2025年1月31日金曜日

ドイツ、移民政策厳格化の決議案可決 最大野党の方針転換が物議―【私の論評】2025年ドイツ政治の激変:AfD台頭と欧州保守主義の新潮流

ドイツ、移民政策厳格化の決議案可決 最大野党の方針転換が物議

まとめ
  • ドイツの連邦議会は移民・難民政策の厳格化を求める決議案を可決したが、法的拘束力はなく、政府への影響は限定的である。
  • 決議の背景にはアフガニスタン出身男性による幼児襲撃事件があり、移民問題が選挙戦の重要な争点となっている。
  • 中道右派の最大野党「キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)」は右派「ドイツのための選択肢(AfD)」との協力を示唆しているが、主要政党は排外主義勢力への警戒感からAfDとの連立を否定している。

ドイツの野党キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)を率いるメルツ党首

 ドイツの連邦議会は2月下旬の前倒し総選挙を控え、29日に移民・難民政策の厳格化を求める決議案を賛成多数で可決した。この決議は中道右派の最大野党「CDU・CSU」が提案し、排外主義的な右派「AfD」も支持したが、法的拘束力はなく、政府方針への影響は少ないと見られている。

 背景には、22日に発生したアフガニスタン出身の男性による幼児襲撃事件があり、移民問題が選挙戦の重要な争点となっている。CDU・CSUの提案には、国境の持続的な管理、入国許可証を持たない者の入国拒否、国外退去対象者の拘束などが含まれている。

 CDUのメルツ党首は移民対策強化を公約に掲げ、AfDとの協力も辞さない姿勢を示した。しかし、ドイツではナチス政権の反省から、排外主義勢力への警戒感が強く、主要政党はAfDとの連立や政策協力を否定している。与党の中道左派・社会民主党もメルツ氏の発言に強い反対を示した。

 また、EU加盟国のドイツが国境管理を恒常化することは、EUのシェンゲン協定に反するため、今回の決議は実現可能性が低いとの指摘もある。現在、CDU・CSUは支持率が高く、2月23日の前倒し総選挙で第1党となる可能性が大きいが、AfDに対する拒否感を持つ支持者からの反発も懸念されている。メルツ氏は公約の実現に向けた強い姿勢をアピールしているが、内部での不満が高まる可能性もある。 

 この記事は元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】2025年ドイツ政治の激変:AfD台頭と欧州保守主義の新潮流

まとめ
  • ドイツの連邦議会で移民政策厳格化の決議案が可決され、AfDの支持率が20%を超えるなど、保守系政党の台頭が顕著になっている。
  • EU全体で保守系勢力が台頭しており、2024年の欧州議会選挙でも保守系会派が勢力を拡大した。
  • イーロン・マスク氏がAfDを支持を表明、集会にリモート参加するなど、物議を醸している。
  • 保守系政党台頭の背景には、移民問題、経済的不安、気候変動政策への不満、伝統的価値観の喪失感などがある。
  • 日本でも既存の政治体制への不信感が高まりつつあり、日本の政治地図も大きく塗り替えられる可能性もある。
イーロン・マスク氏とのインタビューに臨むAfDのアリス・ワイデル共同党首

ドイツの政界に、変革の風が吹き始めた。2025年1月29日、連邦議会で移民政策の厳格化を求める決議案が可決された。これは、2月23日の総選挙を前に、国民の声が政治に反映された瞬間だ。

この決議案を提出したのは、中道右派の最大野党CDU・CSUだ。そして、「ドイツのための選択肢(AfD)」も、この決議案を支持した。AfDの支持がなければ、この決議案は可決されなかっただろう。

現在のドイツは、社会民主党(SPD)、緑の党、自由民主党(FDP)による「信号」連立政権が統治している。この名称は、各党のシンボルカラー(赤、緑、黄)に由来する。しかし、この政権は移民問題に対して十分な対策を講じられずにいた。

AfDの支持率が20%を超え、SPDを上回っているのは、こうした現状に国民が危機感を抱いているからだ。2024年9月の旧東ドイツ3州での州議会選挙でAfDが躍進したのも、当然の結果と言える。

しかし、この潮流はドイツだけの現象ではない。EU全体で保守系勢力が台頭している。2024年6月の欧州議会選挙では、EU加盟各国で保守系や国家主義的な政党が大きく勢力を拡大した。フランスでは「国民連合」が熱狂的支持を集め、ベルギー下院選挙では北部オランダ語圏で「フラームス・ベラング」が第二党となった。

