2025年5月14日水曜日

トランプ大統領「対シリア制裁」解除、サウジの要請で...シャラア暫定大統領との面会控え、政策転換—【私の論評】トランプのシリア戦略:トルコとサウジ拮抗で中国を狙う賭け

トランプ大統領「対シリア制裁」解除、サウジの要請で...シャラア暫定大統領との面会控え、政策転換

まとめ
  • トランプのシリア制裁解除表明:トランプ大統領がサウジアラビアでシリア制裁の全面解除を発表、サウジ皇太子の要請で政策を転換。14日にシリア暫定大統領とリヤドで会談予定。
  • シリア復興と国際的反応:シリア暫定政府が復興の転換点と歓迎、国連も紛争回復支援として支持。トランプ氏は和平合意を強調も詳細は未公表。

トランプ米大統領は5月13日、サウジアラビアの首都リヤドで演説し、シリアに対する制裁の解除を指示する方針を発表した。この決定はサウジのムハンマド・ビン・サルマン皇太子の要請を受けたもので、米国の対シリア政策の大幅な転換となる。

トランプ氏は、シリアに前進の機会を与えるため制裁を全面解除すると強調。シリア暫定政府のシェイバニ外相は、これが国民の復興の転換点になると歓迎した。国連もこの動きを支持し、シリアの紛争からの回復を助けると評価。トランプ氏は14日にシリアのシャラア暫定大統領とリヤドで会談予定。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】トランプのシリア戦略:トルコとサウジ拮抗で中国を狙う賭け

まとめ
  • トランプの二つの決断:2025年5月13日、サウジの要請でシリア制裁を解除し、6000億ドルの投資を確保。2024年12月16日、「トルコがシリアの鍵」と発言。両者は中東を安定させ、中国との対峙に備える戦略だ。
  • トルコとサウジの拮抗:トルコの軍事力でシリアの治安を、サウジの資金で復興を担う。両者の対立(例:2018年カショギ事件)は綻びだが、トランプは意図的に競わせ、牽制すると見られる。
  • 中国対峙の狙い:シリアの安定で米軍撤退を可能にし、経済を強化。2019年の撤退や2020年のアブラハム合意の経験を活かし、中国との戦いに集中する。
  • 戦略の綻びとリスク:トルコの曖昧さ(ロシア・中国との関係)、トルコとサウジの対立、サウジ経済の不安定さがリスク。2017年、サウジがトランプのホテル(インターナショナル・ホテル、非トランプタワー)に支払い、利益相反が指摘された。
  • 日本の視点:シリアの安定はエネルギーや投資の好機だが、戦略の崩壊は日本にも影響。トランプの拮抗戦略の成否が中国との戦いを左右する。

トランプの巧妙な賭け

エルドアン トルコ大統領とトランプ米大統領

トランプ次期米大統領が大胆に動く。2025年5月13日、サウジアラビアのリヤドで、シリアへの長年の制裁を解除。サウジから6000億ドルの巨額投資を米国に引き出した。2024年12月16日、フロリダの私邸「マール・ア・ラーゴ」で、アサド政権崩壊後のシリアについて「トルコが鍵だ」と言い切った(本ブログ:『トランプ氏「シリアでトルコが鍵握る」、強力な軍隊保有―【私の論評】トランプ政権トルコのシリア介入許容:中東地政学の新たな局面』より)

二つの動きは繋がっている。トランプの狙いは中東を安定させ、中国との全面対決に備えることだ。トルコの軍事力とサウジの資金力を意図的に拮抗させ、米国が中東の泥沼に足を取られないようにする。戦略は鮮やかだが、綻びがある。だからこそ、トランプは両者を競わせる。この巧妙な賭けの全貌を、読者に明らかにする。

トルコとサウジ:拮抗による中東の安定


トルコ国旗(左)とサウジ国旗( 右)

トランプの戦略は、トルコとサウジを拮抗させることで中東を固める。サウジアラビアでの決断は衝撃的だ。シリアへの制裁を解除。ムハンマド・ビン・サルマン皇太子の要請に応じたこの一手は、シリア経済に息を吹き込む。シリア暫定政府のシェイバニ外相は「復興の転換点」と喝采を送り、国連も「10年以上の紛争からの回復に不可欠」と支持する(Reuters, 2025年5月14日)。

2018年、トランプがシリア復興への巨額拠出を求めた際、サウジは即座に応じる姿勢を見せた(Bloomberg, 2018年12月)。今、6000億ドルの投資で米国の経済とエネルギー安全保障を強化し、中国への依存を断つ。シリア内戦は難民危機やテロを撒き散らし、イランの台頭を許した。サウジの資金はシリアのインフラやエネルギー再建に注がれ、中東を安定させる。

