2025年2月25日火曜日

<ウクライナ戦争和平交渉の成否を分ける3つのカギ>プーチンが求める「大国に相応しい地位」をどう失わせるか、あり得る目標とは―【私の論評】トランプ氏激怒!プーチンへの強硬批判と報復策―経済制裁・ウクライナ支援・露外交孤立化の可能性

<ウクライナ戦争和平交渉の成否を分ける3つのカギ>プーチンが求める「大国に相応しい地位」をどう失わせるか、あり得る目標とは

岡崎研究所

まとめ
  • ロシアとウクライナ双方が戦闘終結の意向を示しているが、実際の交渉開始には多くの困難が伴う。
  • ロシアはウクライナの領土併合や非武装化、NATO加盟の放棄など強硬な要求を維持している。
  • プーチン大統領の狙いは、ロシアの大国としての地位確立と国際秩序の改編にあり、ウクライナ侵攻はその一環である。
  • 交渉実現には、ウクライナへの軍事支援強化やロシアに対する制裁強化が必要である。
  • 交渉の課題は、占領地域の扱いや停戦監視体制、ウクライナのNATO非加盟問題など多岐にわたる。

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 ロシアとウクライナの戦争が続く中、ウォールストリート・ジャーナル紙の2025年2月5日付けの解説記事が注目を集めている。同記事は、ロシアとウクライナの双方が戦闘終結に向けた話し合いの意向を示していると報じつつも、実際に交渉を開始するには多くの困難が伴うことを指摘している。

 ロシアのクレムリン報道官であるペスコフ氏は、2月5日に米露間での接触が行われており、最近ではその頻度が増していることを明らかにした。これは、モスクワがウクライナでの戦闘終結に関する米露間の協議が進んでいることを初めて認めた発言である。このペスコフ氏の発言は、両国が紛争終結に向けて話し合う意志を示しているというシグナルとして受け取られ、和平の可能性に期待を抱かせるものであった。

 一方で、アメリカのトランプ元大統領は、ロシアのプーチン大統領に対してますます苛立ちを募らせているようである。トランプ氏とその補佐官らは、ロシアに対する制裁の強化や、ロシアの主要輸出品である原油価格の下落を通じて、モスクワに譲歩を迫る計画を打ち出している。しかし、プーチン大統領は公の場ではトランプ氏を称賛する姿勢を見せ、2020年の米大統領選挙が「盗まれた」とするトランプ氏の虚偽の主張にも同調している。さらに、もしトランプ氏が大統領であればウクライナ紛争は起きなかったかもしれないとの発言も行っている。しかし、こうした言動にもかかわらず、プーチン大統領はトランプ氏の和平提案に対しては全く関心を示しておらず、ウクライナ侵攻時に掲げた強硬な要求から一切譲歩していない。

 プーチン大統領の要求は、ウクライナの州や主要都市のすべてをロシアに併合し、ウクライナを非武装化して、北大西洋条約機構(NATO)への加盟を永遠に放棄させ、事実上ウクライナを「残りかす国家」と化すというものである。このような強硬姿勢は、和平交渉を進めるうえで大きな障害となることは明白であり、仮に交渉が開始されたとしても、ロシアが戦闘で得たウクライナ領土を保持するのか、あるいは制裁緩和を得られるのかといった問題に直面することは避けられないであろう。

 また、ウクライナの将来像も大きな課題である。西側諸国の安全保障体制の中で、ウクライナをどのように位置づけるのか、またロシアが再び攻撃を仕掛けないことをどのように保証するのかという難題が残ることになる。ウクライナ戦争が始まってから約3年が経過し、ようやく停戦や終戦に向けた交渉が現実的な課題として取り上げられるようになった。ここで注目すべきは、交渉が実現する可能性と、その成否を左右する要素である。

 プーチン大統領の真の狙いは、単なるウクライナ領土の一部獲得ではない。彼が望んでいるのは、ロシアが「大国にふさわしい地位」を確立することであり、国際秩序をロシアに有利な形に改編することである。ロシアの影響力を旧ソ連圏に再構築し、欧米諸国やNATOに対して優位に立つことを目指しているのである。ウクライナへの侵攻は、プーチンの壮大な戦略の一部に過ぎず、彼の最終目標はさらに遠大なものであることを見逃してはならない。

