2024年4月25日木曜日

中国が優勢、南シナ海でのエネルギー争奪戦-米国には不愉快な実態―【私の論評】中国の南シナ海進出 - エネルギー・ドミナンス確立が狙い

中国が優勢、南シナ海でのエネルギー争奪戦-米国には不愉快な実態

まとめ
  • ベトナム、フィリピンは国内の天然資源開発を計画していたが、中国の南シナ海における一方的な領有権主張と強硬な行動により妨げられている。
  • 中国は法的根拠が不明確な「九段線」「十段線」に基づき、南シナ海のほぼ全域に対する領有権を主張し続けている。
  • その結果、ベトナム、フィリピンはエネルギーの輸入に頼らざるを得なくなり、フィリピンではエネルギー危機が深刻化している。
  • 中国船舶がフィリピン領海で放水砲を使うなど強硬な行為に出ており、米国を含む関係国との緊張が高まっている。
  • 米国はフィリピンを全面支持し、合同軍事演習の規模を拡大。中国との緊張緩和は見込めない状況が続いている。

 ベトナムとフィリピンは、それぞれ国内で発見された大規模な天然ガス田やガス・石油埋蔵地から、エネルギー確保を図る計画を立てていた。しかし、南シナ海における中国の一方的な領有権主張と強硬な行動によって、その計画が大きく妨げられている。

 中国は、法的根拠が不明確な「九段線」の地図に基づき、南シナ海のほぼ全域に対する領有権を主張してきた。2016年にはオランダの仲裁裁判所がこの主張を退けたが、習近平国家主席はその判断を無視し、さらに2023年には「十段線」と呼ばれる新たな領有範囲の地図を発表するなど、自国の主張を強めている。

 こうした中国の一方的な行動により、ベトナムのブルーホエール天然ガス田プロジェクトは遅れ、フィリピンでは独占権があるはずのリード堆周辺での資源開発もできずにいる。結果的に両国とも、液化天然ガス(LNG)など燃料の輸入に頼らざるを得なくなっている。

 特にフィリピンではエネルギー供給が危機的状況に陥りつつある。マランパヤガス田の枯渇が予測されており、先月には猛暑で複数の発電所が停止し、ルソン島で一時的な停電にも見舞われた。有力者は、マランパヤが止まれば経済は崩壊すると警告している。

 一方、中国の船舶はフィリピン領海内で相手船舶に放水砲を使うなど強硬な行為に出ており、緊張が高まっている。米国はフィリピンを全面的に支持する構えで、合同軍事演習の規模も年々大きくなっている。バイデン大統領は岸田首相、マルコス大統領と会談し、中国との緊張関係を論じ、相互防衛条約の発動に言及するなど、東南アジア諸国を支える姿勢を鮮明にした。

【私の論評】中国の南シナ海進出 - エネルギー・ドミナンス確立が狙い

まとめ
  • 中国は南シナ海に埋蔵される豊富なエネルギー資源を確保し、同地域でのエネルギー面での優位(ドミナンス)を獲得しようとしている。
  • そのため中国は「九段線」を根拠に、人工島建設や軍事拠点化、周辺国への妨害行為などで実効支配を強めてきた。
  • 中国が、南シナ海支配権の獲得でエネルギー資源の独占と供給ルート確保を狙っているのは明らかである。
  • 中国の南シナ海進出を事実上許した要因は、米国を始めとする関係国の当初の対応の遅れや連携不足にあった。
  • しかしバイデン政権も南シナ海問題への対応が不十分で、中国のエネルギー獲得・ドミナンス確立を容認する形となっている。今こそ、ホワイトハウスが、米国の力と決意を示す強力で断固たるリーダーシップを発揮すべき時なのだ。
中国の南シナ海における一方的な現状変更の試みには、同海域に存在すると見られる豊富なエネルギー資源を確保し、エネルギー面での優位を獲得しようという狙いがあると考えられます。南シナ海には石油・天然ガスが大規模に埋蔵されていると期待されており、中国のエネルギー安全保障上、極めて重要な戦略的価値を持っています。

