2025年1月12日日曜日

アングル:トランプ次期米政権、LGBTQなど「政府用語」も変更か―【私の論評】アイデンティティー政治の弊害とトランプ政権の政策変更

アングル:トランプ次期米政権、LGBTQなど「政府用語」も変更か

まとめ
  • トランプ次期政権では、気候変動やLGBTQ+に関する文言が削除される可能性が高い。
  • 移民問題では「不法在留外国人」という用語が復活し、「書類のない移民」や「非市民」という表現が廃止される見込み。
  • トランプ氏の政権下で、気候変動に関する情報が削除され、環境正義が軽視されることが予想される。
  • LGBTQ+の権利に関しても、政府の言及が減少し、トランスジェンダー問題が抹消される危険性がある。
  • トランプ氏は「常識的な政策」を掲げ、教育やトランスジェンダー手術に関する方針を変更する意向を示している。
トランプ新大統領

トランプ次期大統領の政権下で、アメリカの政策や政府の文言が大幅に変更される見込みである。特に、気候変動やLGBTQ+の権利に関する記載が政府の公式ウェブサイトや文書から削除される可能性が高いとされている。専門家は、移民問題においても、従来の「書類のない移民」や「非市民」といった表現が廃止され、「不法在留外国人(illegal alien)」という用語が復活する見込みである。

トランプ政権の初回就任時にも、気候変動に関する情報が削除される事例が見られた。環境データ&ガバナンス・イニシアチブのグレッチェン・ゲルケ氏は、今回の政権でも同様の「ストレートな削除」が行われる可能性が高いと指摘している。特に、「正義」に関する文言は全て削除されると予想されており、気候変動や「多様性、公平性、包摂(DEI)」に関する政策が重大な変化をもたらすことが懸念されている。

移民に関する表現の変更については、「不法」という用語が使用されることにより、犯罪性を連想させるとの指摘がある。非営利団体の米移民評議会の政策ディレクター、ネイナ・グプタ氏は、不法移民が経済や地域社会に貢献しているという現実が軽視されることを懸念している。

また、トランスジェンダーに関する問題についても、トランプ氏の前回の政権時に言及が減少したことがあり、今回も同様の措置が取られる可能性が高いとされている。保守派の活動家たちは、「性的指向」や「性自認」といった用語を連邦規則や法律から削除するよう求めている。LGBTQ+の権利を擁護する団体のデービッド・ステイシー氏は、トランスジェンダーを社会から抹消しようとする動きが強まる危険性があると述べている。

トランプ氏の政権移行チームの報道官は、具体的な計画について明確には答えていないが、教育現場での性に関する議論の廃止や、連邦刑務所の受刑者に対する税金によるトランスジェンダー手術の廃止が政策に含まれるとされている。また、調査によると、LGBTQ+コミュニティーの保護に対する国民の支持は依然として強いが、今後の政策変更がその状況にどのように影響を与えるかが注目されている。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】アイデンティティー政治の弊害とトランプ政権の政策変更

まとめ
  • トランプ政権は、バイデン政権によるアイデンティティー政治の弊害を取り除くための文言の変更や政策見直しを行っている。特定のグループの権利を強調するアイデンティティー政治は、社会全体の統一感を損ない、分断を深める危険がある。
  • アイデンティティー政治の対極として、米国市民としての権利・義務や連帯感が重要であり、全体の利益を考慮した政策形成が求められている。
  • バイデン政権は国境の安全を強化しながらも、移民問題に対して柔軟な姿勢を取るなど、アイデンティティー政治の限界を示した。
  • バイデン政権のアプローチが多くの有権者に受け入れられず、昨年の大統領選ではトランプ氏の政策が再び支持を集める結果となった。

ホワイトハウスに掲げられたLGBTQの権利を主張するレインボー旗

トランプ政権が実施しようとする、文章の文言の変更などは、バイデン政権によって推し進められてきた、アイデンティティー政治の弊害を取り除こうとする正当な試みの一環である。

アイデンティティー政治とは、特定の人種、性別、性的指向、宗教などの社会的アイデンティティに基づいて政治的な立場や政策が形成されることを指す。このアプローチは、特定のグループの権利や利益を強調する一方で、社会全体の統一感を損なう可能性がある。この手法における、政策は政策というより、社会工学実験に近いものになりがちだ。民主党政権下では、アイデンティティー政治が強調されることで対立が深まり、社会的な分断が進行したとの批判が多く見られる。例えば、バーニー・サンダースやヒラリー・クリントンの選挙キャンペーンでは、特定のマイノリティグループの権利が強調される一方で、白人労働者層の不満が無視され、結果として彼らの支持を失ったという事例がある。 トランプ政権が実施しようとしている文言の変更や政策の見直しは、こうしたアイデンティティー政治の弊害を取り除こうとする試みと捉えられる。気候変動やLGBTQ+の権利に関する表現の見直しは、特定のグループの利益を優先するのではなく、全体の利益を考慮した政策形成を目指すものである。

