2025年1月30日木曜日

トランプ米政権、職員200万人に退職勧告 在宅勤務禁止などに従わない場合―【私の論評】統治の本質を問う:トランプ政権の大胆な行政改革

トランプ米政権、職員200万人に退職勧告 在宅勤務禁止などに従わない場合

まとめ
  • トランプ米政権は連邦政府職員に在宅勤務を禁止し、従わない場合は退職を勧奨する方針を通知した。対象は約200万人で、退職者には9月末までの給与が支払われる。
  • 政権高官は5~10%の退職者が出ることで約1千億ドルの歳出削減が期待されている。この方針は政府の効率化を目指すものである。
  • 人事管理局は週5日の出勤を求め、職員に忠誠心と信頼性を強調し、2月6日までに退職の意向を返信するよう求めている。職位の存続は保証できないとされている。

トランプ大統領

 トランプ米政権は28日、連邦政府職員に対し、在宅勤務を禁止し、これに従わない場合は退職を勧奨する方針を通知した。対象となる職員は約200万人で、退職に応じた職員には9月末までの給与が支払われる予定である。政権高官によれば、退職者が5~10%出ることで、約1千億ドル(約15兆5千億円)の歳出削減につながると見込んでいる。

 この方針は、トランプ大統領が進める連邦政府改革の一環であり、「政府効率化省」の設置や新型コロナウイルス禍で進んだ在宅勤務の原則禁止を盛り込んだ大統領令に基づいている。政権は官僚機構に対する支配を強化することを狙っているが、大幅な人員削減が政府機能の不全を招く恐れもある。

 人事管理局はメールで職員に対し、週5日の出勤を求め、「忠誠心があり、信頼に足る人材で構成されるべき」と強調している。また、2月6日までに退職するかどうかの返信を求めており、政府機関の大半で職場の統廃合を通じて人員削減が進められることも示唆している。職位や所属機関の存続については、確実に保証できないとも付言されている。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】統治の本質を問う:トランプ政権の大胆な行政改革

まとめ
  • トランプ大統領が設立したDOGE(政府効率化省)は、連邦政府の無駄を削減し行政改革を推進する革命的な取り組みだ。
  • ドラッカーの理論によれば、政府の本質的役割は「統治」であり、実行とは明確に区別されるべきだ。
  • 真の改革とは、政府が効率化されるだけでなく、本来の「統治」の役割に立ち返ることだ。
  • ドラッカーの提唱する「再民間化」概念は、政府の力を弱めるのではなく、その能力と力を回復させる方法だ。
  • この改革の成否は、アメリカの未来だけでなく、21世紀の世界秩序をも左右する可能性がある。

アメリカが新たな時代の幕開けを迎えようとしている。トランプ大統領の就任演説で発表された政府効率化省(DOGE)の設立だ。これは単なる行政改革ではない。アメリカの根幹を揺るがす大改革の始まりだ。上の記事にある連邦政府職員に在宅勤務を禁止し、従わない場合は退職を勧奨する方針は、DOGEの助言を受け入れたものとみられる。

DOGEは、イーロン・マスクとビベック・ラマスワミという二人の実業家が共同で率いる。彼らの目標は明確だ。連邦政府の無駄を徹底的に削ぎ落とし、行政を根本から変えることだ。マスク氏は、ブロックチェーン技術の活用を検討している。政府の支出を透明化し、データを守り、建物管理まで効率化する。まさに革命的な発想だ。

DOGEは、ホワイトハウスのアイゼンハワー行政府ビル内にオフィスを構え、各連邦機関に少なくとも4人から成るチームを配置する。その姿勢は、まさに政府全体を変革する気概に満ちている。

だが、課題も山積みだ。DOGEの法的位置づけは不透明だ。複数の団体が訴訟を起こしている。公的権限もほとんどない。それでも、トランプ大統領は「マンハッタン計画」になぞらえ、その重要性を強調する。DOGEの活動は、米国の独立250周年となる2026年7月4日までに完了する予定だ。

この改革の背景には、共和党の「小さな政府」志向がある。さらに、トランプ氏の「ディープステート撲滅」という野心的な目標がある。マスク氏とラマスワミ氏も、以前から政府の規制権限に批判的で、連邦政府の大幅な縮小を主張してきた。

小さな政府そのものがゴールではない

しかし、ここで立ち止まって考えてみよう。そもそも政府とは何か。経営の神様ドラッカーは、政府の役割の本質を「統治」だと喝破した。社会に方向性を示し、エネルギーを結集させる。それが政府の役割だと。

ドラッカーは警告する。統治と実行を混同すれば、政府は麻痺する。意思決定機関に実行を委ねても、貧弱な結果しか生まれない。その逆も然りだ。企業は統治と実行を分離することで成功した。政府も同じだ。政府は統治に専念し、実行は他の組織に任せるべきだと。

ドラッカーは、政府の役割を次のように定義している。「政府の役割は、社会のために意味ある決定と方向付けを行うことである。社会のエネルギーを結集することである。問題を浮かびあがらせることである。選択を提示することである」。これこそが、真の「統治」の姿だ。

さらに、ドラッカーは「再民間化」(現代では民営化)という概念を提唱した。これは、政府の力を弱めるのではなく、むしろその能力と力を回復させる方法だ。実行は現場ごとの目的の下にそれぞれの現場に任せ、政府は決定と方向付けに専念する。これにより、政府は本来の役割に立ち返ることができる。

この視点は、今の改革にも重要だ。効率化や撲滅に走るあまり、政府の本来の役割を見失ってはいけない。DOGEが活動し、トランプ大統領がその助言を受け入れるならば、政府が効率化され、ディープステートが撲滅されるかもしれない。しかし、それだけでは不十分だ。政府を小さくすることだけに焦点を絞れば、改革はうまくいかない。

真の改革とは、政府が本来の役割である「統治」に立ち返ることだ。社会のために意味ある決定を行い、エネルギーを結集し、問題を浮かび上がらせ、選択肢を提示する。それこそが、政府の本質的な使命なのだ。

ドラッカー氏

ドラッカーの言葉を借りれば、「この300年間、政治理論と社会理論は分離されてきた。しかしここで、この半世紀に組織について学んだことを、政府と社会に適用することになれば、この二つの理論が再び合体する」。つまり、非政府組織(NGO)が成果を上げるための機関となり、政府が社会の諸目的を決定するための機関となる。そして、政府は多様な組織の指揮者となるのだ。この方向にトランプ大統領の改革が進んでほしい!

アメリカは今、歴史的な岐路に立っている。この改革が成功するか否か、世界中が固唾を呑んで見守っている。トランプ大統領の決断が、アメリカの、そして世界の未来を左右する。政府の効率化と本質的な役割の両立。それが実現できれば、アメリカは真の意味で「再び偉大に」なるだろう。

我々は今、歴史の大きな転換点に立ち会っている。この改革の行方が、21世紀の世界秩序を決定づけるかもしれない。G7の他の国々でも、似たような潮流がすでにあるが、現状でもっとも進み、可能性があるのはアメリカだといえる。トランプ大統領の手腕が、今ほど試されているときはない。政府の本質を見失わず、真の統治を実現できるか。その答えが、アメリカの、そして世界の未来を形作るのだ。

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