トランプはトルコにも視線を向ける。2024年12月16日、「トルコがシリアの鍵だ」と断言。エルドアン大統領との絆とトルコ軍の力を称賛した。トルコはシリアと900キロの国境を接し、2016年以降の軍事作戦で北部を支配。「戦争で疲弊していない」トルコ軍は、過激派を抑え、シリアの治安を担う。2019年、トランプがシリアから米軍を一部引き揚げ、トルコにクルド対応を任せた実績が信頼の根拠だ(NYT, 2019年10月)。

2018年、トルコ人牧師の釈放をエルドアンと交渉し、経済制裁で成功させた絆も生きる(Washington Post, 2018年10月)。米国はシリア東部に900人の部隊を置くが、トランプは撤退を匂わせ、トルコに任せる。

トルコとサウジはライバルだ。スンニ派の主導権を争い、トルコはムスリム同胞団を支え、サウジは抑える(Al Jazeera, 2020年)。この対立は戦略の綻びだ。2018年のカショギ事件で両国はEducational history: 火花を散らし、中東の協力を乱した(Guardian, 2018年10月)。

トランプはこれを逆手に取る。トルコで治安を固め、サウジで復興を進める。両者を競わせ、どちらか一方が暴走すれば他方で牽制する。Xで、トランプが両国の指導者と協議して制裁解除を決めたと話題だ(
@chutononanika
, 2025年5月14日)。2017年、カタール危機でサウジとUAEをカタールにぶつけ、裏で軍事協力を維持した手法が、ここでも生きる(Reuters, 2017年6月)。この拮抗は、米国の負担を減らし、中国との戦いに備える。

中国対峙:トランプの真の狙い


トランプの視線は中東を越える。中国だ。米中対立は、貿易、技術、軍事、外交で火花を散らす。2025年5月14日、米中貿易協定が進んだが、トランプは圧力を緩めない(Reuters)。中東の混乱は、米軍や予算を吸い取り、中国との戦いで足を引っ張る。シリアの安定は、難民やテロのリスクを抑え、米軍の撤退を可能にする。

2019年、トランプはシリアからの撤退を「アメリカ・ファースト」と叫んだが、真の狙いは中東の負担を減らし、中国に集中することだった(Foreign Policy, 2019年12月)。サウジの6000億ドルは、米国の経済を強化し、中国からの資源依存を断つ。

トルコの軍事力は、NATOを固め、中国とロシアを牽制する。2020年、アブラハム合意で中東の和平を進め、国連で中国のウイグル問題を叩いた二正面作戦が、シリアで再現される(State Department, 2020年9月)。トランプの賭けは、中国との戦いの準備を整えることだ。

リスクと日本の視線

トランプの戦略は鮮やかだ。だが、綻びがあるからこそ、トルコとサウジを拮抗させる。トルコの曖昧さは大きな綻びだ。NATO加盟国だが、エルドアンはロシアのミサイルを買い、中国の一帯一路に色目を使う(Carnegie Endowment, 2024年)。2019年、トルコのシリア侵攻が米国との関係を冷やした(BBC, 2019年10月)。トルコが裏切れば、サウジの資金力で牽制する。

だが、トルコとサウジの対立が再燃すれば、シリアは混迷し、米国は中東に引き戻される。サウジの投資も盤石ではない。2023年のOPEC減産で揺れたサウジ経済は、資金の持続性を問う(IEA, 2023年)。Xでは、トランプの経済的動機を疑う声が上がる。2017年、サウジアラビア政府がトランプ・インターナショナル・ホテルに宿泊費などで多額の支払いを行い、利益相反が指摘された。これはトランプタワーへの投資ではなく、トランプのホテル事業への支出だ(Forbes, 2017年8月)。信頼が揺らげば、中国との戦いで米国の指導力は鈍る。

トランプはシリアで大きな賭けに出た。トルコとサウジの拮抗で中東を固め、中国との対決に全力を注ぐ。綻びを逆手に取り、両者を競わせる戦略は鮮やかだ。だが、トルコの裏切りやサウジとの対立、経済の揺らぎは計画を狂わせる火種だ。

日本にとって、シリアの安定はエネルギーや投資の好機だ。だが、トランプの戦略が崩れれば、その波は日本にも及ぶ。トランプは中国との戦いに勝てるのか。シリアの行方が、その答えを握る。

トランプの拮抗戦略は中国との戦いを制すると思うか。日本はどう動くべきか。あなたの考えをコメントで聞かせてほしい。

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