2025年5月31日土曜日

脱炭素の幻想をぶち壊せ! 北海道の再エネ反対と日本のエネルギードミナンス戦略

まとめ
  • 釧路市の「ノーモアメガソーラー宣言」:2025年6月1日、釧路市が環境破壊懸念からメガソーラー反対を宣言。オジロワシの繁殖と森林伐採が問題で、条例による実効性を目指す(産経新聞、2025年5月30日)。
  • 北海道の再エネ反対:小樽市(2023年、風力反対)、福島町(2022年、メガソーラー反対)などで、環境と景観への懸念から住民が反発。事業者との対話不足が火種(北海道新聞、2022年10月15日)。
  • 石狩LNG基地の活用:総容量840,000kLの基地がフル稼働。米国LNG(2027年アラスカプロジェクト、20百万トン)に対応可能で、苫小牧新ターミナルで輸入拡大(北海道ガス、2024年5月15日)。
  • 米国のエネルギードミナンス:トランプ政権は化石燃料と原子力を優先、脱炭素を学説とみなし、SMR(NuScale、2029年)と核融合(CFS、2030年代)を未来の柱に(NYTimes、2025年2月1日)。
  • 日本のエネルギードミナンス戦略:再エネを抑え、LNG輸入を20%増(13百万トン)、石狩基地拡張、苫小牧ターミナル着工、2030年までに北海道でSMR実証(300MW)を進めるべき(経済産業省、2024年2月25日)。

北海道釧路市は6月1日、環境破壊への懸念から「ノーモアメガソーラー宣言」を発出すると発表した。福島市に続き全国で2例目となるこの宣言は法的拘束力を持たないが、釧路市は野生生物保護のための専門家の意見を求める条例策定などを通じて実効性を確保する方針。

鶴間秀典市長は「設置が自然環境と調和した適切なものになることを期待する」と述べた。市内の釧路湿原周辺では、国立公園かつラムサール条約登録湿地に太陽光パネルが多数設置されており、事業者によるメガソーラー建設計画も進行中。これに対し、国の天然記念物であるオジロワシの繁殖への影響を危惧した市民団体が先月、計画中止を求める要望書を提出している。

北海道で再生可能エネルギー(再エネ)への反対が燃え上がり、米国では2025年1月のトランプ政権発足以降、「エネルギードミナンス」を掲げ、化石燃料と原子力を押し進める。脱炭素は単なる学説だ。小型モジュール炉(SMR)や核融合の実用化が視野に入れば、脱炭素は無意味になる。日本も米国を見習い、再エネを抑え、LNG輸入を拡大し、特に北海道は、石狩LNG基地をフル活用、北海道にSMR開発拠点を築くべきだ。エネルギーの未来は、環境幻想ではなく、現実の力で決まる。
北海道の再エネ反対のうねり


小樽市は2023年、双日の「北海道小樽余市風力発電所」計画(26基の風車、国有林内)に反対。迫俊哉市長が6月13日、北海道知事へ意見書を突きつけた。理由は、森林伐採がキツネやエゾシカの生息地を壊し、土砂災害を招き、観光の景観を傷つけ、遊歩道を奪うからだ。市民は賛否両論だが、環境と景観を守る声が強い。塩谷地区の太陽光計画では住民反発で市有地売却が問題化した(北海道新聞、2020年10月30日)。

小樽市は洋上風力を推し、石狩湾新港沖に期待。2020年、住友商事と地中熱活用の覚書を結び、地産地消の再エネを探る。「小樽市太陽光発電施設の設置に関するガイドライン」(2020年)で環境配慮を求めた。

釧路市は先に示したように、2025年6月1日、「ノーモアメガソーラー宣言」を発し、釧路湿原のメガソーラーに反対。オジロワシの繁殖と森林伐採が懸念だ(環境省調査、2024年2月)。全国2例目で、法的拘束力はないが、条例で実効性を目指す。産経新聞(2025年5月30日)は、市民の支持と他の自治体への波及期待を報じた。

石狩市、室蘭市、網走市、福島町でも再エネに反対の声が上がり、環境と景観へのこだわりが対話不足を招く。福島町では2022年、メガソーラーに住民が署名活動で反対(北海道新聞、2022年10月15日)。
石狩LNG基地と米国のエネルギードミナンス
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石狩LNG基地(総容量840,000kL、4基)はフル稼働している。北海道ガス(タンク1号180,000kL、2号200,000kL)、北海道電力(タンク3号・4号各230,000kL)が運営。2024年5月、Santos社が2027年から年間40万トンのLNG供給を約束(北海道ガス発表、2024年5月15日)。短中期の輸入余地は、稼働率39%(IGU報告、2023年)と在庫余裕で確保できる。

大規模輸入には苫小牧新ターミナル(2024~2025年検討中)が必要だ。国内LNG需要は2014年の87百万トンから2023年は64.89百万トンに減少(IEEFA、2024年3月11日)。核発電再稼働や再エネ拡大が需要を抑えるが、冬季需要や緊急バックアップで柔軟性が要る。2018年胆振東部地震で石狩基地が電力復旧を支えた(北海道電力報告、2018年9月)。

トランプ政権は「エネルギードミナンス」で化石燃料と原子力を優先。2025年1月20日、「国家エネルギー非常事態」を宣言(大統領令、2025年1月20日)、LNG輸出を加速。インフレ抑制法(IRA)の補助金停止、風力凍結、EV支援縮小、パリ協定離脱を進め、風力は「ゴミ」と切り捨てる(NYTimes、2025年2月1日)。17州が反発。太陽光は2025年45,000MW設置予測(SEIA、2024年)で成長は鈍化するが止まらない。

SMR(NuScale、2029年商用化、DOE)と核融合(CFS、2030年代目標)の期待で、脱炭素は学説にすぎず、化石燃料はつなぎだ。中国がクリーンエネルギーをリード(IRENA、2024年)、米国は投資流出(80億ドル、Bloomberg、2025年1月15日)を懸念。
日本がエネルギードミナンスで未来を握る

三菱重工の超小型原子炉(SMR)、直径1m25年間燃料交換なしという トレーラーで設置場所まで移動可能


日本はエネルギー自給率13.3%(経済産業省、2023年)と低く、LNGに依存せざるを得ない。米国を見習い、エネルギードミナンスで再エネを叩き斬り、LNG輸入を拡大、石狩LNG基地をフル回転させ、さらに北海道にSMR開発の牙城を築くべきだ。

石狩基地は米国LNG(2027年アラスカプロジェクト、20百万トン、経済産業省、2024年2月25日)に十分対応可能だ。2025年2月、石破首相とトランプが「記録的な量」の輸入で握手(共同通信、2025年2月15日)。

苫小牧新ターミナルは新たな雇用を生み出す(北海道ガス、2024年5月15日)。SMRは北海道の広大な土地と冷却水源に適合するものだ。三菱重工が2020年代後半の実証を狙う(NEDO、2024年)。SMRは、まだ実験段階だが、それに似たものは、すでに原子力潜水艦や、原子力空母などで用いられている。これを民間でも使えるようにするというのが、SMRと言えるだろう。これらは、すでに何十年も使われており、その点で再エネなどとは根本的に違う。

英国は2030年までにSMR20基を稼働させる予定だ(BEIS、2024年)。JGCとIHIのNuScale投資(JAPAN Forward、2021年10月)は日本の本気度を物語る。核融合は京都フュージョニアリングが2030年代を照準(日本経済新聞、2024年3月10日)。

再エネは不安定で金食い虫だ。洋上風力は20円/kWh超(経済産業省、2023年1月27日)、LNG(10~12円/kWh)に遠く及ばない。釧路のメガソーラーはオジロワシを脅かし(環境省、2024年2月)、福島町の計画は住民の反発で足踏み(北海道新聞、2022年10月15日)。

脱炭素は気候モデルの一学説にすぎない。SMRと核融合がいずれ、エネルギー問題を根こそぎ解決する。日本はLNG輸入を20%増(13百万トン追加)、石狩基地の桟橋を拡張(年間150回受け入れ)、苫小牧ターミナルを早急に着工、さらに2030年までにSMR実証(300MW)実験を終えるべきだ。エネルギードミナンスは日本のエネルギー安全保障を鉄壁にし、経済を活性化させ、グローバルな競争力を高める。気候変動の幻想を蹴散らし、LNGとSMRで北海道と日本の未来を切り開くべきた。

