まとめ
- 世界秩序の崩壊と「弱肉強食」の台頭: トランプ再選後、アメリカが国際秩序維持を放棄し、「Gゼロの世界」が到来。世界は「弱肉強食の掟」が支配するジャングルとなり、アメリカが他国を「捕食」する構図が生まれた。
- アメリカの捕食行為: トランプ氏はグリーンランド、カナダ、パナマ運河などを狙い、反発されてもディールで利益を強要。ロシアはウクライナを、中国は技術で他国を取り込む動きを見せる。
- 中国と台湾情勢: 中国は経済低迷で台湾侵攻はすぐにはないが、再生可能エネルギー技術等を武器に影響力を拡大し、米中対立の受益者となる可能性がある。
- テック企業の台頭: 秩序崩壊でテック企業が国家を超える力を持ち、AI開発などで世界を形成する未来が予想される。
- 日本の選択: 日本はアメリカと中国の間で自主防衛力強化(核保有含む)か国際支援で味方を増やすかの選択を迫られ、危機感を持って対応する必要がある。
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イアン・ブレマー氏 |
トランプ大統領の再選以降、世界は強者が弱者を飲み込む「捕食の世界」に変貌し、日本人だけがその危機に気づいていない可能性があると、'69年生まれ。ユーラシア・グループ代表。毎年発表する「世界の10大リスク」も注目を集める国際政治学者のイアン・ブレマー氏は警告する。以下は週刊現代の大野和基氏が、ブレマー氏に取材した内容を要約したものである。
トランプの派手な言動は2年後の中間選挙を意識した一時的なものではなく、第二次トランプ政権の誕生によって世界秩序は完全に崩壊し、もう元には戻らないと彼は断言する。
米コンサルティング会社ユーラシア・グループの代表であるブレマー氏は、15年前から「国際秩序を維持する意志や能力を持つ国家が不在の世界」=「Gゼロの世界」の到来を予見し、警鐘を鳴らしてきた。
昨年11月のトランプ再選後、アメリカがNATOのあり方の見直しを表明し、国際支援を次々と打ち切ることで、世界の秩序維持を放棄した結果、ブレマー氏の予言したGゼロが現実化したと分析する。
これにより、世界は「弱肉強食の掟」が支配するジャングルのような状態となり、食物連鎖のピラミッドの頂点にトランプ大統領率いるアメリカが立ち、それ以外の国々はすべてアメリカに「喰われる」敗者となる危険な構図が生まれた。
トランプ氏は就任早々、「グリーンランドを買いたい」「カナダを51番目の州にする」「パナマ運河を奪う」などの発言を行い、これらは単なる挑発ではなく、捕食の試みとして実行されている。
カナダやデンマークから反発があっても、「奪うのをやめる代わりに何をくれる?」とディールを提案し、アメリカの欲しいものを強要する形で搾取を進めている。
ロシアはこれに気づき、ウクライナを飲み込もうとしており、現在進む停戦協議でウクライナが領土を放棄すれば、第二次大戦後アメリカが築いた「武力による領土拡大を禁じる国際ルール」が消滅し、力を持つ国々が弱い国を捕食する動きが加速するだろう。
一方、台湾をめぐる情勢は複雑で、中国は経済低迷によりすぐには動かないが、再生可能エネルギー分野での技術優位を活かし、「中国に従えば技術を提供する」と他国を取り込む戦略を進める可能性がある。
これにより、米中対立が激化する中、逆説的に中国が受益者となる未来も考えられる。
また、秩序崩壊後、AI開発を進めるテック企業が国家に代わって世界を変革する力を持ち、倫理やモラルを無視した活動が加速し、国家を超える存在となる可能性もある。
日本は、アメリカの傍若無人な意向と中国の脅威に挟まれ、自主防衛力を強化するか(核保有の選択肢も含む)、アメリカが手を引いた国際支援を引き受けて味方を増やすかの二択を迫られる。
ブレマーは、日本人がこの「トランプ後の世界」のジャングルの掟にすぐ認識を改め、どの国よりも強い危機感を持って生き残り策を真剣に考えるべきだと強調する。
この記事は、2つの元記事を統合して、要約したものです。以下に元記事のURLをあげます。詳細を知りたい方は、これらの記事をご覧になって下さい。
「トランプ誕生で、世界は捕食者と喰われる者に二分割される」アメリカの知性が語るヤバすぎる未来
「台湾有事はすぐには起こらない。しかし中国は……」アメリカの頭脳が読み解くヤバすぎるトランプ後の世界
【私の論評】Gゼロ時代を生き抜け!ルトワックが日本に突きつけた冷徹戦略と安倍路線の真価
- 「Gゼロの世界」の予見: アメリカが「世界の警察官」をやめるとの発言(ニクソン、オバマ、トランプなど)から、無秩序な「Gゼロ」の到来は予想されていた。歴史的反省と時代の流れが背景にある。
