2025年5月22日木曜日

【自民保守派の動き活発化】安倍元首相支えた人の再結集—【私の論評】自民党保守派の逆襲:参院選大敗で石破政権を揺さぶる戦略と安倍イズムの再結集

【自民保守派の動き活発化】安倍元首相支えた人の再結集


まとめ
  • 自民党保守派の活発化と戦略本部の再始動:石破茂首相の支持低迷を背景に、高市早苗氏主導の「自由で開かれたインド太平洋戦略本部」が2025年3月に再始動。麻生太郎氏や旧安倍派の西村康稔氏、萩生田光一氏ら「非石破」「非岸田」の保守派が集結し、党内権力争いと安倍元首相のビジョン継承を目指す。
  • 消費税減税をめぐる対立:高市氏は石破首相の消費税減税への慎重姿勢を批判し、「食料品の消費税率ゼロ」を主張。保守派は石破政権の左傾化や政策に反対し、2025年7月の参院選での敗北を機に党内主導権を握る準備を進める。
  • 野党の動向と自民党の強み:立憲民主党は石破政権への対応が甘く、参院選まで「左傾大連立」を視野に入れる一方、国民民主党が勢いを見せる。自民党は保守派の結集を通じて、派閥の多様性を活かし、形式的な政権交代なしに事実上の政権交代が可能である。
自民党の「自由で開かれたインド太平洋戦略本部」の初会合であいさつする麻生最高顧問(14日、党本部)

石破茂首相が支持率低迷に直面する中、自民党内の保守派が活発な動きを見せている。高市早苗前経済安全保障担当相は13日のネット番組で、石破首相の消費税減税への慎重姿勢を批判し、「賃上げの恩恵を受けられない人々にとって食料品の消費税ゼロが有効」と述べ、失望感を表明。

彼女が政調会長時代に設立した「自由で開かれたインド太平洋戦略本部」を14日に再始動させた。この組織は2021年に高市氏主導で設置されたが、安倍晋三元首相の死去で活動が停止。今年3月に高市氏が麻生太郎党最高顧問に再開を要請し、初会合が実現。本部長に麻生氏、代理に高市氏、幹事長代理に小林鷹之氏、顧問に茂木敏充氏、副本部長に旧安倍派の西村康稔氏と萩生田光一氏が就任し、「非石破」「非岸田」の保守派が集結。表向きは「活動再開」だが、党内権力争いの動きと見られている。

一方、野党では国民民主党が勢いを見せるが、立憲民主党は石破政権の10万円商品券配布や高額療養費問題の混乱、予算成立への対応などで攻めきれず、内閣不信任案にも消極的。立民は7月の参院選まで石破政権を維持させ、「左傾大連立」の可能性を見据えて有利な立場を狙う。自民保守派は、石破自民の左傾化や消費減税否定への対抗軸として、参院選での敗北を機に党内主導権を握る狙い。豊富な人材を抱える自民党は、形式的な政権交代なしに事実上の政権交代が可能な強みを背景に、保守派は安倍元首相支持層の再結集を図っている。(たかはし・よういち=嘉悦大教授)

この記事は、元記事の要約です。詳細は、元記事をご覧ください。

【私の論評】自民党保守派の逆襲:参院選大敗で石破政権を揺さぶる戦略と安倍イズムの再結集

まとめ
  • 保守派の活発化と戦略本部の役割石破茂首相の支持低迷を受け、自民党内の保守派は「自由で開かれたインド太平洋戦略本部」を2025年3月に再始動。麻生太郎氏や高市早苗氏ら「非石破」「非岸田」のメンバーが中心となり、旧安倍派のイデオロギーを反映し、党内権力争いと安倍元首相のビジョン継承を目指す。
  • 税制調査会との違い税制調査会は財務省の影響下で増税や財政健全化を優先し、派閥の色を薄めるが、インド太平洋戦略本部は財務省の関与がなく、外交・安保に特化し、保守派の主張が強く反映される。
  • 高市氏の消費税減税主張高市氏は石破首相の消費税減税への慎重姿勢を批判し、「食料品の消費税率ゼロ」を訴え、財務省主導の増税路線に対抗。2025年度の防衛予算8.7兆円は保守派の影響力を示す。
  • 参院選後の戦略2025年7月の参院選で自民党が大敗した場合、保守派は石破政権の失策を批判し、総裁選で高市氏や小林鷹之氏を擁立。1998年の橋本退陣や2012年の野田政権終焉の例が、保守派の責任追及の効果を示す。
  • 課題と競合2026年からの法人税・所得税増税への反発や、国民民主党・日本保守党など野党保守派との競合が課題。戦略本部の再始動と安倍イズムの継承は、保守派の健在ぶりを示す基盤となる。
石破茂首相の支持が低迷する中、自民党内の保守派が力強く動き始めた。「自由で開かれたインド太平洋戦略本部」は、議連ではなく、党則に基づく自民党の公式組織である。税制調査会と並び、党の政策立案や運営に直接関与するこの組織は、党内での影響力が大きい。