追記:本日より、従来の元記事やその記事の要約をあげ、それについて論評するというスタイルはやめることにしました。よろしくお願いします。

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2025年5月30日金曜日

小泉大臣の“備蓄米放出”に、街の米店から“怒りの声”—【私の論評】コメ危機と財務省の陰謀:日本流通の闇と改革の叫び

小泉大臣の“備蓄米放出”に、街の米店から“怒りの声”

まとめ
  • 備蓄米の契約対象変更:政府は2022年産「古古米」20万トンを大手小売業者に割り当て、2021年産「古古古米」10万トンを中小スーパーや米店に変更。大手に新しい米を優先したことで、中小側から平等性への不満が噴出。
  • 備蓄米の販売価格:2023年産(5kg約3500円)、2022年産(約2000円)、2021年産(約1800円)が販売予定。ミスターマックスは2022年産を1000円台で販売計画。消費者からは古米の品質に懸念。
  • 古米の評価:2023年産古米100%は試食会で低評価、ブレンドが必要。中小は古い米の販売で評判を懸念、消費者の購入意欲は不透明。

 政府が備蓄米の随意契約対象を中小スーパーや町の米店に拡大する方針を発表したが、2021年産の「古古古米」を割り当てられた中小スーパーや米店から不満の声が上がっている。

 大手小売業者は2022年産の「古古米」を優先的に取得し、約70社で20万トンの割り当てが終了。残りの10万トン(2021年産)を中小向けに変更したが、古い米の品質や、大手に新しい米を優先したことへの平等性の欠如に疑問が呈されている。

 店頭では、競争入札の2023年産(5kg約3500円)、随意契約の2022年産(約2000円)、および2021年産(約1800円)の備蓄米が販売される予定。消費者からは古米の味や品質に懸念があり、広島の試食会では2023年産の古米100%が低評価だった。一方、大手小売業者のミスターマックスは2022年産を5kg1000円台で6月初旬から販売する計画を進めている。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】コメ危機と財務省の陰謀:日本流通の闇と改革の叫び

まとめ
  • 日本の流通システムの変遷とコメの例外:戦後から高度経済成長期の「暗黒大陸」と呼ばれた不透明で非効率な流通は、モノ不足から豊富な時代への移行、物流技術の進歩、情報公開、直接取引により効率化されたが、コメの流通は食糧管理政策や減反政策の影響で旧態依然。
  • 備蓄米の不平等な配分と不満:2022年産「古古米」20万トンが大手小売業者に優先配分、2021年産「古古古米」10万トンが中小スーパーや米店に割り当てられ、不平等との不満が噴出。消費者も古米の品質に懸念、2023年産古米は試食会で低評価。
  • 米価下落と財務省の策略:米価下落は小泉農水大臣の人気を高めるが、財務省の策略で農家と都市部の分断を招く。2014年の消費税8%時の補助金削減の前例(NHK、2014年4月1日)を想起。参院選前に米価安定で財務省の目論見が成功する可能性。
  • 連立と増税の画策:財務省は自民・立民の連立を企み、参院選後の混乱期に小泉を首相に据え消費税増税を狙う。親財務省議員は「減税に財源が必要」と強調し、給付金では財源を問題視しない二枚舌が特徴で、参院選で落とすべき。
  • コメ流通改革の必要性:政府の介入が需給バランスを崩し、消費者選択肢を狭め、価格を高止まりさせる。減反政策の見直しと市場原理に基づく価格形成が急務。国民は親財務省議員を退け、改革を促し、財務省の影響力を断つべき。

暗黒大陸のイメージ AI生成画像

日本の流通システムは、かつて「暗黒大陸」と呼ばれた時代があった。戦後から高度経済成長期にかけて、物資が不足する時代、複雑な中間業者が絡む不透明で非効率な流通構造が価格を吊り上げ、価格決定の過程はまるで闇に閉ざされていた。高度経済成長期以降、モノが豊富な時代への転換とともに、物流技術の進歩、情報公開の拡大、直接取引の増加により、流通は効率化され、合理的なシステムへと生まれ変わった。しかし、コメの流通だけは別だ。戦後の食糧管理政策や減反政策の呪縛から逃れられず、旧態依然のまま停滞している。

2024年産米の作付面積は155万ヘクタール、前年比1.4%増で過去10年最大を記録した。だが、減反政策が効率的な生産を阻害し、市場原理を歪め、消費者負担を増やし、国際競争力を削いでいる。備蓄米の随意契約では、2022年産「古古米」20万トンが大手小売業者に優先的に割り当てられ、2021年産「古古古米」10万トンが中小スーパーや町の米店に押し付けられた。これに中小側は「不平等だ」と怒りを爆発させる。

消費者も古米の品質に不安を抱き、広島の試食会では2023年産古米100%が低評価で、ブレンドなしでは使い物にならないとされた。店頭では2023年産(5キロ約3500円)、2022年産(約2000円)、2021年産(約1800円)が並び、大手のミスターマックスは2022年産を1000円台で販売する計画だ。


この米価下落は、小泉進次郎農水大臣の人気を高める一方、財務省の狡猾な策略と連動している。Xでは農家が「米価下落で生活が苦しい」と叫び、都市部は「安い米はありがたい」と歓迎する。この分断こそ、財務省の狙いだ。2014年の消費税8%引き上げ時の補助金削減が農家と地方を痛めつけた記憶(NHK、2014年4月1日)が蘇る。

もし参院選前に流通業者や農家の不満を抑え、米価を一時的に安定させれば、財務省の目論見は成功する。その先、財務省は自民・立民の連立を画策し、参院選後の動乱期に連立を仕掛ける可能性がある。立民の政権交代志向や自民保守派の抵抗で短期的には困難だが、混乱期には実現の芽がある。連立の成否にかかわらず、財務省は小泉を首相に押し上げ、消費税増税を確実に実行するだろう。

しかし、この試みが成功するとは限らない、何しろ財務省という役所が絡んでいる。財務省は、財政政策では失敗続きだが、政治的駆け引きには異常に長けている。しかし流通業の改革などできない。無論、農水省もだ。だからこそ、米の流通は旧態依然としたままなのだ。ただし、選挙の前に一時的にうまく行ったような見せかけはできるかもしれない。

新川浩嗣(しんかわ ひろつぐ)財務次官

ここで有権者は目を覚ますべきだ。特に親財務省の議員は参院選で落とさなければならない。彼らの見分け方は簡単だ。「減税には財源が必要、財源のない施策は無責任」と語る議員は、すべて財務省の手先である。給付金支給では財源を問題視せず、減税となると「財源」を連呼する二枚舌がその証だ。

政府の介入は需給バランスを崩し、消費者の選択肢を奪い、価格を高止まりさせる。こんな状況は現代経済にそぐわない。減反政策の見直しと市場原理に基づく価格形成の導入は急務だ。消費者の利益を守り、生産者の負担を減らし、国際競争力を高めるため、コメの流通改革は待ったなしである。

モノが不足する時代から豊富な時代へと進化した日本の流通システムが、コメだけ旧態依然のまま取り残されている。この現実を打ち破るには、国民が時代遅れの政策に声を上げ、親財務省の議員を参院選で退け、はっきりと意思表示をして、改革を突き進めるしかない。財務省の連立や増税の企みを断ち切るため、国民の覚醒と行動が日本の未来を決める。今、立ち上がれ。

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2025年5月29日木曜日

トランプ氏、プーチン氏に2週間猶予 停戦意欲を判断 議会では500%関税の制裁案—【私の論評】トランプの「マッドマン戦略」がウクライナ危機を解決? 2025年の交渉術と百田尚樹氏への影響

