- 石丸伸二氏が新党「再生の道」を立ち上げ、2025年夏の都議選に向けて全42選挙区への公募候補擁立を目指す。
- 党は具体的な政策を掲げず、任期制限を主張するだけであり、他党との掛け持ちも認められている。
- 候補者選定は知事や市長経験者を優先し、落選した人が多く選ばれる可能性がある。
- 「政治を変え、政治屋を変える」という主張は具体性に欠け、過去の歴史を振り返っても必ずしも良い結果をもたらさない。
- 構造改革を訴える声が多いが、具体的な施策が示されておらず、空虚な「変える」だけでは日本の政治は改善されない。
広島・安芸高田前市長の石丸伸二氏が2025年1月15日に新党「再生の道」を立ち上げた。彼は2024年7月の東京都知事選挙で小池百合子都知事に次ぐ166万票を獲得した実績がある。この新党は、2025年夏の都議選に向けて全42選挙区への公募候補擁立を目指すという。
通常、政党は同志が集まり、政策を訴え、国民に協力や投票を呼びかけるものである。しかし、石丸氏の新党は、具体的な政策を掲げることなく、任期制限を主張するだけである。他党との掛け持ちや共産党との協力も認められており、党としての政策が不在であることが指摘されている。
石丸氏は選挙に出馬せず、候補者を公募し、春までに選定する方針である。公募プロセスは書類審査、テスト、面接の3段階から成り、面接の様子はYouTubeで公開される予定である。決定した候補者には、供託金の負担や選挙サポートが約束されるが、その内容はSNSの活用方法などに限定される可能性が高い。
候補者の選定には、知事や副知事、市長や副市長などの経験者が優先される。このような方針は、現職の知事や市長が候補者になることを避けることにつながり、結果として落選した人々が多く選ばれる可能性がある。任期制限により、美味しい仕事には8年間しか就けないため、果たしてこれが日本の政治をどう変えるのかは疑問である。
また、石丸氏は「政治を変え、政治屋を変える」と主張するが、政治家が国民の将来を考えることと、政治屋が次の選挙を考えることの違いは必ずしも明確ではない。過去の歴史を振り返れば、国家の長期的な計画が必ずしも良い結果をもたらさなかった例も存在する。したがって、任期制限が本当に日本にとって意味があるのかは疑問である。
筆者は、石丸氏の「変える」という主張が無内容に思えるとともに、多くの人が無内容に「変える」と叫んでいる現状に懸念を抱いている。構造改革が必要だと主張する経済学者も多いが、具体的に何をするかは不明瞭である。例えば、エコノミストが構造改革の必要性を訴えても、具体的な施策が示されていないことが多い。
このような状況において、筆者は「変える」という言葉が空しいものでないかと考えている。日本の政治家が、どのように具体的な改革を行うかを示さなければ、結局は現状維持に留まり、さらなる悪化を招く可能性が高い。エルサが『アナと雪の女王』で歌った「このままじゃダメなんだ」という言葉は、日本の現状にも当てはまる。しかし、政治家が具体的な指針を示さなければ、より深刻な状況に陥るだけである。
【私の論評】政治家は「構造改革の呪縛」から逃れ、明確な実行可能なビジョン持ち実現可能な具体策を示せ
まとめ
- 石丸氏の新党は過去の構造改革と本質的に変わらず、短期的人事異動では根本的な変化が期待できない。
- 野口旭・田中秀臣の『構造改革論の誤解』は、構造改革の必要性と具体的な政策提案の不足を指摘している。
- 過去の成功と失敗から学ぶことが改革には不可欠であり、適切な財政金融政策の実施が重要である。
- 石破総理のビジョンは理想的だが、具体策が不足しており、過去の失敗を繰り返す恐れがある。
- 現在は日本の政治が変革の岐路に立たされており、具体的な行動を起こす絶好のチャンスである。
構造改革を主張した小泉首相 |
石丸氏の新党立ち上げは、過去の構造改革と本質的に変わらない点が多い。過去の構造改革は曖昧でありながらも、ある程度の方向性や政策提案があった。それにもかかわらず、経済成長を実現できなかったという教訓がある。石丸氏は短期で人を入れ替えることで政治改革ができると主張しているが、これは過去の構造改革の劣化版に過ぎず、根本的な変化は期待できない。
短期的な人の異動による改革は表面的な変化に過ぎず、政治の本質である政策の実行とその影響を考慮した持続的な改革を無視している。具体的な政策提言が欠けている点も問題であり、単なるスローガンに終わる可能性が高い。
上の記事の元記事にもでてくる、野口旭・田中秀臣の『構造改革論の誤解』では、構造改革の必要性が広く認識されている一方で、その具体的な内容や実行可能性についての議論が不足していることが鋭く指摘されている。
野口旭(左)氏と田中秀臣氏 |
