2025年1月15日水曜日

「多様性」メタ、マクドナルド、アマゾンが後ろ向きに パリ五輪でも波紋、日本への影響は―【私の論評】個性を尊重しながらも、共通の価値を見出し、連帯感を育む社会を目指せ

 「多様性」メタ、マクドナルド、アマゾンが後ろ向きに パリ五輪でも波紋、日本への影響は

まとめ
  • 米主要企業が多様性を尊重するDEI(多様性、公平性、包摂性)に関する取り組みを廃止または縮小している。
  • トランプ次期大統領の影響を受けて、企業がこれまでの施策見直しを進めているとみられる。
  • 米国での動きが日本企業にも影響を及ぼし、トヨタや日産はDEIの取り組みを継続するが、特定の評価基準への参加を取りやめる意向を示している。
  • 昨夏のパリ五輪では、多様性をテーマにした演出が批判を受け、社会での対立を引き起こしている。
  • DEI施策が「逆差別」との批判を浴び、保守系活動家がDEIを掲げる企業へのボイコットを訴える動きが見られる。
DEIは一見いいことずくめのようにも見えるが、現実はそうではない

米主要企業が多様性を尊重する活動を後退させる動きを見せている。特に、IT大手メタがDEI(Diversity, Equity, Inclusion:多様性、公平性、包摂性)に関する社内の取り組みを廃止すると従業員に伝えたことが報じられた。アマゾンやマイクロソフトも同様に、多様性に配慮した取り組みを縮小する意向を示している。例えば、マイクロソフトは2024年7月にDEIチームを解散したとされている。

さらに、マクドナルドは2025年1月6日にDEIに関する方針を変更すると発表したが、同社は「DEIへの取り組みは揺るがない」としつつも、多様性確保の目標を廃止することを明言している。ウォルマートやフォード・モーターもDEI施策の見直しを行っているとのことだ。これらの動きは、トランプ次期大統領の影響を受けているとの見方もあり、アメリカ国内での事業活動を行う日本企業も影響を受ける可能性がある。実際、トヨタ自動車や日産自動車はDEIの取り組みは継続するものの、LGBTQの人権団体が実施する「企業平等指数」への参加を取りやめる意向を示している。

また、近年の多様性をテーマにした出来事として、昨夏のパリ五輪が挙げられる。開会式で、派手なメイクをしたドラァグクイーンや性的少数者が並ぶ演出が波紋を呼び、一部ではキリスト教を揶揄するものと受け取られるなど、批判が集まった。この演出に参加した者は、インターネット上で誹謗中傷を受けたという報道もある。一般社団法人「LGBT理解増進会」の代表理事は、「多様性が暴走している」とのコメントを寄せ、分断をあおるような内容は開会式にふさわしくないと指摘している。

さらに、DEIに関連する問題が競技の場にも影響を及ぼしている。ボクシング女子66キロ級に出場したアルジェリアの選手をめぐり、性別適格検査に不合格となったにもかかわらず五輪で女性として出場が認められたことで、激しい批判を受ける事例も発生している。

このように、多様性を実現するための施策が進む一方で、DEIそのものが「逆差別」との批判を浴びる事態も生じている。保守系活動家らはDEIを掲げる企業の商品ボイコットを訴えるなど、社会における対立が見られる。

今後、米国の有力企業でのDEIに関する揺り戻しが、日本や世界にどのように影響していくかが注目される。企業の多様性への取り組みがどのように変化し、社会全体にどのような影響を及ぼすのか、引き続き観察が必要だ。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】個性を尊重しながらも、共通の価値を見出し、連帯感を育む社会を目指せ

まとめ
  1. DEI(多様性、公平性、包摂性)の取り組みには成功と失敗の事例があり、特にエンターテインメント業界でその影響が顕著である。
  2. ゲーム「Concord」は、DEIの理念を過剰に取り入れた結果、キャラクターの魅力が損なわれ、わずか2週間でサービス終了に至った。
  3. ハリウッド映画や音楽業界でも、DEIを強調するあまりストーリーやキャラクターが薄くなり、観客からの支持を失った事例が多い。
  4. 一方で、DEIを意識しない成功事例も存在し、映画「トップガン:マーヴェリック」やゲーム「黒神話:悟空」などが高い評価を得ている。
  5. DEIとアイデンティティ政治は関連しているが、共通の権利と責任を重視する市民としての視点が重要であり、特定のグループに偏りすぎることなく、全体の調和を考えたアプローチが求められる。この視点を持つことで、未来の社会はより調和の取れたものとなるだろう。

企業におけるDEI(多様性、公平性、包摂性)の取り組みには、近年では失敗事例が顕著になってきた。特に、ゲーム、映画、音楽、アニメといったエンターテインメント業界では、その影響が顕著に表れている。

失敗の代表作となったゲーム「CONCORD」

まず、ゲーム業界の代表的な失敗事例として「Concord」が挙げられる。このゲームは、DEIの理念を過剰に取り入れた結果、キャラクターの魅力が損なわれてしまった。開発に8年をかけながら、発売からわずか2週間でサービス終了が決定するという悲劇を迎えた。プレイヤーが魅力を感じられないキャラクターが多く存在し、興味を失ったことが要因である。特に、キャラクターのデザインが「政治的正しさ」を追求するあまり、個性が薄れてしまったことが問題視された。

次に、ハリウッド映画でも同様の傾向が見られる。DEIを強調した作品が増える中、一部の映画はその影響でストーリーやキャラクターの深みが失われたとの批判を受けている。具体的には、映画「ウィッチャー」や「アラジン」がその例であり、特にキャスティングが多様性を重視するあまり、オリジナルの魅力が損なわれたという意見がある。また、「チャーリーズ・エンジェル」のリブート版も、DEIを意識した結果、ストーリーが薄くなり、観客からの支持を得られなかった。