トランプ氏、プーチン氏に2週間猶予 停戦意欲を判断 議会では500%関税の制裁案

まとめ
  • トランプの停戦協議判断: トランプ米大統領は、プーチン大統領がウクライナとの停戦協議に真剣に取り組む意思を約2週間で判断し、意欲がない場合は仲介路線を見直し「異なる対応」を取る可能性を示唆。
  • 対露制裁への慎重姿勢: 露軍の攻撃継続に失望を表明しつつ、追加制裁については「停戦協議を台無しにしたくない」と慎重な姿勢を示し、即時の制裁強化を避ける考えを明らかに。
  • 米議会の制裁法案: 上院で超党派の議員がロシア関連の厳しい制裁法案を提出。ロシアから原油や天然ガスを購入する国に高関税を課す内容で、約8割の支持を得ており、トランプ政権に政策転換を求める圧力が高まっている。

トランプ米大統領は28日、プーチン大統領がウクライナとの停戦協議に真剣に取り組む意思があるかを約2週間で判断すると表明。停戦意欲がない場合、現在の仲介路線を見直し「異なる対応」を取る可能性を示唆した。

露軍の攻撃継続に「非常に失望」と述べ、プーチン氏の対応を注視する姿勢を示した。対露追加制裁については「協議を台無しにしたくない」と慎重な立場を示した。

一方、米議会上院ではロシア関連の制裁法案が提出され、ロシアからの原油や天然ガス購入国に高関税を課す内容で、約8割が支持。トランプ政権に政策転換を求める議会の動きが強まっている。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】トランプの「マッドマン戦略」、2025年の交渉術と百田尚樹氏への影響

まとめ
  • マッドマン戦略の核心: トランプの親ロシア発言やウクライナとの対立は、プーチンを和平交渉に引き込むための計算された演出であり、実際にはウクライナ支援を維持する戦略。
  • 2025年5月の交渉進展: 「復興投資基金」合意でウクライナの主権と資源管理を確保し、防空システムの無償支援を確立し、親ロシア発言が交渉のための仮面であることを証明。
  • 選挙戦での戦略的行動: 2024年選挙戦で討論会を欠席し、バイデンやハリスとの直接対決を選択し、メディアの注目を集め、対立候補の弱点を露呈。
  • メディア戦略の巧妙さ: 2018年の米朝首脳会談や2024年のX投稿を通じて、国際世論を操作し、交渉力を高める。
  • 百田尚樹の影響: 百田氏は日本の「腹芸」とも通底するトランプの戦略に共鳴し、自身のメディア活用や過激な発言で支持者を動員。放送作家・小説家としての経歴が戦略の背景にある。
トランプの「マッドマン戦略」とウクライナ・ロシア問題

トランプ米大統領の親ロシア発言やウクライナとの対立は、予測不能な振る舞いで相手を揺さぶる「マッドマン戦略」の一環であり、実際にはウクライナ支援を一貫して維持する計算された交渉戦術だ。この戦略は、2024年の大統領選挙戦から2025年5月までの動向を通じて、プーチンを和平交渉に引き込むための巧妙な演出として浮かび上がる。

3月の首脳会談では、トランプとゼレンスキーは激しい言い合いを演出?

2025年5月28日、トランプはプーチンがウクライナとの停戦協議に真剣に取り組む意思を約2週間で判断し、意欲がない場合は仲介路線を見直し「異なる対応」を取ると表明した。これはマッドマン戦略の一環としてロシアに圧力をかけるポーズであり、ゼレンスキーとの公開の衝突や支援の一時凍結は、ロシアに交渉を急がせ、共和党内のウクライナ懐疑派(マイク・ジョンソンら)を抑える狙いがあった。

2025年5月の「復興投資基金」合意では、ウクライナの主権と国営企業の民営化を回避しつつ、資源管理を対等に運営する枠組みを構築し、防空システムなどの実質無償支援を確立。これにより、親ロシア発言が交渉のための仮面だったことを証明した。トランプはウクライナへの10%関税やロシアの関税除外といった交渉術を駆使し、日本の「腹芸」に似た対立の仮面で協調を目指す姿勢を示した。この戦略は、ピュー調査で43%が懸念した親ロシア姿勢や同盟国の反発を乗り越え、ウクライナ支援とロシア牽制を両立させる現実主義を体現している。

選挙戦における戦略的行動

このマッドマン戦略は、2024年の大統領選挙戦でも発揮された。トランプは共和党内の候補者討論会を意図的に欠席し、バイデン大統領(6月、CNN)やハリス副大統領(9月10日、ABC)との直接対決を選択した。討論会を避けることで謎めいた存在感を保ち、他の候補者が争う姿を稚拙に見せ、自身のメディア出演や選挙集会を際立たせる「4Dチェス」のような戦術を展開した。

テレビドラマ「スタートレック」で4Dチェスをするスポック

9月10日の討論会は5750万人が視聴し、トランプは高い注目度を利用してメッセージを効果的に発信。ハリス氏が追加討論を求めたのに対し、トランプは3回目の討論を拒否し、対立候補の反撃機会を封じ、ハリスの政治経験の少なさや民主党内の批判を浮き彫りにする戦略を取った。この選挙戦での戦略的欠席と対決回避は、ウクライナ・ロシア問題でのマッドマン戦略と通底し、対立の仮面で優位性を維持するトランプの現実主義を示している。

トランプの戦略が成功を収める背景には、マスコミや国際世論を熟知した情報発信の巧妙さがある。2018年のシンガポールでの米朝首脳会談では、事前の過激な「ロケットマン」発言で金正恩氏を揺さぶり、会談では友好的な姿勢に転換し、国際世論の注目を集めながら外交成果を演出した(CNN、2018年6月12日)。2024年選挙戦では、Xプラットフォームでの投稿を通じて「ウクライナ問題の即時解決」を訴え、1億人以上のフォロワーに直接メッセージを届け、伝統的メディアを介さず世論を形成した(X分析、2024年10月)。

これらのエピソードは、トランプがメディアの力とタイミングを計算し、国内外の観衆を意識した戦略を展開する能力を示している。ウクライナ・ロシア問題でも、挑発的な発言でプーチンの反応を引き出しつつ、裏では支援の枠組みを固める二面作戦は、国際世論の批判を逆手に取り、自身の交渉力を高めるトランプのメディア戦略の集大成である。

メディア戦略と日本国内の影響

日本国内でも、トランプの戦略に注目する声は多い。特に、日本保守党代表で作家の百田尚樹氏は、トランプの予測不能な言動やメディア戦略に共鳴を示している。百田氏は1956年大阪市生まれで、同志社大学中退後、放送作家として「探偵!ナイトスクープ」などの番組構成を手がけ、2006年に『永遠の0』で小説家デビューし、2013年に『海賊とよばれた男』で第10回本屋大賞を受賞した(新潮社プロフィール、2025年5月29日)。

この経歴は、メディアと世論を操作する術を磨き上げた背景を示しており、トランプの戦略に通じるものがある。百田氏は2020年の米大統領選でトランプを強く支持し、「不正選挙」を主張するなど、トランプの戦術に共感を示した(ハフポスト、2020年11月3日)。2024年10月の衆院選で日本保守党が政党要件を満たした際、百田氏は自身のXアカウントで「トランプのような快挙」と称賛し、トランプのメディア活用や支持者動員の手法に影響を受けた姿勢をうかがわせた(日本経済新聞、2024年10月28日)。

また、百田氏の「虎ノ門ニュース」出演では、トランプの「計算された陰謀論否定」を評価し、自身の過激な発言スタイルがトランプのマッドマン戦略と通じるとの見解を示した(ハフポスト、2020年11月3日)。2025年5月には、X上で日本保守党支持者が「百田氏はトランプよろしくぶっ飛んだ人に国政を委ねるべき」と投稿し、トランプの戦略を日本の文脈で称賛する動きが見られる(X投稿、2025年5月27日)。これらは、百田氏がトランプのメディアを駆使した大衆動員や対立を演出する戦略に学び、自身の政治活動に取り入れていることを示唆する。

加えて、百田氏は意図的に敵を作り出すような発言を繰り返すことで、自身の立場を強化し、支持者を動員する戦略を取っている。子宮頸がんワクチンに関する発言など、誤解を招きかねない過激な言動で論争を巻き起こし、メディアの注目を集める手法は、トランプのマッドマン戦略と共通する。

