2025年2月15日土曜日

<見えてきた再エネの限界>ドイツ総選挙の争点から見える電力供給と電気料金の窮状―【私の論評】ドイツ経済危機と日本の選択:エネ政策・内需拡大、そして求められるリーダー交代

<見えてきた再エネの限界>ドイツ総選挙の争点から見える電力供給と電気料金の窮状

山本隆三( 常葉大学名誉教授)

まとめ
  • 原発の停止2年前、ドイツは大多数の国民の意見に反して最後の3基の原発を停止。
  • 世論と政策のずれ世論調査では原発の継続利用を望む声が強かったが、福島事故後の脱原発政策が推進された。
  • 政治的変動連立政権の崩壊後、原発回帰や新型炉開発を訴える政党が支持を伸ばし、総選挙を控える。
  • 電気料金上昇ロシアからの化石燃料依存減少により電気料金が急騰、経済に影響。
  • 電力需要増加AIやデーターセンターの普及による電力需要増加に対応するため、原発の再評価が進む。ドイツは原発、特にSMR(小型原子炉)等の新規開発に舵を切るだろう。

ドイツで爆破された原発の給水塔

 2年前、ドイツは国民の3分の2が原発の継続利用を望む中、最後の3基の原発を停止した。これは2011年の福島第一原発事故を受けた脱原発政策に基づくもので、当時稼働していた17基の原発を徐々に廃止する方針が決定され、最後まで稼働していた3基は2023年4月15日に停止された。世論調査会社YouGovの調査では、33%が原発の無期限利用、32%が期間限定での利用を望み、脱原発支持は26%に留まっていた。

 その後、ドイツでは原発回帰や新型炉の開発を訴える政党が支持を伸ばし、欧州の多くの国が原発の新増設を検討する中、ドイツも再び原発に回帰する可能性が高まっている。昨年11月に社会民主党(SPD)、緑の党、自由民主党(FDP)の連立政権が瓦解し、2月23日に総選挙を迎えることになった。

 現政権のSPDと緑の党の支持率を合わせても30%しかなく、キリスト教民主同盟/社会同盟(CDU/CSU)が支持率トップを走っている。CDU/CSU、次いでドイツのための選択肢(AfD)、FDPの3党は選挙キャンペーンで原発の再活用や小型モジュール炉(SMR)の開発を訴えている。これは、高騰した電気料金、増加が予想される電力需要、安定供給の課題に対応するためである。

 脱原発政策が進められた背景には、ウクライナ侵攻に対する制裁としてロシア産化石燃料の輸入削減が行われたことがあり、これが電気料金の上昇を引き起こした。特にロシアとの天然ガスパイプラインに依存していたドイツでは、家庭用電気料金が2021年の1キロワット時(kWh)当たり32.16ユーロセントから2023年には45.73ユーロセントに42%上昇した。この高騰はEU内でもトップクラスの電気料金となり、ドイツの産業にも影響を与えている。化学関連企業などエネルギー多消費型産業は、エネルギー価格が安い国への工場移転を検討している。

 電力需要はAIやデーターセンターの普及により増加傾向にある。米国では電力需要が大幅に増えると予想されており、ドイツも例外ではない。安定供給のために原発やSMRの役割が再評価されている。ただし、既に閉鎖された原発を再稼働させることは技術的にも実務的にも難しいと指摘される一方、新たな原発の建設やSMRの導入が検討される可能性は高い。

 次期政権では、原発政策の見直しが不可避であり、CDU/CSUは電気料金の引き下げを政策に掲げている。しかし、原発の利用再開は短期的な電気料金対策にはならない。ドイツの原発政策変更は、技術開発の国際競争を激化させる可能性があり、国として新規電源導入と研究開発を支援する必要性が高まっている。

 日本は再稼働可能な原発を保有し、電気料金抑制と安定供給が可能だが、電力需要増加に対応するためには新たな原発も必要。ドイツの原発政策変更は技術競争を激化させ、自由化された市場では新規電源投資が難しいため、国による支援が求められる。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】ドイツ経済危機と日本の選択:エネ政策・内需拡大、そして求められるリーダー交代

まとめ
  • ドイツ経済の低迷:2025年のGDPは前年比0.5%減で3年連続マイナス成長。投資減退や輸出減少が深刻。
  • エネルギー政策の課題原発再稼働は技術的・社会的に困難で、SMR開発も政治的反発で停滞。エネルギー価格の低下が最優先課題。
  • 内需拡大の必要性外需依存から内需重視への転換が不可避だが、産業構造の変革には時間がかかる。
  • 日本の優位性再稼働可能な原発が多く、GDP成長見込みも1%とドイツより好条件。適切な政策で内需拡大が可能。
  • 政治的リーダーシップの重要性ドイツ、日本ともに現状を打破するためには指導者の交代が求められる。

ドイツ商工会議所(DIHK)

ドイツ商工会議所(DIHK)は、2025年のドイツのGDPが前年から0.5%減少し、3年連続でマイナス成長になると予測した。その要因は、外国企業との競争激化、エネルギー価格の高騰、金利上昇、不確実な経済見通しによるものだ。調査では、31%の企業が今後12カ月の業績悪化を見込み、改善を期待する企業はわずか14%にとどまる。

