2024年4月26日金曜日

南シナ海、米比合同演習の周囲を埋め尽くす中国船が見えた―【私の論評】鈍い中国の対応、日米比の大演習に対抗する演習をしない中国の背後に何が?

南シナ海、米比合同演習の周囲を埋め尽くす中国船が見えた

まとめ
  • 南シナ海の係争海域に多数の中国船舶(海警局艦船と武装した漁船)が集結している。これは米比合同演習への対抗と見られる。
  • 中国船舶は特にフィリピンのEEZ内の環礁周辺に集中しており、中国はこの海域への実効支配を強化しようとしている。
  • 米比は中国の挑発に対し、合同演習の規模を過去最大に拡大し、日本などの参加も得て対応を強化した。
  • バイデン大統領は米比相互防衛条約が南シナ海防衛にも適用されると明言し、日本とも連携を確認した。
  • 中国は表向きは「友好的協議」で解決を目指すと主張しつつも、実効支配の強化と威嚇姿勢も併せ持っている。

 南シナ海の係争海域において、中国船舶の大規模な集結が確認されている。これは、同海域でアメリカとフィリピンが行っている年次合同軍事演習「バリカタン」への対抗措置とみられており、中国政府が自国の海軍力を誇示する意図がある。

 集結船舶には、中国海警局の公船に加え、武装した中国漁船の「海上民兵」も多数含まれていることが確認された。特に船舶の集中が著しいのは、国際的にフィリピンの排他的経済水域(EEZ)と認められている南沙諸島の環礁周辺である。中国はこれらの環礁を不法に占拠・軍事基地化しており、セカンド・トーマス礁やミスチーフ礁周辺では、フィリピン船の航行妨害を繰り返してきた経緯がある。今回の船舶集結は、こうした中国の実効支配強化の動きの一環とみられている。

 こうした中国の挑発的な行動に対し、今年のバリカタン合同演習では過去最大規模の1万7000人近い部隊が投入されている。参加国はアメリカとフィリピンが主体だが、日本やオーストラリア、フランスなども加わり、14カ国がオブザーバー参加している。先月にはバイデン米大統領が、マルコス・フィリピン大統領、岸田日本首相と会談し、南シナ海防衛での連携強化を確認した。バイデン大統領はマルコス大統領に対し、米比相互防衛条約が南シナ海の防衛にも適用されることを保証した。

 一方の中国側は、表向きは「海洋紛争は直接関係国と友好的な協議を通じて解決する」と主張している。しかし、南シナ海での権益侵害を許さないとも強く警告しており、協議による解決と実効支配の強化を並行して行う姿勢をみせている。また、バリカタン演習開始の前日には西太平洋海軍シンポジウムが中国で開催され、この場でも中国制服組トップの張又侠・中央軍事委員会副主席が「自国の信義誠実につけ込む悪辣な行為は断じて許さない」と釘を刺した。

 こうした緊張が高まる中、専門家は中国が近年、フィリピンの進める南シナ海での水路測量プロジェクトにも高い警戒感を示していると指摘する。南シナ海をめぐる対立は一層深刻化しており、米比日が軍事的対応を強化する中で、中国も実効支配の強化と威嚇姿勢を併せ持っている状況にある。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】鈍い中国の対応、日米比の大演習に対抗する演習をしない中国の背後に何が?

まとめ
  • 米軍がフィリピンにMRC(中距離ミサイル発射装置)を配備し、中国への牽制を図っている。
  • MRCの射程は南シナ海や台湾海峡周辺に及び、軍事的抑止力の向上が目的。
  • フィリピンへのMRC配備により、米国の軍事的プレゼンスが強化される見通し。
  • 米軍の演習に日本の自衛隊も参加し、日米比3か国の連携を強化する。
  • 中国は南シナ海での米比日本等の演習に対抗しつつも、大規模演習は行わず経済的制約や緊張緩和の観点から控えめにしている可能性が高い。
地上配備型の中距離ミサイル発射装置「MRC」