百田氏は2024年11月に「30歳を超えたら子宮摘出を」と受け取られるような発言をし、大きな論争を起こした(日本経済新聞、2024年11月9日)。無論、これは百田氏の発言を一部切り取ったものであり、実際にはそのような発言はしていない。しかし、このような発言は、意図的に敵を作り出し、自身の主張を際立たせるための計算された行動であり、トランプのメディア戦略と通底する。百田のこうした手法は、トランプの影響を色濃く反映していると言える。

さらに、2025年5月25日、日本保守党の島田洋一衆院議員はXで「私はさすがに、百田氏を叩くのは控えました」と投稿し、百田氏のトランプ風の言動に対する理解や共感を示唆した。


これは、百田氏がトランプのマッドマン戦略を百田氏風に模倣し、国内政治で同様の手法を採用していることへの支持や、トランプの戦略が日本国内でも一定の評価を得ていることを裏付けるエピソードである。ただのお笑い、ボケの演出にも見えるが、実はそうではない。島田氏の投稿は、百田氏のトランプ風の言動が党内で議論の対象となっているものの、戦略的価値を認める声もあることを示しており、トランプの影響力が日本保守党の内部議論にも及んでいることを浮き彫りにする。

トランプの戦略は、単なる無秩序な行動ではなく、緻密に計算されたものだ。宮崎正弘氏は、トランプ大統領の成果は、11勝1敗3引き分けであるとしている。

勝利は不法移民強制送還、国境警備強化、ジェンダーは男と女、DOGEの効率化、DEI規制撤廃、SDG緩和、NATOの防衛分担増加、USAID縮小、VOA縮小、中東歴訪により空前の対米投資。敗北は高関税、引き分けは暗号通貨法案の上院での一時的頓挫、クライナ早期停戦、ならず、そしてドル安誘導が現時点では首尾良くいっていないことである。

メディアを駆使し、国内外の世論を操作する術は、百田尚樹氏ら日本国内の保守派にも影響を与えている。トランプの「マッドマン戦略」は、単にアメリカの政治舞台だけでなく、国際的にもその影響力を拡大し続けている。

ただし、このブログでも以前指摘したが、トランプ氏のようなやり方は、一昔前の日本のいわゆる「腹芸」に酷似しているもので、一昔前の日本人なら、トランプ氏のやり方を理解できたと思われるが、現状はそうではない。

以前にもこのブログで語ったことがあるが、日本では腹芸が色褪せ、最初から最後までフランクさが「上等」と錯覚される。SNSやグローバル化が、和の知恵を薄れさせたのかもしれない。情けないが、日本人は腹芸の価値を思い出す時だ。厳しい国際社会では、各国のリーダーたちが現実的な「腹芸」を今もくりひろげている。

米国人はフランクだとか、フランクさが米国人のモットーなどというのは、幻想に過ぎない。ただ確かにそのような面はある、リベラル派はそうした面を強調する、しかしそれは演技に過ぎない。あるいは、フランクにして良い時に、そう振る舞っているに過ぎない。

これは、社会の常識だ。最初から最後までフランクさが「上等」と錯覚するような人間は、そもそも政治に向いていないし、社会でも通用しない。そのような人間が、リーダーである組織が、長く栄えることはない。無論、腹芸だけで、実力がない組織も栄えることはない。ただ、「腹芸」をしない組織、できない組織に未来はない。それほど現実社会は甘くない。百田尚樹氏は、トランプ氏に触発され、この日本の伝統文化でもある「腹芸」を復活しようとしているのではないだろうか。

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2025年5月28日水曜日

備蓄米に想定超える申し込み殺到、新規受け付け「いったん休止」発表…「先着順」も見直しへ—【私の論評】米価下落の裏に財務省の策略!小泉進次郎が操られる真実を見抜け

備蓄米に想定超える申し込み殺到、新規受け付け「いったん休止」発表…「先着順」も見直しへ

まとめ
  • 備蓄米放出と申請殺到: 農水省の備蓄米(30万トン)放出に70社が申請、2022年産米が上限20万トン超で27日受付停止。2021年産米10万トンは中小向けに30日から受付再開。
  • 販売価格と対応: 2021年産米は5キロ1800円(税抜き)目標に値下げ、大手・中小に対応し、受付方法見直しも検討。
  • 申請企業と課題: イオン、イトーヨーカ堂、楽天などが申請、29日から販売開始。精米処理の遅れが課題。


農林水産省は27日、政府備蓄米の随意契約による放出に約70社から申請が殺到し、2022年産米が上限20万トンを超える見込みとなったため、新規受付を一時停止した。残りの2021年産米約10万トンは、中小スーパーや米穀店を対象に30日から受付を再開する予定。

小泉農相は「2日もたたずに多くの協力が得られた」と述べ、大手・中小双方に対応する方針を強調。2021年産米の販売価格は5キロ1800円程度(税抜き)を目標とし、従来の2000円程度から引き下げ、先着順の受付方法も見直す。イオン、イトーヨーカ堂、ドン・キホーテ、楽天、ファミリーマートなどが申請し、早ければ29日から店頭販売開始。アイリスグループは6月2日から販売予定。備蓄米の精米処理に遅れが生じる懸念も出ている。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】米価下落の裏に財務省の策略!小泉進次郎が操られる真実を見抜け

まとめ
  • 米価下落の裏に策略: 農水省の備蓄米30万トン放出は、選挙前の人気取りではなく、財務省の財政健全化と増税への地ならし。
  • 随意契約の怪しさ: そもそも随意契約は、民間では当たり前でわざわざ「随意」などとは呼ばない。この随意契約で財務省は大手企業に利益を誘導し、2021年産米を5キロ1800円の安値で市場に流し、農家の収入を犠牲に。
  • 小泉進次郎の役割: 小泉農相は財務省に操られ、彼の人気を利用して米価下落を演出し、減税などの国民寄りの政策を封じる。ポスト石破では、小泉を担ぎ出し、総裁に据え、増税路線を確実にする。
  • 過去の事例: 2018年の備蓄米放出で米価が下落、2014年の消費税8%引き上げ時の補助金削減で農家と地方経済が打撃。
  • 国民への警告: 米価下落は農家の困窮、地方衰退、食料自給率低下を招く。国民は財務省の政治的罠を見抜くべき。
米価が下がる。消費者には朗報だ。だが、目を凝らせ。これは選挙前の人気取りではない。もっと深い、もっと狡猾な策略が隠れている。農林水産省が27日に発表した政府備蓄米の放出は、国民を欺く仕掛けだ。背後には、財務省の冷酷な計算がある。

随意契約の裏に財務省の影


「随意契約」という言葉に引っかかる。競争入札を避け、特定の業者と直接契約する手法だ。役所では、入札が一般的だ、民間では「随意契約」が普通の契約だ、わざわざ小泉が「随意契約」と語るところが、小泉が財務省に操作されていることを窺わせる。農水省は備蓄米30万トン(2022年産20万トン、2021年産10万トン)を放出。27日時点で70社が申請し、2022年産は上限を超えた。

なぜ急にこんな動きが?過去、2018年の備蓄米放出は米価を下げ、農家の収入を直撃した(「米価下落、農家に打撃 備蓄米放出が影響」, 日本農業新聞, 2018年10月15日)。今回も、2021年産米を5キロ1800円(税抜き)の安値で市場に流し、農家の利益を削る。財務省は財政健全化を優先し、補助金削減や増税への道を開くつもりだ。

小泉進次郎を操る政治の舞台

財務省に操られる小泉進次郎 AI生成画像

小泉進次郎農水大臣の起用は偶然ではない。彼の人気を政治の道具に使い、農家支援や減税を封じるのが狙いだ。父親の小泉純一郎元首相は郵政民営化で消費税増税を否定し、財務省と対立した(「郵政法案否決で解散 小泉首相の賭け」, 朝日新聞, 2005年8月9日)。息子の進次郎は同じ過ちを繰り返さぬよう、米価下落の舞台に立たされているのだ。

小泉農相は「2日もたたずに協力が得られた」と胸を張るがこれは彼の力ではない。イオン、イトーヨーカ堂、楽天が申請に殺到した背景には、財務省の圧力がある。2019年の消費税増税時、大手小売は軽減税率で財務省と連携した(「消費税10%、軽減税率で小売業界対応進む」, 日本経済新聞, 2019年9月30日)。今も随意契約で大手企業に利益を誘導し、米価を下げて国民の不満を抑える一方、農家は切り捨てられる。

結論:国民よ、真実を見抜け

新川浩嗣(しんかわ ひろつぐ)財務次官

米価が安くなれば、小泉人気は高まる。だが、これは財務省の仕掛けた罠だ。米価下落で石破政権が揺らげば、総裁選で小泉を担ぎ出し、増税へと導く。2014年の消費税8%引き上げ時、補助金削減が農家を苦しめ、地方を傷つけた(「消費税8%スタート 経済への影響懸念」, NHK, 2014年4月1日)。今、Xでは農家が「米価下落で生活が苦しい」と訴え、都市部は「安い米はありがたい」と言う。

この分断こそ、財務省の狙いだ。農家の困窮、地方の衰退、食料自給率の低下――これが安さの代償だ。この米価下落は単なる経済政策ではない。財務省の政治的舞台だ。小泉進次郎はその駒に過ぎない。国民がこの罠を見抜けなければ、日本は増税と地方切り捨ての道を突き進む。メディアの薄っぺらい報道に惑わされるな。真実を見極め、立ち上がれ!