気候変動に関しては、現実には温暖化はゆっくりとしか進んでいないし、その影響で災害が増加しているとは断言できない。温暖化の理由の一部はCO2だが、それ以外の要因も大きく、CO2の大幅排出削減は「待ったなし」ではないという見方もある。気候変動の複雑さと不確実性を考慮すると、多様な視点を持つことは重要である。多様な視点を完全否定することこそ、危険である。それこそ、ファシズムになりかねない。
移民問題において「不法在留外国人」という用語を使用することは、法の遵守を重視し、国民全体の安全や秩序を守るための措置と見なされる。例えば、トランプ氏は国境の安全を強化するために壁の建設を公約として掲げ、多くの支持を集めた。
アイデンティティー政治の対極にあるのは、米国市民としての権利・義務や市民としての連帯感である。米国市民としての視点は、すべての市民が共通して持つ権利と責任を重視し、国の一員としての連帯感を育むことを目的としている。この視点は、特定のグループに偏らない普遍的な価値観に基づいており、社会全体の調和や発展に寄与する。例えば、アメリカの建国理念である「すべての人は平等に創られている」という考え方は、アイデンティティー政治とは異なる市民としての連帯感を強調している。

米国独立宣言 クリックすると拡大します
トランプ政権の政策変更は、市民としての連帯感を再強調し、アイデンティティー政治の弊害を克服する正当な試みである。これにより、特定のグループの利益を優先するのではなく、すべての市民が共通して享受する権利を重視した政策形成が進むことが期待されている。これに関連するエピソードとして、トランプ氏の支持者の多くが「アメリカファースト」を掲げ、国民全体の利益を考慮した政策を求めていることが挙げられる。実際、彼の政権下では、低所得層や中間層の税負担を軽減する税制改革が実施された。 こうした背景の中、トランプ政権が成立したのは、アイデンティティー政治に対する反発とともに、米国市民としての連帯を重視する声が高まった結果でもある。多くの有権者は、国民全体の利益を考慮した政策を求め、特定のグループに偏らないアプローチを支持するようになった。この流れが、トランプ氏の支持基盤を形成し、彼の政権成立に寄与したと考えられる。特に、2016年の選挙では、経済的に困窮していた地域の白人労働者層がトランプ氏に票を投じたことが、彼の勝利に大きく寄与したとされている。このような選挙結果は、アイデンティティー政治からの脱却を求める国民の声を反映している。 2024年の選挙では、トランプ氏の支持基盤は依然として強固であり、アイデンティティー政治に対する反発が彼の支持を支える要因となった。特に経済的に困窮している地域の有権者が彼を支持し、彼の政策がその地域における経済的利益を代表するものとして受け入れられた。全体として、2024年の選挙は、アイデンティティー政治と市民としての連帯感の対立が再び浮き彫りになる重要な場面となり、トランプ氏の政策が国民に受け入れられる一因となった。 バイデン政権は、トランプ政権の政策を一部引き継ぐ形で国境の安全を強化する方針を示し、壁の建設に関する計画を継続した。このことは、アイデンティティー政治を重視する民主党が、実際には国民の安全や秩序を守るための現実的な政策に頼らざるを得ないことを示している。バイデン氏は、移民問題に対して柔軟な姿勢を取ると公言しながらも、国境の安全を強化する必要性を認めている。この矛盾は、彼の政権がアイデンティティー政治に基づくアプローチの限界を示している。 また、バイデン政権は、経済政策においてもアイデンティティー政治の影響を強く受けており、その結果として中間層や低所得層への具体的な支援が不足しているとの批判がある。特に、インフレや生活費の高騰に対する具体的な対策が不十分であるとされ、多くの有権者が不満を抱いている。バイデン政権は、特定のグループの利益を優先するあまり、全体の利益を考慮した政策形成ができていないという指摘が多くなされていた。結局バイデンは、選挙戦に出馬することすら叶わなかった。 アイデンティティー政治の行き着く先は、社会の分断や対立を助長し、最悪のケースでは旧ユーゴスラビアにおけるジェノサイドのような危険な結果をもたらす可能性がある。旧ユーゴスラビアでは、民族や宗教に基づく分断が深まり、最終的にはボスニア・ヘルツェゴビナにおけるジェノサイドなど悲惨な事件が発生した。このような状況を回避するためには、個々のアイデンティティではなく、共通の市民としての連帯感や責任を強調することが重要である。

がれきの山と化した商店街を歩くコソボ解放軍の兵士=1999年、コソボ自治州
これらの要因を踏まえ、2024年の選挙結果は、バイデン政権のアプローチが多くの有権者に受け入れられず、トランプ氏の政策が再び支持を集める結果となったことを示している。バイデン政権のアイデンティティー政治を重視したアプローチは、国民全体の利益を考慮した政策を欠如させ、最終的には政権の支持基盤を揺るがす要因となったのである。

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