2024年4月5日金曜日

半導体リスク、懸念払拭に腐心 TSMC「防災能力十分」 台湾―【私の論評】台湾の半導体産業の強みから学ぶ ウクライナ IT 産業復興の可能性

半導体リスク、懸念払拭に腐心 TSMC「防災能力十分」 台湾

まとめ
  • 台湾で3発生した大規模地震が、台湾の半導体製造大手TSMCにどのような影響を及ぼすか注目されている。
  • 経済安全保障の観点から、重要な半導体製造が台湾に集中していることのリスクが指摘されており、TSMCと台湾政府は対応に腐心している。
  • TSMCは地震の影響を概ね7割以上が復旧したと説明し、対応能力に自信を示したが、海外メディアは、地震多発で地政学的緊張地域にある台湾に半導体製造が集中することのリスクを指摘。
  • TSMCは世界シェアの6割を占め、台湾に生産能力の9割以上を集中させている。各国は台湾への依存低減を目指し、TSMCの海外展開を後押ししている。
  • 台湾政府関係者は、台湾への「一極集中」を疎む見方に対し、台湾の存在感を示す機会にもなっていると複雑な心境を吐露している。

地震の被害にあった台湾の書店

 台湾で3日に発生した大規模地震を受けて、世界をリードする半導体製造大手TSMCの影響が注目されている。台湾に半導体製造が集中していることのリスクが、経済安全保障の観点から以前から指摘されていたが、今回の地震を受けてさらに注目が集まることとなった。

 TSMCは地震の影響について7割以上が復旧したと説明し、対応能力に自信を見せた。しかし、海外メディアからは、地震多発で地政学的緊張の高い台湾に半導体製造が集中していることのリスクが指摘された。TSMC は世界シェアの6割を占め、台湾内に生産能力の9割以上を置いているため、各国は台湾への依存を低減するべく、TSMCの海外展開を後押ししている。

 一方、台湾政府関係者は、台湾への「一極集中」を疎む見方に対して、台湾が国際社会で存在感を示し、中国からの統一圧力に対峙できている面もあると、複雑な心境を示した。

【私の論評】台湾の半導体産業の強みから学ぶ ウクライナ IT 産業復興の可能性

まとめ

  • 台湾の半導体産業、特に世界をリードするTSMCの存在が、地震の影響を受けて注目を集めている。
  • 台湾への半導体製造の集中は、自然災害や地政学的リスクの観点から経済安全保障上の課題となっている。
  • しかし台湾政府関係者は、台湾への半導体集中を疎外する見方に対し、台湾の国際的地位確立の機会ともなっていると主張している。
  • 台湾の半導体製造能力は、台湾自身の経済的自立と繁栄に不可欠であり、同時に台湾を支持する国々の地政学的利益にも深くかかわっている。
  • 台湾の半導体産業の強靭性は、ウクライナの IT 産業復興にも参考になる可能性がある。
先日の台湾東部での大地震に遭われた方々に、心よりお悔やみ申し上げます。犠牲となられた方々のご冥福をお祈りいたします。地震の影響で被害にあわれた方々が一日も早く日常の生活を取り戻せますよう、心からお祈りしております。

さて、今回の地震は台湾の半導体産業にも大きな影響を及ぼしたようです。台湾は世界の半導体生産の中心地となっており、特に台湾積体電路製造(TSMC)の存在は極めて重要です。今回の出来事を契機に、台湾の地政学的な位置づけや、経済安全保障上の課題などについて考えてみたいと思います。

台湾国旗

経済安全保障の観点から、重要な半導体製造が台湾に集中していることのリスクは以下のようなことが考えられます。

第一に、地震や自然災害のリスクが高い台湾に半導体製造が集中していることです。今回の地震で一時的な生産停止を余儀なくされたTSMCの例が示すように、自然災害による供給途絶のリスクが高まります。

第二に、台湾をめぐる地政学的な緊張が高まっていることです。中国による台湾への圧力が高まる中で、半導体供給の寸断などが懸念されます。経済活動に不可欠な半導体の供給が滞るリスクがあります。

第三に、台湾への依存度が高すぎることで、サプライチェーンの多様化が進まないことです。特定の地域への過度の集中は、予期せぬ事態への脆弱性を高める可能性があります。

以上のように、台湾への半導体製造の集中は、自然災害や地政学的リスクの観点から、経済安全保障上の課題をはらんでいると指摘できます。

ただし、上は海外の先進国などから見た視点であり、台湾と台湾を支援する国々からの視点を考えてみると、これとは異なる見方が可能です。

台湾の半導体製造能力が台湾自身や台湾を支援する国にとって、国益につながるということがいえます。

まず、台湾にとって、半導体産業は経済の中核を成す極めて重要な産業です。TSMCをはじめとする台湾企業は世界をリードする高度な半導体技術を持ち、台湾の経済成長と国際的地位の確立に大きく貢献してきました。したがって、この半導体製造拠点を維持し続けることは、台湾の経済的自立と繁栄にとって不可欠なのです。

一方で、中国による台湾統一への圧力が高まる中、台湾の半導体製造能力は戦略的にも極めて重要な意味を持っています。台湾は中国に対抗し、独自の地位を確保する上で、この技術優位性を活かすことができるのです。