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2025年5月27日火曜日

年金引き金「大連立」臆測 自民一部に期待、立民火消—【私の論評】自民・立憲大連立:日本を破滅に導く亡魂

年金引き金「大連立」臆測 自民一部に期待、立民火消し

まとめ
  • 年金改革協議の進展: 自民、公明、立憲民主党が基礎年金の底上げ策で合意間近。2029年の年金財政検証を基に改革を進める方向で、協力関係の足掛かりができた。
  • 大連立の臆測: 参院選後に自民・立民の大連立が政界で話題に。石破首相と野田氏の政策相性や財政問題への共通認識が背景だが、両党内の反対意見が強い。
  • 実現の困難さ: 企業献金や夫婦別姓などの政策の隔たり、過去の連立失敗例、立民の「あり得ない」との否定、自民内の保守派反発から、大連立は困難。保守系無所属の取り込みが現実的との声も。

 自民党、公明党、立憲民主党による基礎年金の底上げ策に関する修正協議が26日に合意の見通しとなり、参院選後に「自民・立民大連立」の可能性が政界で取り沙汰されている。背景には、年金制度改革で石破茂首相と野田佳彦立憲代表が協力可能との見方や、両者が財政問題など政策面で近い立場にあるとされる点がある。協議では自民が立民の底上げ策をほぼ受け入れ、2029年の年金財政検証を基に改革の必要性を判断する方向で一致し、今後の協力の足掛かりができたとの見解も。

 しかし、企業・団体献金や選択的夫婦別姓制度を巡る両党の政策の隔たりは大きく、過去の2007年の「ねじれ国会」での大連立構想失敗の例もある。立民の長妻昭代表代行は「大連立はあり得ない」と否定し、党内では「党分裂の引き金になる」「自民政権を倒すべき」との声が支配的。自民党内でも高市早苗氏ら保守派の反発が予想され、政府関係者は「大連立しても過半数に届かない可能性がある」と指摘。ある自民幹部は、参院選の結果次第で保守系無所属の取り込みが現実的との見方を示す。

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【私の論評】自民・立憲大連立:日本を破滅に導く亡魂

まとめ
  • 連立の可能性: 2025年5月、年金改革の成功(読売新聞、2025年5月27日付)、2024年衆院選での自民・公明の過半数割れ(産経新聞、2024年10月28日付)、石破・野田の相性が自民・立憲大連立の現実味を高める。
  • 政局の不安定さ: 自民・公明の215議席(自民191、公明24)に対し、立民は148議席で単独政権は困難。2024年12月の補正予算成立も国民民主党との不安定な協力に依存(NHK、2024年12月12日付)。
  • 障壁: 企業献金や夫婦別姓での政策の溝、2007年の連立失敗(読売新聞、2007年11月5日付)、立民の長妻氏の「あり得ない」発言(朝日新聞、2025年5月26日付)、自民保守派の反発が連立を阻む。
  • 破滅的危機: 連立は経済(デフレ逆戻り、2010年菅政権の前例)、外交・安保(尖閣問題の迷走、朝日新聞、2011年9月20日付)、エネルギー(電力危機、毎日新聞、2012年7月2日付)、社会問題(分断深化)で最悪の事態を招く。
  • 参院選の影響: 2025年夏の参院選後の政局不安定化と秋の補正予算論議(日本経済新聞、2025年5月13日付)が連立を現実的にするが、破滅への道を加速させる危険がある。
日本の政界に暗雲が迫る。自民党と立憲民主党の大連立――。荒唐無稽に思えたこの構想が、2025年5月、危険な現実味を帯びる。年金改革の成功、少数与党の危機、両党リーダーの相性。連立への道筋は見える。だが、深い溝と過去の亡魂が立ちはだかる。何より、連立が実現すれば、日本は民主党政権の悪夢を超える破滅に突き進む。経済はデフレの泥沼に逆戻りし、外交・安保は迷走、エネルギー政策は破綻、社会は分断される。最悪の事態が待つ。一気にその危険に迫る。

連立の火種:年金改革と政局の不安


2025年5月26日、自民党、公明党、立憲民主党が基礎年金の底上げ策で火花を散らす。読売新聞(2025年5月27日付)によると、自民党は立民の要求をほぼ丸のみし、2029年の財政検証を基に改革を進めることで合意間近だ。この歩み寄りは、両党が手を組める可能性を示す。朝日新聞(2025年4月24日付)は、4月23日の党首討論で石破茂首相と野田佳彦代表が互いに敬意を示したと報じ、信頼の芽を育てた。

背景には、2024年10月27日の衆院選の衝撃がある。産経新聞(2024年10月28日付)によると、自民党は191議席、公明党は24議席の計215議席にとどまり、過半数(233議席)を失った。立民は148議席に躍進したが、単独政権は夢のまた夢。石破政権は法案成立に苦労し、NHK(2024年12月12日付)は、2024年12月の補正予算案が国民民主党との「年収103万円の壁」見直しなどの事前合意に基づき成立したと報じた。だが、国民民主党との関係は不安定で、日本経済新聞(2025年5月13日付)は、新たな補正予算の論議が2025年秋の臨時国会に予定されていると伝える。政局の行き詰まりが、連立の火種を煽る。石破氏と野田氏の財政危機への共通認識が、破滅への第一歩となる。

障壁と危険信号:政策の溝と党内抗争

2007年、福田康夫首相が小沢一郎民主党代表に大連立を打診

連立への道は険しい。企業献金や選択的夫婦別姓を巡る両党の溝は深い。自民は献金を容認、立民は禁止を主張。夫婦別姓も自民保守派が猛反対、立民は積極推進だ。2007年、福田康夫首相が小沢一郎民主党代表に大連立を打診したが、読売新聞(2007年11月5日付)は党内反発で潰えたと報じた。立民の長妻昭代表代行は、朝日新聞(2025年5月26日付)で「連立はあり得ない」と一刀両断。立民党内では「党分裂の引き金」「自民を倒すべき」との声が響く。自民でも高市早苗氏ら保守派の反発は必至だ。

2025年の政局は危険を増幅する。参院選を控え、予算案や経済対策が急務だ。日本経済新聞(2025年4月23日付)は、4月22日の経済財政諮問会議でインフレ対策やトランプ政権の関税政策への対応が議論されたと報じた。立民も低所得者支援や賃上げを掲げ、経済政策で接点が見える。毎日新聞(2025年4月24日付)は、4月23日に石破氏が米国大使予定者と会談し、野田氏も日米同盟の重要性を認めたと伝える。2024年衆院選での女性議員73名の当選は、夫婦別姓や同性婚への機運を高めるが、自民保守派との対立を深める火種だ。高橋洋一氏は、動画で参院選後の不安定政局が連立を現実的にすると指摘する。

結論:連立は日本を破滅に導く

自民・立憲の大連立は、年金改革の成功、少数与党の危機、石破・野田の相性から、可能性を否定できない。2025年夏の参院選で与党が議席を失えば、政局はさらに不安定化し、連立が現実味を帯びる。だが、この連立は日本を破滅に導く。経済、外交・安保、エネルギー、社会問題――すべての分野で最悪の事態が待つ。

