レア装備が披露 次世代艦には必須か まとめ 海上自衛隊は2025年2月7日に護衛艦「くまの」の訓練を公開し、機雷無害化に自律型水中航走式機雷探知機(UUV)を使用した。 「くまの」はもがみ型護衛艦の新鋭艦で、省人化設計と対機雷戦能力を備...