 現在、ロシア軍は特に地上軍が疲弊しており、戦争経済も長期的な持続性を欠いている。兵員や武器の供給も新たな戦線を開くには不十分な状況である。しかし、プーチンの決意は変わらず、ウクライナ戦争がロシアによる新たな侵略を防ぐ実効的な仕組みを構築することなく終結するならば、ロシアは態勢を立て直したうえで、再び侵略を開始する可能性が高い。

 一方で、交渉を開始するためには、ウクライナへの軍事支援の強化や、ロシアに対する制裁の強化が必要である。プーチンに対して戦略環境がロシアにとって不利であると認識させ、交渉の必要性を感じさせなければならないのである。交渉を成功させるためには、まず交渉を開始するための圧力をかけることが求められるのである。

 停戦交渉が実現した場合、最も大きな論点の一つは、ロシアが実効支配するウクライナの占領地域をどのように扱うかという問題である。ロシアはこれらの地域を自国領土として法的に認めさせようとするだろうが、ウクライナと西側諸国はこれを容認することは難しい。また、停戦ラインの確定や、停戦監視の方法、ウクライナのNATO非加盟問題など、解決すべき課題は山積している。

 特に、停戦監視部隊の役割については、仮にロシア軍が攻めてきた場合に戦う覚悟が必要であり、単なる監視にとどまるようでは、過去のミンスク合意のように形骸化する恐れがある。また、ロシアが求める「ウクライナの中立」には、NATO非加盟のみならず、ウクライナの非軍事化や、ロシアの影響力を行使する権利まで含まれており、受け入れがたい内容である。

 総じて、ウクライナ戦争の終結に向けた交渉は、表面上のシグナル以上に多くの障害を伴っている。プーチン大統領の戦略的野心と、ウクライナや西側諸国の安全保障上の利益の間には、依然として深い溝があり、交渉開始から実際の和平合意に至るまでの道のりは険しいものである。しかし、戦闘が続く中で和平の可能性が語られること自体が、状況の変化を示していることも事実である。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】トランプ氏激怒!プーチンへの強硬批判と報復策―破滅的経済制裁・ウクライナ支援・露外交孤立化の可能性

まとめ
  • トランプ氏のプーチン大統領への怒りは、近年の発言や行動から着実に増幅している。
  • 2025年1月22日の『トゥルース・ソーシャル』で、トランプ氏はプーチン大統領を名指しで批判し、「彼はロシアを破壊している」と断じた上、高関税や追加制裁を警告した。
  • 2025年2月14日の記者会見では、プーチン大統領との交渉で一部進展があったものの、ウクライナのNATO加盟を阻止するとの現実的悲観論を示し、強硬姿勢に対する苛立ちを露呈した。
  • 2025年1月28日のプーチン大統領訪問時に、トランプ氏は「馬鹿げた戦争を今すぐ止めろ」と強烈に警告し、経済的圧力を強化する意向を示した。
  • これらの事例から、プーチン大統領が和平条件を無視し軍事行動を継続するならば、トランプ氏は経済制裁の強化、ウクライナ支援の拡大、外交的孤立化を組み合わせた報復措置を取る可能性が高いと同時に、日本のマスコミ報道だけに依拠しては現状を正確に把握できないとの警告もある。
上の記事にも一部示されているが、トランプのプーチンに対する怒りは、さらに増幅しつつあるようだ。

怒るトランプ大統領

まず、トランプ氏は2025年1月22日、自身のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」で、ウクライナ戦争に関してプーチン氏を名指しで批判し、「彼はロシアを破壊している」と述べました。この発言は、トランプ氏がプーチン氏の政策や行動に明確な不満を抱いていることを示すもので、従来の友好的なトーンからの変化を感じさせます。さらに同投稿で、トランプ氏はロシアに対して「高関税と追加制裁」を警告しており、ロシアが和平に応じない場合に経済的圧力を強める姿勢を明らかにしています。この強い言葉遣いと具体的な脅しは、プーチン氏への苛立ちがエスカレートしている証拠と言えるでしょう。

また、2025年2月14日の電話会談後の記者会見でも、トランプ氏はプーチン氏とのやり取りに一定の進展を認めつつ、「ロシアはウクライナのNATO加盟を許さないだろう」と現実的な悲観論を述べています。この発言からは、プーチン氏の頑なな態度に対する諦めと苛立ちが混じったニュアンスが感じられ、和平交渉の難航に対する不満が透けて見えます。特に、トランプ氏が就任早々に「1日で戦争を終わらせる」と豪語していたにもかかわらず、プーチン氏が強硬姿勢を崩さない状況が続いていることは、トランプ氏にとって期待外れであり、苛立ちの原因となっている可能性が高いです。

