2024年4月2日火曜日

ラピダスに5900億円 半導体で追加支援―経産省―【私の論評】日本の半導体産業と経済安全保障:ラピダス社と情報管理の危機

ラピダスに5900億円 半導体で追加支援―経産省

クレーンが立ち並ぶラピュダスの工場建設現場 手前は千歳空港

 経済産業省は2日、次世代半導体の国産を目指し北海道千歳市に工場を建設中のラピダス(東京)に対し、5900億円を上限とする追加支援を決定したと発表した。人工知能(AI)の活用や自動運転技術などに不可欠な最先端半導体の開発を後押しする。これまでに3300億円の補助を決めており、国費投入は合計で1兆円近くとなる。

 斎藤健経産相は2日の閣議後記者会見で「ラピダスが取り組む次世代半導体は、日本の産業の未来や将来の経済成長を左右する最重要技術だ。プロジェクトの成功に向け、全力で支援していきたい」と述べた。

【私の論評】日本の半導体産業と経済安全保障:ラピダス社と情報管理の危機

まとめ
  • ラピダス社の特徴として、日本で先端の半導体製造に特化し、国内での一貫生産体制を構築していることが挙げられる。
  • 政府からの支援により、ラピダス社は北海道に5nmプロセス対応の半導体ファウンドリーを建設中であり、日本の次世代半導体産業の育成・強化が狙いとされる。
  • 日本の半導体支援策は、米中対立の中で技術覇権と供給網の確保を図る国家戦略の一環であり、中国との経済関係に対する懸念も指摘されている。
  • ソフトバンクグループのラピダス社への出資には経済安全保障上の懸念があり、北海道知事と中国との関係も危惧されている。
  • 日本の情報管理の甘さは国際的な信頼を損ね、機密保持意識の徹底が必要である。


ラピダス社は、東京に本社を置く半導体ベンチャー企業です。2018年に設立された比較的新しい会社です。

同社の特徴は、最先端の半導体製造プロセスである5nmや3nmなどの先端ロジック半導体の開発・製造に特化していることです。

従来、最先端半導体の設計は米国の企業、製造は台湾のTSMCなどに委託されることが多かったのですが、ラピダス社は国内でその一貫生産体制を構築しようとしています。

現在、北海道千歳市に5nmプロセス対応の半導体ファウンドリー(製造委託工場)の建設を進めており、2025年の操業開始を目指しています。

資本面では、創業当初からソフトバンクグループ、東芝、INCJ(産業革新機構)などから出資を受けていますが、政府からの5,900億円の支援決定で、さらに開発・生産体制の強化が期待されています。

つまり、ラピダス社は日本で数少ない最先端半導体の開発・製造ができるスタートアップ企業で、その国産化の中核的存在と位置付けられています。

今回の経済産業省の発表は、日本の次世代半導体産業の育成・強化を狙ったものです。半導体は自動車や家電、スマートフォンなどあらゆる製品に欠かせない重要な部品です。

しかし近年、世界的な半導体不足が起きており、日本の半導体産業の空洞化が危惧されてきました。そこで政府は、次世代半導体の国産化により、安定的な調達と産業の存続を図ることが重要課題と位置づけています。

莫大な税金を投じるこの政策の目的は、日本の半導体生産能力の強化、次世代半導体分野での国際競争力の維持、そして重要産業での供給リスクの低減にあります。つまり、日本産業の命綱ともいえる先端半導体を国内に確保するため、政府が全面的に支援するという発表となったわけです。

この半導体支援には、米中対立の構図の中で、日本が技術覇権と供給網の確保を図ろうとする大きな戦略があります。

中国は「Made in China 2025(中国製造2025)」を掲げ、半導体など重要技術分野での自給体制構築を目指しています。一方の米国は、中国の技術覇権を阻止すべく、半導体輸出規制など対中圧力を強めています。この米中対立の最前線が半導体をめぐる覇権争いなのです。


そうした中、日本が最先端半導体の国産化に踏み切ったのには、以下のような地政学的意図があります。

1. 米国との連携と中国への牽制
日本は、重要同盟国の米国と足並みを揃え、中国の技術覇権への警戒から半導体供給網の外れ小島化を狙います。中国への半導体供給停止でも対応できる体制を構築しつつ、中国の技術的な台頭を牽制する狙いがあります。
2. 経済安全保障の自律性確保  
米中が半導体供給を武器に絶え間なく地政学的な駆け引きを演じる中、日本は重要物資の供給を米中に依存するリスクを排除します。経済的自立と安全保障上の自律性を高めることが目的です。
3. アジア地域でのプレゼンス向上
半導体生産拠点の設置は、アジア地域における日本のプレゼンス向上とも結びつきます。米中の影に隠れがちだった日本が、注力分野を確実に構築することで地政学的な存在感を高められます。
4. 台湾有事への備え
最悪の事態として、台湾の主要半導体企業TSMCが中国との対立で機能停止する事態も視野に入れている可能性があります。そうなれば日本が代替供給源となり、米国を筆頭とする陣営を支えられます。
つまり、この支援は単なる産業振興策ではなく、米中対立の延長線上にある、地政学的リスク回避と影響力確保の大がかりな戦略なのです。

