2025年2月9日日曜日

ロシアの昨年GDP、4・1%増…人手不足で賃金上昇し個人消費が好調―【私の論評】ロシア経済の成長は本物か?軍事支出が生む歪みとその限界

ロシアの昨年GDP、4・1%増…人手不足で賃金上昇し個人消費が好調

まとめ
  • 024年のGDPは前年比4.1%増で、個人消費は5.2%、政府支出は4.5%の増加を示し、2年連続で4%超の成長を記録した。
  • 一方で、物価上昇率が9.5%に達する激しいインフレの中、プーチン大統領は均衡の取れた成長とインフレ抑制を今年の課題とした。

プーチン大統領

ロシア統計局によると、2024年のGDPは前年比4.1%増加し、2023年も同率増加しているため、10~11年以来、2年連続で4%超の成長率を記録した。

個人消費は労働力不足に伴う賃金上昇を背景に5.2%増、政府支出は4.5%増となった。

一方、同年12月の物価上昇率は前年同月比9.5%と激しいインフレが続いており、プーチン大統領は「均衡のとれた成長軌道の達成とインフレの抑制」を今年の課題と位置づけた。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事を御覧ください。

【私の論評】ロシア経済の成長は本物か?軍事支出が生む歪みとその限界

まとめ
  • ロシア経済の成長は軍事支出に依存:2024年のGDPは前年比4.1%増だが、成長の多くは軍需産業によるもので、民間経済の健全な発展とは言えない。
  • インフレと高金利の影響:消費者物価指数(CPI)は約9%上昇し、小売業の成長も価格上昇によるもの。ロシア中央銀行は政策金利を21%に引き上げたが、目標の4%を大きく超えている。
  • 軍事経済の弊害:軍事支出が増える一方、民生部門は投資や運転資金の確保が困難になり、人材も軍需産業に集中し、経済のバランスが崩れている。
  • 歴史の教訓:第二次世界大戦中と同様、戦争中のGDP成長は数字上のものであり、戦争経済の拡大に過ぎない。民間経済の基盤が蝕まれるリスクがある。
  • 持続可能な成長の必要性:軍事主導の成長は限界があり、民間経済の発展こそが真の成長。国民の生活向上を伴わない経済成長は、いずれ行き詰まる。

AI生成画像 韓国とロシアの国旗の柄をデザインした水着を着用した女性

ロシア経済は、近年波乱万丈の展開を見せている。2023年、同国は約2兆216億ドルのGDPを達成し、世界経済におけるシェアは1.92%に迫った。ウクライナ侵攻前、ロシアの経済規模は韓国に僅かに劣っていた。たとえば、2019年の名目GDPはロシアが約1.7兆ドル、韓国が約1.8兆ドルであったが、その後ロシアは若干上回るに至ったが、最新統計によれば現状でも両国の数字上の差はごく僅かである。

2024年第3四半期(7~9月期)には、ロシアは前年同期比3.1%の成長を記録した。しかし、第1四半期が5.4%、第2四半期が4.1%であったことと比較すれば、成長率は明らかに鈍化している。この成長は、小売業や製造業の堅調さによるものだが、その裏側には決して見逃せぬ現実が潜んでいる。

まず、製造業の堅調さについてである。戦争、特に総力戦の状況下では、軍需物資の大量生産がGDPに計上されるのは必然である。歴史を振り返れば、第二次世界大戦中の先進国は、民間経済の健全な成長とは裏腹に、軍事生産によってGDPが大幅に伸びた。ピーター・ドラッカーがかつて「後の経済学者が戦争中の各国のGDPだけを見れば、単なる好景気だと思うかもしれない」と語った逸話は、現代ロシアの厳しい現実を鋭く物語っている。

一方、小売業は高いインフレの影響を色濃く受けている。2024年第3四半期の消費者物価指数(CPI)は前年同月比で約9%に達し、名目上の小売売上高は6.0%増加した。しかし、この数字は実際の購買量の拡大を示すものではなく、単に価格が跳ね上がった結果である。ロシア中央銀行はインフレを抑制するために政策金利を21%に引き上げたが、目標とする4%をはるかに上回る状況が続いている。

さらに、国際通貨基金(IMF)は2024年の実質GDP成長率を3.8%、2025年を1.4%と予測し、2024年の見通しを0.2ポイント上方修正した。一方、ロシア政府は2024年のGDP成長率を3.9%と見積もっているが、軍事支出の拡大、激しいインフレ圧力、そして深刻な労働力不足など、複数の課題が経済に重くのしかかっている。

ここで肝心なのは、国家が財政赤字を厭わず軍事支出を拡大している現状である。軍事費の膨張は、数字上の経済成長を押し上げるが、これは戦争経済の必然的な帰結であり、決して称賛に値するものではない。軍需部門やその下請け企業は潤っているが、民生部門は事業拡大のための投資はもちろん、当面の運転資金の確保すら困難な状況に陥っている。さらに、深刻な人材不足が生じ、優秀な人材が軍需分野に集中する結果、民間のイノベーションや経済活動は大きく阻害されている。

第二次世界大戦中の各国のGDPの推移

歴史は、同様の悲劇を過去にも示している。戦時下、各国は軍事支出を優先するあまり、民間経済の基盤が蝕まれ、ひずみが拡大した。ドラッカーが示したように、戦争中のGDP数値だけを取り上げれば、単なる戦争経済の拡大に過ぎないのだ。

結論として、ロシアのGDP成長や小売業の堅調さは、軍事支出による一時的な数字上の拡大に過ぎず、実際の民間経済の健全な発展を反映していない。国家が財政赤字を恐れず軍事費を拡大することは、必然的に高金利、深刻な人材不足、さらには民生部門の資金繰りの悪化といった副作用を招く。

こうしたひずみが深刻化すれば、軍事主導の経済成長はやがて頭打ちとなり、真に持続可能な成長は望めなくなる。経済成長の数字に惑わされるな。真の成長とは、民生部門が豊かになり、国民一人ひとりの生活が充実することである。

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