自民・立憲大連立成立で大喜びする、野田と石破 AI生成画像

経済:連立は財政破綻を過度に恐れ、誤った財政・金融政策を招く。世界標準のマクロ経済学では、適度な財政支出と金融緩和が成長を支える。だが、財務省の影響下にある石破政権と立民に共通する緊縮志向と、立民の分配偏重が中途半端に妥協し、過剰な財政規律が経済を冷やす。日本は30年にわたるデフレの泥沼に逆戻りし、企業倒産と失業が急増する。読売新聞(2010年6月15日付)は、菅直人首相の消費増税議論が経済を停滞させた前例を報じた。連立はこれを上回るデフレ危機を招く。

外交・安保:連立は外交と安保を迷走させる。立民の左派は自衛隊の海外派遣に慎重、自民保守派は強硬な防衛強化を主張。産経新聞(2025年4月24日付)は、4月23日の石破氏と米国大使予定者の会談で日米同盟強化が確認されたと報じたが、連立政権では左派の反対で具体策が停滞。トランプ政権の関税圧力や中国の海洋進出に対し、統一した対応が取れない。朝日新聞(2011年9月20日付)は、民主党政権下で尖閣問題への対応が後手に回り、日本の国際的地位が揺らいだと報じた。連立はこれを上回る失墜を招く。

エネルギー:エネルギー政策も破綻する。立民は脱原発を掲げ、自民は原発再稼働を推進。日本経済新聞(2025年3月10日付)は、3月のエネルギー基本計画見直しでこの対立が顕著だったと報じた。連立政権では中途半端な妥協が電力不足を招き、産業は停滞、国民生活は混乱する。毎日新聞(2012年7月2日付)は、民主党政権下で原発停止による電力危機が経済を直撃したと報じた。連立はこれを上回るエネルギー危機を引き起こす。

社会問題:夫婦別姓や多様性政策を巡る対立が、国民の分断を加速する。読売新聞(2024年10月28日付)は、2024年衆院選で女性議員73名が当選し、立民の進歩的政策が注目されたと報じたが、自民保守派の反発は根強い。連立は妥協による政策の迷走を生み、社会の亀裂を深める。民主党政権の3年間は、党内分裂と政策混乱で日本を揺さぶった。だが、自民・立憲連立はその規模と複雑さから、2009年の悪夢を超える国難を招く。

短期的に見れば、連立は難しく見える。立民は政権交代を掲げ、自民保守派は妥協を嫌う。だが、参院選後の動乱期には、連立が誤った切り札として浮上する危険がある。石破と野田は、国民の信頼を裏切り、党内を分裂させ、破滅のビジョンしか示せない。新聞報道や世論は、連立への期待と警戒が交錯する日本の危機を映す。政局の行方は、参院選の結果にかかっている。日本は破滅への道を避けられるのか。その答えは、間もなく明らかになる。

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2025年5月26日月曜日

プーチンがいなくなっても侵略行為は終わらない!背景にあるロシア特有の被害者意識や支配欲…日本人が知っておきたい重要なポイントを歴史から解説—【私の論評】ポストプーチンのロシアはどこへ? 経済の弱さと大国意識の狭間で

プーチンがいなくなっても侵略行為は終わらない!背景にあるロシア特有の被害者意識や支配欲…日本人が知っておきたい重要なポイントを歴史から解説

岡崎研究所

まとめ

  • ロシアはウクライナ戦争後もNATO、特にバルト諸国への脅威を増す。プーチンのNATO拡大への主張はエストニア外相が「デタラメ」と断じ、部隊移動がその矛盾を露呈する。
  • フィンランドとスウェーデンのNATO加盟はプーチンの誤算だ。NATOに侵略意図はなく、ロシア側がパイプライン破壊やGPS妨害で挑発を続ける。
  • ロシアの行動は、モンゴルやナポレオン以来の被害者意識に根ざす。「力だけが頼り」と信じ、外国からの攻撃を恐れる歴史が背景にある。
  • ロシアのメシアニズム思想は、ウクライナを「人為的な政治体」とみなし、「ロシア世界」の拡大を正当化する。プーチンの支配欲に思想的支えを与える。
  • プーチンがいなくなっても、被害者意識とメシアニズムがロシアの侵略を止めない。ウクライナのNATO加盟は現実味を欠くが、ロシアの行動は続く危険がある。

 2025年5月5日のウォール・ストリート・ジャーナルは、ウクライナ戦争の終結後、ロシアがNATO、特にエストニアなどバルト諸国への脅威を増すと警告する。プーチンはNATO拡大を戦争の原因と主張するが、エストニアのツァクナ外相は「NATOが脅威という話はデタラメだ」と断じる。

 ロシアはウクライナ侵攻でエストニア国境近くの精鋭部隊を移動させ、NATOへの備えを弱めた。フィンランドとスウェーデンのNATO加盟は、プーチンの誤算だ。元米軍司令官ホッジスは、NATOに侵略意図があれば破壊工作や領空侵犯が起きるはずだが、ロシア側では何もないと指摘する。

 逆に、ロシアはバルト海のパイプライン破壊やGPS妨害、国境での不審な活動を繰り返す。エストニアはロシア軍がウクライナで足止めされていることに安堵するが、和平後、ロシアの脅威が高まると警戒する。

 ロシアの行動の根底には、NATOを敵視する政治・軍事的戦略と、歴史的な被害者意識やメシアニズム思想がある。モンゴル、ナポレオン、ドイツの侵攻を経験したロシアは、「力だけが頼り」と信じ、外国からの攻撃を恐れる。

 加えて、「ロシア世界」を広げる使命感が、ウクライナを「人為的な政治体」とみなす思想を支える。スルコフ元大統領補佐官は、ロシアの影響力拡大を「ルスキーミール(ロシア世界)」と呼び、プーチンの支配欲に思想的支えを与えた。

 ウクライナのNATO加盟は現実味を欠くが、ロシアの侵攻は加盟阻止ではなく、支配欲とメシアニズムに突き動かされた。プーチンがいなくなっても、この思想がロシアの侵略を止めない危険がある。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】ポストプーチンのロシアはどこへ? 経済の弱さと大国意識の狭間で

まとめ
  • ロシアの構造的要因:上の記事は、ウクライナ侵攻をプーチン個人の問題ではなく、ロシアの「被害者意識」や「支配欲」に結びつけ、プーチン後でも攻撃的な姿勢が続く可能性を指摘する。SRCの木村汎の研究と一致し、ナショナリズムや歴史的トラウマが外交を駆動するという。
  • 経済的制約の深刻さ:しかし、ロシアのGDPは韓国や東京都並み(2021年で1.83兆ドル)で、制裁によるエネルギー収入の減少がプーチン後の軍事行動を制限。後継者は大規模な戦争を避け、サイバー攻撃や小規模な挑発に頼る可能性が高い。
  • 国際環境の影響:服部倫卓の研究では、国際的孤立や中国・インドとの協力が外交を制約。経済的弱さから、ロシアは中国への従属リスクを抱え、NATOとの全面対立より限定的な牽制を選ぶだろう。
  • 上の記事の限界:記事は経済的制約やNATO・ロシアの相互作用を軽視し、「侵略の継続」を単純化。SRCの研究では、経済や国際環境がロシアの行動を大きく縛るとされる。
  • ポスト・プーチン期の展望:ロシアの弱い経済とエリート層の権力維持の思惑により、後継者は国民の不満を抑えるためナショナリズムを煽りつつ、サイバー攻撃や小規模な挑発で「大国」の看板を守ろうとする。中国との協力で経済を支えるが、従属的な立場に陥るリスクがあり、上の記事の懸念は大規模戦争ではなく、狡猾な牽制として現れることになるだろう。
ロシアのウクライナ侵攻は、プーチン一人の暴走ではない。Wedge ONLINEの記事「プーチンがいなくなっても侵略行為は終わらない!」は、ロシアの行動を「被害者意識」や「支配欲」に結びつけ、プーチンがいなくなってもNATOやバルト諸国への敵対姿勢が続く可能性を訴える。

