2025年1月20日月曜日

台湾侵攻にうってつけのバージ(艀)建造が露見、「中国版ノルマンディー上陸作戦」か―【私の論評】台湾侵攻がとてつもなく困難な理由: ルトワックのパラドックスと地理的障壁

台湾侵攻にうってつけのバージ(艀)建造が露見、「中国版ノルマンディー上陸作戦」か

まとめ
  • 台湾上陸作戦の準備: 中国は台湾上陸作戦用に特化したバージの建造を進めており、移動式桟橋として機能する構造を持っている。
  • 圧力強化と軍事演習: 中国は台湾に対する軍事的圧力を強化しており、軍機の侵入や大規模な演習を実施している。米政府高官は、習近平が2027年までに侵攻準備を指示した可能性があると見ている。
  • 地形と障壁: 台湾の地形や潮流の影響により、大規模な侵攻作戦は年間で限られた期間にしか実行できず、現在のバージの数では必要な兵力を運ぶには不十分である。

中国の台湾上陸作戦用に特化したみられるバージ(艀)

 中国で台湾上陸作戦用に特化したバージ(艀)の建造が進んでいる。この艀は、第二次世界大戦のノルマンディー上陸作戦で連合軍が建設したマルベリー港を連想させる構造を持ち、移動式の桟橋として機能する。中国は最近、台湾への圧力を強化しており、中国軍機が台湾の防空識別圏に頻繁に侵入し、大規模な軍事演習も実施している。

 中国政府は台湾を自国の領土と主張し、武力行使も辞さない姿勢を示している。米政府高官は、習近平国家主席が2027年までに台湾侵攻の準備を整えるよう指示した可能性があると見ている。

 広州市の造船所では、少なくとも3隻のバージが確認されており、これにより戦車やトラックが直接沿岸部に上陸できる。中国はRORO船の建造も加速しており、これにより軍事車両の迅速な輸送が可能になる。

 しかし、台湾の地形や潮流の影響で、大規模な侵攻作戦は年間で限られた期間にしか実行できない。現状では5、6隻のバージしか建造されておらず、大規模な侵攻に必要な兵力を運ぶには不十分だ。移動式桟橋の建造が進めば、今後の作戦選択肢は広がる可能性があるが、依然として多くの障壁が存在する。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は元記事をご覧になってください。

【私の論評】台湾侵攻がとてつもなく困難な理由: ルトワックのパラドックスと地理的障壁

まとめ

ルトワックのパラドックス: 大国は小国に対して必ずしも勝利を収められないという現象で、長期化する戦争や非対称戦術の影響がある。
台湾の地理的条件: 台湾は急峻な山岳地形や複雑な河川網を持ち、上陸が困難であり、さらに台湾軍の防御体制が強化されている。
地下軍事施設: 台湾には多くの地下軍事施設が存在し、敵の攻撃からの防護を強化している。
国防意識の高まり: 台湾の住民は強い国防意識を持ち、侵略に対して激しい抵抗を示す可能性が高い。
侵攻の困難さ: 台湾への侵攻はノルマンディー上陸作戦とは異なり、地理的条件や住民の抵抗により、一般に思われてい以上にはるかに困難である。

米国の戦略家 エドワード・ルトワック氏

米国の戦略家エドワード・ルトワックが提唱した「大国は小国に勝てない」という軍事上のパラドックスは、軍事力や経済力が優れている大国が、小国に対して必ずしも勝利を収められない現象を指す。このパラドックスには、長期化する戦争、非対称的な戦術の採用、そして外部からの支援を受ける小国の特性が影響している。

さらに、台湾に侵攻する場合、地理的条件を無視することはできない。台湾は面積約36,000平方キロメートルの小さな島だが、地形は非常に急峻で、最高峰の玉山は3,952メートルの高さを誇る。このような高地は、敵にとって戦略的な障害となり得る。特に、台湾の東側海岸は海岸線からすぐに急峻な山岳地帯が広がっており、大規模な軍隊が上陸するための適切な場所がほとんど存在しない。

中央山脈が東側のほとんどを占めており、ここでは多くの渓谷が入り組んでいる。たとえば、太魯閣峡谷はその美しさで知られているが、同時に天然の障害物としても機能する。このため、上陸を試みる部隊は自然の障害に直面し、攻撃が困難になる。