投資計画を持つ企業は22%に過ぎず、40%近くが投資を控えている。DIHKのヘレナ・メルニコフ専務理事は、経済政策の枠組みが最大の事業リスクと見なされる状況にあることを指摘し、現在が転換点であると警鐘を鳴らす。輸出に関しても、28%の企業が減少を予想し、増加を見込むのはわずか20%だ。

ドイツのGDPに占める輸出の割合は、日米と比べて際立って高い。ドイツの輸出額はGDPの約50%を占めるのに対し、アメリカは約12%、日本は約18%だ。この高い輸出依存度は、ドイツ経済が世界市場の変動に極めて敏感であることを示している。

ドイツが取るべき道は明白だ。国内のエネルギー価格を引き下げ、外需依存から内需拡大へとシフトする必要がある。

2018年、ウクライナ戦争やコロナの影響がなかった時期の世界各国の輸出依存度は以下の通りだ。

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輸出依存度の高いドイツや韓国は、それぞれGDPの47%と44%を占め、主要国の中で特に高い。一方、日本は18%に過ぎず、OECD36カ国中35番目という低水準だ。これは内需主導のアメリカ(12%)と同様の傾向にある。ただし、両国ともかつては10%未満だったものが、近年10%以上に上昇している。

以前にも本ブログで紹介したが、世界銀行の分析によれば、国内市場規模がGDPの60%を超える経済圏は、外部ショックへの耐性が格段に高まる。米国の民間消費がGDPの68%を占める現状(2023年)は、この理論を裏付ける好例だ。中国が「国内大循環」戦略を掲げ、2035年までに中所得層を8億人に拡大しようとしているのも、同様の経済構造転換の一環である。国際分業の効率性追求から内需主導の安定性重視へとシフトすることが、新たなグローバル経済の潮流となりつつある。

もっとも、内需拡大は積極財政や金融緩和である程度は可能だが、限界もある。根本的には産業構造の転換が必要であり、相応の時間を要する。

ドイツがこの窮地を脱するには、まずエネルギー価格の引き下げが不可欠だ。

しかし、既に閉鎖された原発の再稼働は、技術的にも実務的にも極めて困難である。長期間稼働していない設備の劣化が進み、再稼働には大規模なメンテナンスや修理が必要だ。核燃料の供給網も途絶えており、新たな調達には時間を要する。さらに、安全基準の強化により、既存設備の改修が求められる。

実務面でも、閉鎖に伴う専門人材の流出や、新たな運用許可の取得が障壁となる。再稼働コストが新規建設を上回る可能性もあり、解体が進んだ原発では再稼働はほぼ不可能だ。社会的にも、原発に対する反対運動が強まり、現政権は原発復活を阻止するために給水塔を破壊する措置まで講じた。このような状況では、閉鎖済み原発の再稼働は現実的ではない。

新規建設も莫大な費用と時間を要するため、より安全で短期間で設置可能な小型モジュール炉(SMR)が注目されている。しかし、ドイツの脱原発政策と再生可能エネルギーへの傾斜により、SMR開発はほぼ停滞している。福島第一原発事故後のエネルギー転換政策(Energiewende)の影響で、原子力技術への投資や研究開発は大幅に縮小された。国内での商業化の動きはほぼ見られず、技術評価や研究が一部の研究機関で細々と続けられているにすぎない。

SMR発電所のイメージ図(米ニュースケール・パワー社提供)


政治的・社会的な反発も強く、特に緑の党を中心とする反原発勢力がSMR開発を阻止しようとしている。再生可能エネルギーの拡大により、SMR投資は経済的に合理的でないとの意見もある。2025年の総選挙でCDU/CSUやAfDがSMR導入を支持する姿勢を示しているが、政策転換には時間を要し、短期的な進展は期待できない。

一方で、フランスやポーランドではSMR開発が進んでおり、ドイツもその動向を注視している。国際協力の議論もあるが、具体的な計画には至っていない。現状では、国内の反原発感情や政治的制約が強く、進展は限定的だ。仮にSMR導入が必要になれば、フランスや米国、英国からの輸入が現実的な選択肢となる。

ドイツは現状、完全に行き詰まっている。しかし、政権交代によってエネルギー価格が低下し、内需拡大へと舵を切れば、再び強大な経済力を取り戻せるだろう。そして、それこそが世界の安定にとっても望ましい展開である。

一方、日本はドイツと比べて圧倒的に有利な状況にある。再稼働可能な原発が多数存在し、2025年のGDP成長率は約1%と予測されている。これは消費と輸出の回復が主因だ。適切な金融財政政策を実行すれば、内需拡大の余地は大きい。

だが、その幸運を理解していない政治家もいる。石破政権はまさにその典型だ。ひたすら、財務省が流布する貧乏妄想に耽っている。このままでは、日本もドイツのように迷走することになりかねない。リーダーの交代が必要なのは、何もドイツだけではない。

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