さらに別のエピソードとして、2025年1月28日にプーチン氏がサマラの無人航空機システム研究センターを訪問した際、トランプ氏は「馬鹿げた戦争を今すぐ止めろ」と異例の強い警告を発しています。この発言は、ロシア経済がインフレや制裁で疲弊しているにもかかわらず、プーチン氏が戦争継続に固執する姿勢に対する直接的な非難であり、トランプ氏の苛立ちが公然と表面化した瞬間と言えます。報道によれば、トランプ氏はこのタイミングでプーチン氏に対し、経済的「恩恵」をちらつかせつつも、応じなければ制裁を強化すると圧力をかけていますが、プーチン氏の反応が冷淡であることがトランプ氏の苛立ちをさらに増幅させていると考えられます。

サマラの無人航空機システム研究センターを訪問したプーチン大統領

これらの事例から、トランプ氏の苛立ちは、プーチン氏が表面的には友好的な態度を示しつつも、実際にはトランプ氏の提案する和平条件を無視し、ウクライナでの軍事行動を続けている点に集約されているようです。トランプ氏は自身の交渉力に自信を持っているだけに、プーチン氏の非妥協的な態度がその自負心を傷つけ、感情的な対立を深めていると推察されます。こうした状況は、両者の関係がかつての協力的なものから、緊張感を帯びたものへと変化していることを示唆しています。

プーチン大統領が表面的に友好的な態度を示しつつも、トランプ氏の提案する和平条件を無視し、ウクライナでの軍事行動を継続する場合、トランプ氏の報復は経済制裁の強化から始まる可能性が高い。トランプ氏は過去、2018年のイラン核合意離脱後に「最大限の圧力」として経済制裁を効果的に活用した実績があり、プーチン氏に対しても同様のアプローチを取るのは自然な流れだ。

同時に、トランプ氏はウクライナへの軍事支援を拡大する形で間接的な報復に出る可能性もある。2025年1月29日の報道では、米軍がイスラエルからペトリオット防空システムをウクライナに輸送したことが確認され、2月14日の記者会見では「ウクライナに平和をもたらす支援を続ける」と述べている。これにより、ロシア軍に打撃を与える装備—例えば長距離ミサイルやドローンの供与—を増やし、プーチン氏の軍事行動を牽制する意図が読み取れる。X上では2月23日に「トランプが裏切られたと感じればHIMARSを追加供与する」との声もあり、彼の「強いリーダー」イメージを保ちつつ直接戦闘を避ける方法として現実的だ。

ハイマース

さらに、外交的孤立化もトランプ氏の報復手段として浮上している。2025年2月16日のG7首脳会談で、彼は「ロシアとの貿易を制限する共同声明」を提案したと報じられ、他の主要国を巻き込んでプーチン氏を国際社会で孤立させる動きを見せている。2019年の中国との貿易戦争で同盟国を動員した経験からも、この多国間圧力は彼の得意分野と言える。ただし、直接的な軍事行動には慎重で、2月16日のスピーチで「第三次世界大戦は誰も望まない」と強調し、プーチン氏が2024年11月に発した核を含む報復警告を意識している様子がうかがえる。

結論として、プーチン大統領が和平の道を完全に遮断し続けるならば、トランプ氏は経済制裁の強化、ウクライナ支援の拡大、さらには外交的孤立化を組み合わせた報復措置を実行する可能性が極めて高い。これらの手段は、彼自身の政治的リスクを最小限に抑えつつ、交渉力を保持するための戦略として極めて合理的である。しかし、もしロシアがウクライナにおいて決定的な勝利を収め、トランプ氏の提案を嘲笑うような状況に陥れば、彼のプライドがさらなる強硬策を誘発する可能性も否定できない。

それにもかかわらず、現時点ではトランプ氏は「取引の達人」として、冷静かつ計算されたアプローチを堅持する姿勢を崩していない。なお、日本のマスコミ報道だけに依拠しては、世界の複雑な交渉状況やその裏側を正確に把握することは極めて困難であり、多角的な情報源から現状を精査する必要がある。

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