まとめ
- ウクライナ国防省は、ロシアがウクライナ侵攻で1万両の戦車を失ったと発表。
- ロシアは戦車不足から、冷戦時代のT-54/55や第二次大戦のT-34まで投入する可能性がSNSで話題。
- ウクライナの発表では正確性に限界があり、Oryxの調査によると3740両の戦車が失われたとされる。
- ソーシャルメディア上では、T-34が現代の対戦車兵器にどう対抗するかが疑問視されている。
- ロシアの旧式装備の使用は、戦争継続能力に疑問を投げかけている。
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T34-85(85ミリ砲を装備したT34) |
調査サイト「Oryx」によると、ロシアは3740両の戦車を失っており、その内訳は2672両が破壊、157両が損傷、377両が放棄、534両が鹵獲されたとしている。SNSでは、T-34が現代の対戦車兵器にどのように対抗するか疑問視され、この旧式戦車が破壊される映像が待ち望まれている。
ロシア国内では、昨年の戦勝記念日の軍事パレードで新型戦車がほとんど見られず、T-34が1両のみ登場したことで、装備の不足が話題となった。この状況は、ロシアが戦争を継続するための能力に疑問を投げかけるものともなっている。現在、ロシアはウクライナ東部ドネツク州で攻勢を強めているが、兵士と装備の大きな損失を出し続けており、停戦合意の可能性が議論される中でもその損失は増え続けている。
【私の論評】ロシア軍のT-34登場は戦車不足の象徴か? ウクライナ戦争の行方と停戦交渉の危うさ
- ロシア軍の訓練動画に第二次大戦期のT-34戦車が登場し、訓練用車両不足のため式典用を流用した可能性が指摘されている。
- T-34は圧倒的な生産数と戦闘力で独ソ戦を優位に進め、第二次大戦後も朝鮮戦争や冷戦期に使用された。
- 戦車損失が深刻化し、補充が困難なため、オートバイや荷馬車など非伝統的な手段に依存している。
- トランプ前大統領が停戦交渉を模索するも、多大な譲歩を伴う可能性があり、米国の姿勢が焦点となる。
- 力による現状変更を容認する停戦は中国の増長を招き、日本の安全保障や北方領土問題にも悪影響を及ぼす可能性がある。米国は停戦というよりは、凍結を目指しているのではないか。中国との対決を最優先しているのではないか。
2024年10月、ロシア軍の訓練動画に、第二次世界大戦で運用されたT-34中戦車が登場し、SNSで話題となった。専門家の見解では、ウクライナとの戦闘により訓練用車両が不足し、式典用に保管されていたT-34を引っ張り出した可能性が高いとされる。
T-34は、戦車史に燦然と輝く傑作である。第二次世界大戦中に約3万5000両、戦後を含めれば約6万4000両が生産された。ドイツ軍のIV号戦車が約9000両だったことを考えれば、T-34がいかに量産されたかが分かる。この圧倒的な数は、戦局を左右する決定的な要因の一つとなった。
T-34は、戦車史に燦然と輝く傑作である。第二次世界大戦中に約3万5000両、戦後を含めれば約6万4000両が生産された。ドイツ軍のIV号戦車が約9000両だったことを考えれば、T-34がいかに量産されたかが分かる。この圧倒的な数は、戦局を左右する決定的な要因の一つとなった。
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ドイツ軍のIV号戦車 |
1940年9月、ハリコフ機関車工場でT-34の量産が始まり、翌1941年6月22日、独ソ戦が勃発すると、ドイツ軍を驚愕させた。傾斜装甲により砲弾を弾く設計、当時のドイツ軍戦車を凌駕する76.2mm砲、燃えにくいディーゼルエンジン、そして悪路に強い履帯。これらの要素が組み合わさり、T-34は圧倒的な戦闘力を発揮した。
ソ連は、この優れた戦車を極限まで量産した。鋳造製砲塔、アーク溶接を採用し、生産性を飛躍的に向上。1942年には生産数1万両を超え、スターリングラード攻防戦では、戦闘中にも工場で生産が続けられ、戦局を変えた。1943年末には85mm砲搭載のT-34-85が登場し、ドイツ軍を数でも性能でも圧倒。第二次大戦後もT-34-85は朝鮮戦争で北朝鮮軍の主力として活躍し、冷戦期にも多くの戦場で使用された。
だが、時代は変わった。現在、ロシアが保有するT-34は式典用のものに過ぎない。現代の戦場では、火力、防御力ともに通用しない。偵察や防衛戦に活用できる可能性はあるが、最前線に投入されることは考えにくい。
英国防省の衛星写真は、ロシアの軍用車両保管基地の車両数が激減していることを示している。戦車の損失は深刻で、ロシア軍はオートバイや荷馬車といった輸送手段に頼るまでになっている。新規戦車の生産能力も低く、西側の経済制裁により必要な部品調達が困難なため、補充は容易ではない。
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第二次世界大戦中は各国の軍隊で馬が用いられていた 写真はパリを占拠したド逸群 |
こうした状況下で、ウクライナ戦争は長期化の様相を呈している。その解決に向け、トランプ前大統領が停戦交渉に乗り出した。だが、問題は米国の姿勢だ。ウクライナのNATO加盟もクリミア奪還も「現実的ではない」とされ、多大な譲歩を強いられる可能性がある。
力による現状変更を認める停戦は、未来の災いの種となる。トランプ政権の意図は理解できる。中国との対決を見据え、戦争を終わらせたいのだろう。しかし、中途半端な妥協は、逆に中国を増長させる。台湾問題にも悪影響を及ぼし、日本の安全保障にも関わる。ロシアの北方領土占拠を事実上追認することにもなりかねない。
この状況での停戦は、危険だ。トランプ政権が目指すのは停戦ではなく、休戦ではないか。ウクライナ戦争を一時凍結し、中国との対決に備える。そして、世界秩序を再構築した上で、北朝鮮、ウクライナ、日本の領土問題等を解決する狙いなのではないか。
力による現状変更を認める停戦は、未来の災いの種となる。トランプ政権の意図は理解できる。中国との対決を見据え、戦争を終わらせたいのだろう。しかし、中途半端な妥協は、逆に中国を増長させる。台湾問題にも悪影響を及ぼし、日本の安全保障にも関わる。ロシアの北方領土占拠を事実上追認することにもなりかねない。
この状況での停戦は、危険だ。トランプ政権が目指すのは停戦ではなく、休戦ではないか。ウクライナ戦争を一時凍結し、中国との対決に備える。そして、世界秩序を再構築した上で、北朝鮮、ウクライナ、日本の領土問題等を解決する狙いなのではないか。
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今も朝鮮半島は38度線で分断されている 朝鮮戦争は休戦であり停戦ではない |
だが、歴史は示している。安易な妥協は、次の戦争を招く。しかし、朝鮮戦争は停戦ではなく、休戦状態にあるが、その休戦は今も続いている。ものごとには優先順位が必要である、優先順位の高い問題を片付ければ、優先順位の低い問題は自動的に片付くという経験則もある。
トランプ政権のやり方は、どうなるのか、そうしてその結果はどうなるのか、注目が集まる。
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