台湾の地形は急峻である

さらに、西側の地形も侵略に対して不利な要素となる。台湾の西部には多くの河川があり、特に淡水河や高雄川などが複雑に入り組んでいる。これにより、上陸地点が限られ、待ち伏せ攻撃が容易になる。特に、台中や台南といった都市の近くには河川が多く、これらの地点での防御が強化される可能性が高い。実際、歴史的にも台湾では河川を利用した防御戦略が採用されてきた。中国がたとえ多数の巨大パージを用いたとしてもこれを克服するのは難しい。

また、台湾には多数の軍事施設が地下に設置されている。これらは主に山岳地帯に位置し、敵の攻撃からの防護を強化するために設計されている。地下施設にはミサイル発射基地や指揮所、兵員の避難所などが含まれており、耐久性や秘密性が高まる。たとえば、台湾には「921地震」後に強化された地下施設があり、災害時にも機能するように設計されている。隠蔽されたトンネル網を構築することで、機動性を高め、敵の監視を回避することが可能だ。

さらに、台湾の防衛戦略には住民の国防意識も大きく寄与している。台湾の人々は、自らの土地を守るために強い意識を持っており、過去の歴史的経験がその背景にある。特に、1970年代の冷戦時代や近年の中国との緊張関係の中で、国防教育が強化されている。このため、一般市民も防衛活動に参加する意識が高まり、侵略に対しては激しい抵抗を示すことが予想される。

これらの要因から、台湾に侵攻することはノルマンディー上陸作戦とは根本的に異なり、非常に困難な事態が予想される。ノルマンディー上陸作戦は広範な砂浜や平坦な土地を利用し、連合軍が事前に空爆や艦砲射撃で敵の防御を弱体化させたが、台湾は急峻な山岳地形や複雑な河川網が広がっており、上陸地点が非常に限られている。また、台湾の地下施設は防御体制を強化し、事前の攻撃が効率的に防がれる可能性が高い。

さらに、ノルマンディーでは占領された地域の住民が連合軍に協力した側面がある一方、台湾の住民は強い国防意識を持ち、侵略に対して激しい抵抗を示す可能性がある。台湾はアメリカをはじめとする西側諸国との関係が深く、侵攻によって国際的な反発を招くリスクもあるため、複雑な国際情勢が侵略をさらに難しくしている。

米軍が第二次世界大戦末期に台湾上陸作戦を実施せず、沖縄侵攻作戦を選択したのも、これらの地理的条件や防御体制を考慮した結果だ。沖縄は台湾に比べて地形が平坦であり、上陸作戦が行いやすい環境だった。また、沖縄を占領することで、日本本土に対する直接的な攻撃の足がかりを得ることができるという戦略的価値もあった。

米軍の戦略は、特に1945年4月に開始された沖縄戦において明らかである。この戦闘は非常に激烈で、多くの犠牲者を出したが、沖縄を押さえることでアメリカは日本本土への爆撃を強化し、最終的な勝利を早めることが可能になった。沖縄は、アメリカの航空機や艦船にとって重要な拠点となり、戦争の終結に向けての重要なステップとなった。


一方、台湾はその地理的条件や地下防衛施設の存在から、上陸作戦を行うリスクが非常に高く、成功の見込みが薄い。侵攻を試みる軍隊は、台湾の強固な防御体制や住民の抵抗によっておびただしい犠牲を出すことになると考えられる。これにより、米軍は台湾を直接攻撃するよりも、より戦略的な選択肢を優先したのだ。特に、台湾における日本軍の防衛力の強さや住民の抵抗意識も考慮されたと考えられる。

このように、台湾の地理的条件と地下軍事施設の存在は、侵略を試みる際に非常に重要な要素であり、戦略を立てる上で無視できない事実である。侵略部隊は地理的条件や住民の抵抗を考慮しなければならず、これが台湾の防衛における大きな強みとなる。台湾に対する侵攻はノルマンディー上陸作戦とは根本的に異なり、非常に困難な事態が予想されるのだ。このような背景と、ルトワックのパラドックスが示すように、大国が小国に対して勝利を収めることが難しくなる要素が重なっているのである。台湾侵攻は、一般に考えられているよりは、はるかに困難なのである。

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