2025年2月13日木曜日

米露首脳が電話会談、ウクライナ戦争終結へ「ただちに交渉開始」合意 相互訪問も―【私の論評】ウクライナ和平は、米国が中国との対立に備えるための重要な局面に

米露首脳が電話会談、ウクライナ戦争終結へ「ただちに交渉開始」合意 相互訪問も

まとめ
  • トランプ大統領はプーチン大統領と電話会談し、米露両国がウクライナとの戦争終結に向けて交渉を開始することで合意した。
  • 将来的なウクライナのNATO加盟やクリミア領土の回復は「現実的ではない」とし、プーチン氏とのサウジアラビアでの会談の可能性にも言及。
  • トランプ氏はウクライナに供与した支援を「取り戻す」ために、同国のレアアースや化石燃料の権益に関する「保証」が必要だと主張した。

電話会談するトランプとプーチン AI生成画像

 トランプ米大統領は12日、ロシアのプーチン大統領と電話会談を行い、両国の交渉団がウクライナとの戦争終結に向けて「ただちに交渉を開始することで合意した」と発表した。その後、ウクライナのゼレンスキー大統領とも電話で会談し、ロシアのウクライナへの全面侵攻から3年を前に「トランプ外交」が本格的に始動した。

 トランプ氏は会談後に記者団に対し、プーチン氏とサウジアラビアで会談する可能性に言及し、ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟や、ロシアが2014年にクリミア半島を併合した以前の領土回復は「現実的ではない」と主張した。

 また、トランプ氏は自身のSNSで、プーチン氏との電話会談が「長時間でとても建設的」だったと強調し、両首脳が互いの国を訪問することで合意したと述べた。

 さらに、トランプ氏はドイツで開催される「ミュンヘン安全保障会議」に出席するバンス副大統領とルビオ国務長官が14日にゼレンスキー氏と会談することを説明し、交渉団が協議を「成功させるだろう」と自信を示した。一方で、米国がこれまでウクライナに供与した支援を「取り戻す」ためには、同国のレアアースや化石燃料の権益などの「保証」が必要だと改めて主張した。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】ウクライナ和平は、米国が中国との対立に備えるための重要な局面に

まとめ
  • ミュンヘンの歴史的教訓: イギリスはナチス・ドイツに対する宥和政策で、戦争を避けようとしたが逆効果となり、第二次世界大戦が勃発した。
  • 現在のロシアと宥和:米国がロシアに対して融和策をとるとみるむきもあるが、 現在のロシアは当時のドイツほど強力ではなく、米国が宥和政策を取る必要はない。
  • トランプ政権の中国戦略: トランプ政権はロシアとの関係改善して、中国との対立に備える戦略を取るとみられる。
  • 経済と制裁: ロシアの経済は戦争経済を長続することはできず、米国は中露の間に楔を打ち込むことを企図している。
  • ウクライナ和平の目的: ウクライナ和平は、米国が中国と対峙するための戦略の一環で、新たな秩序形成の一部とみられる。

1939年のポーランド侵攻後、ワルシャワを行進するドイツ軍兵士

上の記事にもある「ミュンヘン安全保障会議」という言葉の「ミュンヘン」から、多くの人々が「ミュンヘンの宥和」を連想するだろう。

1938年、ナチス・ドイツのアドルフ・ヒトラーはオーストリアを併合し、チェコスロバキアのスデーテン地方の割譲を求めた。イギリスの首相チェンバレンは戦争を避けるため、ミュンヘン協定でヒトラーの要求を認め、領土拡大をしないと約束させた。しかし、チェコスロバキアはこの会談に招かれず、英国の圧力で屈服した。イギリスの戦備不足や和平を望む国民感情が背景にあったが、この妥協がヒトラーにイギリスを軽視させる結果となり、翌年ポーランド侵攻が始まり、第二次世界大戦が勃発した。

「ミュンヘンの宥和」は、大国が侵略者に譲歩し、小国を犠牲にした事例として批判されてる。その教訓は今も生きている。

このようなことから、トランプ大統領の「アメリカ・ファースト」と宥和主義の類似性を指摘する声もある。特にウクライナ和平に関して、宥和政策の再来を警戒する意見が出ている。しかし、これは的外れだと思う。なぜなら、現在ロシアは軍事的にも経済的にも当時のドイツのようには強力ではないからだ。

単純な比較はできないが、現在の米国がロシアに対して宥和政策を取るなら、それは当時のイギリスがイタリアに宥和策を取るようなものだ。イタリアは1935年にエチオピアに侵攻し、1936年に占領した。これはムッソリーニの帝国主義的野望と過去の敗北の復讐から始まり、化学兵器(マスタードガス)を使ってエチオピアを圧倒した。国際連盟は制裁をかけたが効果は限定的で、1941年に連合国が介入し、イタリアの支配は終わった。