著者たちは、構造改革が単なるスローガンに終わらないためには、実効性のある具体的な政策提案が不可欠であると強調している。彼らは、日本の経済が抱える深刻な問題に対して、改革の必要性を否定するものではなく、むしろ具体的な行動計画を持たなければ、実際の改善・改革にはつながらないと警告している。
特に、著者たちは過去の経験からの教訓を重視している。彼らは1980年代の規制緩和が一時的に経済成長を促進したが、その後の不動産、金融資産バブルへとつながった側面を挙げ、成功と失敗の事例を慎重に分析することの重要性を説いている。また、1990年代の金融危機に対処するための改革が不十分であり、特に適切な財政金融政策が実施されなかったことが、長期的な経済低迷を招いた教訓も取り上げている。このように、改革においては過去の成功と失敗を学び、次のステップを考える必要があると、著者たちは強調している。
さらに、彼らは理論と実践の乖離についても触れており、多くの経済学者が構造改革の必要性を唱える一方で、実際の政策実施においてその理論がどのように適用されるのかが不明瞭であると指摘している。これにより、改革が進まないというジレンマが生じた。
私も彼らの考えに賛同する。そもそも、上に不動産バブルと、金融資産バブルとわざわざ書いてあることにも気づかない無頓着な政治家も多い。多くの人々は、あのときの状況をいまだに、一般物価上昇によるバブルと信じているようだ。しかし、それは違う。
当時をふりかえると、バブル期の1986年12月から1991年2月までの期間における経済の過熱状態を指しているが、当時のパブルは、資産バブル(主に土地、株)によるものであり、一般物価が上昇していたわけではないし、失業率が悪化していたわけでもない。
当時をふりかえると、バブル期の1986年12月から1991年2月までの期間における経済の過熱状態を指しているが、当時のパブルは、資産バブル(主に土地、株)によるものであり、一般物価が上昇していたわけではないし、失業率が悪化していたわけでもない。
コアコアCPIは、1985年は2.0%、1986年は0.6%、1987年は0.1%、1988年は0.7%、1989年は2.3%、1990年は3.1%である。同時期の失業率は、同時期の失業率の推移は以下の通りである。1985年: 2.5%、1986年: 2.8%、1987年: 2.5%、1988年: 2.4%、1989年: 2.1%、1990年: 2.1%。1985年のプラザ合意以降の急激な円高による輸入物価の大幅な下落は、1986年から1988年にかけてのコアコアCPIの低下の主要因の一つである。
この数値を見る限り、これは一般物価上昇によるバブルとはいえない。1989年〜1990年にかけては、むしろかなり景気が良く、失業率も低く、安定していたといえる。にもかかわらず、日本銀行が金融引き締めに転じたのは1989年である。この年には、一般物価も失業率もあがっていないにもかかわらず、金利の引き上げが始まり、日銀はバブル経済の抑制を目指した。
これは、明らかに間違いであり、金融政策が実際に効果をあらわすまでには、半年から1年以上かかるのが通例のため、その当時はあまり認識されなかったが、これがその後の日本の不況、デフレを決定づけた。その後も、これを見直す機会は何度もあったはずだが、実際には「構造改革論」が幅を利かせ、日本の不況は、バブル崩壊のせいにされたまま、金融引き締めが継続され、それに輪をかけて緊縮財政が行われ、安倍政権時代の包括的金融緩和まで一時的例外を除いて、基本的に改善されることはなかった。これでは、デフレになるのが当然だ。
昨日、石破総理が施政方針演説で掲げた「令和の日本列島改造」や「一人ひとりが自己実現できる楽しい日本」というビジョンは、過去の構造改革といくつかの点で類似している。地方創生の強調は2000年代初頭の「地方分権」など過去の改革でも見られたが、具体的な施策が不足し、地方経済は依然厳しい状況にある。
自己実現の概念は、過去の改革がマクロ経済よりも個々の経済活動を重視したことに通じるが、実際には格差の拡大や地域間の不均衡が進んでいる。石破総理の提案も理想的なビジョンを掲げるものの、具体的な施策が示されておらず、過去の失敗を繰り返す恐れがあり、そうなれば国民は大反発することだろう。というより、多くの国民はもうこれに期待していないだろう。
結論として、日本の政治は今、変革の岐路に立たされている。明確なビジョンと具体策を持つことで、持続可能な成長と安定した社会を実現する道が開かれる。この機会を逃さず、希望を持って未来を切り開くために、今こそ志のある政治家が具体策を唱えるだけでなく、それを具体化する行動を起こす時なのだ。
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