オーストリア・ネハンマー首相 |
去年9月にオーストリアで行われた総選挙で、第1党から陥落した中道右派「国民党」のネハンマー首相は、次の連立政権の樹立を目指す交渉が決裂したとして首相を辞任する意向を示しました。
去年9月のオーストリアの総選挙では、極右の「自由党」が初めて第1党に躍進しました。
敗北した中道右派「国民党」のネハンマー首相は、極右の「自由党」抜きでの連立政権の樹立を模索してきました。しかし今月3日、連立交渉に参加していたリベラル政党が交渉から離脱すると発表。ネハンマー首相は4日、連立交渉は決裂したとして、近日中に首相を辞任する意向を表明しました。
今後、極右政党を含めた連立交渉が進められるか、改めて解散総選挙が行われるか、状況は混迷を深めています。
【私の論評】オーストリアと日本の移民政策比較:受け入れの影響と未来の選択
まとめ
- オーストリアは2015年の難民危機において約90万人の難民を受け入れ、これは日本で言えば、127万人の受け入れに匹敵し、非常に大きな影響を及ぼした。
- 難民受け入れに対する人道的な姿勢を示したオーストリアの政権は、国民の不安の高まりから反移民派の「自由党」(FPÖ)の台頭を招いた。
- FPÖは「オーストリア人優先」の政策を掲げ、EUの規制に対する批判を強め、移民政策に関する懸念を訴えて支持を拡大している。
- 日本政府は移民・難民の受け入れを増やそうとする傾向があるが、依然として慎重な姿勢を崩しておらず、過去の選択が正しかったといえる。
- 日本が、将来的に移民・難民の受け入れを増やすと、国内の社会混乱と国際的批判を招く可能性、特にトランプ政権からは批判だけではすまなくなる可能性もあり、慎重な姿勢が求められる。
移民のドイツまでの主なルート 2015年 |
日本の人口に換算すると、約127万人の移民を受け入れるのと同等の規模であり、オーストリアが受け入れた難民の数は、同国の社会や経済に与える影響は計り知れず、移民に対する懸念や反発が高まる要因となった。
2015年の難民危機の際、オーストリアの政権は当時の与党である「オーストリア社会民主党」(SPÖ)と「オーストリア国民党」(ÖVP)の連立政権であった。この政権は、難民受け入れに対して比較的人道的な見地から、緊急的な保護を提供する政策を採った。しかし、受け入れの急増に伴い国民の不安が高まり、反移民派の「自由党」(FPÖ)の台頭を招く結果となった。
FPÖは国家主義的な観点からオーストリアの文化や伝統を重視し、外国人に対する優遇措置に反対する立場を取った。党のリーダーは国民国家の理念からすれば当然ともいえる「オーストリア人優先」の政策を掲げ、これにより支持を拡大している。経済政策においては、FPÖは自由市場経済を支持し、税負担の軽減や規制緩和を提唱している。中小企業の支援や雇用創出を重視し、経済成長を促進するための施策を打ち出している。
さらに、FPÖは欧州連合(EU)に対しても批判的であり、EUの規制がオーストリアの主権を侵害していると主張している。この立場は、EUの移民政策や経済政策に対する不満を持つ層からの支持を集める要因となっている。
EUにおける難民受け入れに関しては、「ダブリンダイレクティブ」に基づいており、難民申請が最初に行われた国がその申請を処理する責任を持つという原則がある。しかし、これにより過剰な負担を強いられる国々があり、特に地理的に外部国境に位置する国々(例えばギリシャやイタリア)が大きな影響を受けている。
EU内での難民の配分は、各国の人口、経済力、過去の受け入れ実績などに基づいて行われることが提案されているが、実際には政治的意志や国民の反発によりスムーズに機能しないことが多い。
EUは様々な国々の違いや利害を乗り越えて、欧州統一を成し遂げた結果できあがった組織であり、EU本部は移民難民の受け入れも、スムーズにできるだろうと考えていたのだろう。しかし、ある程度共通の理念や価値観を持った欧州の統一と比較すれば、理念や価値観が全く異なる地域からの移民・難民の受け入れは、全く次元が異なる難事業である。そのことにEU域内の多くの人々は今更ながら気付かされたようだ。
具体的に、FPÖが第一党となったのは2022年の州議会選挙においてであり、約27%の票を獲得した。この選挙では、移民や社会政策に関する懸念が大きなテーマとなり、FPÖの主張が多くの有権者に支持されたことが要因である。また、2020年の州議会選挙でも一定の支持を得ており、特にオーストリア東部の州では強い支持を受けている。
オーストリア自由党党首ヘルベルト・キックル |
オーストリアの「自由党」は、移民政策や国家主義、経済政策、EUに対する姿勢を通じて支持を広げており、その主張は現在の社会的・政治的な文脈に深く根ざしている。最近の選挙や世論調査ではFPÖの支持が増加していることが示されており、彼らの主張が多くの有権者に共感を呼んでいることが伺える。
一方、現在の日本政府は移民・難民の受け入れを増やそうとする傾向を示している。具体的には、政府は技能実習制度を通じた外国人労働者の受け入れを拡大する政策を進めており、2023年には新たな在留資格を創設して労働力不足の解消を図っている。また、難民認定を受けた人数も徐々に増加していることが報告されている。しかし、これらの施策は依然として限定的であり、受け入れの枠組みや条件が厳しいため、真の意味での移民政策とは言えない状況だ。とはいいながら局所的にはすでに川口市などては、社会的な混乱を招いている。
岸田前総理は外国人と共生する社会を提唱 |
このような日本の政策は、現在のオーストリアや他の欧州諸国の対応と比較すると、周回遅れであるといえる。しかし、オーストリアなどの国々が難民受け入れに関する包括的な政策を構築し、社会統合を進める中で、この受け入れは失敗し社会的混乱を引き起こし、政治的な分断を生む要因ともなっている。日本が新たに移民・難民を多数受け入れることをしてこなかったことは正しい選択であったと考えられる。
今後、日本がこの姿勢を貫けば、世界において日本の立ち位置は一層強まるだろう。しかし、もし日本が移民・難民を多数受け入れる方向に転じれば、国内における社会混乱とともに、国際的には周回遅れの愚かな政策を採った国として批判されることになるだろう。
今後、日本がこの姿勢を貫けば、世界において日本の立ち位置は一層強まるだろう。しかし、もし日本が移民・難民を多数受け入れる方向に転じれば、国内における社会混乱とともに、国際的には周回遅れの愚かな政策を採った国として批判されることになるだろう。
中国・ロシア・北朝鮮などの国々は、日本の弱体化を歓迎するだろうが、特に安全保障の関係から、トランプ政権から厳しい批判を招くことになるだろう。いや、批判だけではすまなくなるかもしれない。
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