そのため中国は、「九段線」に基づく広範な領有権主張を根拠に、この海域における実効支配を着実に強めてきました。環礁への人工島建設と軍事拠点化、周辺国の資源開発事業への妨害行為などを通じて、石油・ガス田開発における主導権を握ろうとしているのです。

中国共産党が主張してきた九段線

エネルギー資源の独占的な活用権を得られれば、アジア有数のエネルギー消費国である中国は、同地域におけるエネルギー面でのドミナンス(支配力)を手にすることができます。また、この地政学的要衝の支配権を獲得することで、中国はエネルギー供給ルートの安全も確保できます。

近年の中国の海洋進出は、資源・エネルギーの獲得はもちろん、それらを安全に運ぶ海上交通路の確保が大きな目的との指摘もあります。このように、南シナ海の実効支配を強化する中国の行動の背景には、同海域のエネルギー資源の確保とそれに基づくエネルギー面でのプレゼンス向上への強い意欲があると考えられます。

中国の南シナ海における一方的な現状変更を事実上許してしまった要因は複雑で、米国の対応だけでなく、関係国全体の対応にも問題があったと指摘されています。

確かに、オバマ政権時に南シナ海問題への対応が手遅れになったとの批判があります。しかし、その後のトランプ政権、バイデン政権と、米国は次第に強硬な姿勢を取るようになりました。合同軍事演習の規模拡大や、フリーダムオブナビゲーション(航行の自由)作戦の実施、マルコス政権への支持表明など、中国に対する牽制を強めています。


他方で、東南アジア諸国連合(ASEAN)が一致した対応を取れなかったことも大きな要因と言えます。ASEANには中国に配慮せざるを得ない国々があり、団結した姿勢が示せませんでした。また、関係国が早期からより強硬に対応すべきだったという意見もあります。

米国のみならず、ASEAN、そして関係国全体の当初の対応の遅れや、足並みの乱れが、現状を生み出した一因と考えられます。米国単独で状況を抑え込むのは難しく、関係国の連携強化が課題と言えるでしょう。

ただし、中国の南シナ海における一方的で過激な動きが過去数年間で一層目立つようになったことは確かです。そしてこの背景には、バイデン政権の対応の遅れや、強硬姿勢の不足があったことは否めません。

バイデン政権が国際社会で力強いリーダーシップを発揮できていないことは広く知れ渡っており、特に中国への対応は極めて不十分でした。南シナ海における中国の攻撃的な行動は、バイデン政権から発せられる弱々しく一貫性を欠いた外交方針の直接的な結果といえます。

バイデン大統領と民主党幹部は、矛盾した複雑な姿勢を示すことで、米国の脆弱なイメージを世界に植え付け、ライバル国や敵対国からの侵害を招いてしまいました。バイデン大統領は当初から、中国が世界の平和と米国の利益を脅かす存在であることを軽視し、中国に対して穏健な対応姿勢をとっていました。トランプ前政権が行ってきた中国への強硬姿勢は大きく後退させられました。
 

特に、バイデン政権は南シナ海に埋蔵される豊富なエネルギー資源をめぐる中国の実効支配強化に対し、何ら有効な対抗策を講じていません。この海域のエネルギー支配権の獲得が中国の最大の狙いであるにもかかわらず、バイデン政権はその重大性を軽視し続けています。中国のエネルギー・ドミナンス獲得を防ぐ具体的な取り組みが全くなされていないのが実情です。

バイデン政権が発足当初に中国共産党政権と示した協調路線は、お互いを理解し協力するという誤った前提に基づくものであり、結果的に習近平政権を追認し、強化することにつながりました。特に南シナ海問題については、バイデン政権は中国の違法な人工島建設や軍事拠点化に何ら反発の姿勢を示さず、米国の力を行使し同盟国を守る決然たる行動もありませんでした。

いまこそホワイトハウスが、エネルギー安全保障にも真剣に取り組み、中国共産党に立ち向かい、米国の力と決意を示す強力で断固たるリーダーシップを発揮すべき時なのです。

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