2024年4月21日日曜日

海上幕僚長「付近に他国の船舶などなく、関与ないと考えるのが適当」 海自ヘリ2機墜落か 7人行方不明、1人発見―【私の論評】事故で浮かびあがった、対潜水艦戦訓練の重要な意義とその危険性

海上幕僚長「付近に他国の船舶などなく、関与ないと考えるのが適当」 海自ヘリ2機墜落か 7人行方不明、1人発見

まとめ
  • 伊豆諸島の鳥島東方海域で海上自衛隊のSH60K哨戒ヘリコプター2機が対潜水艦戦の訓練中に連絡が取れなくなり、機体の一部が発見された。
  • 計8人が搭乗しており、1人が救助されたが残り7人の捜索が続いている。
  • 海上自衛隊は護衛艦や航空機を投入して捜索を行っており、人命救助に全力を尽くすとしている。
  • 他国の関与はないと見られている。
  • 自衛隊のヘリ墜落事故は過去にも発生しており、2017年や2023年4月にも起きている。
H60K哨戒ヘリコプター

 伊豆諸島の鳥島東方海域で対潜水艦戦の訓練中、海上自衛隊の哨戒ヘリコプター2機が行方不明になり、機体の一部が発見された。乗員8人のうち1人が救助されたが、残り7人の捜索が続いている。防衛相は人命救助に全力を尽くすと述べ、他国の関与は否定した。自衛隊のヘリ墜落事故は過去にも起きており、原因究明と再発防止が課題となっている。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧ください。

【私の論評】事故で浮かびあがった、対潜水艦戦訓練の重要な意義とその危険性

まとめ
  • 海上自衛隊のヘリコプター2機が対潜水艦戦の訓練中に行方不明になり、乗員7人の安否が確認できていない。
  • 対潜水艦戦の訓練は低空飛行、近接運航、実弾使用などの高リスクが伴う。
  • 事故原因は不明だが、詳細は軍事機密のため公表されない可能性が高い。
  • 現代海戦においては、水上艦艇は脆弱化しており、潜水艦と対潜能力の重要性が高まっている。
  • 訓練の危険性と重要な意義を認識し、国民一人ひとりが防衛を支える姿勢が大切。
この度の伊豆諸島周辺における海上自衛隊哨戒ヘリコプター行方不明事故は誠に痛ましい出来事です。現在も7人の隊員の安否が確認できていない状況が続いています。一日も早く全員が無事発見され、家族の元に帰れることを心より願っております。

二度とこのよう事態が起こることのないよう、原因の徹底した究明と再発防止に向けた取り組みが行われることを期待しています。

今回の対潜水艦戦(Anti Submarine Warefare:ASW)の訓練は、具体的に何をしていたのかわかりませんが、この訓練は一般的に非常に高度な技術と集中力が求められ、危険性も高いです。

低空飛行リスク 
ヘリは潜水艦を探索するため、時に波高5mを超える荒天下でも10m前後の低空飛行を強いられます。 地形の影響で気流が乱れたり、視界が制限される可能性があります。 夜間や悪天候時の飛行ではリスクが高まります。
近接運航の危険性 
ヘリは潜水艦の直上まで接近し、対潜水艦兵器を投下する必要があります。 投下の際、ヘリ自体が艦船に接触する危険があります。 潜水艦の急浮上時にヘリが巻き込まれるリスクもあります。
兵器のリスク
音響対潜水艦機雷や深水爆雷などの実弾が使用されます。 誤投射や誘爆の可能性があり、ヘリ自体が被弾する危険もあります。
今回の事故内容の会見に同席した海自トップの酒井良海上幕僚長は「付近に他国の船舶などはなく、関与はないと考えるのが適当だ」と話しています。この発言から、事故についてその理由はや原因は今の段階でもある程度特定されいると思われます。