オランダでは昨秋の下院選挙で「自由党」が第一党となり、7月に連立内閣が発足した。オーストリアでも、9月末の下院選挙で「自由党」が第一党となった。

欧州議会選挙の結果を見ると、保守系会派である欧州保守改革(ECR)やアイデンティティと民主主義(ID)が勢力を拡大した一方で、環境会派の緑の党・欧州自由同盟(Greens/EFA)や中道リベラル会派の欧州刷新(Renew Europe)が大幅に勢力を落とした。

この保守化の背景には、移民問題だけでなく、リーマン・ショック後の欧州債務危機の影響もある。経済的不安が、既存の政治への不信感を高め、保守政党の支持拡大につながっているのだ。

アメリカの実業家イーロン・マスク氏も、「ドイツを救えるのはAfDだけだ」と発言し、AfDの集会にリモートで参加した。この行動は国内外で物議を醸している。

イーロン・マスク氏

マスク氏がAfDを支持するに至った背景には、複雑な要因がある。2024年12月、マスク氏はトランプ氏やJ.D.ヴァンス氏らとマールアラーゴで会談し、ドイツの主流政党の指導者たちを批判した。マスク氏のドイツ政治への批判的な見方は、この会談以前から形成されていたという。

マスク氏は、ドイツでの事業展開における政府規制への不満や、ドイツの政治文化に対する観察から、批判的な見解を持つようになった。また、AfDを支持する政治活動家や、ドイツのリベラルな政策や過剰規制に不満を持つ起業家たちとの交流も、彼の見解に影響を与えたとされる。

さらに、マスク氏は「過去の罪悪感に焦点を当てすぎ」というドイツの姿勢を批判し、AfD支持者から喝采を浴びた。この発言は、ドイツの「自虐史観」の払拭を狙ったものだとの見方もある。

2月23日の総選挙で、ドイツ国民は重大な選択を迫られる。このまま「信号」連立政権に国の舵取りを任せるのか。それとも、AfDとともに新しいドイツを築くのか。

ドイツの、そして欧州の未来がかかった選挙が、今、始まろうとしている。AfDは、国民の声に耳を傾け、真のドイツの利益のために戦う。そして、この動きはEU全体に広がっている。変革の時は、今だ。

この保守系政党台頭の背景には、より深い構造的な問題がある。EUの経済的停滞、移民問題、気候変動政策への不満、伝統的価値観の喪失感が、有権者の不安を加速させているのだ。

特に注目すべきは、若年層の間でこうした保守系政党への支持が拡大していることだ。2024年の調査によれば、18〜35歳の有権者の中で、AfDを支持する割合が25%に達している。これは、従来のリベラル層が政治的無関心や既存政党への失望から、急進的な選択肢に傾いていることを示している。

気候変動政策も、保守系政党台頭の重要な要因となっている。緑の党が推進する厳格な環境規制は、特に中小企業や地方の労働者に経済的負担を強いてきた。この結果、伝統的な産業地域で保守系政党への支持が急速に拡大している。

EUは歴史的な転換点に立っている。伝統的な政治構造が揺らぎ、新たな政治的可能性が開かれつつある。AfDをはじめとする保守系政党の台頭は、単なる一時的な現象ではなく、より深い社会変容の兆候なのだ。

さらに、ドイツのエネルギー政策の転換も、この政治的変化に拍車をかけている。2022年までに全ての原子力発電所を閉鎖するという決定は、エネルギー供給の不安定化と電力価格の高騰をもたらした。2021年には、ガス価格の高騰と石炭火力への逆戻りにより、電力価格が記録的に上昇した。

現政権は原発を恒久的につかえなくするため原発冷却塔を爆破

この原発廃止政策は、ドイツの競争力を低下させ、経済成長を阻害する可能性があるという懸念が産業界から上がっている。特に、産業向けの電気料金の上昇は、企業の生産拠点の海外移転を加速させ、経済を悪化させる恐れがある。

また、再生可能エネルギーへの移行も順調とは言えない。風力発電の不安定さに対応するためのコストが予想以上にかかっており、技術開発の進展次第では、将来的に脱原子力政策の見直しを迫られる可能性もある。

これらのエネルギー政策の問題は、国民の不安と不満を高め、AfDのような保守系政党の支持拡大につながっている。エネルギー安全保障と経済成長の両立を求める声が、従来の政党への不信感と相まって、新たな政治勢力への期待を高めているのだ。

欧米でのリベラル・左派政権の失敗は明らになりつつある。既存の政治体制への不信感の高まりがその証左となっている。これらの教訓を踏まえると、日本でも保守派の台頭が起こる可能性は十分に考えられる。既存の政治への不満や、伝統的価値観への回帰を求める声が高まれば、日本の政治地図も大きく塗り替えられる可能性があるだろう。

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