当時のイタリアはファシスト体制下で経済成長を遂げていたが、GDP規模では先進国の中では相対的に低い位置にあった。イギリスがイタリアに対して宥和策を取ることはなかった。むしろ制裁と外交的圧力を続けた。それは、イギリスが戦争の準備が不十分な中でも、イタリアはコントロール可能と見ていたからだろう。

エチオピアに侵攻したイタリア軍

現在の米国も、ロシアに対して同じようにコントロール可能と考えているはずだ。ロシアのGDPは戦争経済で一時的に伸びたが、まだ韓国と同規模だ。それに戦争経済はいつまでも続けられない。ウクライナに侵攻しても、長期的に戦争を続けるのは難しい。限界が来るのは時間の問題だ。

そのロシアに対して、米国が宥和政策を取る必要はない。それなのに、トランプ政権が交渉を進める理由は、中国との対立を最優先しているからだ。

トランプ最初の政権は、アジア太平洋地域での中国の影響力を抑制するため、対ロシア政策を中国対策の一環と位置づけた。2018年の関税措置で中国製品に対する関税を大幅に引き上げ、米中間の貿易戦争を引き起こした。これは中国の輸出を削ぎ、米国の製造業を守るためだった。

また、トランプ政権はロシアとの関係改善を口実に、中国との競争でロシアを「楔」として利用しようとした。2018年のヘルシンキ会談で、トランプとプーチンが直接話し合い、中国に対する対話の可能性を示した。ロシアが中国に近づくのを防ぐため、北極海航路やシベリアの天然資源開発で西側と連携する可能性を示唆した。

さらに、米国はロシアのエネルギー市場への影響力を減らすことで、中国へのエネルギー供給を制限しようとした。特に2019年の北極海航路の利用に関するロシアと中国の提携に反対する狙いがあった。アメリカはシェールガス革命でLNGの主要供給国となり、ヨーロッパやアジアへの供給を強化した。これにより、中国がロシアのガスプロムに依存する立場を弱めようとした。2020年には、ロシアのエネルギー企業に対する制裁を強化し、輸出を制限した。これらの動きは、中国のエネルギー安全保障を弱め、米国の立場を強化する戦略の一部だった。

対ロシア以外でも、中国の5G技術拡大を防ぐための「クリーンネットワーク」イニシアチブや、南シナ海での軍事的プレゼンス強化、さらに2020年の「Quad」(クアッド)の再活性化などがある。

これらの政策や行動は、中国への戦略的圧力を高めるための多面的なアプローチを示している。トランプ政権は、中国との長期的な競争を視野に入れていた。

ロシア軍の陣地に向けて砲撃を行うウクライナ軍兵士、2023年2月15日ウクライナ・ドネツク州

第二次トランプ政権も同じような政策を取るだろう。ウクライナ戦争を早く終わらせ、プーチンやロシア政府に、ロシアの本当の敵がウクライナでもNATOでもアメリカでもなく、中国だと気づかせることが重要だ。

トランプは「自分が大統領なら戦争は一日で終わらせる」と言ってた。ロシアがエネルギーや軍事力を消耗する前に和平を達成する意図だ。2025年2月のロシアとウクライナの和平協議計画がリークされた。ウクライナが20年間NATOに加盟しなければ、ロシアの攻撃を止める代わりに武器を供給する話だ。これでロシアは軍事的に安定し、経済制裁から抜け出せる。

ロシアに本当の脅威が中国にあると認識させるため、トランプ政権は策略を練るだろう。中国とロシアは経済的に密接だが、ロシアは中国にエネルギーや技術を供給しすぎて、依存しすぎている。これをトランプ政権は突くだろう。中国企業がロシアに技術投資し、軍事技術で協力しているため、ロシアの技術が中国に流出するリスクがある。ロシアの独立性にダメージを与える可能性がある。

ロシアと中国は中央アジアや北極、北朝鮮で主導権を競っている。トランプ政権はその隙間を突いて、アメリカの影響力を強め、ロシアに中国との競争を自覚させるだろう。一帯一路に対するロシアの不安を利用し、中国の地域支配力を警戒させるだろう。ウクライナ・ロシア担当特使キース・ケロッグは、ロシアが中国の覇権主義に対抗するにはアメリカと連携するのが得策と強調した。

結論として、ウクライナ和平は、米国が中国と対峙するための戦略的な一手であり、この問題を米国がコントロール可能にして、ロシア、ウクライナ、そして西側諸国を対中国との対峙に向けるための新たな秩序の形成の一環とみるべきだ。

先に述べたように、トランプ政権は中国の影響力拡大を抑えるために2018年から2020年にかけて一連の政策を展開した。

これらは全て、中国のグローバルな影響力を抑制し、米国の主導権を確保する戦略の一部であり、第二次トランプ政権は、さらにこれを強力に推し進めるだろう。ウクライナ和平は、この大きな枠組みの中で、米国が欧州での影響力を再確立し、NATOの統合を強化しつつ、中国との長期的な対立に備えるための重要な局面となるだろう。

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