そのため、台湾の半導体製造拠点を支援し、台湾の地位を守ることは、日米をはじめとする台湾支援国にとっても重要な国益につながっています。台湾の半導体技術を掌握することで、これらの国々は中国に対する地政学的影響力を維持・強化することができるのです。


つまり、台湾の半導体製造能力の維持は、台湾自身の経済的自立と、台湾を支持する国々の地政学的利益の両方に深くかかわっているのが実情なのです。これこそが、台湾の半導体製造拠点が持つ極めて重要な国益となる理由なのです。

台湾は、TSMCをはじめとする企業の先端的な半導体技術力により、世界の半導体生産の中心的役割を担ってきました。この技術力は台湾の経済的地位の確立に不可欠であるだけでなく、自由主義陣営の技術優位性を示す象徴的な存在でもあります。

ところが、中国がこの台湾の半導体製造能力を手に入れれば、中国は強大な経済的・軍事的な優位性を得ることができます。そうなれば、現在の自由主義秩序に基づく世界経済体制が根底から揺らぐ可能性すらあります。

つまり、台湾の半導体産業を中国に渡すことは、単なる経済的な問題にとどまらず、世界の政治・安全保障秩序に関わる極めて重大な問題なのです。

したがって、台湾の半導体製造能力を自由主義陣営が確保し続けることは、世界の平和と安定を維持する上で不可欠な課題だと言えるでしょう。これこそが、台湾の半導体産業の持つ、より大きな地政学的意義なのです。

TSMCは4日夜の声明で、工場設備の復旧率はすでに80%を超え、このうち世界最先端の半導体の量産を行っている新工場では完全復旧する見通しだと明らかにしました。そうしてTSMCが迅速に立ち直れたことは、台湾半導体産業の強靭性を示す証左だと言えます。

台湾の半導体産業その中でも、世界最戦隊の半導体工場が、自然災害からの影響を短期間で乗り越えられたことは、極めて重要な意味を持っています。

第一に、これは台湾半導体産業の高い技術力と危機管理能力を示しています。台湾メーカーが自然災害への備えを十分に行い、素早い復旧を実現できたことは、台湾の産業競争力の高さを証明するものです。

第二に、この迅速な復旧は、台湾半導体産業の戦略的価値をも示すものと言えます。たとえ中国などの攻撃によりダメージを受けたとしても、台湾は短期間で生産を再開できる能力を持っているのです。これは台湾の安全保障にも直結する重要な強みといえるでしょう。

つまり、今回の地震からの復旧の早さは、台湾半導体産業の強靭性と戦略的価値を如実に示すものだと評価できます。これは台湾の存在意義を改めて示す好機となったと言えるでしょう。

そうして、こうした台湾の事例は、我が国日本にも非常に参考になると思います。

台湾のTSMCがここまで迅速に地震の影響から立ち直れたことは、日本の産業にとっても参考となる事例です。台湾の危機管理体制や、サプライチェーンの強靭性を学ぶことで、日本企業の競争力向上につなげられるかもしれません。

また、台湾の半導体産業が持つ地政学的な重要性については、日本もまた同様の戦略的意義を有していると言えます。中国の脅威に直面する日本にとっても、自国の産業基盤を守り抜くことは重要な国家的課題なのです。

したがって、台湾の経験は日本の産業政策を考える上で、大変参考になると評価できるでしょう。日台両国が協力し、半導体産業の強靭性を高めていくことが、双方にとって重要な戦略的意義を持つと言えます。

さらに、台湾のTSMCが蓄積してきた半導体の高度な製造技術は、ウクライナの復興にも参考になる可能性があると考えられます。

ウクライナ国旗

ウクライナは、ロシアによる侵攻で深刻な被害を受けていますが、復興に向けた取り組みが進められています。その中で、特に注目されるのがウクライナの IT 産業の将来的な発展です。

ウクライナは、ソ連時代から優れたエンジニアを多く輩出してきた国であり、IT 分野での高い技術力を持っています。これまでも IT 企業の進出が相次ぐなど、ウクライナはIT産業の新興拠点としても注目されてきました。この点、ウクライナは他の発展途上国とは明らかに異なります。

そこで、台湾のTSMCが培ってきた半導体の最終工程における高度な製造技術は、ウクライナにとって非常に参考になるのではないでしょうか。 ウクライナがIT等の一定の分野でこれに匹敵するような技術力を身につければ、自国の IT 産業を強化し、経済復興につなげていくことができるかもしれません。

その結果、ウクライナが経済発展し、このブログでも以前指摘したように、ウクライナの一人あたりのGDPが、韓国なみになれば、ウクライナのGDPは、開戦前のロシアのGDPと同程度になります。

もちろん、ウクライナと台湾では国情が大きく異なるため、単純に当てはめることはできません。しかし、両国が抱える課題の共通点もあり、お互いの経験を活かし合えるポテンシャルは十分にあると考えられます。

ウクライナの IT 産業の復興と発展に向けて、台湾の半導体技術が一石を投じることができるかもしれません。これは両国にとって大きな意義を持つ可能性があるといえるでしょう。また、日本にとっても大きな意義をもつことになるかもしれません。

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