米軍は25日「バリカタン演習」の一環として、フィリピンに地上配備型の中距離ミサイル発射装置「MRC」を配備しています。これは、主に中国への牽制を狙ったものと見られます。MRCの射程圏内には南シナ海の中国拠点や中国南部沿岸部、台湾海峡沿いが含まれることから、これらの地域への軍事的抑止力の向上が目的とみられています。

近年、米中間では南シナ海を巡る対立が深刻化しており、中国は同海域での実効支配強化を進めてきました。一方で、同地域での中国のミサイル戦力の優位性が指摘されていました。今回のMRC配備は、こうした中国の軍事的影響力の拡大に対する、米国からの意思表示の一環とみられます。

MRCからは射程約1600kmの巡航ミサイル「トマホーク」などの発射が可能で、南シナ海や台湾海峡周辺に対する米軍の射程を大幅に延長することになります。中国はフィリピンへのMRC配備に反発していますが、米国は同地域における軍事的プレゼンスの強化を志向していると見られます。

軍事専門家らは、米軍のフィリピンへのMRC配備は恒久的な措置ではなく、一時的な配備と見なしています。この配備により、危機発生時に即応できる能力が高まり、危機を乗り切る可能性が強まるとの指摘があります。

また、中国側のミサイル戦略において、情報収集や標的特定の能力など、比較的新しい分野に対して試練を与えるものと分析されている。つまり、米軍のMRC配備は、中国の新しいミサイル戦略の実効性を試す側面もあると専門家は読み解いています。

今年の演習では、日本の自衛隊がバリカタン演習に本格的に参加する方向で調整されています。これにより、日米比3か国の連携を強化し、中国の威圧的な行動に対抗する意図があります。

また、今回の演習では対潜水艦戦訓練にも焦点を当てています。具体的には、ソナー訓練、対潜哨戒機の運用、対潜兵器の運用、情報共有と連携などが行われます。これにより、潜水艦を探知し、追跡し、攻撃する能力を向上させることを目指しています。

哨戒ヘリを用いた一般的な対潜戦訓練の模式図

2020年中国人民解放軍は、南シナ海と東シナ海、黄海、渤海の4海域で軍事演習などを同時実施していました。これは、主に台湾に向けたものと考えられます。

今回、中国が南シナ海での米比日本などの動きに危機を感じているのなら、南シナ海の係争海域に多数の中国船舶(海警局艦船と武装した漁船)が集結させるだけではなく、「バリカタン演習」に匹敵するか、それを上回るような演習を「バリカタん演習」の前後にするはずですが、それに関する発表はいまのところ、中国側からありません。

中国が今回、南シナ海での米比合同演習に対抗する形で、同規模の大がかりな軍事演習を行っていない背景には、以下のような要因が考えられます。

1. 軍事的緊張のコントロールと実効支配の手段の選好

過度の軍事演習は緊張を高め、思わぬ軍事衝突のリスクもあります。そのため、威嚇的な船舶の集結などのグレーゾーン活動を通じて実効支配を強化する方が望ましいと判断している可能性がある。

2. 主張の正当性の確保

環礁でのミサイル基地建設を進めつつ、大規模演習を行えば、その正当性が損なわれるリスクがある。

3. 軍事的能力の限界

長距離への投射能力などで米軍に及ばず、さらには兵站能力でも米軍等には及ばず、大規模演習の実効性に中国側の疑問がある可能性があります。

4. 経済的負担の観点

大規模な実戦的な軍事演習を行うには、実戦と同様の多額の弾薬、燃料、食料など物資の手配が必要となる。現在の経済情勢の中で、そうしたコストを負担するのは困難と判断している可能性がある。

特に経済面での制約は大きいと考えられます。実戦と同様に、膨大な量の弾薬、燃料、さらには1人一日当たり3000キロカロリー相当の食料を演習現場に投入する必要があります。こうした巨額の経費をかけての大規模演習は、中国の現在の経済状況では負担が大きすぎるのかもしれません。

軍事的、政治的配慮に加え、経済的な制約から、中国は威嚇的な活動に重きを置きつつも、実際の大規模演習は控えめにしている可能性が高いと言えます。

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