北大スラブ・ユーラシア研究センター(SRC)

確かに、ロシアの奥底に流れる歴史の傷や大国への執着は、容易には消えない。しかし、この記事をロシア研究では定評のある北大スラブ・ユーラシア研究センター(SRC)の視点で読み解くと、鋭い指摘の一方で、経済的制約や国際環境の重みを軽視する危うさが見える。

また、「ロシアのGDPは韓国や東京都並みで、制約が大きすぎる」という現実は、ポスト・プーチン期のロシアの動きを予測する鍵だ。木村汎や服部倫卓の研究を手に、ロシアの未来を私なりに描いてみよう。

上の記事では、プーチン個人の影を越え、ロシアの構造的な闇に光を当てる点が最大の特徴だ。木村汎の『ロシアの国家アイデンティティ』は、ソ連崩壊後の屈辱がロシア人の心に深く刻まれ、ナショナリズムと西側への対抗心を燃やしていると説く。記事が引用するウォール・ストリート・ジャーナルの言葉、「ロシアがNATOを脅威とみなすのは、NATOが脅威だからではなく、ロシア自身が脅威を生み出している」は、SRCの中井遼の研究が示す「脅威の自己増幅」と響き合う。

プーチンが去っても、ロシアのエリートや国民に染みついたこの意識は、攻撃的な外交を支える。記事は、この点を一般読者に分かりやすく伝え、ポスト・プーチン期の危険性を浮き彫りにする。

しかし、記事には穴がある。ロシアの行動を「被害者意識」や「支配欲」に集約しすぎ、経済や国際情勢の重みを軽く見ているのだ。2021年のロシアのGDPは1.83兆ドルで、韓国(1.91兆ドル)を下回り、日本の東京都(約1.0兆ドル)の倍にも満たない(IMFデータ)。この経済規模で、ウクライナ侵攻のような大規模戦争を続けるのは無謀だ。

2022年以降の西側制裁は、エネルギー収入を絞り、ルーブルを揺さぶる。木村の研究は、ロシアの大国意識がエネルギー依存や経済的限界に縛られると明かす。記事がこの現実をほぼ無視し、「侵略は続く」と断じるのは、危うい単純化だ。

モスクワの赤の広場で、ウクライナ4州の併合を記念して開かれた集会とコンサート(2022年9月30日)

ポスト・プーチン期のロシアはどうなるのか。服部倫卓の「ロシアの権力構造と後継者問題」は、プーチンの「垂直的権力体制」が後継者を縛ると警告する。エリート層――シルシキ、FSB、軍部――は権力維持のため、ナショナリズムを煽り、反西側姿勢を続けるだろう。

しかし、ロシアの経済的制約は、この動きに冷水をかける。ウクライナ侵攻は軍事予算(2021年で約660億ドル、SIPRIデータ)を食い潰し、制裁でエネルギー輸出が激減した2025年のロシアは、財政的に息切れしている。

後継者は、大規模な戦争を続ける金がない。木村の研究が示す「第三のローマ」や「スラブの保護者」といった使命感は、サイバー攻撃や情報戦、近隣諸国への小規模な挑発で生き延びるだろう。記事が危惧するバルト諸国への脅威も、全面戦争ではなく、こうしたハイブリッドな形で現れる可能性が高い。

国際環境もロシアを縛る。服部の研究は、国際的孤立の度合いが外交を左右すると説く。2025年5月のX投稿では、プーチンがウクライナ交渉にガルージン外務次官を送り、対話の窓口を残した。これは孤立を避ける現実的な一手だ。

ポスト・プーチン期の後継者も、中国やインドとの協力を深め、経済的制約を緩和しようとするだろう。だが、岩下明裕教授のエネルギー外交研究が示すように、中国との関係は対等ではない。ロシアは「下請け」に甘んじるリスクを抱え、外交の自由度を失う。NATOがウクライナやバルト三国への支援を強めれば、記事が警告する脅威は現実味を帯びるが、経済的限界はロシアを低コストの挑発に追い込む。

記事のもう一つの弱点は、NATOを「被害者」と決めつけ、ロシアとの相互作用を見逃す点だ。SRCの研究、たとえば中井遼の分析は、NATO拡大がロシアの脅威認識を刺激し、対立を増幅したと示す。

2004年のバルト三国加盟やウクライナのNATO接近は、ロシアにとって戦略的緩衝地帯の喪失だ。経済的制約下の後継者は、NATOとの全面対立を避け、限定的な牽制に頼る可能性が高い。記事がこの複雑な力学を簡略化し、日本との類比(尖閣問題など)で読者を引き込もうとする試みも、SRCの厳密な地域分析とは距離がある。

では、ポスト・プーチン期のロシアの姿は何か。私の示した――GDPが韓国や東京都並みで制約が大きすぎる――は、未来を予測する鍵だ。経済的困窮は、後継者を低コストの挑発や中国依存に追い込む。服部の研究は、エリート層の利害が強硬姿勢を支えると警告するが、木村の研究は、大国意識が経済的現実で挫かれる可能性を指摘する。

2025年のロシアは、エネルギー収入の減少と制裁に苦しみ、ウクライナ侵攻のような冒険は難しい。後継者は、国民の不満を抑え、エリートを繋ぎ止めるため、情報戦や小規模な介入で「大国」の看板を守るだろう。中国やインドとの協力は、経済的制約を和らげるが、ロシアを従属的な立場に押し込む。上の記事が指摘する「侵略の継続」は、形を変えた牽制として現れる可能性が高い。

現在もロシア連邦海軍唯一の航空母艦として運用中の「アドミラル・クズネツォフ」1990年就役

結論だ。上の記事では、ロシアの侵攻をプーチン超えた構造に結びつけ、ポスト・プーチン期の危険性を訴える。これは、SRCの木村や服部の研究と合致する。だが経済的制約――GDPが韓国や東京都並みという現実――を軽視し、NATOとの複雑な力学を単純化している。

ポスト・プーチン期のロシアは、経済の弱さと国際環境に縛られ、大規模な戦争ではなく、狡猾な挑発で生き延びる道を選ぶだろう。上の記事は読者を掴むが、SRCの研究や私の経済的視点を取り入れれば、ロシアの未来はもっと鮮明に見える。ポスト・プーチンのロシアは、大規模な戦争を継続したくてもできないのだ。

参照
  • 木村汎『ロシアの国家アイデンティティ』(北海道大学出版会、2008年)
  • 服部倫卓「ロシアの権力構造と後継者問題」(『スラブ・ユーラシア研究報告集』、2016年)
  • 笹川平和財団「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について」(2021年)
  • X投稿(ガルージン外務次官の交渉参加、2025年5月15日)
  • IMFデータ(2021年、ロシアGDP:1.83兆ドル、韓国GDP:1.91兆ドル)
  • SIPRIデータ(2021年、ロシア軍事予算:660億ドル)

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2025年5月25日日曜日

トランプ政権、NSC大規模再編に着手「ディープステート取り除く」—【私の論評】ディープステートを暴く! 日本財務省と米国NSCが民意を裏切る実態

トランプ政権、NSC大規模再編に着手「ディープステート取り除く」

まとめ
  • トランプ政権のNSC再編:ルビオ国務長官が主導し、NSCの約350人職員を半減、場合によっては50人程度まで削減する大規模な再編を開始。政権はNSCを「ディープステート」の中心とみなし、トランプのビジョンに合わない官僚を排除する方針だ。
  • MAGA派とタカ派の対立:トランプ政権内で、国内優先のMAGA派と国際関与を重視するタカ派が対立。2025年4月、MAGA派の影響力が増す中、タカ派のウォルツ大統領補佐官が情報漏洩を理由に解任され、背景に路線対立が指摘される。
  • ルビオの役割と影響:ルビオ国務長官がウォルツの後任としてNSCを暫定掌握。MAGA派に接近し、トランプの信頼を得ており、長期兼務が計画される。右派活動家ローラ・ルーマーの進言で、忠誠心不足とされる職員の解任も進む。
ルビオ米国務長官