音楽業界でも、DEIの取り組みが影響を及ぼしている。特定のアーティストやジャンルに焦点を当てることで、他の才能を見過ごす事例が増えている。米国の音楽祭や受賞式において、DEIを意識したプログラムが批判を受けることがあり、「多様性のための多様性」が逆に質を低下させる結果となることもある。具体的には、グラミー賞における選考過程が挙げられ、「DEIを重視しすぎるあまり、実力あるアーティストが評価されない」との声が上がっている。

一方で、DEIを取り入れなかった成功事例も存在する。「黒神話:悟空」はその代表例である。このゲームは、DEIの理念を意識せず、魅力的なキャラクターとストーリーに焦点を当てたことで成功を収めた。特に、中国市場での売上が好調であり、多様性を狙った作品が必ずしも成功するわけではないことを示している。

映画「トップガン:マーヴェリック」も、DEIを過度に意識せず、ストーリーとキャラクターの魅力を重視することで大ヒットを記録した。観客は、伝統的なテーマやキャラクターに共感し、興行収入も成功を収めた。これにより、必ずしもDEIを強調する必要がないことが示された。「Disney」は、DEI施策を強化した結果、特定の作品が興行収入で期待を下回る事態が発生した。「スターウォーズ」シリーズの最新作「スカイウォーカーの夜明け」は、キャラクターの多様性を強調しすぎたため、従来のファン層からの支持を失ったとの評価がある。

一方、日本の「ゴジラ-1.0」は従来のゴジラシリーズの魅力を維持しつつ、新しいストーリーを展開することで観客を引きつけた。この作品は、過去のキャラクターやテーマを尊重しながらも、新しい視点を取り入れることで成功を収めた。また、「進撃の巨人」や「東京リベンジャーズ」といったアニメ作品も、キャラクターの個性やストーリーの深みを重視し、多様性を強調しすぎないことで高い評価を得ている。


さらに、DEI導入により企業経営に悪影響を受けた具体的な事例も存在する。たとえば米国の飲料メーカー「Coca-Cola」は、DEIに基づく研修プログラムを導入した結果、社内の対立が激化し、従業員の士気が低下したとの報告がある。一部の従業員は、研修内容が「逆差別」と感じられるものであったと述べており、企業文化に悪影響を及ぼしているとの指摘がなされている。

さらに、DEIは企業業績だけではなく、社会に大きな影響を及ぼすことも忘れてはならない。DEIとアイデンティティ政治は密接に関連している。DEIは、さまざまな背景を持つ人々が平等に参加できる環境を整えることを目指し、特定のアイデンティティを尊重する。一方で、アイデンティティ政治は特定のグループの権利や利益を擁護する政治的アプローチであり、歴史的に抑圧されてきたコミュニティの権利を主張する。

両者は共通して多様性の尊重と平等を求めているが、DEIはより広範な多様性を促進することを重視している。また、DEIの施策はアイデンティティ政治の影響を受けることが多く、特定のグループのニーズが考慮される場合もある。しかし、アイデンティティ政治の影響を受けすぎると、逆に分断を生むという批判も存在する。

このように、DEIとアイデンティティ政治は互いに関連しながらも、実施方法やアプローチに関してはさまざまな議論がある。その対極に位置するのが、米国市民としての権利・義務や市民としての連帯感である。この市民としての視点は、すべての市民が共通して持つ権利と責任を重視し、国の一員としての連帯感を育むことを目的としている。

特に、アメリカの建国理念に根ざした「すべての人は平等に創られている」という考え方は、アイデンティティ政治とは異なる市民としての連帯感を強調している。この具体的な事例として、アメリカの公民権運動が挙げられる。この運動は、人種や性別に関係なく、すべての市民が平等に扱われるべきだという理念に基づいており、個々のアイデンティティを超えた共通の権利を主張した。マーティン・ルーサー・キング・ジュニアの有名な「I Have a Dream」スピーチでは、「人種の違いを超えて、すべての人が共に生きる社会」を目指す姿勢が示されている。このように、共通の権利と責任を重視する視点は、社会の調和や発展に寄与する。

マーティン・ルーサー・キング・ジュニアの有名な「I Have a Dream」スピーチ

近年の米国の社会運動においては、特定のグループに偏らない普遍的な価値観である米国市民としての視点が失われ、社会全体の調和や発展が妨げられるようになった。DEIやアイデンティティ政治の議論が続く中で、共通の権利と責任を重視する視点を忘れずに、より包括的で調和の取れた社会を築くことが重要である。これは単なる揺り戻しではなく、社会の再構築である。これに対して、トランプ政権がどの程度切り込むことができるか、注目が集まっている。

日本でも、日本国民としての共通の権利と責任を重視する視点を忘れずに、より包括的で調和の取れた社会を築くべきである。無節操なDEIやアイデンティティ政治を拙速に進めるべきではない。多様性を尊重しつつも、国民全体が共有する価値観を大切にすることで、より健全な社会を目指すことが可能になるのだ。これこそが、未来の社会に必要な視点であり、すべての人々が共に生きる道を切り開く鍵となる。

結局のところ、DEIやアイデンティティ政治は、適切にバランスを取らなければ、逆に社会の分断を招く危険性がある。特定のグループに偏りすぎることなく、全体の調和を考えたアプローチが求められている。私たちが目指すべきは、個々の違いである個性を尊重しながらも、古から存在する日本の共通の価値や文化、美意識を再認識し、我々の先達がそうだったように、新しい価値観は、十分に吟味し、咀嚼したうえで受け入れられるものは、受け入れつつ、現代社会に適応することより、連帯感を育む社会である。この道を選ぶことで、私たちの未来はより明るいものとなるだろう。 

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