- ルトワックの現実主義: エドワード・ルトワックは、Gゼロを生き抜くため「戦略的抑制」「地経学」「同盟強化」「情報収集」「内政安定」を提唱。日本には技術力と現実的な戦略を提言。
- 具体例と助言: ベトナム戦争の失敗や米中貿易戦争を例に、日本に中国との対決回避、高い技術力の活用、クアッド強化、情報機関設立を助言。安倍政権のロシア外交を評価。
- 安倍路線の継承: Gゼロ時代を生き抜くには、技術力、外交、情報、内政を組み合わせ、核シェアリングを含む安倍路線を強力に推進すべき。
- 支持の理由: ルトワック流の見方は理想や理念を排し、現実と闘志で国を生き残らせると筆者が支持。冷徹な戦略が混沌の時代に必要だ。
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アメリカは随分前から世界の警察官を自認しなくなっていた 画像はAI生成画像 |
具体的なターニングポイントは、リチャード・ニクソンが1969年7月25日にぶち上げた「ニクソン・ドクトリン」だ。彼はグアムで演説し、ベトナム戦争のドロ沼に疲れ果てたアメリカが、もう直接首を突っ込むのはやめて、同盟国に自分で身を守れと突き放した。これが「警察官」役を縮める最初の火種だ。時は流れ、バラク・オバマは2010年代にその流れをはっきり口に出す。2016年、The Atlanticのインタビューで彼は言い切った。「アメリカはすべての争いに飛び込めないし、飛び込むべきでもない」。軍事でなんでも解決するなんて馬鹿げていると、慎重な顔を見せたのだ。
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オバマはシリアで「米国は世界の警察官であってはならないと」発言 |
さらにドナルド・トランプが2018年12月、イラクで吠えた。「俺たちは世界の警察官じゃない」。彼は「アメリカ第一主義」を、国際的な責任なんて知ったこっちゃないとばかりに突き進めた。だが、こんな話は冷戦時代からチラホラあった。過剰な介入にうんざりした声は、ずっとくすぶっていたのだ。要するに、「誰が最初か」なんて詮索より、時代のうねりが複数の指導者に同じことを言わせてきたと見るべきだ。
「Gゼロ」の足音は、冷戦後のアメリカ一極支配が崩れ、多極化の波が押し寄せる中で、みんなが薄々感じていた転換点だ。こんな無秩序な世の中を、アメリカの戦略家エドワード・ルトワックは冷徹に見つめる。軍事戦略や地経学の達人として、『戦略:戦争と平和の論理』で彼は喝破する。混沌を生き抜く知恵を、国家に叩き込もうとしたのだ。
ルトワックはまず、無駄な動きをせず資源を賢く使う「戦略的抑制」を掲げる。ベトナム戦争でアメリカが突っ込みすぎて大損した失敗を引き合いに出し、Gゼロでは大事なものだけ守れと迫る。日本には、中国と正面切ってぶつかるな、技術力と同盟で抑え込めと助言する。軍事より経済がものを言う「地経学」も彼の肝だ。2018年の米中貿易戦争で、アメリカがファーウェイを締め上げたのを褒めちぎり、日本には高い技術力を武器に世界と渡り合えと焚きつける。
同盟の絆も欠かせない。安倍政権がロシアと腹を割って話したのを「賢い」と褒め、インドやオーストラリアとのクアッドを固めろと後押しする。情報だって命綱だ。湾岸戦争の勝ちとベトナムの負けを比べ、日本にはもっと現場の耳目を磨けと迫る。そして、内政がぐらついたら終わりだ。コロナ禍でEUがバラバラになったのを笑いものにし、日本にはグローバル化の夢を捨て、自国第一で団結しろと喝を入れる。防衛力と経済の足腰を鍛えろと、尻を叩くのだ。
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エドワード・ルトワック |
ルトワックはGゼロをただの混乱とは見ない。戦略を立て直すチャンスだと肯定的に捉える。歴史の教訓と今の動きを絡め、彼は日本に道を示す。技術力、柔軟な外交、情報収集、内政の強さ。この四つを勢いで組み上げろと叫ぶ。もっともだ。
そして外交と安保では、安倍路線をガッチリ継承しろ。核シェアリングも視野に入れ、揺るぎない国を守る覚悟を決めろ。それが、この荒々しい時代を生き抜く唯一の道だ。このルトワック流の見方は、甘っちょろい理想や理念をぶっ飛ばし、現実を直視する力強さがある。私はこれを支持する。なぜなら、国を生き残らせるには、綺麗事より冷たい頭脳と熱い闘志が必要だからだ。
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