米メディア「アクシオス」は23日、トランプ政権が国家安全保障会議(NSC)の大幅な再編に着手したと報じた。ルビオ国務長官が大統領補佐官(国家安全保障問題担当)を兼務し、約350人の職員を半数以下、場合によっては50人程度まで削減する計画を主導。政権高官は「NSCは『ディープステート』の象徴」と批判し、政権のビジョンに合わない官僚を排除する方針を示した。NSCは外交・安保政策の調整や大統領への助言を担う重要組織だが、国務省や国防総省との役割重複が指摘されており、規模縮小を求める声もあった。削減対象にはウクライナ情勢やカシミール問題担当の職員も含まれ、多くは派遣元の国務省や国防総省に戻る見込み。

政権内では、トランプ大統領に忠誠を誓い国内優先の「MAGA派」と、国際関与を重視する「タカ派」の勢力が対立。MAGA派の影響力が増す中、「タカ派」のウォルツ大統領補佐官が情報漏洩を理由に解任されたが、背景にはMAGA派との路線対立が指摘される。さらに、トランプ支持者の右派活動家ローラ・ルーマー氏が「忠誠心不足」を理由に複数職員の解任を進言したとされる。ルビオ氏はウォルツ氏の後任として暫定的に補佐官を兼務し、MAGA派に接近しながらトランプ氏の信頼を得ており、トランプ氏はルビオ氏の長期兼務を希望している。

【私の論評】ディープステートを暴く! 日本財務省と米国NSCが民意を裏切る実態

まとめ
  • ディープステートの存在と脅威:ディープステートは、選挙で選ばれた指導者の意図を無視し、官僚が裏で政策を操る現象であり、呼称はどうであれ、どの国にも存在する。民意から乖離すると民主主義への脅威となる。
  • 日本における財務省のディープステート性:財務省は「ワニの口」理論で財政赤字を過剰に恐れ、2019年の消費税10%引き上げなど民意を無視した増税を強行し、経済成長を阻害する。
  • 米国におけるNSCとディープステート:トランプ政権はNSCをディープステートの中心とみなし、2025年にルビオ国務長官主導で職員を大幅削減。ウォルツやナウロザデーの解任事例が民意に反する官僚の排除を示す。
  • 歴史的背景と世論:1980年代のイラン・コントラ事件がNSCのディープステート性を示し、世論調査(2018年モンマス大学、2019年エコノミスト/YouGov)で米国民の多くがディープステートの存在を信じる。
  • 日米での改革の必要性:日本は財務省の硬直した財政路線を、米国はNSCや財務関連機関の民意無視を打破し、民主主義に基づく政治を取り戻すべきである。

ディープステートは、どの国にも存在する。呼び名などどうでもいい。政府内の官僚が、選挙で選ばれた指導者の意図を無視し、裏で政策を操る現象だ。ディープステートの存在なるものは陰謀論であり、そのようなものはこの世に存在しないという発言こそが陰謀論だ。呼び方はともあれ、それは確実に多くの国々に存在する。存在しないとすれば、中国・ロシア・北朝鮮などの全体主義国家だろう。しかし、これらの国々でさえ、存在すると見るべきだろう。

日本では、財務省がその象徴だ。増税や財政緊縮を強硬に推し進め、国民の声からかけ離れた姿勢は、ディープステートの体現そのもの。特に、財務省が振りかざす「ワニの口」理論――歳出と歳入のギャップをワニの口に見立て、財政赤字を過剰に恐れる主張――は、小学生のお小遣い帳のような単純さで、経済の複雑さを無視した低レベルな議論だ。

米国でも、こうした硬直した思考が国家安全保障会議(NSC)や関連機関に見られ、トランプ政権はこれをディープステートの中枢とみなし、徹底的に叩き潰そうとしている。ディープステートが民意を裏切る時、民主主義への脅威となる。日本も財務省の影響力を排除し、米国もNSCを浄化し、民意を貫く政治を取り戻すべきだ。

NSCは、ホワイトハウスの中枢で外交・安全保障政策を調整し、大統領に助言する要の組織だ。そのスタッフの多くは国務省や国防総省からの出向者だ。トランプ政権はこれを「アメリカ第一」の旗印に背く存在と断じる。2025年5月、米メディア「アクシオス」は衝撃的な報道を放った。マルコ・ルビオ国務長官が主導し、NSCの約350人の職員を半数以下、場合によっては50人にまで削減する大規模な再編が始まった。

政権高官は言い切った。「NSCはディープステートの極みだ。根こそぎ排除する」。この言葉は、NSCがトランプのビジョンとズレ、有権者の民意を踏みにじっているとの信念を映す。米国でも、財務省や議会予算局が財政赤字のリスクを強調し、トランプの経済成長策と対立することがある。これが、ディープステートの一端としてトランプ支持者に批判される理由だ。

日本では、財務省さらに強烈な批判を浴びる。2019年の消費税10%引き上げは、経済停滞を懸念する民意を無視し、批判を招いた。財務省の「ワニの口」理論は、歳入と歳出のバランスを過剰に重視し、成長を後回しにする単純な発想だ。専門性などと呼ぶのは笑止千万だ。資産を持たない小学生の小遣い帳のような発想で、経済の複雑さを捉えていない。米国でも、連邦予算の議論で財務省や議会予算局が赤字削減を優先し、インフラ投資や福祉を犠牲にする姿勢が、トランプの経済政策と衝突する。これが、NSCや財務関連機関がディープステートとみなされる理由だ。

新川浩嗣(しんかわ ひろつぐ)財務次官

2025年4月、マイク・ウォルツ大統領補佐官が解任された。彼は国際関与を重視する「タカ派」で、トランプの国内優先を掲げる「MAGA派」と対立した。表向きの理由は、通信アプリ「シグナル」での情報漏洩だ。だが、真相はMAGA派との路線対立だ。ルビオがNSCを掌握し、100人以上の職員が解雇されたか、出向元に返された。この動きは、トランプが民意を阻む者を許さない姿勢を示す。

2017年のサハール・ナウロザデーのケースも象徴的だ。彼女はNSCでイラン専門家としてイラン核合意に貢献した官僚だった。保守系メディア「ブライトバート」は、彼女がオバマ政権の政策を支持し、トランプの対イラン政策に異を唱えたと報じた。彼女はトランプへの忠誠心が欠けるとされ、NSCから異動させられた。こうした事例は、トランプ政権が民意に反する官僚を排除する決意を映す。日本でも、財務省が民意を無視した増税を押し通す姿はさらに苛烈だ。

1980年代のイラン・コントラ事件は、NSCがディープステートのレッテルを貼られる歴史的背景だ。NSCのオリバー・ノースらが、レーガン大統領の政策を無視し、イランへの武器売却とニカラグア反政府勢力への資金提供を秘密裏に進めた。この事件は、NSCが大統領の統制を離れる危険性を知らしめた。日本でも、財務省が予算編成や税制で政府を凌駕する影響力を持ち、政治家への圧力が指摘される。これが民意から乖離したディープステートの特徴だ。

オリバー・ノース

世論もこの見方を後押しする。2018年のモンマス大学の調査では、74%が「非選挙の政府関係者が秘密裏に政策を操る可能性が高い」と答えた。2019年のエコノミスト/YouGov調査では、共和党支持者の70%が「ディープステートがトランプを妨害している」と信じていた。日本でも、2020年の朝日新聞の世論調査で、消費税増税に反対する国民が60%を超えたのに、財務省は増税を強行。この乖離は、ディープステートの存在を浮き彫りにする。米国では、財政赤字を過剰に恐れる連邦機関の硬直した姿勢が、トランプの経済成長策を阻む。

学者たちはディープステートを否定する。ハーバード大学のスティーブン・ウォルトは、外交政策のエリートは公然と活動し、陰謀などないと言う。だが、トランプ政権は動く。ルビオのNSC掌握と職員削減は、民意を反映する組織への変革だ。日本も、財務省の硬直した財政路線を打破すべきだ。幼稚な「ワニの口」理論は国民の生活を圧迫するだけだ。

トランプの戦いは、民主主義を守ることができるのか、ただの政治的かけ声に終わるか。日本でも、財務省の壁を打ち破る戦いが続いている。現状では、財務省が圧倒的に有利にも見えるが、この民主主義と官僚のせめぎ合いは、日米ともに民主主義の勝利に終わらせなければならない。

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