しかし、海上幕僚長はそれ以上の語っていません。これは、現時点で話せないだけではなく、今後も詳細は公表されない可能性があります。

海自トップの酒井良海上幕僚長

そもそも、日本に限らず世界中の海軍では、潜水艦に関する詳細な情報や、対潜水艦戦の訓練における具体的な事故事例については、一般に公開されていないケースが多いです。

軍事面での機密保護の観点から、以下のような情報は極秘に扱われる可能性が高いです。
  • 潜水艦の詳細な性能や装備
  • 潜水艦の行動パターンや運用方法
  • 対潜水艦戦で使用される最新の兵器や探知システムの詳細
  • 事故の原因となった具体的な手順や人的ミスなどの情報
  • 自国の能力の空白部分が露呈する恐れのある情報
このように、敵対国に有利な情報が渡ることを防ぐため、対潜水艦戦の訓練における事故の詳細については一般に公開が控えられがちです。

たとえば、新鋭潜水艦のハッチなどは、報道陣の写真撮影等許可されない場合が多いです。潜水艦のハッチにより、その潜水艦の潜水できる深度等が予測可能になってしまう危険性があるからです。

一方で、訓練における安全対策の重要性を国民に呼びかけるという観点から、一般論として危険性が公表されることはあります。

つまり、事故の危険性自体は認識されつつも、具体的な事例は機密扱いとされる傾向にあると言えるでしょう。

レーダーや監視衛星、哨戒艦や哨戒機の水上艦艇発見能力が高まった現在では、精密なミサイル誘導システムやドローン等の無人兵器の発達により、大型の水上艦船は簡単に標的となり、撃沈されてしまう可能性が高くなっています。

海自の対潜哨戒機P3Cと、女性機長

そうした状況下で、潜水艦の重要性が一層高まりました。潜水艦は水中に潜伏することで探知が難しく、機動性と隠密性に優れているためです。現代技術の粋を結集した監視衛星ですら、未だに水中の潜水艦を特定するに至っていません。潜水艦は、敵の艦隊に対する偵察や威嚇、さらには重要な標的への突破などの役割が期待できます。

そのため、実戦が始まれば先手を打つのは潜水艦となり、水上艦艇は潜水艦からの脅威にさらされ、行動が制限されることになります。対潜水艦戦(ASW)の能力が十分でなければ、水上艦隊は機能不全に陥ってしまう可能性が高いです。

つまり、現代の本格的な海戦においては、潜水艦の能力と対潜水艦戦能力の確保こそが最重要課題となります。潜水艦を効果的に運用し、敵潜水艦を事前に排除できるかどうかが戦況を左右する鍵を握ると言えるます。したがって、ASWこそが本当の現代海戦の主役といえるのです。

ASWにはソナー等の探知能力の高さ、潜水艦の能力の高さなどハード面の能力の高さが重要ですが、このハード面を使いこなす人間の能力の高さも重要です。

それは、たとえば、現代の高度な脳外科手術において、様々な最新鋭の機器等を備えたにしても、それ使いこなす脳外科医の能力が高くないと手術はうまくいかないのと同じです。

現代の高度な脳外科手術でも脳外科医の腕は欠かせない

日米ともに、ASWは世界トップクラスであり、中露をはるかに凌駕しています。最近は、ハード面では中国の猛追がはじまっていますが、それでも日米と中国の間にはかなりの開きがありますし、当面追いつけそうにありません。それは、日米にはハード面だけではなく、長い間のソフト面での大量の蓄積があるからです。

こうしたソフト面の蓄積には、日々の厳しい訓練が必要です。その訓練のさなかに今回の事故が発生してしまったのです。

今回の事故は、対潜水艦戦訓練がいかに危険を伴うものであるかを物語っています。しかし、同時にその訓練の重要性を改めて認識する機会ともなりました。

 現代の海戦においては、潜水艦の活躍と対潜能力の重要性が高まる一方です。隊員の方々は、国民の命と平和を守るため、過酷な訓練に臨んでこられました。

この事態を機に、国民一人ひとりが防衛の現場を思い、訓練の意義を再確認し、支える心構えを持つことが何より大切なのではないでしょうか。

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