しかし、税制調査会とインド太平洋戦略本部は、その性格において決定的な違いがある。税制調査会は財務省の強い影響下にあり、増税や財政健全化を軸に党内の意見を調整するが、実際には財務省寄りの合意形成が優先される。これにより、旧安倍派や麻生派の主張は抑えられ、特定の派閥の色は薄まる。

一方、インド太平洋戦略本部は財務省の影がなく、外交・安全保障に特化し、旧安倍派や麻生派の保守派のイデオロギーが色濃く反映される。麻生太郎氏や高市早苗氏、西村康稔氏、萩生田光一氏といった「非石破」「非岸田」の面々が中心となり、党内権力争いと保守派の再結集を明確に目指す。

無論岸田首相により「自由で開かれたインド太平洋戦略」ではなく「自由で開かれた国際秩序」という言葉が重要な場面で意図的に持ちいられたり、石破首相が「アジア版NATO構想」構想を提唱したりで、世界で評価される安倍首相が提案した「自由で開かれたインド太平洋戦略」を毀損されたり、安倍首相の功績をなきものにされる可能性につき危機をおぼえた、保守派の結集という意味もあるだろう。

この本部が自民党の公式組織として発足したことは、自民党は派閥等の力学や自民党の幹部の思惑などとは無関係に安倍氏のレガシーでもある「自由で開かれたインド太平洋戦略」を継承させ、発展させることを党内外に自民党として公式に示したことをも意味する。これが、議連などの発足とは大きな違いである。


この動きは、2024年の派閥解散騒動を経てもなお、保守派が党内での影響力を維持している証左である。2021年11月、高市氏が政調会長時代に設立したこの戦略本部は、安倍晋三元首相の「自由で開かれたインド太平洋」構想を継承するものだった。しかし、安倍氏の死去で活動が停滞し、2025年3月に高市氏が麻生氏に再始動を要請、3年半ぶりの初会合に至った。

これは、保守派の粘り強さと組織力を示す。麻生氏の承諾を得て再始動した戦略本部は、57人の参加規模を誇り、党内での保守派の基盤の強さを物語る。Xでの投稿でも、保守派支持者が「麻生・高市らが石破を潰す」と期待を寄せ、2025年7月の参院選を見据えた動きが活発化している。

高市氏は、石破首相の消費税減税への慎重姿勢を痛烈に批判した。2025年3月13日のインターネット番組で、「食料品の消費税率ゼロが国民の負担を軽減する」と訴え、石破氏の対応に「かなりがっかりした」と語った。この発言は、保守派が財務省主導の増税路線に真っ向から対抗する姿勢を示す。実際、2025年度の防衛予算は過去最高の8.7兆円に達し、スタンドオフ兵器や統合防空ミサイル防衛に重点を置く。これは安倍元首相の積極的防衛路線を継承するもので、保守派の影響力が予算にも反映されている証拠だ。

参院選で自民党が大敗すれば、保守派は戦略本部を基盤に石破・岸田派を牽制し、党内主導権を握る戦略を展開する。選挙直後、石破政権の失策—消費税減税の否定や高額療養費問題の混乱—を批判し、総裁選の前倒しを求めるだろう。

1998年の参院選大敗後の橋本龍太郎首相の退陣の例や、2010年の民主党の大敗で菅直人政権が弱体化し、2012年の衆院選大敗後の野田佳彦政権の終焉した歴史は、保守派の責任追及が効果を発揮する可能性を示す。高市氏や小林鷹之氏を擁立し、旧安倍派、麻生派、茂木派の支持を集めて総裁選で勝利を目指すだろう。


Xでは、保守派支持者が「戦後80年談話」を阻止すべく石破氏の退陣を求める声が上がっており、党内での反石破ムードが高まっている。しかし、課題も多い。2026年4月からの法人税・たばこ税増税、2027年1月からの所得税増税は、国民や党内の減税派から強い反発を招いている。2024年10月の衆院選で自民党が単独過半数割れの危機に直面した際、Xで高市氏を推す声が上がったが、増税への不満が保守派の足を引っ張る可能性がある。

さらに、野党の保守派—国民民主党や日本保守党、維新の会—との競合も無視できない。日本保守党は単独では脅威とならないが、2024年衆院選で3議席を獲得し、自民党不満層を取り込んだ実績は、保守層の票を分散させるリスクを示す。国民民主党の経済重視の姿勢も、参院選で自民党保守派の支持を奪う可能性がある。

それでも、戦略本部の再始動と安倍イズムの継承は、保守派の健在ぶりを示す強固な基盤である。麻生氏の影響力、高市氏の減税主張、旧安倍派の組織力は、参院選後の政局で石破・岸田派を圧倒する力を持つ。保守派の成功は選挙結果と党内調整にかかっているが、彼らの動きは自民党の未来を左右する力強い一歩である。

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