ソフトバンク 孫正義氏

なお、ソフトバンクグループがラピダス社に出資をしていることについては、経済安全保障の観点から一定の懸念が指摘されています。

その理由としては、主に以下の2点が挙げられます。

1. ソフトバンクグループと中国資本の関係
ソフトバンクグループは、中国最大の人工知能(AI)企業である「ByteDance」や、中国最大の仮想通貨取引所「Huobi」など、中国資本とつながりが深い企業に多額の投資を行っています。中国当局との密接な関係が危惧されています。
2. 重要技術の流出リスク
ラピダス社が扱う先端半導体技術は、経済安全保障上極めて重要な技術です。ソフトバンクグループを通じて、中国側にこの重要技術が流出するリスクがあるのではないかと指摘されています。
こうした懸念を受け、政府内からも「ソフトバンク出資分は株式公開時に全て売却すべき」などの意見が出ているほどです。

一方で、ラピダス社側は「ソフトバンクは金融出資に過ぎず、技術流出のリスクはない」と強く否定しています。

このように、ソフトバンク出資については経済安全保障上の懸念が存在する一方、出資者とベンチャー側には食い違いもあり、慎重な判断が求められる状況といえるでしょう。

鈴木直道北海道知事

一方、鈴木直道北海道知事は、夕張市長時代に中国系企業に2億4,000万円で売却した夕張リゾート(マウントレースイスキー場とホテル)が、香港系ファンドに15億円で転売された後、昨年12月に廃業・破産申立を発表しました。この歴史あるスキー場は営業停止に追い込まれたという経緯があります。

知事就任後、中国との経済・文化交流の促進に尽力し、直行便路線の再開や訪問団派遣など、積極的に友好関係の深化を図っています。

一方で、夕張市長時代の給与削減による過度の倹約イメージと現在の中国資本との関わりに違和感があるとの指摘もあります。

これらのエピソードを踏まえますと、鈴木知事と中国側には一定の関係が存在し、経済面での結び付きも無視できない状況にあると言えそうです。それを前提とすると、ラピダス社の半導体工場建設に関して、以下のような危険性が考えられます。

1.重要技術の流出リスク 
ラピダス社が扱う先端半導体技術は経済安全保障上極めて重要です。知事と中国側の関係が深ければ、意図せずこの重要技術が中国側に渡る可能性がありえます。
2.工場立地交渉への影響
 工場立地をめぐる交渉過程で、知事と中国側の関係から何らかの影響が及ぶリスクがあります。国策とは異なる方向に動かされる恐れがあります。
3.経済的利益誘導のリスク
中国資本と太いパイプを持つ知事の関与で、立地交渉が中国側に有利になるよう経済的な利益誘導が図られるリスクもありえます。
このように、重要技術の流出、工場立地への介入、スパイ活動、経済的利益誘導など、さまざまな危険性が想定されます。経済安全保障上の重要案件では、知事の中国関係には慎重な対応が求められるでしょう。政府としても、万が一の事態に備えた適切な対策が必要不可欠と言えます。

今回の半導体支援策は、米中対立という地政学的リスクに対処し、日本として技術覇権と供給網の確保を図る極めて重要な国家戦略の一環です。

そうした重大な戦略においては、経済安全保障上のリスクを慎重に検証し、万全の対策を講じておくことが不可欠です。

仮に正当な疑念があれば、適切に対処すべきです。このような大戦略に携わる人物や組織については、そのつど経済安全保障上のリスクを精査し、必要な対策を講じることが不可欠です。


この問題もそうですが、日本における最近の一連の機密情報漏えい問題は、機密保持意識の欠如を示す証拠といえます。金融政策決定内容の事前漏えい、外国企業ロゴ入り資料の使用など、日本の杜撰な情報管理態勢が問題視されています。

ファイブ・アイズ

このことが、日本が国際的な情報共有枠組み「ファイブアイズ」から除外されている大きな理由であるといえます。

主権国家として機密を守り、情報セキュリティを確保することは最低限の責務ですが、日本はそれができていないため、同盟国から重要情報の提供から疎外されています。

海外から見れば、日本の情報管理の甘さは重大問題であり、一流の主権国家として信頼されるためには、抜本的な情報セキュリティ対策と機密保持意識の徹底が必要不可欠です。そうしなければ、先進国から完全に疎外される恐れがあります。

日本は、これらの問題に厳正に対処していくべきです。

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